第一三共は、循環器や感染症分野に強い国内大手の製薬会社です。人類の生命や健康にとって大きな課題であるがん治療にも力を入れており、開発した新薬が高く評価されています。
そこで、この記事では第一三共のESGやサステナビリティに対する取り組み内容を詳しくご紹介します。また、企業の特徴や業績・株価動向、配当推移なども解説するので、関心のある方はご参考ください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2022年12月14日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 第一三共の特徴
- 第一三共のESG・サステナビリティの取り組み
2-1.サステナビリティの考え方
2-2.環境に配慮した取り組み
2-3.社会に配慮した取り組み
2-4.ガバナンス強化に向けた取り組み
2-5.第一三共のESG・サステナビリティに関する外部評価 - 第一三共の業績・株価動向
- 第一三共の配当推移
- まとめ
1 第一三共の特徴
第一三共株式会社は、三共株式会社と第一製薬株式会社が合併して誕生した国内大手の製薬会社です。2005年9月28日に両社の共同持株会社として第一三共が設立され、2007年4月1日から新たな第一三共グループとしての事業を開始しています。
三共と第一製薬は創業から100年を超える長い歴史を持った企業で、三共は高血圧症治療や高コレステロール血症治療など循環器分野、第一製薬は抗菌剤など感染症分野に強みを持った企業同士の合併となりました。
合併後の第一三共は、売上高として国内製薬業界の中で武田薬品工業、大塚ホールディングス、アステラス製薬に次ぐ規模となっており、2022年3月期には8期ぶりに1兆円超えの売上高を記録しています。
また、製薬業界でブロックバスターと呼ばれる、ピーク時の売上が年1,000億円を超える新薬も作っており、最近では静脈血栓塞栓症などの治療に用いられる抗凝固剤「リクシアナ」が2021年度に3千億円近い売上を記録するなど、新薬の期待度も高い企業です。
特にここ数年は乳がんや胃がんなどの治療に用いられる抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる技術を利用した抗悪性腫瘍剤「エンハーツ」が、米国をはじめ日本や欧州でも承認されており、数年後には数千億円を超える規模にまで成長すると期待されています。
世界における各地域別の2021年度売上高は、日本53.4%、北米22.6%、欧州13.3%となっています。日本では、新薬(医療用医薬品)やワクチン、ジェネリック、OTC医薬品という4つの事業を展開していますが、売上高の4分の3は新薬事業によるものです。
このほか、薬局などで市販されているOTC医薬品には解熱鎮痛剤「ロキソニン」や総合かぜ薬「ルル」などの市販薬もあり、世間からの認知度も高い製薬会社の1つとなっています。
2 第一三共のESG・サステナビリティの取り組み
第一三共は、「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」の実現に向けてESG経営を推進しています。こちらでは、第一三共のサステナビリティに対する考え方や具体的なESGへの取り組み内容について確認しておきましょう。
2-1 サステナビリティの考え方
第一三共は、「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」ことをパーパス(存在意義)、「革新的な医薬品を継続的に創出し、多様な医療ニーズに応える」ことをミッションと捉え、企業理念として掲げています。
2021年4月5日に発表された第5期中期経営企画では、2030年ビジョンとして「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」の実現に向け、ESGの視点を経営に取り込んだESG経営で社会課題の解決を目指すことを表明しています。
また、持続的成長に向けて取り組むべき以下の重要課題(マテリアリティ)を8つに特定し、革新的医薬品の創出や医療アクセスの拡大など、社会と第一三共の持続的な発展につながる取り組みを促進しています。
分野 | マテリアリティ |
---|---|
事業に関わるマテリアリティ | 革新的な医薬品の創出 |
高品質な医薬品の安定供給 | |
高品質な医療情報の提供 | |
医療アクセスの拡大 | |
事業基盤に関わるマテリアリティ | 環境経営の推進 |
コンプライアンス経営の推進 | |
企業理念の実現に向けたコーポレートガバナンス | |
競争力と優位性を生み出す多様な人材の活躍推進と育成 |
2-2 環境に配慮した取り組み
第一三共では環境経営の推進によって脱炭素社会やサーキュラーエコノミー、自然共生社会の実現など環境負荷低減に向けた取り組みが進行中です。
脱炭素社会の観点からは、長期目標として2050年にカーボンニュートラルを掲げており、CO2排出量を2025年度までに2015年度比42%、2030年度までに同比63%まで削減する目標を立てています。
