2018年1月につみたてNISAの制度がスタートし、2019年後半にはネット証券大手が相次いで投資信託の購入時手数料を無料にするなど、少額から「長期・積立・分散」の投資に取り組みやすい環境整備が進んでいます。
一方で、投資初心者の方の中には「投資は難しそう」「大事だとは思うけど、なかなか検討できていない」「どの投資信託を選べば良いか分からない」といった悩みをお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
今回は、つみたてNISA対象商品にもなっている「コモンズ30ファンド」を運用するコモンズ投信の取締役会長であり、新1万円札の図柄となる渋沢栄一さんの5代目子孫でもある渋澤 健さんに、コモンズ投信のコンセプトや取り組み、長期投資・積立投資を始めるにあたってのポイントや楽しみ方などを中心に編集部がお話を伺ってきました。
また、インタビューの中では長期投資のトピックに関わって、最近ニュースでもよく見かけるようになったESG投資や社会的インパクト投資、SDGsといった注目トピックまで、幅広くお話をいただいています。個人投資家としても、ビジネスパーソンとしても学びの多い内容となっていますので、ぜひご一読下さい。
話し手:コモンズ投信株式会社 取締役会長 兼 ESG最高責任者 渋澤 健 氏
- 国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。また、日本の企業経営者団体である経済同友会の幹事も務め、政策提言書の作成にも携わっている。
コモンズ30ファンドとは
- 投資の目線を30年として、長期的に持続的な成長が見込める日本企業30社を厳選している投資信託。30社のうち7割となる22社が海外売上高比率で50%を超え、うち9社は70%を超える(2019年10月時点)など日本企業でありながら、グローバルに事業を展開する銘柄を中心に投資をしている。また、企業との建設的な対話を重視しており、投資先企業と投資家が対話できる交流セミナーの企画・運営などにも積極的に取り組んでいる。加えて、信託報酬の一部を社会貢献にも活用するなど、未来志向のファンドとなっている。
質問内容
- 「未来を信じる力」とは?
- 投資としての「寄付」
- 寄付と未来を信じる力の関係
- 日本人の創造力が生み出した「カレーうどん」
- 異分子をかき混ぜて創られた「論語と算盤」
- 「社会的インパクト」とイマジネーション
- 企業の「見えない価値」がなぜ重要か
- コモンズ30ファンドの投資先が日本企業である理由
- 個人投資家が長期投資を継続するためのポイントは?
- インデックス投資にはない、対話がある長期投資の「楽しさ」とは?
- 「対話」には企業価値を共創する力がある
- 金融市場にも必要な多様性
- 投資初心者の方へのアドバイス
- 編集後記
Q.コモンズ投信のサイトなどで、よく「未来を信じる力」という言葉を目にします。この「未来を信じる力」についてお教え下さい。
「未来を信じる力」というのは、2年前くらいにコモンズ投信の創業理念をしっかりと言語化したときから使い始めたのですが、「長期投資」を別の言葉で表現したものです。未来を信じる力がなければ、目先のことしか信じられない。見えない未来を信じる力がなければ、長期投資もできませんよね。
僕はよく講演の冒頭で「ここに集まってきてくださった皆さん、未来を信じる力を持っていますか?」と聞くのですが、みんな横目でチラチラと周囲を見ていて、手をあげてくれないんです(笑) たぶん、みんな心の中で少しは手を挙げたはずで、まわりが手を挙げないからご自分の手も挙げないんでしょう。なぜなら、未来を信じる力を持っていなければ、そもそも講演の場に来ないはずだからです。
大事なことは、未来を信じる力が少しだとしても、みんなのベクトルが同じ方向に向かっている、ということです。そうすれば、足し算・掛け算によって、より大きな力になれますよね。まさに積立投資というのは、毎月100万円というような、それほどの未来を信じる力を持っていなくても、月1万円くらいの未来を信じる力を足し算・かけ算にすることで大きな力になっていくもの、そんなイメージを持っています。
未来を信じる力というものを長期投資と同じと考えると、それは「寄付」も同じだと思っているんですよね。経済的リターンとして自分に戻ってくるわけではないのですが、「次の世代を良い社会にしたい」という想いを実現するための出資なので、これは間違いなく「投資」だと思うんです。
Q.投資として「寄付」を考える際のポイントはありますか?
