2021年2月の相場は、何といっても世界的な金利上昇が注目されました。
1月上旬に米ジョージア州の決選投票で民主党が勝利を収めて以降、米国の巨額追加財政出動が意識され、米金利は上昇基調となっていました。しかし、1月末にゲームストップなどの米個別株の乱高下でリスクオフの地合いとなり、低リスク資産である米債が買われたことで、米金利の上昇も頭打ちとなっていました。
それが2月に入ると、米個別株の混乱が予想外に早期に収束し市場心理が改善したことで、米金利は再度上昇を開始し、2/25に米10年金利が1.61%を付けるまで上昇を続けました。ところが、米金利が基本的に上昇するなかで、為替相場は単純な米ドル買いとはなりませんでした。
今回は、この金利を中心に2月の為替相場を振り返ってみたいと思います。
目次
1.2月上旬の為替相場
1月末に発生したゲームストップ株発の米株混乱のどんよりした雰囲気が残っていました。米政治家から規制を作る必要があるかもしれないなどといった発言もあり、これまでの個人から株式市場への資金流入に障害が出ると思われたからです。
しかし、個人投資家への規制関連の具体策は出てこず、むしろ米追加財政出動期待の高まりとワクチン普及のニュースが日に日に増える中、米金利と米株がどちらも緩やかに上昇するようになると、むしろリスクオフに備えていた参加者たちのポジションが徐々に切らされるような展開となりました。
この時は、米期待インフレと米名目金利はどちらも上昇していましたが、FRBが緩和スタンスを崩すことはなく、金利が上がれば何かしら牽制してくると思われていました。したがって、米10年金利も1.2%を上限に上げ渋り、名目金利から期待インフレを引いた実質金利も横ばいで推移していました。
結果として、株の底堅さが目立ち、豪ドル/ノルウェークローネ/メキシコペソなどの資源国通貨の買いが強く、実質金利が低位安定していた米ドルは売られました。そんななか、米ドル円はリスクオンの米ドル売りと円売りが相殺される形で横ばい推移となりました。
2.2月中旬の為替相場
徐々にリスクオンの雰囲気が優勢になってきたところで、その雰囲気を更に後押ししたのが、リスク資産の代表格である原油価格の上昇と、新たにリスク資産として認知され始めているビットコイン価格の上昇です。この間、米金利もじりじり上昇していましたが、リスクオンの米ドル売りの圧力が勝り、基本的には米ドル売りに対して、資源国通貨である豪ドル/カナダドルが買われました。
しかし、この頃になると、同じ資源国の中でもノルウェークローネ/メキシコペソの買いは進行しなくなりました。徐々に米金利の上昇が新興国中心に影響を及ぼし始めていたのです。そして、米ドル円は米ドル売りの影響で若干下落していました。
そして、2/15の米国休日明けの2/16に最初のポイントが訪れます。じりじり上昇していた米金利が突然節目と言われていた1.2%を飛び越えて一気に1.3%まで飛んだのです。この時、期待インフレは既に2.2%近辺で頭打ちとなっていましたので、名目金利の上昇がそのまま実質金利の上昇に繋がり、実質金利も急騰しました。
しかし、まだこの時は、株が底堅く推移していたことから、米ドル買いとはなりませんでしたし、偶然この頃に米テキサス州の巨大寒波で原油価格が急騰したり、直接被害があったメキシコペソが売られたりしていたので、米金利の上昇に注目が増えない環境でもありました。
このように、マーケットが原油価格やビットコインや寒波の材料で騒いでいる中、多くの投資家に気付かれることなく、米実質金利は着実に上昇していました。
3.2月下旬の為替相場
その後も、米実質金利は上昇を続けますが、金利以外のワクチン普及などのポジティブなニュースが増える中、株は底堅く推移していました。しかし、出てくる経済指標がかなり良好なものが続いていたにもかかわらず、株の上がり幅は徐々に弱まりつつありました。
マーケットとしても、株がネガティブな反応を示す金利の水準というものを連日確かめるような状態でしたが、このような状況の中、パウエル議長の議会証言を迎えることになりました。マーケットはパウエル議長が直近の米金利の急騰を抑えるような、強めのハト的発言を期待していました。しかし、パウエル議長はこれまで通りの発言を繰り返すにとどまったことから、米名目金利と実質金利は更に上昇していきました。
この時は、実質金利が上がっていたのは米だけではなく、米以上に実質金利が上昇していた豪ドルやカナダドルなどの資源国通貨は堅調に推移していました。その他、ワクチン普及が米以上に早く、BOEからもマイナス金利導入には否定的な発言があったことから、英ポンドも堅調に推移していました。
そして月末前日、とうとう米金利が臨界点を超えてしまいます。米7年債入札に全く買いが集まらないという異常事態をきっかけに、米名目金利は節目と思われていた1.5%を飛び越えて1.61%まで急騰し、同時に米株も急落。リスクオフの米ドル買いに切り替わり、全通貨に対して米ドルが買われていきました。
まとめ
2月は相場変動要因の主役が株から金利に変化した月でした。
昨年3月のコロナショック後からの回復の過程において、景気を支えるために、各国政府は前例のない規模で財政出動をして株と人々の消費活動を支えつつ、本来であれば株の過熱を抑えるべく自然に金利は上昇するはずのところを中央銀行が無理やり低く押さえつけてきました。まさに官製相場だったとはいえ、マーケットは、実際の経済指標というよりは、当局者たちの発言に注意するようになっていました。
このような相場の均衡が崩れ始めたのが、今年に入って米民主党が、更に追加の巨額財政出動を実施しようとしてからです。同時にワクチンの普及が始まったことも大きい可能性があります。株が上昇し、追加財政による需給の悪化を懸念して素直に債券は売られました。
ここで問題となったのが、昨年FRBで導入されたアベレージ・インフレーション・ターゲット(AIT)です。一時的な2%超のインフレを許容し、継続的に2%を超えるまでは緩和姿勢を解除しないというものです。
たしかに、財政出動で株が支えられ経済指標も改善していますが、一番のネックとなる雇用の回復が追いついていない状況では、中央銀行としては緩和スタンスを維持せざるを得ません。
短期金利はゼロで動かない中、財政出動期待で期待インフレは先行して上昇、それにつられ政策金利とは関係がない長期名目金利がどんどん上昇していきましたが、この米名目金利上昇がきっかけとなり、世界中の金利が上がり始めました。ここで、これまでのリスクオンオフによる米ドル売り・米ドル買いという相場から、金利が主な変動要因に移り変わったのです。
多くの人が、金利の上昇が株に対してネガティブに働く限界点を探っていましたが、2月末の動きを見る限り、大体名目で1.4%-1.5%の間であろうということが確認できました。この数字には意味があり、米株S&P500の配当利回りが1.5%程度であるということです。
例えば米金利がこの配当利回りを超えるのであれば、徐々に債券投資の妙味が出てきて株から債券へのシフトが起きることが考えられるからです。今後も、米金利が1.5%を超えるのであれば株にとってネガティブに働くことが想定され、そうなるとFRBが何かしら動いてくることが考えられるので要注意です。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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