精密化学メーカーとして知られる富士フイルム株式会社は、気候変動などの環境問題に対して、環境に配慮した生産活動や環境性能を持つ製品の普及を推進しているほか、写真事業で培った技術を活かし、高機能カメラ、医療機器、オフィス機器などの製品を通じて、人々の健康や生活の質向上に貢献しています。
この記事では、富士フイルムのESG・サステナビリティの取り組み内容について詳しく説明していきます。最新の業績や株価動向、株主優待情報についても解説しているので、ESG投資に関心がある方は参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2022年12月17日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 富士フイルムの特徴
- 富士フイルムのESG・サステナビリティの取り組み
2-1.環境課題解決への取り組み
2-2.健康的な社会作りへの取り組み
2-3.「働きがい」を得られる社会への変革
2-4.コーポレート・ガバナンスの強化 - 富士フイルムのESG・サステナビリティに関する外部評価
- 富士フイルムの業績・株価動向
- 富士フイルムの株主優待内容
- まとめ
1 富士フイルムの特徴
写真フィルムメーカーを起源に持つ富士フイルムは、独自の技術を活かした幅広い事業を展開しています。富士フイルムでは、主に「ヘルスケア」「マテリアルズ」「ビジネスイノベーション」「イメージング」の事業領域において、優れた製品・サービスを提供し、事業を通じた社会課題の解決に取り組んでいます。
ヘルスケア部門は、予防・診断・治療の領域で幅広い事業を展開しています。X線画像診断やMRI、内視鏡などの診断機器や診断画像などを一元管理できる医用画像情報システムでは、大きな世界シェアを有しており、セグメント別売上高の最も大きい事業になります。
マテリアルズ部門は、AI・IoTを支える電子材料、ディスプレイ材料のほか、次世代ディスプレイ向けのタッチパネル用センサーフィルムなどの高機能材料を提供しています。
ビジネスイノベーション部門は、複合機・プリンターの販売や業種・業務の特性に合わせた業務プロセスの自動・最適化などのDXソリューションを提供しています。
イメージング部門は、インスタントカメラやカラーフィルム、現象・プリント機器、写真プリントサービスなど、撮影から出力まで写真や映像に関わる製品・サービスを提供しています。
また、富士フイルムは、売上高の60%(2021年度時点)が海外事業によるもので、積極的なグローバル展開により製品・サービスのトップシェアを維持し、世界をリードしています。
2 富士フイルムのESG・サステナビリティの取り組み
富士フイルムは、グループが持続的に発展していくための長期目標として「Sustainable Value Plan 2030(SVP2030)」を策定しています。SVP2030では、「環境」「健康」「生活」「働き方」を重点分野とし、事業活動を通じた社会課題の解決に取り組んでいます。
以下、富士フイルムのESG・サステナビリティの取り組みについて詳しく見ていきましょう。
2-1 環境課題解決への取り組み
富士フイルムでは、環境課題に対して、気候変動への対応、資源循環の促進、脱炭素社会の実現を目指したエネルギー問題への対応、製品・化学物質の安全確保に努めています。
SVP2030では、2030年度までに富士フイルムグループによる製品ライフサイクル全体および使用するエネルギー起因のCO2排出を50%削減(2019年度比)することを目標としており、実際、2019年度の製品ライフサイクル全体におけるCO2排出では31%削減に成功しています。最終的に2040年までにCO2排出ゼロ化を目指すプロジェクトとなっています。
また、CO2削減効果の高い製品・サービスの提供強化により、2030年度までに全社売上高の60%を環境配慮認定製品でカバーすることも目標としています。
資源循環の促進では、廃棄物削減のほか、水使用量削減、リサイクル使用、3R(リデュース・リユース・リサイクル)を考慮した製品設計などに取り組むことで、2030年度までに、富士フイルムグループによる水投入量および廃棄物発生量の30%削減(2013年度比)を目指し、資源の有効利用、廃棄物削減を進めています。
脱炭素社会の実現を目指したエネルギー問題への対応では、高機能材料により再生可能エネルギーの創出・普及に貢献することを目指し、高機能材料によるエネルギー技術の開発・提供を進めています。
例えば、富士フイルムの開発した「ガス分離膜Apura」は、二酸化炭素などの不純物を含む天然ガスから二酸化炭素を取り除き、クリーンエネルギー化することが可能なので、天然ガスの精製に用いられています。