寄付には「一度寄付すると、また(寄付のリクエストが)来てしまうからな」という部分もあるじゃないですか。でも、たとえば月1,000円で年間1万2000円のようなマンスリーサポーターというのは、とても良い寄付の入り方ではないかと思っています。寄付先の選択肢としては、ユニセフなど有名な国際機関もありですが、日本の中には熱い想いで頑張っている社会的な活動をしているNPOもたくさんあります。30年くらい前の日本社会ではどんなNPOがあるか分かりませんでしたが、今はインターネットなどのツールを使えば、色々な社会的活動に取り組んでいるNPOの存在がわかります。マンスリーサポートをやってみて、色んな活動やサービスを見て「違うな」と思ったら解約して、他のところに切り替えることもすぐにできます。
まずは少額から、関心のある寄付先に対して関係を築いていく。僕は、「募金」と「寄付」は違うと思っていて、募金はお金を渡したら終わりですが、寄付はキャッチボールだと思うんです。キャッチボールができる団体であるかどうかを見極めるには、小さい額の寄付から始めることがいいんじゃないかと思うんですよね。
結果はすぐには戻ってこないかもしれないので、そこは長期投資。色々な社会課題や不安要素はあるけれど、「未来を信じる力」があれば「寄付」もできますよね。そういう意味では、長期投資も寄付も、同じことなのではないかなと思います。
Q.寄付について考えることが、未来を信じる力にもつながるんですね。
未来を信じる力で言うと、未来には「見える未来」と「見えない未来」があると思っています。「見える未来」は、絶対にそうなる未来、たとえば高齢化・少子化ですね。昭和の人口動態というのはピラミッド型でしたが、平成になるとピラミッド型が崩れてひょうたん型になります。
2020年は大事な年で、ひょうたん型から逆ピラミッド型にものすごく早いスピードで変化していきます。なぜかというと、2020年に世代交代がものすごく速いスピードで起こるからです。過去10年、20年の社会の変革のスピードと比べると、これからの10年、20年の変革のスピードはピッチが高まるじゃないかなと思うんです。
「世代交代」というのは、過去の成功体験を持っていた人がフェードアウトすることです。過去の成功体験を持っていない人が、未来の成功体験を創らなければいけないという節目なのです。成功体験というのは大事なことですが、過去の成功体験というのは、「昔こうだったよね」と、成功体験にとらわれてしまう可能性があります。逆に成功体験を持っていない人たちは、過去の成功体験にとらわれずに、新しい成功体験を創れる世代ということでもあります。そのバトンタッチが全国規模で起こる、ということなんですね。
世界の人口を見ると、中国・韓国・台湾は日本と同じく少子化社会になっていきますが、インドネシアの人口は日本の倍で2億6千万人くらい、年齢の中央値が28歳。ミレニアル世代のど真ん中なんですね。インドの人口も13億人、中央値が27歳。アフリカの人口はインドと同じ13億人ですが、アフリカの年齢の中央値は19歳。これから2050年までに人口が倍増して、25億人から26億人ぐらいになる。2050年には4人に1人がアフリカ人という計算です。
日本だけで見ると、ミレニアル世代(2000年以降に成人を迎えた世代)は人口的マイノリティですが、世界だとむしろマジョリティです。これからの新しい時代・新しい価値観を創れる人は、世界にたくさんいます。先ほどお話した国々は発展途上国ですが、途上国の若手が求めているのは、仕事です。生計を立てて家族を養う、というのは日本では当たり前に思っていることで、日本は途上国の持続可能な成長に関与できるし、貢献できる。その貢献によって還元を受けることができる、という可能性も十分あります。
一つの面ではありますが、それが「見えない世界」だと思うんですよね。日本に暮らす若い世代の皆さんが、「世界と繋がっている」と思えるか、思えないか。思えるのであれば、色んな可能性があると思います。「アフリカ人とは会えないし」と思ってしまうと、残された部分は「見える未来」しかないのですが、どちらの未来が魅力的でしょうか。「見える未来」か、どっちに転ぶかわからない「見えない未来」か、どちらを信じますか、と問いかけられる大切な時代の節目に来ていると思います。
Q.「見えない未来」に関して、経済同友会の政策提言レポート「ミトコンドリアとカレーうどん」にも、2045年のポジティブな未来像が描かれていました
「ミトコンドリアとカレーうどん」は、我々(経済同友会)が将来を予測するというものではなく、こういう未来になってほしいよね、という提言書です。
