調味料の「味の素」や「ほんだし」で知られる味の素株式会社は、「うま味調味料」の元となるアミノ酸の独創的な製法・利用法の開発を通じて、食と健康の課題解決に貢献しているほか、温室効果ガス削減やアミノ酸発酵副生物を活用したバイオリサイクルを実施するなど、環境課題にも積極的な取り組みを行っています。
この記事では、味の素のESG・サステナビリティの取り組みや実績を詳しくご紹介します。株価動向や株主優待、配当情報なども解説しているので、ESG投資に興味のある方は、参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年2月20日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 味の素の特徴
- 味の素のESG・サステナビリティの取り組み
2-1.環境への取り組み(E)
2-2.社会への取り組み(S)
2-3.ガバナンス強化への取り組み(G) - 味の素のESG・サステナビリティに関する外部評価
- 味の素の業績・株価動向
- 味の素の株主優待・配当推移
- まとめ
1 味の素の特徴
味の素は、創業から130年を迎える世界最大のアミノ酸メーカーとして、アミノ酸機能を活用した調味料や加工食品、冷凍食品、ヘルスケア製品の開発・製造・販売を130か国・地域で行っています。
味の素の主な事業は、「食品事業」と「アミノサイエンス事業」です。食品事業では、「味の素」「ほんだし」「Cook Do」などのブランドで、調味料や加工食品、冷凍食品を販売しています。味の素が展開するこれらの商品は、減塩・減糖といった健康ニーズを満たし、調理の簡便化ニーズ等にも対応しています。
アミノサイエンス事業では、アミノ酸を用いた健康食品やスポーツ栄養補充食品をはじめ、抗菌剤や医薬品、化粧品など、幅広い分野で高品質なアミノ酸やその他食料原料を用いたヘルスケア製品を販売しています。
また、PCやタブレット端末などの性能向上に貢献する電子材料も製造しており、高性能パソコン向けの層間絶縁材料「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」では、世界シェアでほぼ100%を占めています。
今後はグローバルな競争激化に備え、DX(デジタルトランスフォーメーション)を土台とした効率性・成長性の高い事業モデルの変革を進めていく方針です。
2 味の素のESG・サステナビリティの取り組み
味の素は「食と健康の課題解決企業」を宣言しており、2030年までの成果として「10億人の健康寿命の延伸」と「環境負荷を50%削減」を掲げています。味の素のESG・サステナビリティの取り組み内容について詳しく見ていきましょう。
2-1 環境への取り組み(E)
味の素は、世界中の人々の健康増進と食習慣の改善に貢献するとともに、温室効果ガス、プラスチック廃棄物、フードロスなどの環境負担に対して以下5つの重要課題を設定しています。
気候変動への適用とその緩和
味の素では、事業所や工場において再生可能エネルギー電力の利用を進めており、2050年までに使用電力100%再エネ化を約束しています。
例えば、生産・輸送時においては、商品の紙箱をなくし個袋を外装で包装することで、CO2排出量削減および廃棄物削減に貢献しています。環境配慮製品には、「できるだけ環境に配慮した商品を購入したい」という消費者のニーズに応えるため、「味なエコ」マークを表示しています。
これらの気候変動に対する取り組みが評価され、味の素は、国際的な環境非営利団体であるCDPより「気候変動Aリスト(最高評価)」に、2年連続(2020年度、2021年度)で選定されています。
資源循環型社会実現への貢献
味の素はプラスチック廃棄物ゼロ化を目指し、プラスチック使用量の削減および使用するプラスチックのリサイクル可能な素材への転換を進めています。
具体的には、食品生産において販売予測の精度向上と、きめ細かな調達を進めることで、ムダになる原材料や梱包資材の削減に努めています。また、使用するプラスチックは、リサイクルを容易にするモノマテリアル梱包資材への転換を進めています。製造過程で生まれる副生物は、農作物の肥料として循環活用できるため、化学肥料由来の温暖化ガス削減に貢献しています。
フードロスの低減
世界的な食品需要増加により、フードロスの低減は持続可能な社会の実現に欠かせない要素です。味の素では、調達から消費・廃棄までの製品ライフサイクル全体でフードロスの低減を進めています。
例えば、酵素技術を活かした食品では、「炊き立ての食感を長時間維持」や「冷めても美味しい」等が実現されており、経時劣化抑制によるフードロス低減が期待されています。
また、消費者が毎日の食卓で食材をムダなく、おいしく食べ切ることを目的に、味の素では、食材をムダなく使った「エコうまレシピ」等を企業サイトでも公開しています。
持続可能な原材料調達
味の素では、原材料の調達から生産、加工に至るまでの工程で、温室効果ガス排出、プラスチック廃棄物、フードロスなどの環境負荷低減に加えて、労働・人権問題等をサプライチェーン全体で取り組んでいます。
