2022年4月現在、ウクライナとロシアの停戦協議がトルコで対面形式で実施され、停戦協議は進展をみせています。ロシアがウクライナ首都キーウ制圧を諦め、東部地域に兵力を集中するなど、戦況にも多少変化が発生しています。一方で、出口が見えず長期化の様相を呈しています。
市場ではウクライナ問題長期化を前提とした取引が進行しています。資源と食料の需給がどうなっていくのか、それに伴うインフレ予想とインフレが各国にどのような影響を及ぼすのかが共通のポイントになってきています。
今回は、資源と食料の両面で供給サイドとして景気回復期待が強いオーストラリアの経済状態を把握するため、RBA金融政策決定会合について詳しく解説していきます。
※この記事は2022年4月3日に執筆しています。
目次
- RBA政策決定会合
1-1.前回(3月)の内容
1-2.直近の経済状況
1-3.今回(4月)の予想
1-4.指標発表後の反応予想
1.RBA政策決定会合
RBAの金融政策の目的は、法律で通貨価値の安定、最大雇用の維持、経済的繁栄と厚生の促進、と定められています。政策金利としてオフィシャル・キャッシュレート(OCR)と呼ばれる金利が使用されます。OCRは、銀行間の資金取引に適用される翌日物貸出金利のことです。
RBAはインフレの抑制を金融政策の一義的な中期目標と位置づけ、消費者物価の上昇率を年2~3%で安定させることを明確にする、「インフレ・ターゲット」を導入しています。RBA政策決定会合は、総裁以下9名で行われ、多数決で政策が決定されます。開催は、1月を除く毎月第1火曜日と定められています。
オーストラリアでは、主要な物価統計の公表が毎月ではなく四半期ごとに行われるものが多く、RBAの政策決定会合の結果が直近の経済状態を元にした最新の将来予測になります。AUDにとって特に注目度が高いです。
1-1.前回(3月)の内容
キャッシュレートは予想通り0.1%に据え置かれました。声明文ではウクライナ問題が不確実性の源泉で、インフレは世界的に大きく加速したという認識を示しました。オーストラリア国内では賃金上昇率は加速したものの、コロナ前の比較的低い水準に留まっていると見方はほぼ変えず、忍耐強く対応するとし、近い将来の利上げは示唆しませんでした。
参照:ロイター「豪中銀、政策金利据え置き ウクライナ情勢が新たな不透明要因」
1-2.直近の経済状況
2021年第4QのCPI(トリム平均)は前年比+2.6%とRBAの目標レンジ2~3%の上限に近づいてきました。同じく第4Qの賃金指数はほぼ事前予想通り前年比+2.3%となりました。傾向としては上昇基調が続いています。
しかし、RBAが利上げに向けての目標とする3~4%にはまだ遠く、RBA政策決定会合に向けても、引き締めへの転換を強く促すような数字ではありませんでした。このままのペースでいけば実質賃金は年内にもプラスに転じる見込みです。引き続き堅調な消費支出が続くと予想されます。
2月雇用統計は雇用者数が+7.74万人と大幅に増加しました。労働参加率は過去最高水準の66.4%に上昇しました。
失業率はリーマンショック前の2008年以来最低水準となる4%まで低下しました。12月~2月の求人件数はパンデミック前の水準を20万件も上回っており、雇用市場は強い印象です。
消費者信頼感は低い一方で、経済再開により過去2年間失われていた支出機会が増加していることもあり、2月の小売売上高はインフレ期待の上昇にもかかわらずかなり強いものとなりました。
グローバルマクロ環境も資源価格の上昇と供給制約が続いており、インフレを押し上げています。ロシアがウクライナに侵攻したことを受けた西側諸国の制裁は、両国が停戦に合意するのであれば、一部は解消される可能性があります。
ただ、今回の一連の騒動でロシアの国際的な信用は落ちていることから、ロシアとエネルギー契約を維持することはなく、減らす方向になるでしょう。従って、供給不足に陥りやすくエネルギー価格は高止まりし、その代替え先としてオーストラリアが選好されることになるため、国内の景気回復は持続すると考えます。
