有価証券報告書において、サステナビリティ情報の開示が義務化されることになりました。これにより、企業は開示しなければならない事項が増え対応の必要が生じる一方、投資家にとっては企業から開示される情報が増えることで、より正確な投資判断ができるようになります。
今回は有価証券報告書のサステナビリティ情報の見方、投資判断のポイントについて開設します。
目次
- サステナビリティ情報開示の背景
- TCFDの提言と開示項目と見方
2-1.ガバナンス
2-2.リスク管理 - 推奨開示項目
3-1.戦略
3-2.指標及び目標 - 投資判断のポイント
- まとめ
1 サステナビリティ情報開示の背景
資源の枯渇、海洋汚染などさまざまな環境問題が深刻化するなか、サステナビリティ経営を意識する企業が増え、一部の企業では任意の統合報告書でサステナビリティへの取り組みを公開するようになりました。こうしたサステナビリティ情報開示は、世界的な潮流となっており、欧米では法制化されています。
日本では、これまで任意開示でしたが、こうした世界的な流れを受けて「企業内容等の開示に関する内閣法令」等の法案を改正しました。2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書に、「サステナビリティに関する企業の取り組みと開示」が必須記載事項となりました。
開示項目は、TCFD*(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言による「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4項目です。2023年4月時点での必須開示事項は、「ガバナンス」と「リスク管理」で、他2項目については強い推奨事項となっています。
*TCFDは、G20財務大臣・中央銀行総裁会議の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示及び気候変動への金融機関の対応を検討するために、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長とし設立されました。
2 TCFDの提言と開示項目と見方
今回の法案改正での開示項目であるガバナンスとリスク管理の2項目について、それぞれ見ていきましょう。
2-1 ガバナンス
ガバナンスは、TCFDの枠組みである「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の3要素を一連のプロセスを会社としてどのような組織で実行し、管理するかということが重要です。
TCFDが推奨する開示内容は以下の2つです。
a)気候関連のリスクと機会についての、取締役会による監視体制の説明
開示のポイント:
- 気候関連の問題について取締役会の監視体制を説明する際、気候関連問題について取締役会等が報告を受けるプロセスと頻度
- 取締役会が気候関連問題に対する取組のゴールと目標への進捗状況を確認する際どのようにモニタリングしているか
- 組織のパフォーマンス目標を設定する際や、企業価値を算出する際に、気候関連問題を考慮しているか否か
b)気候関連のリスクと機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明
開示のポイント:
- 気候関連問題に関する評価・管理する上での経営者の役割を説明する際に、組織が経営陣または委員会に対し、気候関連の責任を付与しているかどうか
- 関連する組織構造の記述、経営陣が気候問題について報告を受けるプロセス、経営陣がどうのように気候関連の問題をモニタニングするかという点
2-2 リスク管理
リスク管理については、気候変動リスクの認識と取り組みについての開示が求められます。TCFDでは、気候関連リスクについて、リスクの特定・評価・管理のプロセス、さらにそうしたプロセスを組織全体のリスクとしてどう管理するかを開示することを求めています。
TCFDが推奨する開示内容は以下の3つです。
a)当該組織が気候関連リスクを識別及び評価するプロセスを説明
開示ポイント:
- 気候変動リスクを識別し評価するリスク管理プロセスを説明
- 他リスクと比較し、気候変動リスクの相対的受容性を、組織がどのように決定したのか
- 気候変動に関連した規制上の要件やその他の関連要因を考慮しているか
- 特定された気候関連リスクの潜在的な大きさとスコープを評価するプロセス
- リスクに関する専門用語の定義または使用した既存のリスク分類制度における参考文献を説明
b)当該組織が気候関連リスクを管理するプロセスを説明
開示ポイント:
- 気候関連リスクを緩和・受容・コントロールする決定のプロセス
- 組織のリスク管理をする上でのプロセス、組織がどのように重要性の決定を行ったか
- 気候関連リスクの優先順位をつけるプロセスを説明
c)当該組織が気候関連リスクを特定・評価・管理するプロセスが、組織の総合リスク管理にどのように統合されているかについて説明
開示ポイント:
- 気候関連リスクを、特定・評価・管理するプロセスが、組織全体のリスク管理の中でどのように統合されているかの説明
3 推奨開示項目
次に今回、推奨開示項目に指定された「戦略」と「指標及び目標」についても見ていきましょう。これらの項目については、将来開示項目に変更される可能性が高いと考えられます。2024年1月に正式発効されるISSB(国際サステナビリティ開示基準)では、必須項目として戦略、指標及び目標も含まれているからです。
3-1 戦略
戦略においてTCFD提言では、気候変動のリスクと機会がもたらす組織の事業、戦略、財務計画への現在及び潜在的な影響を開示するとしています。
TCFDが推奨する開示内容は以下の通りです。
- a)組織が識別して、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会を説明
- b)気候関連のリスクと機会が組織のビジネス・戦略及び財務計画に及ぼす影響を説明
- c)2℃或いはそれを下回る将来の異なる気候シナリオを考慮し、組織の戦略のレジリエンスを説明
3-2 指標及び目標
TCFD提言での「指標と目標」は、気候関連のリスクと機会を評価及び管理する際に用いる資料と目標を開示するとしています。
TCFDが推奨する開示内容は以下の通りです。
- a)組織が、自ら戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスク及び機会を評価する際に用いる指標を開示
- b)Scope1*、Scope2*及び、組織に当てはまる場合はScope3*の温室効ガス(GHG)排出量と関連リスクについて説明
- c)組織が気候関連リスクと機会を管理するために用いる目標、及び目標に対する実績を開示
*Scope1:事業者が直接排出した温室効果ガスの排出量
*Scope2:他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接的な排出量
*Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出量
4 投資判断のポイント
気候関連問題に対する組織の認識、取組姿勢が投資判断のポイントとなりそうです。また、サステナビリティ情報の開示については、ストーリーを組み立て分かりやすく、魅力的に投資家に伝えることが差別化につながりそうです。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめ、多くの機関投資家はESG(環境・社会・ガバナンス)投資を推進しています。気候変動への取り組みは長期にわたるため、長期、中期、短期的な目標を設定し、振り返りフレームワークKPT法を使い検証し改善しながら目標に向かうことが必要です。
まとめ
非開示情報だったサステナビリティ情報が、有価証券報告書の必須記載事項となりました。TCFD提言の4つの枠組み(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)のうち開示義務項目は、ガバナンスとリスク管理の2項目です。特に、ガバナンスは残り3要素の土台となるため重要です。
各企業の気候関連問題に対する認識、取組姿勢が投資判断のポイントとなりそうです。
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藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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