具体的には、世界的な認定基準を満たした原材料の調達を推進しているほか、サプライチェ―ンに対しては、社会的・環境的側面の持続可能性確保を要請しています。また、サプライチェーン向けに、法令違反や労働・人権問題等の通報窓口「サプライヤーホットライン」を開設しており、コンプライアンス逸脱の早期発見と是正を図っています。
水資源の保全
世界的な人口増加に伴って水の需要増が見込まれる中、水資源の保全は、持続可能な社会の実現に欠かすことのできない要素です。そこで、味の素では生産における水使用量・排出量削減に取り組むことで、2030年までに水使用量対生産量原単位を2005年度比で80%削減することを目標としています。具体的な取り組みとして、生産時の水の消費と排水の管理徹底や、生産プロセスの最適化に努めています。
2-2 社会への取り組み(S)
味の素では、食とライフスタイルに起因する健康課題解決や持続的な企業成長を実現するために、以下4つの重要課題を設定しています。
食と健康の課題解決への貢献
味の素では、過剰な塩分摂取という課題にフォーカスを当て、減塩レシピ「Smart Salt(スマ塩)」や減塩食品の「味の素減塩シリーズ」を通じて、うま味による減塩の認知および減塩の実践を支援しています。
また、製品の栄養成分をスコアで可視化できる「味の素グループ栄養プロファイリングシステム」を導入することで、栄養価値を高めた製品の開発が可能になっています。従業員に対しても、職場での健康的な食事の提供や、栄養リテラシー向上を目的とした栄養教育を行っています。
生活者のライフスタイルの変化に対する迅速な提案
味の素では、ライフスタイルの変化や多様化するニーズに合わせて、様々な価値を提供しています。現代生活の多忙化により、調理の時間短縮というニーズが高まる中、味の素の冷凍食品は電子レンジで手軽に調理ができるため、忙しい人々にとって便利な食品です。
また、次世代を担う「Z世代(1995~2009年生まれ)」をターゲットにした製品開発にも力を入れており、カップお粥シリーズの「粥粥好日」「鹹豆漿粥」「南瓜粥」「麻辣火鍋粥」は、電子レンジで加熱するだけなので調理が簡単で、ヘルシーかつ満足感を得られるのが特徴です。
製品の安全・安心の確保
味の素は、食品や調味料などの製造・販売を行う企業として、品質保証や適切な情報開示に最善を尽くしています。品質に関する法令や規格の遵守はもとより、製造工程全体にわたる品質管理の徹底や、従業員の品質意識向上を目的に、品質に関する研修を定期的に実施しています。
また、品質に関する情報提供も積極的に行っており、製品に含まれるアレルギー物質をはじめ、品質保証の取り組み内容を企業サイトで公開しています。
多様な人財の活躍
味の素は、グローバル企業として従業員の能力開発や多様な人財確保に力を入れています。例えば、従業員の能力開発では、「ASVの自分ごと化(当事者意識を持って取り組む)」を促進しています。「ASV」とは、「Ajinomoto Group Shared Value」の略で、事業を通じて、社会価値・経済価値を提供する行動を指します。
「ASV自分ごと化」に向けた取り組みでは、社長との対話や個人目標の設定および目標の発表会、ASVにおける取り組みを表彰する「ASVアワード」などを実施しています。
多様な人財確保では、留学制度を通じて外国人採用を積極的に行っているほか、女性人財への機会提供やキャリアアップに向けた育成サポートも実施しています。
2-3 ガバナンス強化への取り組み(G)
味の素では、コーポレート・ガバナンスを重要な経営基盤の一つと位置付けており、「ステークホルダーの意見を反映させる適切な執行の監督」と「スピード感のある業務執行」の両立を目指しています。
味の素のガバナンス強化への取り組みでは、監査体制の整備に加えて、従業員のコンプライアンス教育や意識調査を実施することで、グループ従業員全員へのコンプライアンス強化およびグループポリシーの浸透を図っているほか、役員・従業員が利用できるホットライン(通報窓口)を設置することで、法令違反やグループポリシー逸脱行為の未然防止に努めています。
3 味の素のESG・サステナビリティに関する外部評価
味の素のESG・サステナビリティの取り組みは、外部から高い評価を受けています。以下では、味の素が構成銘柄として選定されているESG指数と受賞実績(2022年8月31日時点)の一部をご紹介します。
ESG指数/受賞実績 | 概要 |
---|---|
Dow Jones Sustainability World Index | S&P Dow Jones Indices社が発表するESGに優れた企業を選定するESG指数 |
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 | MSCI社が発表するESG評価の高い企業を選定するESG指数 |
SOMPOサステナビリティ・インデックス | SOMPOアセットマネジメント社が発表するESGの取り組みに優れた企業で構成されるESG指数 |
CDP「気候変動Aリスト(最高評価)」に3年連続選定 | 国際的な非営利団体CDPが主催する企業の気候変動対応の取り組みを評価する情報公開プログラム |
