世界各地でESG規制競争始まる。シュローダーIMのESG四半期レポート

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資産運用大手のシュローダーは、2月8日に発表したサステナブル・インベストメント・レポートで「ESG規制競争始まる」のタイトルで、持続可能な社会を実現するための金融手法である「サステナブルファイナンス」の規制に関する現状を報告した。同社は企業とのエンゲージメントや実態調査など、サステナビリティへの取り組みを四半期ごとに紹介しており、今回は2021年第4四半期分で、サステナビリティファイナンスの規制の各国の現状と計画との乖離、タクソノミーの重要性に言及している。

最も大きな注目を集めているのが、世界に先駆けてサステナブルファイナンスプランを立てたEU。EUのタクソノミーは、企業の経済活動が地球環境にとって持続可能であるかを判定し、グリーンな投資を促すEU独自の仕組みだ。企業はタクソノミーに基づき、コーポレート・サステナビリティ報告指令(CSRD)に従って事業活動の持続可能性を報告することになる。

しかし、シュローダーは「EUタクソノミーはさまざまな理由で遅れが生じている」と指摘している。原子力やガスを環境的に持続可能な活動に分類するのか、加盟国間で激しい議論が繰り広げられていることが一因で、企業報告への適用開始は2023年以降に持ち越される見通しだ。資産運用会社が自社商品の持続可能性について報告する方法に関するテクニカルな詳細も適用は23年以降となる見通しだが、22年1月時点ですでに遅れが生じている。

英国は、企業と金融機関を対象とした気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に沿った報告義務を導入している。TCFDがあれば、市場はどこで最も多くの炭素が排出されているのかを知ることができ、それに応じて資本を配分できる。しかし、英国の規制当局はサステナビリティ要素を含む形で(ただし定義は未定)TCFDの報告範囲を効果的に拡大するサステナビリティ情報開示要件(SDR)を定める計画、さらに英国版タクソノミーの計画も進めており、EU版と若干異なる内容になると予想される。

米国では、バイデン政権下で気候変動を重視した新たな政策が推し進められており、特に前政権下で21年1月に施行された労働省(DOL)規則の見直しの結果が待たれている。この規則によって、民間の年金基金はサステナビリティ要素を考慮した戦略への投資や環境・社会問題に関する決議の議決権行使が難しくなっていた。新政権移行後の21年3月、同省は規則の施行停止とステークホルダーとの協議を発表。10月に、投資機会の評価や議決権の代理行使の際にサステナビリティ要因を考慮することを受託者に認める改正案が公表された。最終結果は22年前半に明らかになる見込みで、改正案と同様の内容であれば、相当の資金がサステナブル投資に開かれることになる。

アジア市場では、最近の規制の動きはコーポレートガバナンス基準と企業報告の改善が中心。22年1月からは企業の取締役会の独立性と多様性に関してより厳しい要件が課せられる。台湾は上場企業に対してアニュアルレポートにおけるESG情報開示を強化する予定で、シンガポールは企業にTCFDと取締役会の多様性に関する報告を義務付け、22年から順次導入される予定。

アジア市場の特徴は教育の重視。香港証券取引所は、企業と幅広い市場を対象にした一元化された教育プラットフォームとしてESGアカデミーを開設。シンガポールはグリーンファイナンス・アクションプランの一環として教育ワークショップやeラーニングプラットフォームを開始している。

関連情報を集約する取り組みも進む。韓国取引所は社会的責任債を専門に取り扱うセグメントを立ち上げ、香港では規制当局のウェブサイトでサステナビリティファンドのデータベースが一般公開されている。シンガポールの規制当局はサステナビリティデータを強化するためのデジタルプラットフォームの試験運用計画を発表した。

一方、中国はEUの協力の下、サステナブルファイナンスに関する国際的な連携・協調を図るプラットフォーム(IPSF)を通じて「コモングラウンドタクソノミー」を始動させている。同社は「これは本質的にはタクソノミーではない」と否定、「どちらかと言えばEUと中国のグリーンタクソノミーを効果的に比較し、双方向に翻訳するためのツール」として、まだ開発段階だが、成功すれば「グローバルな投資家にとって非常に便利なツールになり得る」としている。

オーストラリアのサステナブルファイナンスは、情報開示よりも気候変動リスクの管理に重きを置いている。規制当局による最近の動きとしては、オーストラリア健全性規制庁(APRA)が銀行、保険会社、年金基金を対象に発行した気候変動に関するリスクと機会の管理に関するガイダンスがある。ただし、同社は気候変動に関する事象が金融リスクとして現れないか懸念を示す。例えば、異常気象による物的損害について保険会社に保険金請求が殺到するケースが生じれば、保険会社にとっての問題が他の金融市場参加者に波及し、市場をさらに幅広く動揺させる可能性があるとしている。

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の立ち上げ、証券監督者国際機構(IOSCO)をはじめとする当局が、各国の規制当局のアプローチの統一化に乗り出すなど、国際的な基準化の動きはある。それまでは「各地域で独自に構築された枠組みのパッチワークに頼らざるを得ない」と、規制競争にやや冷めた見方を示した。

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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