トルコリラは日本のFXトレーダーの間で人気が高い新興国通貨の一つで、その特徴は政策金利の高さです。
トルコリラ円は、リーマンショックで80円から大きく売られた後、40円~60円のレンジで底堅く推移していましたが、5%前後の金利収入が得られるということで、2014年頃から日本のFX会社がトルコリラ円の取り扱いを開始し広がっていきました。
しかし、取扱開始後から一貫して価格は下がり続けています。2017年のトルコリラ円のレートは30円台でしたが、2018年には20円台へ下落、さらに2018年8月10日には、トルコショックと呼ばれる暴落が発生し、15円台を付けています。
その後はいったん回復するも、トルコ国内のインフレ率上昇などを受けトルコリラ安が続き、2020年11月には12円台前半へ軟化しました。直近は、トルコ中銀総裁の交代後、大幅利上げを実施したことにより、15円台へ反発しています。
確かに高金利ということでスワップポイントは貰えますが、2021年3月時点の推移では圧倒的に価格の下落による損失の方が大きく、多くのトルコリラ円に投資した人たちが苦しんでいます。
今回は、トルコリラ円の特性について解説していきます。
目次
1.トルコの概要
トルコ共和国はヨーロッパとアジアの中間に位置するイスラム圏の大国で、親日国として知られています。トルコの特徴は、若年層の人口が多いことです。2019年時点でのトルコの人口はおよそ8,300万人で世界18位ですが、総人口の半分が32歳以下と、労働人口、そして消費のけん引役として人口構成に恵まれていることから、経済成長率が高く将来が期待できる国です。
トルコのGDPは2019年に4.3兆トルコリラと世界19位ですが、四半世紀前の1994年のGDPは僅か50億トルコリラだったことを考えると驚異的な発展を遂げてきたことがわかります。
製造業が発展し、工業製品を輸出していますが、地理的に優位なため、EUのほか中東へも輸出が拡大できています。最近では、欧州地域への自動車輸出拠点として各企業が進出しており、中国の一帯一路戦略の欧州方面への橋渡しとしても期待は高まっています。更に貿易上のアクセスを容易にするために、EU加盟を目標として交渉を続けていますが、念願はかなっていません。
また、現在はコロナですっかり減速してしまいましたが、観光業が盛んで観光収入は貴重な外貨獲得手段となっています。
2.トルコリラ円の特性
トルコリラ円の特性とそれを形成する要因について解説します。
2-1.投機筋
トルコリラは、米ドルやユーロなどに比べて圧倒的に流動性が低くなっています。そのため、ヘッジファンドなどの投機筋がトルコリラ売りを仕掛けて日本の個人投資家のトルコリラ円ロングポジションの解消を狙ったような投資行動が年に数回見られていました。
例えば2019年1月には投機筋の仕掛けによって、個人投資家が持っていた87億円相当のトルコリラ円のポジションが解消を余儀なくされました。このときには、トルコリラ円のレートが一時的に9%下落しました。しかし、最近では売られ過ぎたトルコリラを再びロングにする(買う)ような動きが見られるようになっています。
2-2.金利差
トルコリラの大きな特徴は、政策金利の高さです。現状、日本円金利はゼロで動きがないことから、トルコリラ円をロングにするだけで、毎日かなりのスワップポイントを獲得することができます。
一方で、政策金利が高いということは、物価上昇率が高いことの裏返しでもあり、それは購買力平価の観点からみれば、トルコリラに不利に働きます。したがって、トルコリラに投資をする際には、政策金利と物価上昇率の差である実質金利を見ていく必要があります。
これまでは、大統領が中銀の金融政策に介入し、物価上昇率対比で低すぎる金利に押さえつけられていたことから、実質金利のマイナス幅が拡大し、通貨が売られ、更にまた物価上昇率が上がり実質金利のマイナス幅が拡大するという悪循環に陥っていました。
しかし、2020年末に中銀総裁が交代して、大統領の介入が弱まり、ハイペースで利上げを実施したことで、ようやく実質金利がプラスになり、フォワードガイダンスも使いながら通貨高に誘導中です。この辺りの国内政治の安定が、トルコリラの安定には不可欠の要素です。
2-3.経常収支