「ミトコンドリア」というのは、委員長を務めたフューチャー株式会社の代表取締役会長兼社長グループCEOの金丸恭文さんの考えで、ミトコンドリアはどんな細胞でも存在しているエネルギーの源みたいな存在だと。それを日本社会で考えると、日本が持っている「技」ではないかと言うことなんですね。ミトコンドリアがないと進化ができず、命が続かないことと同じように、日本の技や文化は日本の将来のために必要なことだよねという。
僕のそのレポートでの貢献は、「カレーうどん」のほうだったんですよ。日本人は、自分たちのことは「島国だから同じ感じの人が揃っている」というようなイメージを持っているじゃないですか。だけど僕は、日本人は島国だからこそ「カレーうどん」を創れたと思っていて。カレーはインドから、うどんは中国大陸から流れてきて、日本人はそれを見て鍋に入れて、お出汁をかき混ぜて、なかなか美味しいものを創っちゃうんですね。
あまりにも普通にやっているので、それがいかに不思議な食べ物かということを考えずに食べているんですよ。日本人は、異分子をかき混ぜて新しいものを創る、という点で素晴らしい感性を持っていると思うんです。食べるものであれば、日本人は食に貪欲だからすぐ創れますし、デザインなんかもそこはイケてると思うんです。なぜかと言うと、食やデザインには、規制が特にないんですよ。
もしそこに、「カレー省」があって、「うどん省」があって、出汁を守る「お出汁省」があったら、たぶん「カレーうどん」を創らせてもらえなかったと思うんです。その「カレーうどん」を創れないのが、まさに我々のいる金融業界なんですね。個人の金融資産が1860兆円以上あって、その半分が現預金というもの凄い資源があるわけじゃないですか。それから、今後ものすごい希少価値が高まる「日本人」という素晴らしい資源を持っているのに、色んな壁があって、それを使ってないんですよね。もったいないな、という思いが「カレーうどん」という言葉に込められています。
Q. 異分子をかき混ぜて創られた「カレーうどん」は、「論語と算盤」のかけ合わせに近いものを感じます
「カレーうどん」説が上がってから、「論語と算盤」を改めて考えてみると、「論語」も「算盤」も異分子なんですよね。それをかけ合わせることを「無理でしょう」「できっこない」と諦めてしまうと何も起こらないんですけど、「いやもしかしたら、何か変わるかもしれない」と同じ鍋に入れてかき混ぜてみると、どこかのタイミングで化学反応が起こるかも知れない。
一見すると異分子である2つをかけ合わせる「と」の力には、実は見えない未来を見る力も必要ですし、そしてすぐに成果が出なくても忍耐強く試行錯誤して、繰り返すということも必要です。僕は、この「と」の力というのはAI(人工知能)ができないことだと思うんです。
「と」=「AND」なので、「OR」=「か」の力もあります。白「か」黒「か」、それを選別して比べて進める力。「OR」は効率性を高めるので、企業経営とか物事を分析するとか、買い物とか絶対に必要な力です。けれども、「か」の力というのは存在しているものを比べているだけなので、「か」の力だけではクリエイション(創造)はできません。
「と」の力は、一見すると「矛盾している」「できるわけがない」「無駄でしょ」という中から、クリエイションを見つけることだった思うんです。AIは何をやってるかと言うと、それは、「か」の力による情報処理だと思うんです。「0101…」の世界で、ビックデータから全部を知っていて、絶対に忘れないのがAIじゃないですか。人間はスモールデータしか持っていなくてすぐ忘れてしまう。それで AI は「0101」の情報処理をものすごいスピードで進めるので、人間は「か」の力で AI に勝てるわけがないんです。人間は、「か」の力では勝てないんだけど、AI は「か」の力しかできない。
AIは、インテリジェンスと言いながらも、見えない未来を信じる力をほとんど持っていないんです。人間っていうのは自分の経験の積み重ねで、ビッグデータを持っていなくても「これだよね」と言えてしまう。もちろん、全てを知らないから、多くの場合は間違っている。でも、たまには当たっているじゃないですか。
当たっているということは、それで新しい現実ができたということなので、空間・時間・場所から飛躍することができて、あとで現実とつなげることができる。「と」の力というのは、飛躍して、それを現実とつなげる力だと僕は思います。これは AI が今できないことです。
また、地球上の生物の中で人間にしかできない、他の動物は持っていない力がある、と生物学者の方から教えていただいたんですけど、チンパンジーみたいな知能の高い動物も持っていない、人間の特徴ってなんだと思いますか?