具体的には、水素エネルギーの利用、電気自動車や次世代蓄電池など実装可能な脱炭素技術を積極的に活用することで、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減に向けて取り組んでいます。
循環型経済を目指すサーキュラーエコノミーの観点からは、製造・包装工程での省資源化や不要物・廃棄物の分別徹底など廃棄物削減に向けた取り組みが進行中です。事業所内でのOA用紙の使用量削減や3R(リデュース、リユース、リサイクル)推進、脱プラスチックに向けてバイオマスプラスチックを利用した包装容器への転換なども進めています。
工場や研究所では、土壌・地下水の汚染防止など自然共生社会の実現に向けた取り組みも進行中です。事業活動に伴う排気や排水、廃棄物による大気・水・土壌などへの負荷低減に取り組むことで生物多様性への影響回避を進めており、希少植物の保護や植林などの活動も行っています。
2-3 社会に配慮した取り組み
第一三共は、マテリアリティとして特定された「競争力と優位性を生み出す多様な人材の活躍推進と育成」や「医療アクセスの拡大」などの課題解決に向けた取り組みで、社会に配慮した活動も実践しています。
例えば、人材の活躍推進と育成では、女性の上級幹部社員比率30%の目標設定や国内の全社員を対象としたLGBT研修、外国籍人材の積極的な採用などによって多様な人材を受け入れ、その能力を発揮してもらう職場環境づくりが進行中です。
医療アクセスの拡大は、国連の定めたSDGsの達成すべき目標にも掲げられている課題で、研究開発の促進や地域医療基盤の強化などに貢献する取り組みが進められています。
また、医薬品のアクセス向上として、有効な治療法が存在しない患者に対する未承認薬へのアクセス拡大や偽造医薬品対策など、大手製薬会社ならではの取り組みが実践されている点も、第一三共の社会に配慮した取り組みのポイントです。
2-4 ガバナンス強化に向けた取り組み
第一三共では、迅速な意思決定や経営と執行に対する監督・監査機能強化などコーポレートガバナンス体制の構築、コンプライアンス経営の推進によってガバナンス強化に向けた取り組みを進めています。
取締役会では、透明性の確保と監督機能向上のため社外取締役が議長を務めています。また、コーポレートガバナンスに係る開示の充実や透明性向上を図るため、各種媒体を通じた情報開示も積極的に進めており、ステークホルダーの理解向上に向けた取り組みを推進しています。
コンプライアンス経営の推進では、「第一三共グループ個人行動規範」を制定し、グローバル統一研修を実施するなど、全役員と社員一人ひとりのコンプライアンス意識向上に向けた取り組みが進行中です。
取引先に対するサステナブル調達への理解促進と、コンプライアンスリスクの極小化にも努めており、社内外での啓発や研修強化などの取り組みも進めています。
2-5 第一三共のESG・サステナビリティに関する外部評価
第一三共は、ESG投資で大きな影響力を持つ英国の国際環境NGO「CDP」から気候変動対策の調査において最高評価である「Aリスト」に2年連続で選出されており、気候変動質問書の「サプライヤー・エンゲージメント評価」においても3年連続で最高評価の「リーダー・ボード」に選出されるなど、国際的に高い評価を受けています。
また、日本でも従業員などの健康に配慮した健康経営企業を選出する経済産業省の健康経営優良法人認定制度において、大規模法人の中で上位500社のみが認定される「ホワイト500」に5年連続で認定されています。
このほか、様々なESGへの取り組みに優れた企業が選定される以下のESG指数にも採用されています。
指数算定会社 | 指数 |
---|---|
S&P Dow Jones Indices(米国) | ①Dow Jones Sustainability Indices |
FTSE Russell(英国) | ②FTSE4Good Index Series |
③FTSE Blossom Japan Index | |
④FTSE Blossom Japan Sector Relative Index | |
MSCI(米国) | ⑤MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 |
⑥MSCI日本株女性活躍指数(WIN) | |
SOMPOアセットマネジメント | ⑦Sompo Sustainability Index |
中でも、③⑤⑥の指数は世界最大級の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理独立行政法人)がESG投資のために採用している指数で、④も2022年から新たに採用された指数です。日本で拡大を続けるESG投資の市場においてGPIFの影響力は大きいため、第一三共は今後もESG投資の対象銘柄として存在感を強めていくことが予想されます。
3 第一三共の業績・株価動向
第一三共の業績と株価動向についてご紹介します。以下は、過去5期分の第一三共の売上高、営業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益(グループ企業の親会社持ち分利益などを加算した利益)をまとめた表です。
