新型コロナウイルスの治療薬として国産初の飲み薬を開発した塩野義製薬はESGやサステナビリティに関する様々な取り組みを進めている企業です。感染症分野などに強みを持っているほか、製薬会社ならではの薬剤耐性問題にも取り組んでいるため、ESG投資先として注目している方もいるのではないでしょうか。
そこで、この記事では塩野義製薬のESGやサステナビリティの取り組みについてご紹介します。企業の特徴やESG・サステナビリティに関する外部評価、業績・株価動向、配当推移なども併せて解説するので、ESG投資に興味のある方は参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2022年12月9日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 塩野義製薬の特徴
- 塩野義製薬のESG・サステナビリティの取り組み
2-1.マテリアリティと薬剤耐性問題への取り組み
2-2.環境に配慮した取り組み
2-3.社会に配慮した取り組み
2-4.ガバナンス強化に向けた取り組み
2-5.塩野義製薬のESG・サステナビリティに関する外部評価 - 塩野義製薬の業績・株価動向
- 塩野義製薬の配当推移
- まとめ
1 塩野義製薬の特徴
塩野義製薬株式会社は、医薬品の研究開発や製造・販売を行う日本の大手製薬会社です。前身となる薬種問屋「塩野義三郎商店」が1878年に創業されて以来140年超の長い歴史を持つ企業で、東京プライム市場に上場している現在も創業の地である大阪市に本社を構えています。
塩野義製薬は、医療用医薬品でも感染症、疼痛緩和、中枢神経などの領域に強みを持ちます。抗インフルエンザウイルス剤「ゾフルーザ」や、癌疼痛治療薬「オキシコンチン」、抗うつ剤「サインバルタ」、ADHD(注意欠如・多動性障害)治療薬「インチュニブ」、高コレステロール血症治療薬「クレストール」など数多くの医薬品を手掛けています。
また、新型コロナウイルス感染症の抗ウイルス薬「ゾコーバ」が2022年11月22日に軽症・中等症の患者向け治療薬として厚生労働省の緊急承認を受けました。
このほか、塩野義製薬では一般用医薬品などを扱うOTC医薬品事業も手掛けており、グループ会社のシオノギヘルスケアが販売する解熱鎮痛剤「セデス」は薬局などで販売されている一般向け医薬品の中でも知名度の高いものの一つとなっています。
日本以外でも同社は欧州や北米、中国などで事業を展開しており、抗HIV薬のロイヤリティー収入(特許収入)なども大きな収益源となっています。
2 塩野義製薬のESG・サステナビリティの取り組み
それでは、本題である塩野義製薬のESGやサステナビリティの取り組みついて見ていきましょう。
2-1 マテリアリティと薬剤耐性問題への取り組み
塩野義製薬では、グループ全体での事業活動を通じて社会課題や医療ニーズに応え、社会に必要とされる企業として成長するため以下の優先的に取り組む重要課題(マテリアリティ)を特定して取り組みを進めています。
テーマ | 重要課題 |
---|---|
顧客・社会に新たな価値を創出するために取り組む重要課題 | 感染症の脅威からの解放 |
社会生産性向上、健康寿命の延伸 | |
持続可能な社会保障への貢献 | |
持続可能な社会の実現とSHIONOGIグループの成長を支える重要課題 | 医療アクセスの向上 |
成長を支える人材の確保 | |
人権の尊重 | |
サプライチェーンマネジメントの強化 | |
責任ある製品・サービスの提供 | |
ガバナンスの強化 | |
コンプライアンスの遵守 | |
環境への配慮 |
中でも薬剤耐性(AMR)問題は、塩野義製薬が力を入れて取り組んでいる課題の一つです。AMRとは、抗生物質など抗菌薬の不適切な使用などが原因で発生する抗菌薬が効かない(効きにくい)薬剤耐性菌のことで、多くの人の生命に危険を及ぼす可能性があります。
薬剤耐性問題は治療の長期化や感染の広がりによって社会に対しても深刻な損失をもたらす可能性があるグローバルな問題として認識されているため、塩野義製薬は長年の抗菌薬創製の経験を活かして問題解決に向けた取り組みを進行中です。
2-2 環境に配慮した取り組み
塩野義製薬はマテリアリティに掲げた環境に配慮した具体的な取り組みを進めており、気候変動や水資源、省資源・資源循環、汚染予防など多岐にわたります。
気候変動では、2050年に実質的なCO2排出量ゼロを目指すカーボンニュートラルを掲げており、2030年までに自社排出の46.2%、サプライチェーン排出の20%削減など中長期的な目標を掲げながら目標達成に向けた取り組みが進行中です。
水資源については、節水や工業用水使用の管理徹底、生産設備の運転や洗浄計画の見直しによって使用量の抑制に努めるだけでなく、工場排水などに含まれる薬物濃度が自然環境へ影響のないレベルに抑えられるよう徹底した管理を行っています。
この他にも、産業廃棄物発生量の削減や廃プラスチックの再資源化率向上、重油から液化天然ガスへの転換による硫黄酸化物の削減などに努めています。
2-3 社会に配慮した取り組み