製品・化学物質の安全確保では、化学物質管理に関する法規制はもちろんのこと、法規制より厳しい自己基準を設定しているほか、有害懸念化学物質の削減および代替化を進めています。
2-2 健康的な社会作りへの取り組み
富士フイルムは、創業当初から「健康」を重要なテーマとしており、「予防・診断・治療」を事業領域としています。
健康における重要課題として、アンメットメディカルニーズ(有効な治療法が確立されていない医療上のニーズ)への対応、医療サービスへのアクセス向上、疾病の早期発見への貢献、健康増進・美への貢献、健康経営の推進を掲げています。
アンメットメディカルニーズへの対応では、バイオ医薬への積極的な設備投資、再生医療事業の拡大、新薬の研究開発に必要なIPS細胞や培地を提供する創薬支援を行うことで、新しい治療薬の開発と普及に貢献しています。
医療サービスへのアクセス向上では、医療画像診断支援、医療機器の保守サービス、医療現場のワークフローを支援するAI技術の開発を進め、医療環境の整備、医療従事者への貢献を目指しています。
疾病の早期発見への貢献では、未病対策として、簡単に自分の健康を検査できるシステムを普及させることで早期発見・早期治療の取り組みを進めています。例えば、富士フイルムが普及推進している自己採血による輸送血液サービス「CureSign」は、自分で指先から採血した血液を郵送するだけで、検査結果が届くため手軽な健診が可能になります。
健康増進・美への貢献では、健康寿命を延ばす取り組みの推進、輝く女性支援の推進を目指し、独自技術を活用したエイジングケア化粧品や生活習慣病などの改善に役立つ機能性表示食品の提供を行っています。
健康経営の推進では、従業員の健康維持を目的に、従業員の健康維持増進に向けた取り組みを進めており、経済産業省と東京証券取引所による「健康経営銘柄」に2年連続で選定されています。
2-3 「働きがい」を得られる社会への変革
富士フイルムは、持続的に成長していく上で、従業員一人ひとりの個性や創造性を発揮できる「働きがい」のある職場環境の構築に取り組んでおり、その重要課題として「働きがいにつながる環境づくり」や「多様な人材の育成と活用」を掲げています。
働きがいにつながる環境づくりでは、働く人の業務効率化と創造性発揮を支援するソリューション・サービスを提供することで、業務プロセスの変革に貢献しています。例えば、富士フイルムが提供する電子署名ソリューションを導入すると、「押印業務のための出社」がなくなり、契約締結等に関する業務時間削減や場所を選ばない働き方の実現に繋がります。
多様な人材の育成と活用では、グローバルで勝ち抜ける強い個の育成を実現するため、語学力を含めたグローバルビジネス力、海外経験の強化など、グローバル経営に向けた人材育成にも力を入れています。
また、ダイバーシティを推進することで、育児・介護者等向けに、在宅勤務制度や時間単位有給制度など多様な支援策を導入しているほか、管理職の女性採用、優秀外国人の基幹ポスト登用、障がい者雇用も積極的に行っています。
ダイバーシティ推進の取り組みの結果、管理職に占める女性の割合は2021年度で16.1%、基幹ポストに占める外国人社員の割合は2021年度で27.7%、障がい者雇用の比率は、2021年度で法定雇用2.35%を上回る2.47%の雇用実績があります。
2-4 コーポレート・ガバナンスの強化
コーポレート・ガバナンスとは、「企業統治」と訳され、指針や規範に沿った事業活動、企業価値向上に努めているかを監視する体制のことです。コーポレート・ガバナンスは、持続的な成長を遂げるために必要な仕組みであり、株主に対して利益の最大化を図る目的が根本にあります。
富士フイルムでは、コーポレート・ガバナンスを持続的な成長および企業価値向上の基盤となることを認識し、内部統制と監査体制を強化することで、より強固なコーポレート・ガバナンス体制の構築に努めています。
富士フイルムのコーポレート・ガバナンス体制は、「取締役会」を統括機関とし、委員会や各部署から挙げられた重要事項に関しては、「経営会議」が審議し、取締役会が承認する体制となっています。
コーポレート・ガバナンス強化の取り組みでは、監査組織の統合とITを活用した高度な監査手法の導入で監査力向上を図っています。
2017年9月にグループ各社の監査組織を統合した「グローバル監査部」を設置することで、グループ各社からの迅速な報告・対処が可能になっています。ITを活用した高度な監査手法の導入では、ITやAIによる独自のシステムにより、不正の兆候や問題点の早期発見が可能となっています。
3 富士フイルムのESG・サステナビリティに関する外部評価