(単位:百万円)
決算期 | 2018年3月 | 2019年3月 | 2020年3月 | 2021年3月 | 2022年3月 |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 960,195 | 929,717 | 981,793 | 962,516 | 1,044,892 |
営業利益 | 76,282 | 83,705 | 138,800 | 63,795 | 73,025 |
当期利益 | 60,282 | 93,409 | 129,074 | 75,958 | 66,972 |
売上高は、2018年3月期から9,000億円を超える水準で推移しており、2022年3月期には8期ぶりに1兆円超える水準となっています。営業利益は2020年3月期〜2021年3月期にかけて大きく減少していますが、前年に子会社や有形固定資産の売却益が計上されていたことに加え、「エンハーツ」などの新薬に研究開発費を投じたことなどが理由です。
2022年10月31日の第2四半期決算発表では、2023年3月期の業績予測が当初発表よりも上方修正され、売上高1兆2,500億円、営業利益1,300億円、当期利益1,000億円と大幅な増収増益見込みとなっています。
次に株価動向についてです。以下は、第一三共(4568)の2018年以降の四半期ごとの終値をまとめた表です。2020年10月1日に1株を3株にする株式分割を実施しており、 カッコ内は株式分割前の換算株価となります。
(単位:円)
項目 | 3月末(期末) | 6月末 | 9月末 | 12月末 |
---|---|---|---|---|
2018年 | 3,526 | 4,237 | 4,925 | 3,511 |
2019年 | 5,100 | 5,635 | 6,804 | 7,228 |
2020年 | 7,434 | 8,806 | 3,229 (9,687) |
3,535 (10,605) |
2021年 | 3,225 (9,675) |
2,394.5 (7,183.5) |
2,979.5 (8,938.5) |
2,925 (8,775) |
2022年 | 2,680 (8,040) |
3,437 (10,311) |
4,042 (12,126) |
- |
第一三共の株価は、2018年3月末〜2022年9月末にかけて約3.5倍と大きく上昇しており、2022年12月14日の終値も4,502円(分割前換算13,119円)と好調を維持しています。2022年8月には中外製薬(4519)や武田薬品工業(4502)を抜いて時価総額が国内製薬業界で首位に躍り出るなど株価は右肩上がりです。
一方、不安材料がないわけではありません。第一三共は株価上昇の要因となっている「エンハーツ」のADR技術について過去に第一三共と共同研究を実施していた米国のSeagan社から特許権侵害の訴訟を提起されており、陪審評決では特許権侵害があったと認定されています。
今後はSeagan社に対して2024年の特許満了までロイヤリティの支払いを決定する判決が出る見通しです。今後、訴訟の結果などによっては株価が大きく上下する可能性もあるため、注視することが大切です。
4 第一三共の配当推移
第一三共の配当推移についても確認しておきましょう。以下は第一三共の2018年3月期以降の配当推移をまとめた表です。
項目 | 年間配当額 | 中間 | 期末 | 配当性向 |
---|---|---|---|---|
2018年3月期 | 70円 | 35円 | 35円 | 76.7% |
2019年3月期 | 70円 | 35円 | 35円 | 48.5% |
2020年3月期 | 70円 | 35円 | 35円 | 35.1% |
2021年3月期 | 54円 (81円) |
40.5円 | 13.5円 (40.5円) |
68.9% |
2022年3月期 | 27円 (81円) |
13.5円 (40.5円) |
13.5円 (40.5円) |
77.3% |
(参照:第一三共「株主還元の実施状況」より 2018年3月期は決算短信より)
2020年10月1日に1株を3株にする株式分割を実施しているため単純比較はできませんが、分割前の金額に換算したカッコ内の数値で比較してみると、2021年3月期の年間配当額は70円から81円へと増配になっています。
2023年3月期は中間15円、期末15円の年間配当30円(分割前のベースで90円)と、当初予想の年間配当27円(同81円)から増配が発表されており、2期ぶりの増配となる見込みです。
まとめ
第一三共は新薬事業による売上比率の高い企業で、最近はがん治療の新薬への期待などで株価が大きく上昇しており、2023年3月期は大幅な増収増益が見込まれています。また、ESGやサステナビリティへの取り組みにも積極的なので、今後もESG投資などにより活発な取引が期待される銘柄となっています。
第一三共のESGやサステナビリティの取り組み内容に関心のある方は、この記事を参考にご自身でも調査を進めてみてください。
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