今回は、今月5月1日から4日にかけて、DeFi Discussionと呼ばれるDeFi(分散型金融)特化のリモートカンファレンスについて、渡邉草太氏(@watatata0108)が解説したコラムを公開します。
目次
- 暗号通貨は危機によって誕生した。
- 暗号通貨とDeFiは、救済手段及びオルタナティブとなり得るか
1- オープンかつグローバルな、新しい経済活動インフラ
2- デジタルゴールドと、パーミッションレスな投資及び銀行サービス
3- DAO(自律分散型組織)の復活と、検閲耐性のあるアプリケーション - DeFiの課題と今後の展望
Q1. 暗号通貨及びDeFiのアダプション(普及)にとって、最も大きな障壁は何か?
Q2. 既存金融のDeFiに対するアプローチに関してどう見ているか?
Q3. 今後10年で、DeFiはどのように変化していると思うか? - 付録:「ビットコイン on DeFi」について
本記事では、The Defiant代表Camila Russo(カミラ・ロッソ)氏によるセッション「Crypto Was Made For Crises: Covid-19’s Potential To Spark New Wave Of Adoption(暗号通貨は危機のために創られた。新型コロナウイルスが、暗号通貨普及の波を引き起こす」の内容をお届けします。
暗号通貨は危機によって誕生した。
Image Credit : DeFi Descussion
カミラ氏は、セッション冒頭で「大不況がビットコインを生み出した。そして今我々が問いたいのは、現在の大規模なロックダウン危機は暗号通貨及びDeFiの拡大に繋がるか、という点である」と問題提起しました。
同氏は、「不況下においては、銀行を中心とする金融システムに対し人々は不信感を抱きやすい。そして2008年の金融危機に生まれた信用不安は、現在まで続いている」と指摘します。同氏によれば、「経済的困窮と不平等」「富の侵食」「権力の濫用」の3つが、金融機関に対する人々の信用を低下させる要因だといいます。
1つ目の「経済的困窮と不平等」が意味するのは、株式市場の暴落や貯蓄の不足、借金返済への恐怖などです。そして2つ目の「富の侵食」は、大規模な新規通貨発行を理由とするハイパーインフレ発生への懸念。3つ目の「権力の濫用」は、政府による巨大金融機関への救済援助などを意味しているといいます。
これに対し、同氏は「このような経済的及び社会的苦境は、デモやその他の政治運動など、多くの反発的ムーブメントを引き起こした。そして何を隠そうビットコインは、2008年の金融危機において、それらの反発的運動の一つとして誕生したのである」と述べます。
同氏は、現在我々が直面している新型コロナウイルスによる危機に話を戻し、「現在、世界人口の3分の1がロックダウン下にいて、かつ先進国のGDP減少率は2008年の危機時の2倍以上に上っている」と、今回の危機の被害の大きさを強調しました。
同氏は、現在起きている事象を、先述の三つの項目に対し以下のように分類します。
- 経済的困窮と不平等
- 富の侵食
- 権力の濫用
4月25日時点で既に失業申請数が380万件。失職リスクに晒されている低所得者の数は、高所得者の約17倍。(どちらも米国データ)
全世界的な通貨の大量発行(資産を希薄化するハイパーインフレーションへの懸念増大)。
強行的な外出禁止策。政府による米国の航空業界利益団体への250億ドルの財政支援。検閲やプライバシーが侵害されるリスクの増大。
暗号通貨とDeFiは、救済手段及びオルタナティブとなり得るか
ここまでの前提を踏まえ、カミラ氏は「暗号通貨及びDeFiは、人々にとっての救済手段、もしくは既存システムのオルタナティブ(代替手段)となり得る」と主張します。
1- オープンかつグローバルな、新しい経済活動インフラ
同氏は、1つ目の「経済的困窮と不平等」に関して、新しいオープンなデジタル経済への入り口となる、以下のような暗号通貨及びDeFiサービスを紹介しました。
同氏は、「これらの新しい代替手段を用いることで、人々はより独立し、グローバルな経済活動に参加することができる」と述べます。
2- デジタルゴールドと、パーミッションレスな投資及び銀行サービス
同氏は、2つ目の「富の侵食」の文脈におけるオルタナティブとして、まずデジタルゴールドとしてのビットコインを例に出しました。同氏によれば、供給量の固定されているビットコインは、既に既存金融との結びつきが弱いユニークな金融資産としての地位を確立しているといいます。
加えて、同氏はオープンかつパーミッションレスなDeFiの事例として以下のサービスを紹介しました。
- CHAI:DAIなどのステーブルコインを預金することで金利収入を得られるサービス
- Set Protocol:トークンバスケットの作成など、高度な投資取引を可能にするプロトコル