富士フイルムのESG・サステナビリティの取り組みは、外部機関から高い評価を受けています。下表は、2022年9月時点のESG指数と主な受賞実績を紹介です。
ESG指数/受賞実績 | 概要 |
---|---|
FTSE4Good Global Index | 世界主要企業約3,000社を対象とするESG指数 |
FTSE Blossom Japan | ESG評価の高い日本企業のパフォーマンスを測定する指数 |
S&P Global Sustainability Yearbook Member 2022 | ESG評価の高い世界の企業から構成された指数 |
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 | ESGの観点で銘柄を選定する指数 |
MSCI日本株女性活躍指数 | 性別多様性の指向・維持を行う企業から構成される指数 |
S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数 | 炭素効率性が高く、炭素排出量に関する情報開示を十分に行っている日本企業の組入比率が高く設計されている指数 |
CDPサプライヤー・エンゲージメント・リーダー | 企業の気候変動課題に対する取り組みの最高ランク評価 |
健康経営銘柄2022 | 健康経営に取り組んでいる企業を選定 |
DX銘柄2022 | DX(デジタルトランスフォーメーション)に積極的に取り組む企業を選定 |
健康経営優良法人 | 健康経営を実施している企業を評価・顕彰 |
第5回 日経スマートワーク経営調査 5つ星獲得 | 人材活用力、イノベーション力、市場開拓力の3つの観点から企業を総合的に評価 |
4 富士フイルムの業績・株価動向
富士フイルム(4901)は、株価が景気動向に左右されやすい景気敏感株に該当するほか、海外売上比率が高いので、海外の経済状況などにも注意を払う必要があります。
2020年(3月期)は、新型コロナウイルスの感染拡大により、インスタントカメラや事務機などの販売が落ち込んだことで、純利益は前期比9%減の1,249億円となりました。しかし、新型コロナ治療薬「アビガン」の業績寄与期待から、株価は1年を通して3.9%の上昇となっています。
2021年(3月期)は、医療機器や医療品などのヘルスケア事業が順調に拡大したことで、純利益は前期比44%増と最高益を記録しています。また、アビガンの承認期待から、株価は1年を通して56%の大幅上昇となっています。
2022年(3月期)は、好調なヘルスケア事業に加えて、世界的な半導体需要の高まりから高機能材料の需要が伸びたことで、純利益は前期比17%増と2期連続で最高益を更新しています。2022年12月16日時点の株価は7,116円台で推移しています。
5 富士フイルムの株主優待内容
富士フイルムは、投資家の長期保有を目的に株主優待制度を導入しており、以下の通り7月と12月の年2回の株主優待を実施しています。
7月実施
保有年数 | 保有株式数 | 優待内容 |
---|---|---|
– | 100株以上 | 当社グループヘルスケア商品優待割引販売 |
1年以上 | 100株以上 | 当社グループヘルスケアトライアルキットおよびヘルスケア商品(計2000~3000円相当)プレゼント |
3年以上 | 300株以上 500株未満 |
当社グループヘルスケアキットおよびヘルスケア商品(4000~5000円相当)プレゼント |
500株以上 | 当社グループヘルスケアキットおよびヘルスケア商品(9000~10000円相当)プレゼント |
※ヘルスケア商品(化粧品・サプリメント)
12月実施
保有年数 | 保有株式数 | 優待内容 |
---|---|---|
– | 100株以上 | 当社グループヘルスケア商品優待割引販売 |
1年以上 | 100株以上 | 当社グループフォトブック等プリントサービス利用クーポン券(1000円分)プレゼント |
3年以上 | 500株以上 | 当社グループフォトブック等プリントサービス利用クーポン券(4000円分)プレゼント |
まとめ
富士フイルムは、写真フィルムの開発・製造で培った独自技術を応用し、医療関連事業をはじめ、半導体の高機能材料など、人々の生活インフラや健康的な社会作りに大きく貢献しています。特にヘルスケア部門では、AI技術を活用した医療製品・サービスで医療従事者の負担軽減や医療サービスへのアクセス向上に貢献し、医療の地域格差の解消に取り組んでいます。
ESG投資や富士フイルムに関心のある方は、ご自身でも調査を進めて検討してみてはいかがでしょうか。
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