それは、「イマジネーション」なんです。自分が体験したことの延長として未来を描くことができて、自分が見えない範囲のことも想像できる。たとえば、チンパンジーが敵から襲われそうになった時に、ものすごい勢いで子どもを守りますよね。じゃあ、自分の子どもの子どもの子どものことまで考えるか、というとそこまでは考えない。自分におじいちゃん・おばあちゃんがいて、ご先祖様がいらっしゃる、ということを考えるチンパンジーもいません。そして、チンパンジーは、自分の暮らしているジャングルの他のチンパンジーがどういう状態なのかも気にしません。
人間は、地球の反対側の人に対して、頭の中では「どんな生活しているのかな」「どんな思いでいるのかな」といったことを考えられますよね。そういう意味では、人間はイマジネーションというのを勝手にできてしまう。人間は頭の中でブラックホールまで行ける。でも、チンパンジーはそんなこと考えない。行ける場所じゃないですからね。
人間は行ける場所でもないのに、頭の中ですぐ行けちゃうんです。それを時々現実とつなげることができて、その繰り返しができたから、群れの状態から集落・村・町・都会・文明・文化を創れたんじゃないかな、と僕は思うんです。イマジネーションがなければ、さっきの「論語と算盤」でいう、倫理とか道徳とかは生まれないじゃないですか。
相手がどう思うかは、自分が相手じゃないから分からない。だけど、イマジネーションがあれば「自分がこう言ったら、相手はこう思うんじゃないかな」ということは考えられる。イマジネーションがあるから、ある意味で社会というものは回っているわけです。
Q.先ほどの寄付で考えると「社会的インパクト」というものが、イマジネーションに近いものとなるのでしょうか?
「インパクト」というのはイマジネーションから始まるんだけど、実はそれを可視化することができる。僕は15年、20年くらい前から「社会的リターン」についての議論に加わってきたのですが、当時は「無理でしょ」と思ったんですね。だって、どうやって子供たちの未来や笑顔を測るんですか、と。でも今は、正しい答えや正しい数字にはできないのかもしれないけど、少なくともプロセスの方が大事なんじゃないかな、と思うようになりました。
インパクトというのは、想像の世界だけじゃなくて、たとえば途上国であれば、文字が読めなかった子が以前これくらいました、と。でも、教育のアプリが入ったから、それで何万人、何パーセントが増えました。そういう数字として可視化することで、「そういうインパクトがあるのであれば、そこに投資しよう・寄付しよう」と考えてもらうためのものだと思うんです。
今、SDGs(持続可能な開発目標)というものが、あるじゃないですか。僕は今、UNDP(国際連合開発計画)で「SDGインパクト」というプロジェクトに関わっていて、これはSDGsのインパクトの基準づくりです。もう一つは、認証プログラムです。投資家や人間というのは、分かりやすい数字を求める傾向があるので、権威ある機関から認証という「お墨付き」があると安心するんです。
僕はそこで運営委員会に任命されたのですが、インパクトを数値化することによって、これまで見えなかったものを可視化するという意義があると思うんです。でも気をつけなければいけないのは、「数値化できているから、それが実態だ」というのはまた違う時もある、ということです。それを念頭に置きながら、自分たちがやっていることが正しいんだ、という試行錯誤の確認のために、数値化とか可視化というのをしていくことが大切なんじゃないかなと思います。
Q.コモンズ30ファンドの方でも、企業の「見えない価値」の評価比重を大きくされていますね
「見える価値」というのは共通言語になるので便利です。例えば「今期どれぐらい企業が利益上がりました」とか「株価がどれくらいになりました」とかは誰でも通じるものですよね。それはそれで役目はあるんですけど、社会には多くの運用機関が存在しているので、他とは違う視点から見ることに価値があると思っています。
もちろん、コモンズ30ファンドは投資先企業の財務的な面も見ますが、見える価値というのは海の上から見える氷山の一角だと思うんですね。過去に取り組んできたものの成果として、そこに数字として見えるというわけです。それは参考になるんだけども、長期投資家として大事なのは、今までではなく、これからの価値創造ですよね。
