2023年11月現在、弱い雇用統計とFOMCを受け、長く継続していたドル高トレンドが、転換する可能性が浮上しました。
本稿では、プロトレーダーの筆者が、アメリカのFOMCと雇用統計の内容や、ドル円や米株への影響と今後の展望について解説します。参考にしてみてください。
※本記事は2023年11月9日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
1.FOMCの結果
2023年11月1日に、FOMCがアメリカで開催されました。政策金利は全会一致で据え置きとなり、サプライズはなく、落ち着いた値動きとなりました。
政策金利は、2ヶ月連続での据え置きとなっています。相場への影響は限定的であり、パウエル議長の会見でも、大きな変化は見られませんでした。
今回の結果を受けて、マーケットでは、アメリカの利上げは一旦終了し、利上げが再度行われない可能性が高まったとの見方が広がっています。
FOMCで発表された数字を確認してみましょう。7月から9月の成長率が4.9%のプラスとなっており、大きく上振れています。
再度利上げが行われる材料にはなるもののの、足元では長期金利が大きく上昇し、10年金利が5%を超えています。金利の上昇には、景気の引き締め効果があるため、FRBとしても、利上げを行って景気を引き締める必要性はないと判断したのでしょう。
実際に、パウエル議長は会見で「複数ある要因の中でも特に長期債利回りの上昇により、ここ数か月に顕著に引き締まった」とコメントしました。
出典:NRI「利上げ打ち止め観測強まるも先行きはなお不透明(11月FOMC)」
しかし、政策金利の引き上げや、案外底堅いアメリカの経済環境が反映されて、長期金利が上昇しているとは言えません。長期金利上昇には、アメリカの財政問題や、政府閉鎖のリスクシナリオが寄与しています。
利上げ打ち止め観測が強まったことにより、金利は低下し、ドル安が進行しているものの、一時的な動きである可能性があります。今後の政策スタンスはデータ次第であり、強い数字が出れば、利上げが検討されることを知っておきましょう。
2.雇用統計
アメリカの雇用統計について、2023年11月に発表された数字を確認しましょう。
非農業部門雇用者数 | +15.0万人 | 予想+18.0万人 前月33.6万人→+29.7万人へ下方修正 |
失業率 | 3.9% | 予想3.8% 前月3.8% |
労働参加率 | 62.7% | 前月62.8% |
平均時給(前年同月比) | +4.1% | 予想4.0% 前月4.3%) |
全体的に、弱い数字が並んでいます。平均時給は、予想を上回っているものの、前月から一段と低下しており、弱い数字だと言えるでしょう。
特に非農業部門雇用者数は、2023年9・10月の数字が大幅に下方修正されました。2023年10月時点では、ある程度強い数字だと認識されていたため、結果が覆り、市場の注目を集めました。
ただし、2023年11月の非農業部門雇用者数には、10月の全米自動車労組によるストライキの影響が含まれており、一時的な影響が剥落すれば、来月以降に回復する可能性があります。
今回の雇用統計の中でも、プロトレーダーの筆者が注目したポイントは、労働者の解雇が始まっている点です。
これまで企業は、コロナショック以降の大規模緩和によって、労働市場が逼迫しており、労働者の確保が困難でした。そこで、多少景気が悪化しても、解雇を避けていました。しかし、企業業績の回復が見通せなくなったのか、解雇を行う企業が増えている点は、従来とは異なる動きとなります。
労働人口自体は、20万人減少しており、2022年6月以来の大幅減となっています。雇用統計は総じて悪く、FRBの利上げ見送りを強く後押したと考えられます。
3.FOMCと雇用統計を受けた市場の動向
3-1.「悪いニュースは良いニュース」
まずはイベント後の、通貨・金利・株式市場の動きをチェックしましょう。弱い雇用統計を受けて、利上げ停止の予測が強まったため、金利は低下し、ドル安・株高となりました。
※図はTradingView[PR]より筆者作成
ここで覚えておきたいのは「nad news is good news」、「悪いニュースは良いニュース」と言う言葉です。2023年11月現在、アメリカ市場の投資家は、インフレと利上げに注目しています。
雇用統計などで強い数字が出た場合、多くの投資家は、FRBがタカ派になり、金利が上昇すると判断するため、株安となる傾向があります。一方で悪い数字が出た場合には、利上げの可能性が低下したと判断するため、金利は上昇せず、株高になる傾向があります。
しかし、この動きは、インフレ抑制がテーマになっている場合のイレギュラーな動きであり、通常は悪い数字が出ると株安、金利低下の動きになると知っておきましょう。
3-2.FOMCと雇用統計を受けたドル円動向
FOMCと雇用統計を受けた、ドル円の動向を解説します。
ドル円は、為替介入が予想されていた151円台から、FOMC後の金利低下によるドル安の動きによって下落しました。
雇用統計の発表前には、強い数字が出た場合にドル高で推移するため、一気にドル円が上昇する可能性が懸念されました。しかし発表された雇用統計の数字が弱く、利上げ停止の予想が強まると金利が低下し、ドル円は一時148円台に突入しました。
データ次第では、12月に利上げする可能性が意識されていたものの、弱い雇用統計を受けて、12月に利上げする可能性が大幅に低下したため、金利は下降トレンドに入ったと言えるでしょう。
ドル高になりにくい相場環境であるため、ドル円は一旦天井をつけたとも判断できます。為替市場全体を見ても、ドルロングが積み上がっており、巻き戻しがこれから発生すれば、一段とドル安が進む可能性があります。
プロトレーダーの筆者としては、ドル円は戻り売り戦略を基本として、149円台後半からショートポジションを構築するFX戦略は、選択肢の一つになると考えます。
4.まとめ
本稿では、FOMCと雇用統計について解説し、金利やドル円について解説しました。
長く続いていたドル高トレンドが、転換点を迎える可能性があります。指標やニュースをチェックし、相場のトレンドを見極めましょう。
中島 翔
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