一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- SOMPO Light Vortex(ソンポライトボルテックス)とは
1-1.SOMPO Light Vortex(ソンポライトボルテックス)の概要
1-2.SOMPO Light Vortex(ソンポライトボルテックス)の事業内容 - 株式会社Gincoとは
2-1.株式会社Gincoの概要
2-2.株式会社Gincoの事業内容 - web3.0を利用したカーボンクレジットの流通基盤とは
3-1.プロジェクトの概要
3-2.プロジェクト開発の背景 - web3.0を利用したカーボンクレジットの流通基盤の特徴
4-1.NFTを活用したインセンティブ設計
4-2.オープンなReFiの実現
4-3.DAOの運用方法検証 - まとめ
2023年6月15日、SOMPOホールディングス(HD)のデジタル専門子会社SOMPO Light Vortex(ソンポライトボルテックス)は、国内ブロックチェーン企業株式会社Gincoと共同で、Web3.0を活用したカーボンクレジットの流通基盤構築のための実証実験を開始すると発表しました。この実証実験は、6月から9月末まで行われ、先進技術を活用してカーボンクレジット取引を促進することが目的です。今回は、この新プロジェクトの詳細と特徴について解説します。
1.「SOMPO Light Vortex(ソンポライトボルテックス)」とは
1-1.「SOMPO Light Vortex(ソンポライトボルテックス)」の概要
SOMPO Light Vortexは、2021年7月に設立されたSOMPOホールディングス(HD)のデジタル専門子会社です。SOMPOホールディングスは、約130年の歴史を持つ保険・金融グループで、2016年に損保ジャパン日本興亜ホールディングスから現在の名前に変更しました。
この子会社は、保険業界の枠を超え、デジタル技術とソフトウェアを用いて新サービスや価値を創造することを目指しています。ビジョンとしては、「Light Vortex on Digital Value Transformation」と称し、未来の可能性を追求して新たな社会価値を生み出すことを掲げています。
具体的な事業としては、最新のデジタルテクノロジーを活用した商品やサービスの企画、開発、販売などを手がけており、中でもヘルスケアを中心としたサービスを提供しています。
このように、SOMPO Light Vortexは日本を代表する保険・金融グループにおけるデジタル分野を担う存在として、web3.0をはじめとする先端テクノロジーを活用したプロジェクトを推進しています。
1-2.SOMPO Light Vortex(ソンポライトボルテックス)の事業内容
SOMPO Light Vortexは、デジタル技術を駆使して多様な商品やサービスの企画、開発、販売を行っています。具体的には、以下のプロダクトがあります。
・Light PASS
「Light PASS」は、感染症対策と地域経済を両立させる目的で開発されました。ワクチン接種の日程や履歴を一元管理できる機能がありますが、新型コロナウイルスの対策が緩和されたことを受け、2023年6月30日にサービスが終了する予定です。
・WiTH Health
「WiTH Health」は、個々の健康データを総合的に管理するアプリです。ワクチン接種や健診結果をスマホで一元管理できるほか、AIを活用して6種類の疾患(糖尿病、高血圧症、脂質異常症、腎機能障害、肝機能障害、肥満症)の発症リスクを予測する機能も搭載しています。
さらに、国の「マイナポータル」に保存された健康データを簡単にアプリに取り込むことができ、これらのデータはいつでもアプリで確認できます。
2.株式会社Gincoとは
2-1.株式会社Gincoの概要
「株式会社Ginco」は、2017年12月に創業された日本国内のブロックチェーン専門企業です。同社は、「経済の流れを革新する」というビジョンのもと、多様なブロックチェーン活用事業を推進しています。
過去20年間でインターネットが急速に進化した結果、情報は瞬時に世界中で共有されるようになりました。しかし、金融取引や重要なデータの管理にはまだ効率化の余地があります。その解決策として、株式会社Gincoはブロックチェーン技術を活用し、次世代のインターネット、web3.0の基盤を整えることで、経済活動をさらにスムーズにしていくと考えています。
具体的には、web3.0に進出する企業を全面的にサポートし、持続可能な成長のための必要なインフラを提供することで、新しいビジネスチャンスをクライアントと一緒に創出しています。
2-2.株式会社Gincoの事業内容
「株式会社Ginco」の主な事業内容は、下記の通りです。
- 業務用暗号資産ウォレットシステムの開発および提供
- NFTサービス基盤「NFT BASE」の開発および提供
- 業務用セキュリティトークンカストディシステムの開発および提供
- ブロックチェーン活用基盤「blockchainBASE」の開発および提供
- 個人向けウォレットアプリ「Ginco」の運営
- ブロックチェーン活用に関するコンサルティングおよび情報提供
3. web3.0を利用したカーボンクレジットの流通基盤とは
3-1.プロジェクトの概要
2023年6月15日に、SOMPO Light Vortexと株式会社Gincoは共同で、web3.0を活用したカーボンクレジットの流通基盤の実証実験を開始すると発表しました。この実証実験は、6月から9月末まで行われる予定であり、カーボンクレジットの取引を促進する新しい仕組みを開発する目的があります。