それは、数字だけ見ていても分かりません。海面の下にある、「見えない価値」というのは、たとえば経営力とか競争力。なぜその会社が、そもそも競争力があるのか、どうして経営者が経営力を発揮することができるのか。そういうことを知りたい。競争力や経営力の結果は数字で可視化できるんだけど、本質のところは数値化できないところがたくさんあると思うんです。
また、投資家との対話だけではなくて社内のインナー・コミュニケーションがあるかないか。我々はそれを「対話力」と呼んでるんですが、これはなかなか数値化できません。そして、何よりも大事な企業文化。これが最も数値化が難しいでしょう。ただ、その企業文化があるから、その企業では対話力が促進されていて、対話力があれば当然経営力が発揮できるわけですよね。組織の中でそれが発揮できれば、当然競争力もある。競争があれば利益が上がります。だから、深く行くほど見えなくなるんですが、実は重要な未来の価値創造の可能性というのが、見えない価値の部分にあると思っています。
いまお伝えした色んな要素を一言で表すと、それは「その会社で勤めている人」だと思うんですよね。どの企業も「わが社の財産は人です」と言いますが、大企業でも中小企業でも、その企業のバランスシート(貸借対照表)のどこに「人」が載っていますかと言うと、バランスシートの左側(=資産の部)を見ても、どこにも載っていないです。どこにあるかと言うと、バランスシートではなく、損益報告書のほうに出ています。人件費として出ている。
つまり、「人」という重要な財産を削り取ることによって、利益が上がって、企業価値が高まるということになってしまっている。1年2年単位ではそう言えるかもしれないですが、人を辞めさせて行ったら、誰もいなくなるじゃないですか。財務の価値も必要ですが、「か」ではなく「と」で、見えない価値の分析や価値判断をすることが、長期投資家にとって必要なのではないかと思います。
Q.コモンズ30ファンドで、投資先を日本企業に絞られている理由は何でしょうか?
まず1つ目は、日本で新たなお金の流れを創りたい、ということがあります。収益性のことを考えると成長が期待できる海外の株式に投資した方が良いかもしれません。ただ、コモンズ投信のお客様は、その多くが初めて投資をする方々です。ですから、投資をもっと身近なところから始める、ということが大事かなと思っています。日本には良い会社が結構ありますので、世界で活躍できるような持続的な価値を創る会社に対して、投資をしながら同時にその企業を応援する、というのも良いのではないかと考えています。
投資初心者の方に馴染みがあるのは日経平均株価指数だと思いますが、その日経225銘柄のうち指数の値動きの影響が多い「上位10銘柄を言えますか?」と聞かれても、ほとんどの方が分からないと思うんですよね。数字としては株価指数で見えるものの、投資先の中身はほとんど見えない。これは大きな課題だと思っています。
数字は可視化をするには便利なツールで、どれくらい金額を投資して、どれぐらいリターンがあるのか、儲かった・損したというのがわかるので、数字は絶対に必要です。しかし、株式市場というのは、企業の価値創造があったから、あるいは棄損されたから、株価が動く、それが本質です。為替市場と株式市場の違いというのは、どちらも同じく値段は動くんですが、為替市場は「どっちの国の金利が高い低い」とか「どっちの国にお金が流れます」という話で、価格が相対的に動くだけ。そこには、価値創造は無いわけです。
株式投資にあたっては、価値を創っている会社があるという点に着目していただきたい、という想いがあります。単純に、株価が上がった下がった、ということではなくて「世の中にはこういう会社が存在していて、日本国内だけではなく世界からも評価されている会社があるんだ」ということを知ることが、大事なんじゃないかなと思います。これが2つ目です。
また、コモンズ投信は母体が大きいわけではないので、日本国内で出来るような同じようなリサーチ・対話が海外企業とはまだできません。コモンズ30ファンドの目論見書を見ていただければ分かるんですが、ファンドとしては海外株式を買ってもいいんですよ。海外株式も買えるんですが、あえて買ってない。それが3つ目ですね。
Q.個人投資家が長期投資を長く続けていく上でのポイントはありますか?