塩野義製薬では、責任ある製品・サービスの提供、魅力ある職場環境づくり、地域貢献などの取り組みを通じて社会に配慮した活動を行っています。
魅力ある職場環境づくりでは、一人ひとりの貢献度を評価する人事制度の導入や教育研修の充実などが実践されており、社長自らが幹部候補を育成する「社長塾」が年7~9回ほど開催されています。
在宅勤務の導入や所定労働時間の45分短縮などワークライフバランスを実現させるための取り組みも進められており、女性の活躍推進や障がい者が働きやすい環境づくりなど、多様な人材がそれぞれの能力を発揮できるような職場環境整備なども行っています。
また、発展途上国で妊婦や新生児などの死亡率を下げるための取り組み「Mother to Mother SHIONOGI Project」や、疾患に対する理解を促進するための啓発・教育活動なども進めており、製薬会社ならではの社会に配慮した様々な取り組みも進行中です。
2-4 ガバナンス強化に向けた取り組み
塩野義製薬は、コーポレートガバナンス、リスクマネジメント、コンプライアンスの観点からガバナンス強化に向けた取り組みを推進しています。
コーポレートガバナンスの強化に向けては、取締役に対する監督機能の充実を図り、経営の透明性を高めるため取締役会の社外取締役の人数は半数以上です。取締役の報酬についても、社外取締役を委員長とする報酬諮問委員会(半数以上が社外取締役)で審議を行った上、その答申を経て取締役会で決定する仕組みとなっています。
リスクマネジメントについては、制度・行政に関するリスクや副作用に関するリスクなど事業で起こり得る主なリスクを洗い出し、様々なリスクへの対応や検証ができるようリスクマネジメント体制を推進中です。
コンプライアンスについても、社長を委員長とするコンプライアンス委員会を中心にコンプライアンス推進を行っており、全従業員を対象としたコンプライアンス教育や内部通報制度の整備などによって意識の浸透とその実践に努めています。
2-5 塩野義製薬のESG・サステナビリティに関する外部評価
塩野義製薬は、ESGやサステナビリティへの取り組みで外部の格付け機関から一定の評価を受けている企業です。英国の環境NGOであるCDPの2021年格付けでは、気候変動と水セキュリティの2分野で上から2番目のリーダーシップレベル「A-」に選出されています。
CDPが2021年に実施した気候変動質問書の「サプライヤー・エンゲージメント評価」においては、日本企業の中で105社のみが選定された最高評価「リーダー・ボード」にも選ばれています。
また、世界中の企業からESGの取り組みに優れた企業を選定する米国MSCI社のESG格付では上から2番目となる「AA」に選定されており、塩野義製薬はESGなどの取り組みで世界的にも一定の評価を受けています。
このほか、世界最大級の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などがESG投資の指標として採用する以下のESG指数にも選定されるなど、外部機関から高い評価を受けています。
指数 | 選定基準 |
---|---|
FTSE4Good Index Series | 英国のFTSE社が算出する指数で、世界中の企業からESGへの取り組みで優れた対応を行っている企業を選定。 |
FTSE Blossom Japan Index | 英国のFTSE社が算出する指数で、各業種の中から相対的に優れたESGへの対応を行っている日本企業を選定。GPIFがESG投資の指標として採用する指数の一つ。 |
FTSE Blossom Japan Sector Relative Index | 英国のFTSE社が算出する指数で、ESG評価に加え環境負荷や気候変動リスクに対するマネジメント評価なども加味して優れた対応を行っている日本企業を選定。GPIFが2022年から新たに採用したESG指数。 |
MSCI ESG Leaders Indexes | 米国のMSCI社が算出する指数で、世界中からESG評価に優れた企業を選定。 |
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 | 米国のMSCI社が算出する指数で、日本株の時価総額上位700銘柄から業種毎にESG評価が相対的に優れている日本企業を選定。GPIFがESG投資に採用している指数。 |
MSCI日本株女性活躍指数(WIN) | 米国のMSCI社が算出する指数で、日本株の時価総額上位700銘柄から業種毎に性別多様性に優れた日本企業を選定。GPIFがESG投資に採用している指数。 |
S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数 | 米国のS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスと日本取引所グループが共同開発した指数で、東証株価指数(TOPIX)の構成銘柄を対象に環境情報の開示状況と炭素効率性の水準から構成銘柄を決定。GPIFがESG投資に採用している指数。 |
3 塩野義製薬の業績・株価動向
