2022年2月第2週の後半はウクライナ問題により、リスクオフのUSD買いが優勢となりました。しかし政治的な問題がなければ、現在の為替相場は各国の金融政策の市場での織り込み度合いと中銀のターミナルレート(足元の利上げサイクルの最終到達点)のギャップを探しながら取引されています。
その際最も重要になってくるのは物価指標です。物価上昇を支えることが可能な経済状態なのかを図るために重要な指標が雇用統計になります。
この記事では、2022年1月下旬から2月上旬の相場振り返りと、英雇用統計とCPI、豪雇用統計、トルコ中銀会合を注目材料として分析します。
目次
- 英雇用統計とCPI
1-1.前回の数字
1-2.BOEの金融政策方針
1-3.指標発表後の市場反応予想 - 豪雇用統計
2-1.前回の数字
2-2.CPI
2-3.RBAの金融政策方針
2-4. 指標後の市場反応予想 - トルコ中銀政策決定会合
3-1.エルドアン大統領の迷走
3-2.中銀の金融政策方針
3-3. 会合後の市場反応を予想
1.英雇用統計とCPI
1-1.前回の数字
12月の失業率は4.1%に低下しました。雇用者数は増加したものの、前回を下回りました。賃金の伸び率は前年比+4.2%と高水準とはいえ、前回の+4.9%から減速しました。
CPIは前年比+5.4%、コアでも前年比+4.2%と予想を上回り、力強い上昇が続いています。
CPIと賃金上昇を比較すると、賃金上昇率が追いついていないため苦しい状態です。しかし資源の供給問題が落ち着いて、エネルギー価格が急落したと仮定すると、コアCPIと賃金上昇率が同程度のペースで上昇しています。ギリギリの経済状態を保っていると言えます。
1-2.BOEの金融政策方針
前回の会合は、非常にサプライズでした。0.25%の利上げが予想されていましたが、利上げ幅は予想通り0.25%だったもののメンバー9人のうち4人は0.5%の利上げを主張しました。
更に、市場の期待を超える7%を超えると見込むインフレ率を視野に、過去10年の量的緩和(QE)の下で積み上げた8950億ポンド(約140兆円)の保有資産について縮小を開始、保有国債の満期償還金の再投資を直ちに停止することを決定しました。
参照:ブルームバーグ「ベイリー英中銀総裁、金利の緩やかな動き支持-衝撃は望まず」
ただ、インフレ予測については、4月に+7.25%でピークをつけたあとは徐々に低下すると予想し、2022年末のCPI予想を+5.21%に引き上げた(11月時点:+3.40%)ものの、2023年末は+2.15%(11月:+2.23%)に、2024年末は1.60%(11月:1.95%)にそれぞれ引き下げています。
引き締めをより早く行うことでインフレを今年後半から抑え込みに成功するのであれば、金利の正常化を長期間継続する必要がなくなります。ベイリー総裁が、金利が長期的に上がり続けると考えることは間違いだと発言しています。ターミナルレートはそこまで高くならないでしょう。
参照:ロイター「英中銀、政策金利を0.50%に引き上げも判断割れる QTも開始」
早期利上げの姿勢を示すことにより、通貨高に誘導しながら輸入物価を下げて、インフレを抑えるといった2次的な影響も狙っているでしょう。
1-3.指標発表後の市場反応予想
市場は12月頃から早期利上げを織り込み、ロングになっていました。しかしECBが予想以上にタカ派に転じたことで、コンセンサストレードであったEURGBPショートの巻き戻し(EUR買い、GBP売り)が出ました。GBPUSDの上値を抑えています。
更に直近ではウクライナ問題によるリスクオフによるUSD買いも入っているため、GBPUSDのロングは減ってくるでしょう。
今回の予想は、賃金上昇率が+3.8%、CPIが+5.4%、CPIコアが+4.3%と、物価上昇が賃金上昇を上回る、まさにベイリー総裁が懸念している家計にとって苦しい状況が予想されています。市場は若干ロングになっていると思いますが、最も大きなインパクトは賃金上昇率がCPIコアの予想である+4.3%を超える上昇を見せた時だと考えます。
2.豪雇用統計
2-1.前回の数字
雇用者数変化は市場予想を若干上回る64.8千人、労働参加率は前月と同じ66.1%でした。失業率が4.6%から4.2%に低下しました。RBAは健全な物価上昇かどうか判断する材料として賃金上昇率を挙げています。
2-2.CPI
2021年第4QのCPIは、RBAが注目しているトリム平均値が予想を大きく上回る前年比+2.6%となっています。RBAのインフレターゲットは2~3%であり、まだ範囲内に収まっています。