一つは、未来を信じる力ですね。長期投資には、未来を信じる力が必要です。あとは日々の成果を見ないことですね。元々の趣旨が10年20年30年という中でそれを10日・20日・30日の単位で見るというのはあまり意味がない。僕の場合は20年前に自分の長男が生まれたことがきっかけで、子どもの未来のために積み立てを始めたんですけど、「どれぐらい儲かったか」ということはほとんど見ていません。年に1回、「今これくらいなんだ」って見る程度です。
もし絶対に見たいと言うのであれば、金額ではなく、口数を見るべきだと思うんです。投資では「絶対」という言葉は使えないんですが、毎月積立をしていれば投資信託の口数は絶対増えるんですよ。定額で買い続けるので、価格が下がるほど多くの口数を買えます。それを一回、自分ごととして「下がると口数がこんなに増えるんだ」と体験して、そこで増やせた口数が、数年かかるかもしれないですが、後の大きな利益へと繋がるんです。
そうしてショックを積立投資で乗り越えることができれば、その後は気持ちに余裕をもって継続できると思います。「継続は力なり」ということわざもありますが、積立投資ではまさにその通りだと思います
Q.論語には、「楽しむに如(し)かず」という言葉があります。個人投資家は、投資をどう楽しんでいけばよいでしょうか?
「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむに如かず」という言葉ですね。これは渋沢栄一も解釈していますが、僕が面白いと思ったのは「知る」「好き」「楽しむ」という3つの関係です。
まず、「知る」ことが大前提。知らないで行動することは無謀だからそれはやめなさいと。しかし、知っているだけだと必ずしも行動に移さない場合がある。「自分はそんなこと知ってるよ」と言うと、「この人は動かないんだな」というイメージがあるじゃないですか。
「好き」であれば、自分が好きなところに動く。好きな方が知ることより大切で、これはアクションにつながるからですね。けれど好きなだけだと、壁にぶつかっただけ時に挫折してしまうかもしれない。
もし、「楽しい」と思えていれば、壁にぶつかったとしてもそれを壁と思わず、楽しいからはい上がっていくか、それを下に掘っていくといった形で進んでいける。楽しいという心のスイッチが入っているのであれば、継続できるということだと思うんです。
長期投資には、色んな側面からの楽しさがあります。インデックス投資では、価格だけを見て、上がると楽しい・下がると悲しいという、ただそれだけじゃないですか。コモンズ投信が取り組んでいる「対話」があると、企業がどういう取り組みで事業をしているか、どういう経営者がいて価値を高めようとしているか、従業員はどういう思いで日々仕事をしているのか、といったことも分かってくる。僕はそれを色々な学びがあり面白いと思うんですね。色んな考え方があって、色んな取り組みがあると、学びになるじゃないですか。株価を見ているだけでも、マクロ経済などに関する学びはあるかもしれないですが、個別に企業を見てみると、もう一段深いところに学びがある。
もうひとつの楽しさというのは、長期投資では同じような価値観を持っている人が集まることです。未来を信じる力を持っている人が集まるんですね。自分に未来を信じる力を持っていると思っても、周りがそうじゃない時に「自分は変なのかな」って気持ちが冷めるじゃないですか。長期投資のセミナーに行くと、少なからず未来を信じる力を持っているので、投資先からの学びだけではなくて、横からの学びがあると思います。なぜ自分は積立投資を始めたのか、どういう経験を持っているのか、同じ目線を持って考えていける。それは間違いなく、楽しいと思います。
Q.「対話」というのが、投資家同士でもあるということですね
コモンズ投信を立ち上げる構想の時に「物を申す株主」というのが、すごく盛り上がっていました。村上世彰さん(村上ファンド)がやっていたことは悪いと思っていないのですが、「物を申す」だけだと企業が全く聞いてくれないという印象を受けたんです。普通の関係もそうじゃないですか。一方的に話を言われてしまうと、頭の中ではどこか違うことを考えたりしますよね。対話はキャッチボールなので、長続きするじゃないのかなと思っています。
僕は投資家が全ての答えを持ってるわけではないと思っています。投資家は企業の価値を創れるわけではありまません。資本は出資して提供するかもしれませんが、企業の価値を創っているのは経営者・従業員・取引先・顧客といったような人たちです。もちろん、株主には株主の役割があると思っているのですが、株主だけでは価値を創れないので、色んなステークホルダーと一緒に企業価値を創っていくことができれば、それぞれの立場からWIN-WINの状態を創れるんじゃないかなと思います。
色んなステークホルダーが力を合わせて価値を創るという所は、渋沢栄一が言っていた「合本主義」という概念なんですよね。「本」を「合わせる」ということなんで。「本」というのは、今の話の文脈でいうと、経営者・従業員・取引先・顧客・社会、そして株主のことで、こういった方たちが参加することによって、企業価値を創れるということ。それが「ステークホルダー資本主義」なんだと思います。村上さんが言っていたのは「シェアホルダー資本主義」で、会社は株主のものだという。法律的にはそうかもしれないけど、何のために会社は存在するかというと、それは株主のためじゃない。社会の色んな課題やニーズに応えることが、企業の存在理由だと思うんです。
Q.全ての投資家が、持続可能な思考に基づいて長期投資をしたらどうなると思いますか?