- Pool Together:元本損失リスクゼロの宝くじアプリ
同氏によれば、これらのDeFiサービスの強みは、地理的な制限に関係なく富を増幅する(資産運用)機会を人々に提供できる点だといいます。
3- DAO(自律分散型組織)の復活と、検閲耐性のあるアプリケーション
同氏によれば、暗号通貨エコシステムは、3つ目の問題である「権力の濫用」に対抗する能力も持つことができるといいます。
同氏が引き合いに出したのは、投票によるガバナンスへの自由参加を可能とした、DAO(自律分散型組織)と呼ばれる新しい組織形態です。具体的な事例としては分散型ベンチャーファンド「The LAO」が挙げられました。同ファンドは、米国で法的に認可された分散統治型のベンチャーキャピタルです。
またDAO以外にも、同氏は検閲耐性を保護機能を持つサービスとして、ブロックチェーンをベースとしたSNS「Peepth」などを紹介しています。
DeFiの課題と今後の展望
カミラ氏は最後に、「2008年の金融危機のとき、我々はビットコインすら持っていなかった。しかし今は、ビットコインに加えより信頼できる代替的DeFiサービスが数多く存在している。実際に様々なサービスが既に稼働している。この機会に、より多くの人がDeFiを試してくれれば嬉しい」と述べ、プレゼンを締め括りました。
以下はプレゼン終了後のQ&A文字起こし(抄訳)です。
Q1. 暗号通貨及びDeFiのアダプション(普及)にとって、最も大きな障壁は何か?
暗号通貨及びDeFiサービスは、まだ一般ユーザーにとっては資金を投じる際の不安が大きく、かつ利便性が低い。このような不安に対する解決策の一例としては、Nexus Mutualのように、リスクヘッジを可能にする保険アプリケーションなども出てきている。
利便性に関していえば、法定通貨から暗号通貨への変換が未だスムーズにできない点や、ガスのようなブロックチェーンサービス特有の仕様など、様々な要素を改善していく必要性がある。
Q2. 既存金融のDeFiに対するアプローチに関してどう見ているか?
既存の金融機関やフィンテックサービスが、純粋にDeFi領域に参入しているという事例は未だ見受けられない。まだDeFiが既存プレイヤーの脅威となっていないためだと考えられる。
将来、DeFiが既存金融の脅威になった際、彼らの反応として2つのシナリオが存在する。一つはレギュレーターによるDeFiの抑圧だ。最悪の場合、例えばMakerDAOが完全な分散化を遂げていたとしても、彼らは個人に対しDAIの利用を違法化する形で対応してくるかもしれない。
しかし、既存金融側が無視できなくなるほど、DeFiが普及するというシナリオも考えられる。その場合、二つ目の道として、彼らには何らかのアプリケーションを作ることで、DeFi市場に参入するという選択肢もあるだろう。
Q3. 今後10年で、DeFiはどのように変化していると思うか?
今後10~15年で考えるならば、そのときまでにはDeFiは大きく成長していて、単にフィンテックとして認識されているかもしれない。つまり現在のフィンテックサービスと同じように、インターネット上で多くの人が利用する金融サービスとなっている可能性がある。
しかし同時に、既存の財政及び金融政策から独立した、オルタナティブとなる金融エコシステムとして発展していくと考えている。誰もがアクセスでき、より安全かつ堅牢で、簡易的なオルタナティブとして利用されているかもしれない。
付録:「ビットコイン on DeFi」について
当セッションとテーマは変わりますが、付録的にDeFiに関連する今注目すべきトピック「ビットコイン on DeFi」について少し触れておきたいと思います。
現在、DeFi市場でEthereumへのビットコイン流入が勢いを増しています。WBTCなどはその筆頭格ですが、実際本イベントでも、新しくローンチされる「tBTC」に関するセッションが行われていました。同プロジェクトは先月7億円の調達を実施したばかりだといいます。
なぜこのような流れが顕著かといえば、BTCの莫大な流動性をEthereumに持ち込むことで、DeFi市場の急拡大が期待できるからです。DeFiの市場規模は現在800億円程度(※2020年5月時点)ですが、BTC市場は約30倍の2兆5,000億円規模とされています。
既存金融のオルタナティブとして最初に誕生したのはビットコインです。DeFiの普及はビットコインのユースケース拡大にも繋がるため、両エコシステムは相乗効果を持つ関係性にあるといえます。その意味で、ビットコインのEthereum流入は暗号通貨市場全体にとって重要なインパクトをもたらすと期待されます。
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渡邉草太
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