「なでしこ銘柄」に選定 | 経済産業省と東京証券取引所が実施する女性活躍推進に優れた企業を選定する制度 |
「健康経営優良法人」において「ホワイト500」に認定 | 経済産業省と日本健康会議が実施する優良な健康経営を実施する企業を顕彰する制度 |
上記に加え、2023年2月には、環境省が主催する第4回「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」の環境サステナブル企業部門において2年連続となる金賞を受賞しています。受賞理由は下記となっています。
【環境サステナブル企業部門】<金賞>受賞理由
強力なリーダーシップの下、サステナビリティの観点で企業価値向上を追求していく独自のガバナンス体制が敷かれており、各環境課題に対するリスク・機会が整理されているだけでなく、サプライチェーンの各プロセスが抱える問題を整理した上で課題解決に臨んでいる姿勢を高く評価する。環境負荷低減に向けスコープ別にアクションプランを明確にし、プラスチック使用量削減などに取り組んでいることも評価できる。(審査事務局発表の受賞理由より抜粋)
引用:環境省「第4回ESGファイナンス・アワード・ジャパン 受賞理由」
4 味の素の業績・株価動向
2020年(3月期)は、動物栄養事業の減収や欧州の製造設備などに関わる減損損失計上により、純利益は前期比37%減となりましたが、食品事業を中心に、値上げによる採算改善から株価は1年を通して28%の上昇となっています。
2021年(3月期)は、新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり需要で、家庭用の調味料や冷凍食品の販売が伸びたことで、純利益は前期比215%となり、2022年の海外食品の販売増加も期待され、株価は1年を通して49%の大幅上昇となっています。
2022年(3月期)は、原材料高により食品事業が不調だったものの、リモートワークや5G需要を取り込む形で、半導体需要が好調だったことで、純利益は前期比27%増、株価は1年を通して15%の上昇となっています。
2023年(3月期)は、調味料や肉、野菜などの価格高騰を受け、引き続き値上げを進める方針です。ただし、値上げによる買い控えの懸念もあるため、食品以外のヘルスケア・半導体で利益を伸ばせるかに期待が集まっています。2023年2月20日時点の株価は、4,123円台で推移しています。
5 味の素の株主優待・配当推移
味の素では、味の素株式会社の株式を100株以上および継続半年以上保有している株主に対して、年1回株主優待を実施しています。優待内容と贈呈基準は以下の通りです。
所有株式数 | 保有期間 | 優待内容 | 送付時期 | |
---|---|---|---|---|
100株以上500株未満 | 100株以上を継続半年以上 | 「味の素グループ製品詰め合わせセット」または寄付 | 1,500円相当 | 7月下旬から8月初旬(予定) |
500株以上1,000株未満 | 3,000円相当 | |||
1,000株以上 | 4,000円相当 | |||
1,000株以上を継続3年以上 | 「味の素グループ製品(複数の中から選択可)」または寄付 | 7,000円相当 | 9月下旬(予定) |
また、味の素の株主になると配当を受けられるメリットもあります。味の素の配当推移は以下の通りです。2023年3月期は、堅調な業績が予想されており、前期比10円増の62円の見通しです。
項目 | 2018年3月期 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期(予想) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
年間配当金(円) | 第1四半期 | – | – | – | – | – | – |
第2四半期 | 15.00 | 16.00 | 16.00 | 16 | 24 | 29 | |
第3四半期 | – | – | – | – | – | – | |
期末 | 17.00 | 16.00 | 16.00 | 26 | 28 | 31 | |
合計 | 32.00 | 32.00 | 32.00 | 42 | 52 | 62 | |
配当金額(百万円) | 18,207 | 17,570 | 17,570 | 23,060 | 28098 | – | |
配当性向(%) | 2.9 | 2.9 | 3.1 | 4.0 | 4.3 | – |
まとめ
味の素は「食と健康」の分野でグローバルに事業展開するメーカーとして、栄養とおいしさの両立を追求し、体に良い製品・サービスを提供することで、健康で豊かな食生活の実現に貢献しています。業績に関しては、世界的な健康ニーズの高まりを背景に堅調推移しており、今後は効率性・成長性の高い事業ポートフォリオへの再構築を進める方針です。
味の素のESGやサステナビリティの内容に関心のある方は、この記事を参考にご自身でも調査を進めてみてください。
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