トルコは慢性的な経常赤字国であり、国内の資金需要を満たすために、外国からの資金流入に依存しています。経常赤字の主因はエネルギーの輸入であることから、輸出の落ち込みや原油高はトルコ経済の成長を妨げるとみなされ、トルコ国内から資本が流出しやすくなります。そのため、先進国の金融政策の変化など、グローバルな資金の流れに影響を与える要因によって、相場変動が大きくなる傾向があります。
しかし、外国からの資金流入による通貨高を狙って、金利を引き上げ過ぎると、国内景気が落ち込んでしまいますので、その辺りの難しいかじ取りを中銀は担っています。
2-4.地政学リスク
トルコは、ヨーロッパとアジアの中間、イスラム教とキリスト教の中間、資本主義と共産主義の中間、先進国と新興国の中間と、色々な側面から問題を抱えがちです。更に、エルドアン大統領が、個別に色々な国と揉め事を起こしているので、地政学リスクは非常に高いと言わざるを得ません。以下に主な地政学リスクを挙げます。
- ロシアミサイル問題でNATOと揉めている
- EU入りを目指しているが、EUの反対にあっている
- ギリシャと海洋資源開発で揉めている
- ジャマル・カショギ氏殺害事件をきっかけにサウジアラビアと揉めている
- 内戦が続く隣国シリアでロシアと揉めている
2-5.流動性
トルコリラは流動性が低いことから、価格が暴落したり、価格の提示が一時的にできなくなったりする事態に陥ることがあります。また、普段から出ている価格の売り買いのスプレッドがワイドです。
例えば、ドル円が105.503-105.505で出ている時にトルコリラ円は14.950-14.966であったとしましょう。一見、ドル円が0.2銭スプレッド、トルコリラ円は1.6銭スプレッドということで、少しトルコリラ円の方がワイドだというイメージを持つかもしれませんが、ドル円とトルコリラ円はそもそもの価格の桁が違います。
スプレッドを比較するには、トルコリラ円を149.50-149.66と読み替えて比較しないといけません。つまりドル円と桁を合わせた場合、16銭ワイドのスプレッドということになります。ドル円の0.2銭と比較して80倍のワイドスプレッドということになります。
ドル円で16銭ワイドスプレッドを考えてみて下さい、ポジションを作りに行った時点で16銭以上価格がフェーバーに動いてくれないとプラスにならないということは、少なくともスキャルピングのような超短期で利ザヤを狙う取引手法には合わないことを意味します。
2-6.デノミネーション(通貨切り下げ)リスク
トルコリラへの投資を行うときには、経済破綻のリスクに注意が必要です。トルコは、慢性的な財政赤字と経常赤字が続いています。海外から資金調達をしているうえにトルコリラ安が継続しているので、外貨建ての債務の利子が膨れ上がっている状態となっているのです。
債券ならデフォルトリスクですが、通貨の場合はデノミネーション(通貨切り下げ)リスクといって、通貨の価値が切り下げられる恐れがあります。実際に、トルコは2005年にデノミが行われました。この時は、通貨の価値が100万分の1にまで切り下げられてしまいました。日本円で考えると、ある日突然100万円が1円の価値にされてしまうということです。
まとめ
トルコリラ円取引は、スキャルピングのようなキャピタルゲインが目的の方には、流動性がなさ過ぎて合いませんが、高金利を活かしたインカムゲイン狙いの方にはメリットがあります。しかし、デノミをしてくる恐れがあるので、危なくなった時にすぐに逃げ出せる準備をしながらレバレッジは落としておく必要があります。
危ないかどうかの判断には、単純に高金利だからと言って政策金利を見るだけでなく、CPI(消費者物価指数)とセットで見て実質金利を意識しましょう。トルコは外貨準備が潤沢とは言えませんので、通貨安をコントロールできなくなった時が危険信号です。
もう一つ見るべきポイントとしては、大統領と中銀総裁の関係です。大統領の圧力に屈して利下げするような方針になるなら、真っ先に逃げた方が得策です。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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