今回は、イーサリアムのカンファレンス「Ethereum Community Conference 3(以下、EthCC)」で行われた、Monolith(モノリス)のCEO Mel Gelederman(メル・ゲルドマン)氏によるセッションについて解説した渡邉草太氏(@watatata0108)のコラムを公開します。
目次
- DeFi(分散型金融)とは何か
1-1. ノン・カストディアル(資産はユーザーが自己管理可能)
1-2. スマートコントラクトの信頼性と透明性
1-3. グローバルに誰でもアクセス可能
1-4. レゴブロックのようなサービス同士の組み合わせが可能 - DeFi(分散型金融)の成長
- Monolith(モノリス)とは何か
- 規制にポジティブな事業戦略
- 筆者の考察
3月3日から5日にかけて、Ethereum Community Conference 3(EthCC 3)と呼ばれるイーサリアムコミュニティ最大規模のカンファレンスが、フランスのパリで開催されました。本記事では、Monolith(モノリス)のCEO Mel Gelederman(メル・ゲルドマン)氏によるセッションの内容をお届けします。
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同セッションの内容は大きく分けて二つで、一つ目はDeFi(分散型金融)市場の成長の振り返りです。そして二つ目が、Monolith社のプロダクトであるデビットカード付きDeFiウォレット「Monolith」の紹介となります。
DeFi(分散型金融)とは何か
セッションの内容を見ていく前提として、Mel氏が新しい経済パラダイムと呼ぶ「分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)」に関する簡単な解説を行いました。
DeFiという言葉には、未だ明確な定義はありません。しかし現在のDeFiは、一般的にイーサリアム上の金融サービス群やそのエコシステムを総称する言葉として知られています。ステーブルコインやレンディング、分散型取引所サービスなどがその例です。
DeFiサービスの特徴は以下の4つにまとめられます。
ノン・カストディアル(資産はユーザーが自己管理可能)
DeFiサービスは、一般的な金融サービスや暗号通貨取引所のようにユーザーの資産を預かることをせず、ユーザーによる自己管理を可能にします。そのため、一般的な取引所のようなハッキング被害を受けるリスクはありません。
スマートコントラクトの信頼性と透明性
DeFiのスマートコントラクトは、ソースコードが公開されており、かつ誰でもコントラクトの実行内容を検証することができます。そのため、サービスや取引の正統性に関して、企業を信頼する必要性が極めて低い点が特徴です。
グローバルに誰でもアクセス可能
原則的には、インターネットにアクセスできて、かつ暗号通貨を保有していれば誰でも今すぐにDeFiサービスの利用を開始することができます。
レゴブロックのようなサービス同士の組み合わせが可能
DeFiサービスは、基本的にプログラムコードやAPIが公開されています。そのため、外部の開発者であっても、既存のDeFiサービスに様々なロジックを組み合わせることで、簡単に新しいDeFiサービスを構築することが可能です。
以上を踏まえると、DeFiは既存の金融ないしフィンテックサービスなどと大きく性質が異なる金融エコシステムであることが分かります。したがってこれらの要素が、Mel氏がDeFiを”新しい経済パラダイム”だと定義する理由だと考えられます。
DeFi(分散型金融)の成長
スピーチ冒頭で、Mel氏はここ1年でDeFiサービスのスマートコントラクトに預託された合計価値が1,000億ドルを超えた事実について触れました。同氏は「DeFiは単なる空論や妄想ではなく、現在進行形で進行する巨大なムーブメントである」と主張します。
次に同氏は、以下の画像データを紹介し、「この図は、現在のDeFiエコシステムがまるで一つの宇宙のように、新しい経済パラダイムとして誕生・拡大している様子を表しているようだ」と説明しました。
【引用元】Alethio
上図は、各DeFiないし分散型取引所サービスのユーザー数と、サービス同士の関連度を示すビジュアライズデータです。特定のサービスを利用するユーザー(アドレス)が、同時にどの他サービスを利用しているのかを図示しています。
データ提供元のAlethioによれば、画像内にまばらに散らばる黄色・オレンジ色・赤色の点はそれぞれユーザーのアドレスです。黄色のドットは2つ、オレンジ色は3つ、赤色は4つ以上のサービスを利用しているアドレスを表します。