以下は、塩野義製薬の過去5期分の売上高、営業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益(グループ企業の親会社持ち分利益などを加算した利益)をまとめた表です。
(単位:百万円)
決算期 | 2018年3月 | 2019年3月 | 2020年3月 | 2021年3月 | 2022年3月 |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 344,667 | 367,960 | 333,371 | 297,177 | 335,138 |
営業利益 | 115,219 | 145,081 | 130,628 | 117,438 | 110,312 |
当期利益 | 108,866 | 137,191 | 122,193 | 111,858 | 114,185 |
塩野義製薬では、2020年3月期から国際会計基準(IFRS)を適用しています。2018年3月期は日本基準の数値となっているため単純比較はできないものの、新型コロナウイルスの影響を受けた2020年3月期と2021年3月期は売上高が大きく減少しています。
一方、新型コロナウイルスの治療薬に多額の研究開発費を投じた2022年3月期こそ32.92%とやや低下していますが、売上高が減少している時期も営業利益率は2020年3月期が39.18%、2021年3月期が39.52%と高水準をキープしています。
2023年3月期は多額の研究開発費を投じた新型コロナウイルス治療薬「ゾコーバ」の承認取得や売上などを見込み、従来予想から上方修正された売上高4,100億円、営業利益1,200億円、当期利益1,420億円と大幅な増収増益の見込みとなっています。
続いて株価動向です。最近の株価は新型コロナウイルス治療薬「ゾコーバ」の承認に関するニュースで大きく上下動する展開となっています。
(単位:円)
項目 | 3月末(期末) | 6月末 | 9月末 | 12月末 |
---|---|---|---|---|
2018年 | 5,491 | 5,691 | 7,424 | 6,271 |
2019年 | 6,852 | 6,209 | 5,999 | 6,767 |
2020年 | 5,317 | 6,750 | 5,629 | 5,635 |
2021年 | 5,952 | 5,791 | 7,654 | 8,125 |
2022年 | 7,530 | 6,855 | 6,989 | - |
上表は塩野義製薬の2018年以降の株価を塩野義製薬の四半期ごとの終値ベースでまとめたものです。もともと利益率の高い事業を展開していたため株価水準も高く、増配や自社株買いなど株主還元も積極的に進めていたこともあって、直近10年ほどで株価は大きく上昇しています。
しかし、最近は「ゾコーバ」の緊急承認に関するニュースなどで上下動する展開となっており、2022年6月22日に承認結果が見送られた際は翌23日に年初来安値となる6,105円まで下落しています。
一方、「ゾコーバ」が緊急承認の適用第1号となることが発表された翌営業日の2022年11月24日には一時的に7,593円まで値を上げています。今後もゾコーバ関連のニュースや売上見込みなどをにらんだ展開が続くでしょう。
4 塩野義製薬の配当推移
塩野義製薬の配当推移についてご紹介します。以下は、過去5期分の配当推移をまとめた表です。
項目 | 年間配当額 | 中間 | 期末 | 配当性向 |
---|---|---|---|---|
2022年3月期 | 115円 | 55円 | 60円 | 30.4% |
2021年3月期 | 108円 | 53円 | 55円 | 29.6% |
2020年3月期 | 103円 | 50円 | 53円 | 26.0% |
2019年3月期 | 94円 | 44円 | 50円 | 21.4% |
2018年3月期 | 82円 | 38円 | 44円 | 23.9% |
最近は増配傾向が続いており、2022年3月期には配当性向が30%を超える水準まで引き上げられています。塩野義製薬では2017年3月期以前も継続的に増配が行われており、2023年3月期は中間60円と期末60円で合わせて年間120円の配当見込となっているため、11期連続での増配となる見通しです。
また、2022年6月23日の株主総会で500億円を上限とする自社株買いを決議するなど株式価値の向上や株主還元に努めており、今後も高い水準で推移する可能性があります。
まとめ
塩野義製薬は、東証プライム市場に上場する大阪市に本社を構える大手製薬会社です。医療用医薬品の中でも感染症や疼痛緩和、中枢神経などの領域に強みを持つ企業で、最近は新型コロナウイルスの治療薬「ゾコーバ」が緊急承認されたことでも知られています。
同業他社と比較しても利益率の高い企業なのも特徴で、一時は新型コロナウイルスの影響によって減収減益に陥ったものの、最近は回復傾向を見せており、2023年3月期は増収増益の予測で11年連続の増配となる見通しです。
塩野義製薬のESGやサステナビリティに関心のある方は、ご自身でもよくお調べの上、検討してみてください。
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