長期投資だけの資本市場はかなりもろくて、良くないと思います。同じような価値観で買って、同じような価値観で売ってしまう。大事なのは、色んな価値観が同時に参加できる金融市場です。短期的なことを考える人も、エコシステムでそれなりの役割を果たしています。ただ、10年・15年前は、長期的に考えて投資するエコシステムの方は存在感がなかった。SRI(社会的責任投資)とかはありましたが、販売するためとしてのお飾りのようなもので、サステナブルの領域にどれくらい踏み込んでいるかと言うと、どのファンドも中身は同じようなものでした。
ESG(環境・社会・統治)がSRIと違うのは、機関投資家が入ってきたという点です。2015年くらいから、機関投資家が「サステナブルであることが必要だ」と言い出すことで緊張感が高まったじゃないですか。20代から30代まで僕はずっとトレーディングの仕事を手がけてきたんですけど、当時の自分の長期投資の期間は「3日」とかなんです(笑) 僕は40歳の時に、会社を作りました。その前の年に長男が生まれて家族ができた。9.11(アメリカ同時多発テロ事件、2001年)をアメリカ出張中に迎えて、全土で飛行機が一機も飛ばない。1週間足止めになって、人もモノも動かない。そのときに思ったのは、「平和」というのは自然現象じゃなくて、なくなった瞬間に気づくものなんですよね。振り返ってみると、これは「サステナビリティ」と一緒だなと思って。なくなったら大変なことになるなと。
経済同友会に入らせてもらって、市場の短期志向に課題があると思う中で、私は2人の「かみ」に出会いました。1人は「村上(むらかみ)さん」、もう1人は個人投資家向けの独立系投資信託の父である「澤上(さわかみ)さん」。この2人に出会ったから、コモンズ投信が生まれたと思っています。村上さんも、「一つ一つの企業を見て価値を高めましょう」と言っていたこと自体は、全然悪いことじゃなかったと思います。澤上さんからは、一般個人への投資信託の直販(直接販売)で長期的な積み立て投資の意義を教わりました。お二人とも、衝撃的でしたね。(笑)
Q.最後に、投資初心者の方へアドバイスをお願いします
お金ってよく「命の次に大切だ」と言われるじゃないですか。つまり、失敗しても死ぬわけじゃないんですよね。ケガすることもあるけど、ちょっと痛いこともあるけど、苦い経験や学びになるかもしれないけど、命に係わることじゃない。
「リスクを取りたくありません」と考えている方でも、家を出ればリスクばっかりじゃないですか。事故に遭うかもしれないし、誰からインフルエンザをもらうかわかりません。じゃあ、リスクが怖いからといって、「引きこもりで楽しいですか」ということだと思うんですよ。
先祖の渋沢栄一が1万円札になりますが、それについて栄一さんが何を言うかというと「わしは暗い所が嫌いじゃ」と言うと思います。タンスの中に入れっぱなしにされちゃうと。寄付でも投資でも、お金は世の中に循環してこそ活きていくものだと思います。
編集後記
渋澤 健さんのお話で一貫されていたことは、「長期投資は、楽しい」という点です。様々な可能性がある見えない未来を信じながら、持続的な価値創造に取り組む企業に投資をすることで、経済的なリターンだけでなく、企業との対話が自らの学びになり、同じ価値観を共有できる仲間とつながることができ、社会ともつながっていける。それを無理なく継続していくための手法が積立投資です。
また、もう一つの大きな気付きは、「寄付」もまた長期投資だという点です。寄付は、自分より後の世代に向けて、より良い未来・社会を創るために行っていくもの。そのプロセスの中で自身にも学びがあり、より良い未来を願う仲間との出会いがあり、主体的に社会づくりに関わっていけるという点は、まさに長期投資で挙げた特徴そのものです。そして、それを継続していくには、少額でコツコツと積立投資のように、マンスリーサポートなどから始めてみれば良い。そんな発見がありました。
毎月数百円~数千円の少額から始めることのできる長期投資。この記事を読んで興味が湧いたという方は、自分が望む未来に向けて、ぜひ一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではありません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
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