オーストラリアは、家賃や自動車価格の強い上昇がなく、電気料金も欧米ほど値上がりしていません。また、労働人口増加が賃金の低下に寄与しており、これも諸外国と違う点です。
従って、インフレ発生の可能性はあるものの、非常にマイルドで健全なものになる可能性が高く、RBAの引き締めスタンスは強まらないでしょう。
2-3.RBAの金融政策方針
直近のRBA会合では、金利は0.1%で据え置き、QEの終了が決定されました。しかし、QEの終了は近い将来の利上げの可能性を示唆するものではないと牽制し、今年中の利上げに関する明確な示唆はありませんでした。今後もインフレを見ながら忍耐強く臨むという、ハト的な内容となりました。
インフレはこの先数四半期でRBAのターゲット上限の3%を超えて3.25%まで上昇したのち、来年は2.75%に下落する見通しです。
ロウ総裁の発言をまとめると、ハト的な考えに傾いていると言えるでしょう。インフレの上昇は認めながらも、他国対比では小さいという認識を示しました。
金融政策は、利上げの開始時期についてこれまでの2024年よりは前倒しされるとの認識に変わったものの、市場は待つことのリスクよりは過度に早く動くことのリスクを警戒しているでしょう。実際に物価指標が中銀のターゲットレンジの上限3%を超えてこないと動きそうもありません。
参照:ロイター「豪中銀の声明全文」
2-4.指標後の市場反応予想
今回の予想は、雇用者数変化が±ゼロと低い予想です。しかし、債券市場は7月からの利上げを既に織り込んでいる状態にもかかわらず、為替市場は2国間の強弱でポジションを保有します。
相対的にハト派スタンスであるRBAを受けたAUDショートはIMMポジションを見ても相当積み上がるでしょう。加えて直近のウクライナ問題のリスクオフもあり、ショートは更に増えていると予想できます。
雇用者数変化が予想を上回った時にはショートカバーが入りやすいでしょう。ただ、直近はAUDUSDが0.7000の節目を下抜けするなどショート勢が利食い出来る局面があり、苦しいショートにはなっていない印象があります。
あまりショートカバーは期待できないかもしれません。一方で雇用者数変化がマイナスとなった場合は、ショートの利食いが出てくるため、0.7000近辺では下げ止まる可能性があります。
3.トルコ中銀政策決定会合
3-1.エルドアン大統領の迷走
エルドアン大統領はイスラム教の教えに基づいて利下げを継続させると表明しています。信念に従わない中銀総裁は次々に更迭されています。現在の総裁も大統領の考えに従い連続で利下げを実施したものの、その都度TRYは売られ、輸入物価の急騰から物価上昇が止まりません。
このような状況下、1月末にエルドアン大統領はCPIを計算する統計局のトップを更迭しました。その理由は、大統領が見たくなかったインフレの数字を統計局が出したからだと言われています。
参照:WSJ「トルコ大統領、統計局トップを更迭 12月インフレ率は36%」
年初に発表された2022年12月のインフレ率が36.08%に急上昇し、2002年以来の高水準になっていました。しかし、統計局トップ更迭後でも、1月のCPIは+48.69%と更に急上昇しています。大統領の推し進める利下げとそれに伴い年間40%も減価してしまった通貨安が原因であるものの、自分の方針に背く高官を次々と更迭しています。
3-2.中銀の金融政策方針
昨年末にリラ建て預金者が被る為替変動の損失を政府が損失補填するという政策を表明しました。簡単に言うと介入であり、外貨準備が潤沢でない中どこまでこの政策を維持できるのか疑問が残ります。元々トルコ国民の中でTRYは信用を失っており、国民が続々とUSDへの両替を行っていたことが通貨安に繋がっていたものの、一旦その流れは止まっています。
3-3. 会合後の市場反応を予想
予想は2回連続で14%に据え置きとなっています。昨年末に大きく乱高下してから、USDTRYは概ね13台ミドルで横ばいとなっています。ウクライナ問題でも、地理的に近いにもかかわらず、リスクオフでもあまり売られません。投機マネーが一旦ほぼ抜けているため動かないのかもしれません。
一番のリスクは、やはりエルドアン大統領に忖度しての利下げによるTRY売りでしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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