今回は、ビットコインマイニングがもたらす環境負荷について、渡邉草太氏(@watatata0108)が解説したコラムを公開します。
目次
「ビットコインは電力を無駄遣いしていて環境に悪い」というのは、ビットコインに対する最も典型的な批判といえます。しかし、一見もっともそうに思えるこの指摘は、実際どこまで説得力があるのでしょうか。
本記事では、ビットコインマイニングに関するデータや調査研究を元に、ビットコインのエネルギー消費問題に関する誤解を解いていきます。
ビットコインマイニングの消費電力とシェア
本題に入る前に、ビットコインマイニングの現状を消費電力量及び地理分布などのデータを元に見ていきましょう。
ビットコインはよく一定規模の国家と同程度の電力を消費していると言われます。ケンブリッジ大学のオルタナティブ金融センターのデータによれば、ビットコインの年間電力消費は55.33Twh(テラワット時)と推計されており、この消費量は実際にイスラエルやバングラデシュなどの国家以上です。
ちなみにEnerdataによれば、世界第一の電力消費国である中国は年間6167Twhを消費しています。それに続いて2位の米国が3971Twh、3位のインドが1243Twh、4位の日本は1020Twhです。
下図2つは、同じくケンブリッジ大学のオルタナティブ金融センターが公開しているビットコインマイニングマップ及び国別シェアチャートです。一つ目のマップでは、マイナーが世界中に満遍なく分布していることが分かります。
しかし以下の二つ目のチャートをご覧ください。実はマイニング市場のシェア約65%を中国一つで占有しているのです。
中国でマイニングが盛んな理由は、圧倒的なコスト(マシン価格、人件費、電気代)の低さにあります。中国の電気代は日本の3分の1というデータもあるほどです。
ビットコインマイニングは電力の無駄遣いという誤解
冒頭で紹介したような、「ビットコインは莫大な電力を無駄遣いしている」や「ビットコインは環境に悪い」といった言説は、必ずしも正しくありません。なぜなら、廃棄予定となっている余剰電力を用いたマイニングや、化石燃料を利用しないマイニングなども存在しているからです。
中国の四川省は、ビットコインマイニングで有名な地域で、中国のマイニング市場のシェア約10%(新疆ウイグル自治区の50%に次いで2番目)を占めています。理由は四川省が豊富な水源に恵まれており、低価格の電力を供給する大量の水力発電ダムがあるためです。
これらのダムは、中国政府が20年前に開始した大規模なダム建築プロジェクトにより設置されたものです。しかし実は現在、過剰建設が問題となっています。四川省では、省全体に必要な量の2倍以上の電力がこれらのダムから生み出されており、結果的に発電された電力の約半分が廃棄されるという問題が起きているのです。
四川省で行われているビットコインマイニングのほとんどは、この廃棄されるはずの電力を使用しています。したがって、電力を無駄にするどころか廃棄分を削減しているのです。電力源も水力なので環境にダメージを与えことすらありません。
「他の地域や外国に電力を送れるのでは?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし電力は、伝送距離が長いほど減少するエネルギーなのです。実際、世界全体で生産された電力の8%は伝送中に失われていると言われています。加えて、送電網の設置にもそれ相応のコストがかかります。
もちろん中国国内の全てのマイニングが水力発電によって行われているのではありません。しかし、発電といっても様々な方法があり、一概にビットコインマイニングが化石燃料に依存している訳ではないと気づくことが大切です。
マイニング電力における再生可能エネルギーが占める割合
さて、では世界中のマイニングの中で、一体どの程度が再生可能エネルギーを元にして行われているのでしょうか。これに関して直近で最も注目されているのは、2019年6月にCoinSharesが表明した「ビットコインマイニングの74.1%は再生可能エネルギーを電力源としている」という研究結果でしょう。
Coinsharesは、レポート内で「中国を中心とした世界中のマイニングファームは、化石燃料と再生可能エネルギー両方を利用してマイニングを行っている。再生可能エネルギーとしては、水力発電や風力発電、太陽光発電などが挙げられる」と述べています。
仮に上記の結果が正しいとすれば驚きですが、この算出結果に対してはある程度懐疑的にならざるを得ません。なぜなら他にも異なる算出結果を出している研究がいくつか存在しているからです。例えば、2018年のケンブリッジ大学による調査では、ビットコインマイニングに占める再生可能エネルギーの利用率は28%だと推定されています。
研究ごとにデータに大幅な違いが見られるのは、いくつかの理由があります。まず一つ目はデータ採集の対象となるマイニングファームのカバー範囲や計算方法です。残念ながら、現時点では完全なマイナーデータ及び標準化された測定方法は存在していないのだと考えられます。
そして二つ目は、時期や気候変化の影響による再生可能エネルギーの価格変動です。四川省の例でいえば、当然雨季は水が豊富なため電力価格は下がりますが、乾季はその逆になります。その際、マイナー達は補助として化石燃料を用いたり、マイニング機器を別の地域に移して別の電力源を用いるケースもあるのです。
以上を踏まえると、測定方法や調査を実施したタイミングによって、算出結果に大幅な違いが見られるのも無理はないと考えられます。
ただし、マイニングファームが化石燃料と再生可能エネルギーを併用しているという点では、どの研究でも意見は一致しています。ケンブリッジ大学の調査によれば、複数のエネルギーを電力源とするマイナーのうち、60%がメインあるいは補助として再生可能エネルギーを利用しているといいます。
Image Credit : Cambridge University
最後に
ビットコインマイニングの環境的な負の側面は広く認知されており、もはや業界では常識として捉えられているようにも思えます。しかし、電力ロスを有効活用するような事例や、環境に優しい方法が存在するという事実をもっと考慮する必要があるでしょう。
直近の事例では、ソーラーパネルを搭載したLightning Networkノードのような事例が登場していたりと、着々とポジティブな変化は始まっています。
ビットコインマイニングの消費電力は年々上昇しており、益々再生可能エネルギー活用の必要性が増してきています。今後、化石燃料を用いた電力への依存度を下げ、環境面でよりクリーンなイメージを広めていくことができれば、普及スピードも上昇するかもしれません。
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渡邉草太
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