スペインの電力大手イベルドローラ(ティッカーシンボル:IBE)は1日、スウェーデンの新興鉄鋼メーカーH2グリーンスチールと提携し、23億ユーロ(約2,950億円、1ユーロ=128円)を投じてグリーン水素製造施設を建設することに合意した(*1)。水素の製造技術はゼロカーボン(CO2などの温室効果ガスの実質的な排出量をゼロにすること)を実現するうえで重要といわれており、その一つである水電解は水に電圧を加えることで水素と酸素に分解する。そして、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用した発電による電気で水電解して生成した水素のことを、グリーン水素もしく再生可能水素と呼ぶ。
イベルドローラとH2グリーンスチールは、1ギガワット(GW)の水電解によるグリーン水素製造施設を建設する計画だ。国際エネルギー機関(IEA)によると、2020年のグローバル電解槽の製造能力は0.3GWであったことから、両社が計画するプロジェクトがいかに大規模なものかうかがい知れる(*2)。
プロジェクトを通じ、二酸化炭素(CO2)排出量を95%削減した鉄鋼を製造するための電気炉の原料として利用される還元鉄(DRI)を約200万トン(年間)生産するという。グリーン水素製造施設はイベリア半島に建設され、2025年もしくは2026年に稼働し始める模様だ。
電解槽は両社が共同して保有・運営する。イベルドローラが再生可能エネルギーを提供し、H2グリーンスチールがDRIの生産や冶金プロセスのすべてを担う。また同じ敷地内で、年間250~500万トンのグリーン鋼板の生産も模索している。イベルドローラ発電部門のディレクターを務めるアイトール・モソ氏は「製鉄などの重工業の脱炭素化において、グリーン水素はきわめて重要な技術だ」と述べた。また、H2グリーンスチールとの提携などのさまざまなプロジェクトを推進することは、「高い生産能力を誇るとともに、より高性能な電解槽をいち早く商業化させるのに寄与し、このことがグリーン水素の競争力を高める」という。(*3)
製鉄の脱炭素化はイベルドローラにとって大きな成長機会をもたらしている。脱炭素化に向けて、4,000万トンのグリーン水素に加え、欧州の発電量の約2倍のに相当する 年間5,000テラワット時(TWh)ほどの追加需要が見込まれているからだ。そのため、同社はグリーン水素の製造から利用に至る水素バリューチェーンの構築を加速させている。
イベルドローラは欧州を代表する株価指数である「ユーロ・ストックス50」の構成銘柄だ。また、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の代表的な指数である「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)」において、22年連続で選定された唯一の欧州ユーティリティ(電力・ガスなど)企業でもある。サステナブル(持続可能)な社会の形成に向けて、業界をリードする同社の動向に注目したい。
【参照記事】*1 イベルドローラ「Iberdrola and H2 Green Steel sign 2.3 billion euros green hydrogen deal」
【参照記事】*2 国際エネルギー機関「Could the green hydrogen boom lead to additional renewable capacity by 2026」
【参照記事】*3 イベルドローラ「Iberdrola, the only European utility included in all 22 editions of the Dow Jones Sustainability Index」
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