FXだけでなく投資を始めると「アノマリー」という言葉を聞く方も多いのではないでしょうか。アノマリーとは、理論的な説明が付きにくい頻繁に繰り返されるパターンのことです。明確な理論的説明はありません。
相場の世界のアノマリーには、長年の経験によって培われたものや、後になって根拠がみつかった法則など、完全に根拠がないと言い切れないものが多く存在しています。
特に12月は、欧米の企業や投資家の決算期にあたり、更にクリスマスから年末年始には、世界の多くの国がホリデーシーズンとなります。
普段の相場とは違った為替の値動きを見せることがあるので、この期間に取引をするトレーダーは、いつも以上のリスク管理をしておく必要があるでしょう。
今回は12月、1月の外国為替市場の特徴と注意点について解説してきます。
目次
- 欧米では12月は年度末
1-1.12月の実需の動向
1-2.12月の投資家の動向 - クリスマス休暇は流動性が薄くなる
- 大晦日は穏やかな相場になりやすいが、年始は相場が大きく動くことも
- 12月、1月の相場の注意点は?
- まとめ
1.欧米では12月は年度末
12月の実需の動向
外国為替市場の季節ごとのアノマリーについては、いくつか原因はあると考えられますが、そこに隠された大事な要因の一つが、海外で稼いだ利益を本国に還流させる「レパトリエーション」です。
外国で稼いでいる企業が多い国はこの影響が大きくなります。一般的な欧米企業の本決算は12月ですから、本決算に絡んでは、利益を決算に計上するための利益確定による決済と本国送金(自国通貨に換える=自国通貨買い需要)が増える傾向があります。
一方、日本であれば、9月と3月が重要な決算月であり、円買い需要が出てきます。各国で同じようなフローが出てそれがネットされますが、グローバル企業が多い国の通貨が最も買われ、決算期ではない日本企業の円買いの力を相対的に上回ることが多いため、円安になりやすいとされています。
12月の投資家の動向
12月は欧米投資家やヘッジファンドが決算期となっています。この時に良好なパフォーマンスを得られている投資家は、会計年度末を控えて大きな損益のブレを嫌います。
そのため、流動性が極端に落ちるクリスマス前に利益を確定させ、1年をきれいに締めくくりたいと考える投資家が多く、相場トレンドを抑える要因になることがあります。
一方で、この時までに結果が出ていない投資家は12月のFOMCなどに向けて最後の勝負を仕掛けてきます。何か突発的なイベントが発生すると少ない力(資金)でマーケットが動き、参加者が減っていても、思わぬ値幅変動を起こすことがあります。
2.クリスマス休暇は流動性が薄くなる
FX取引は為替市場が開いている平日24時間取引が可能となっています。日本は世界と比較して祝日が多いのですが、海外市場が開いている場合は取引することが可能です。
一方で、クリスマス当日の12/25だけは、海外のほとんどのFX市場が閉まっているなか、日本市場だけが開いています。世界で働いているのは、日本人だけになり、流動性は日本人が働いている時間に限り、海外時間は流動性がほぼゼロになってしまいます。
日本の銀行が夜中に取引をしようにも取引相手がいないため、おおよそ17時頃に全ての取引を停止する銀行が多いです。
また、12月に入ると、欧米では休暇を取る人が増えます。金融監督局の指導で2週間の連続休暇を取らなければならず(日本は1週間)、クリスマスがある週とその前後どちらか1週間を付け加えて12月に2週間という長期休暇を取る人が多くなります。そのためマーケットはクリスマス1週間前から年末まで閑散とし、流動性が薄くなってきます。
3.大晦日は穏やかな相場になりやすいが、年始は相場が大きく動くことも
海外の国がクリスマスを重視する一方、日本では大晦日やお正月(3が日)を重視する傾向にあります。殆どの日本人が休暇となりますし、大晦日は銀行の決済もできません。
そのため大晦日の取引は各FX会社によって取引できる時間帯が変わってくるので、自分が利用しようとしているFX会社の大晦日の取引時間は確認するようにしましょう。
続いて年始の取引について説明していきます。結論からいうと元日は平日であっても取引をすることはできません。なぜなら、日本だけでなく世界中の市場が休場になるからです。
そして、そのまま2日・3日までは、日本の祝日となり、銀行の決済ができません。まだお正月モードとなり、日本人の市場参加者は限定的となります。
一方で、海外の動向ですが、元日以外は通常モードとなります。ただ、大晦日は、まだ年度内の最終日ということで、積極的に取引する人は殆どおらず、政治的なイベントがない限りは、相場も穏やかになります。
しかし、元日を一日休んだ後、2日からはアジア・欧米では新年の投資スタートということもあり、一斉に投資行動が活発になります。日本人がのんびり休んでいる間もバリバリ働きます。
したがって、2日や3日の、特に日本人が不在で流動性が落ちている日本時間に相場が大きく動くということもあるため注意が必要です。
最近発生した事例としては、2019年1月3日朝の円相場のフラッシュクラッシュが挙げられます。1ドル=108円台後半で推移していたドル円相場が、3日午前7時半すぎにわずか1分間で約4円も急落しました。
きっかけは、米株引け後に発表されたアップルの売り上げ見通しの下方修正で、そこから急激にリスク回避の動きとなりました。下記の通り、いくつか原因が挙げられていますが、真相は不明です。
- 年始の薄商いを利用した投機筋主体の仕掛け的な円買い
- 為替相場の急変を受けてHFT(高頻度取引)などのアルゴリズムが作用した
- 米ドルの下落を受けてFX業者のストップロス(損切り)が作動して下げ幅が拡大した
4.12月、1月の相場の注意点は?
仮に12月に相場が動かなかったとしても、下記の二つのパターンによってリスクに違いがあります。
- 参加者はいるが材料に乏しい、参加者の熱気があまり無く相場が動かない場合
- そもそも参加者がいなくて相場が動かない場合
12月の前半と最終週は①のパターンが原因となることが多く、特に最終週はこのような傾向が強まります。ただし、ここで無視された材料は年明けから一気に織り込まれたりすることがありますので、要注意です。
クリスマス前後は②のパターンです。このパターンは流動性リスクがあると考えられます。流動性リスクとは、買っていたドル/円のポジションを売りたいときに、すぐに売れなかったり、また希望した価格や量を売れなかったりするリスクのことで、どの通貨・金融商品でもこの流動性リスクが高くなります。
このような状態では、ちょっとしたことがきっかけでFX市場が予期せぬ大きな値動きを示すことがあり、トレーダーは想定外の事態に巻き込まれてしまう可能性があるので、いつも以上のリスクヘッジをする必要があるでしょう。
流動性リスクは、クリスマスのような季節性に起因するものもあれば、金曜日のNY時間午後や月曜日の日本時間早朝などの時間帯に起因するものもあります。そして、1年の中で最も流動性が薄くなるのは、クリスマスシーズンです。
年明けには、取引が再開され思わぬ動きが起こることがあるので、相場動向をよく見た上で投資の判断をする必要があります。
5.まとめ
2020年4月に石油価格がマイナスをつけたことがあります。流動性がないなかで、どうしてもカバーしなければならない取引が存在すると、石油のように価格がマイナスになろうとも、とにかくポジションをクローズするために取引をしなければならなくなります。
そのような流動性リスクを回避するためには、無理をせずポジションを持たないか、控えめにしておくことが肝要です。自分ではどうにもコントロールできない流動性リスクは最も避けなければならないリスクだといえます。
中島 翔
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