具体的な取り組みとしては、「ReFi(再生金融)」領域での環境価値を可視化することが挙げられています。また、取引プロセスにおいてはパブリックブロックチェーンを用い、分散型自律組織(DAO)を採用することで、透明性を高めるとしています。
さらには、NFT技術を用いて温室効果ガスの削減証明書を発行し、それを流通させる新たなシステムを開発する予定です。このプロジェクトは、2024年度中に商用化と実際の取引が始まることを目指しており、その進行状況には多くの注目が集まっています。
3-2.プロジェクト開発の背景
SOMPOホールディングスグループは、2050年を目処に「ネットゼロ」の実現に向けて、組織全体で多角的な活動を展開しています。
ネットゼロとは、排出される温室効果ガスと除去される温室効果ガスが正味で同量になり、バランスが取れている状態を意味します。この用語は「カーボンニュートラル」とも同義で使われることが一般的です。
2015年に成立したパリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命前レベルに比べ2℃以下、できれば1.5℃に抑えるという目標を掲げています。この目標達成に向け、国際社会全体でネットゼロの推進が求められています。
この文脈において、SOMPOホールディングスグループは、長年の保険事業や環境対策の取り組みを通じて得た知識と協力関係を基に、持続可能でグリーンな社会づくりに貢献しています。
具体的には、カーボンクレジットという仕組みに注目し、その流通基盤の構築に取り組んでいます。カーボンクレジットはネットゼロ達成への動きを促進する手段として注目を集めていますが、日本国内においては流通の透明性や手続きの複雑さが課題となっています。これを解決するため、デジタル技術であるweb3テクノロジーを活用した手法が求められています。
この課題を受け、SOMPO Light Vortexは、仮想通貨取引のインフラ提供に実績を持つGinco社と提携。web3テクノロジーを用いたカーボンクレジットの創出と流通基盤の構築に関する実証実験を始めることになりました。
この取り組みは、ネットゼロを目指す脱炭素社会の実現に貢献するとともに、web3の実用的な活用方法を見つけ出すことを目的としています。このプロジェクトには高い期待が寄せられています。
4. web3.0を利用したカーボンクレジットの流通基盤の特徴
4-1.NFTを活用したインセンティブ設計
このプロジェクトで特筆すべき点は、NFT(Non-Fungible Token)を活用したインセンティブ設計が取り入れられていることです。
従来のカーボンクレジット市場では、複雑な手続きや専門的な知識が求められ、一般の企業や個人が参加するにはハードルが高かったのです。
しかし、このプロジェクトではブロックチェーン技術を用いたNFTを用いることで、手続きを簡素化し、誰もが容易に参加できるような環境を作り出しています。
具体的には、カーボンクレジットの発行や取引、さらには透明性と持続性を確保するために、パブリックブロックチェーンが用いられます。炭素削減の証明や取引の証明として、イーサリアム(ETH)ブロックチェーン上でNFTが生成(ミント)される予定です。
4-2.オープンなReFiの実現
この実証実験は、ブロックチェーン技術やデジタルアセットを活用して、長期的には環境や社会問題の解決を目指す「ReFi」(Regenerative Finance、再生金融)に焦点を当てています。ReFiは、ブロックチェーンをはじめとする先進テクノロジーを使って、持続可能な形で経済を再構築することを目的としており、その動きは世界的に拡がっています。
このプロジェクトでは、両社がパブリックブロックチェーン上でDAO(分散型自律組織)を使い、カーボンクレジットの生成と流通についての検証を行っています。この取り組みは、日本のReFi分野に新たな方向性を与えると期待されています。
4-3.DAOの運用方法検証
実証実験では、DAO(分散型自律組織)を用いて透明性と分散性を確保することが目的です。DAOはブロックチェーンを基盤とした、中央管理者のいない組織形態で、参加者が共同で意思決定を行います。スマートコントラクトを用いることで、決定されたルールが自動的に実行され、その透明性も高いです。
具体的には、SOMPOホールディングスグループが持つ燃費データを使用してカーボンクレジットを生成し、その運用方法を検証する予定です。また、カーボンニュートラルな社会への取り組みを推進する「スマートグリーンエネルギー株式会社」とデータ提供に関して協議中です。
5. まとめ
SOMPO Light Vortexと株式会社Gincoは、web3.0を基盤にしたカーボンクレジットの新しい流通環境を構築する実証実験を始めました。日本国内ではカーボンクレジットの取引環境がまだ整っていないため、このような新しい取り組みは参入障壁を下げる可能性があります。
パブリックブロックチェーンとDAO、さらにはNFTを活用することで、より多くの人が気軽に参加できる取引環境の構築が目標です。両社は2024年度中にこのプロジェクトを事業化し、実際の取引を開始する計画です。今後の実証実験の進展に注目していきたいと思います。
中島 翔
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