ロウRBA総裁は、2024年までに利上げをする可能性は低いという認識でしたが、2月時点の発言では、あと2回CPIを見てインフレが持続的なのかどうか確認したいということでした。
参照:ロイター「豪中銀利上げ8月以降か、ロウ総裁「CPI統計2回見たい」」
あと2回ということは4月と7月になります。仮にここでRBAのインフレターゲット上限の3%を超えていたら年内利上げの可能性が浮上してくるため、債券市場は既に年内利上げの織り込みを強めています。その後、3月のコメントでは、ウクライナ問題が供給制約を長引かせるとの見通しを示し、政策金利の年内引き上げが妥当であると年内利上げスタンスを明らかにしました。
参照:ブルームバーグ「豪中銀総裁、年内利上げ「妥当に思われる」-ウクライナ危機言及」」
1-3.今回(4月)の予想
キャッシュレートを0.10%で据え置くと予想します。RBAは直接観測できるインフレ期待とインフレ率以外に、賃金上昇率を重要なインフレ期待を予測する指標として扱っているものの、インフレは上限3%に対して2.6%、賃金上昇率は目標3~4%に対して2.3%です。どちらも、RBAに利上げを急がせる要因にはなっていません。
唯一、RBAの予想に到達したのが失業率です。RBAは賃金が上昇を開始する失業率を4%と想定しており、3月に到達しました。現在の雇用状況から考えると、失業率は改善していく可能性があります。労働市場の回復をRBAが早期に取り上げるのであれば、予想よりタカ派になるでしょう。
過去2002年から2005年までのRBAが4.25%から5.5%まで緩やかに利上げを実施した局面では、引き締めを継続しているにもかかわらず、賃金上昇率は加速してしまいました。その後2006年から急ピッチで利上げを実施することでようやく賃金上昇が落ち着いたということがありますので、利上げ開始のタイミングはかなり注目されます。
1-4.指標発表後の反応予想
債券市場の織り込み状況は、キャッシュレート目標が 2022 年末に2%近くへ、2023年後半には3%超へ引き上げられることが織り込まれています。RBA がひとたび引き締めを開始すれば早いと考えてられています。市場の予想としては、5/21の連邦議会選挙までは様子見となり、利上げをするならその後の夏頃の会合だと考えられています。
為替市場では、債券市場の織り込みとは若干異なります。今後ウクライナ問題による一時的な加速ではない、デマンドプル型の物価上昇のデータが出てくるまでは、RBAは動かないと思われています。現時点で利上げ時期に言及し、市場の織り込みと同程度に速く利上げを行うことを示唆するようなことがあれば、サプライズになるでしょう。
為替市場ではRBAの他国対比ハト的な姿勢により相対的にショートになっている状態です。しかし、為替市場でAUDショートとなっている参加者も、最近のロウ総裁の発言や堅調な経済指標から早期利上げについて考える必要が出てきてしまっています。
一方で債券市場はかなり早期利上げを織り込んだ状態です。為替市場の参加者は予想よりもハト的な結果となりAUDが売られれば、ショートをクローズしたいと待ち構えている状態だと予想します。従って、下値は限定的であり、万が一タカ派サプライズがあれば、AUDは0.7600をしっかり超えてくると考えます。
コロナ感染が収まり国境の往来が再開して海外から安い労働者が入ってくる状況が今年中の長期的なリスクシナリオです。賃金上昇率が沈静化し、失業率の低下ペースも減速し、RBAが慌てて利上げをする必要がなくなってしまいます。この場合、市場は早期利上げを織り込んでいますが、実際は2000年代前半の様に中断を挟みながら緩やかに時間を掛けて引き締める方向になる可能性があります。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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