Monolith(モノリス)とは何か
では、Monolithとは一体どんなサービスなのでしょうか。Mel氏は「Monolithがやっていることは、DeFiエコシステムを包み込んで、高い利便性を付け加えた形でユーザーに提供することである」と話します。
具体的にいえば、Monolithが提供するのは、複数のDeFiサービスにアクセス可能な暗号通貨ウォレットと、実店舗決済を可能にするVISAデビットカードの2つです。ウォレットはノンカストディアル設計を採用しており、カードはウォレットと接続しています。
同氏は、「Monolithアプリでは、通常のウォレット機能に加え、預金サービス「CHAI」を通じた利子収入の獲得や、分散型取引所サービスを介した暗号通貨の交換などを簡単に行うことができる」と説明しました。
同氏によれば、「MonolithのVISAデビットカードは、暗号通貨しか持っていなくても日常的な決済を可能にする。近いうちに欧州の銀行システムIBANにも対応し、暗号通貨での給与受け取りや銀行送金などのオプションも利用可能になる予定だ」といいます。
現時点でMonolithが提供済みの機能は、ノンカストディアルウォレットとデビットカードの2つだけです。預金機能やトークン交換、銀行システムとの接続は、数ヶ月以内の実装を目処に準備が進んでいるとのことです。
同氏によれば、より長期的には、Monolithウォレットからローンやモーゲージ、保険などのサービスへのアクセス機能も搭載していく予定だといいます。他にも、プライバシー技術を用いた顧客情報の保護機能や、顧客との利益分配トークンの実装も検討中だと話しました。
規制にポジティブな事業戦略
Mel氏は、DeFiのような新しい産業が発展していく上で、レギュレーションへの遵守は必要不可欠だと考えているといいます。
同氏は、「産業革命期のロンドンでは、新しいビジネスが急成長する一方で、 不十分な規制を要因にテムズ川の汚染が引き起こされ、生態系に大きなダメージを与えた。つまり、自由市場は返って悪影響を生み出す危険性がある」と、説明しました。
同氏によれば、Monolithは英国で初めてFCA(金融行動監視機構)からサンドボックス下での運営許可を取得した企業だといいます。当局の監視下では、KYC(本人確認義務)やAML(アンチ・マネーロンダリング)などのコンプライアンス遵守が必要です。
同氏はにAML遵守について、「VISAネットワークと接続するために、我々はAMLチェックシステムを構築する必要がある。ノンカストディアル設計は、ユーザー資産のコントロールを不可能にはするが、資金の出入りを把握することは依然として可能である」と述べています。
それに加えて、同氏は「一般的な銀行は、顧客の送金履歴をトラックすることが困難である。しかしブロックチェーン上では、ほぼ全ての送金履歴の閲覧が可能である。そのため、我々はAML遵守に関して、一般的な銀行以上のクオリティを実現できる可能性がある」と説明し、AML規制への懸念が払拭可能であることを強調しました。
ただし、規制に関しての懸念はゼロではないようです。セッション後にブレグジットの影響に関して直接質問をしたところ、「FCAのサンドボックス運営許可が、今後イギリス国外では無効化されるという危険性はある。こればかりは変化を予測することは難しい」と答えてくれました。
同社は直近数年間はEEA(欧州経済領域)市場をメインターゲットにビジネスを展開していく予定だと話しています。
筆者の考察
ここ最近、複数のDeFiサービスを内蔵化したウォレットサービスがいくつも登場しています。しかし、Monolithが他の類似サービスと大きく異なる点が2つあります。それは先述したデビットカードの存在と、サンドボックス下運営を例とする規制への前向きな姿勢です。
デビットカードの存在は、圧倒的な利便性を意味します。DeFiサービスを通して増やした資産を、直接的に決済に利用できる機能は、簡単なようで事例は少なく、圧倒的な優位性になるでしょう。
現状のDeFiエコシステムには、初期段階から規制下で運営されているサービスはほとんど存在しません。Monolithのように積極的に規制遵守を行う企業は非常に珍しいと考えられます。そのため、今後の事業の成否次第では、DeFiサービスに対する規制環境に良い変化をもたらす、業界でも比較的重要なポジションを獲得していく可能性があるでしょう。
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渡邉草太
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