NFTデータ分析サイトのNonFungibleが、2021年第三四半期のNFT調査レポート「NFT Quarterly Report Q3 – 2021」を公開しました。今四半期に起こったNFTに関する重要な出来事や、ユーザー数の推移、市場の動向について詳しくまとめられています。
NFTマーケットは、今年3月に大きなピークを迎えたとされ、関係者からも「バブルは崩壊する」とまで言われていました。そんなNFT市場は、第三四半期だけで取引額60億ドルを突破するなど、破竹の勢いで成長を続けています。NFT市場が急速な拡大を続ける理由を、公開されたデータやNFTの持つ多様な特徴に着目しながら、振り返っていきましょう。
目次
- 第三四半期の振り返りとグローバルメトリク
1-1. 第三四半期の主なニュー
1-2. NFT市場の推移 - 暗号資産市場全体におけるNFTの状況
2-1. NFT市場の分布
2-2. 各分野ごとの一次・二次市場分布のまとめ - どんなNFTが売れている?トレンドは?
3-1. 流動性と資産平均価格の傾向
3-2. 各分野ごとの売上最高値 - まとめ
第三四半期の振り返りとグローバルメトリクス
まずは、2021年第三四半期にあったNFTに関する大きなニュースやグローバルメトリクスについて見ていきましょう。今期は、様々な業界からのNFT市場への参入が相次ぎ、マーケットの成長を後押しした形となりました。
第三四半期の主なニュース
ここでは、今期発表された代表的ニュースを月ごとにピックアップしてみます。
6月
- 国際オリンピック委員会(IOC)が五輪公式ライセンスのピンバッジをNFTで販売
- McLaren RacingがTezosブロックチェーン上にNFTプラットフォーム構築
- 「Webの父」Tim Berners-Lee氏がソースコードのNFTを543万ドル(約6億円)で売却
- Twitterが140点限定のオリジナルNFTをユーザーに無料配布
7月
- 2021年上半期のNFT販売量が25億ドル(約2,840億円)を突破
- Samsungがブロックチェーン企業のAnimocaに5,000万ドルの追加資金調達を実施
- OpenSeaがシリーズBファンディングで1億ドルを調達
- Coca Colaがバーチャルプラットフォーム「Decentraland」にてNFTエコシステムに参加
- Louis Vuittonがゲーム事業を開始し、スマホ向けゲームアプリをリリース
8月
- Sony MusicがNFTマーケットプレイス「MakersPlace」に3,000万ドル(約3億円)の資金提供
- Dolce & Gabbana がNFTコレクションを発表
- NFTプラットフォーム「Fractional」が790万ドル(約9億円)の資金調達
- Yield Guild Games(YGG)がa16zの主導で460万ドル(約5億円)を調達
9月
- 仏スタートアップのSorareがファンタジースポーツNFTゲームで6億8,000万ドル(約770億円)の資金調達
- 大英博物館が葛飾北斎の作品200点以上をNFTとして販売
- TikTokがLil Nas X、Gary Vee、GrimesらとともにEthereum NFTをリリース
- Anthony Hopkins氏の次期ホラー映画「Zero Contact」がNFTプラットフォーム「Vuele」で公開されることが決定
このように振り返ってみると、ファッションブランド、スポーツ、アート、ソーシャルメディアなど、各業界の大手企業が次々とNFT市場に参戦していることがよく分かります。
NFT市場の推移
続いて、NFT市場の動きに着目してみましょう。
2021年第三四半期において、NFT取引額は10億ドルの閾値を大幅に更新し、イーサリアムブロックチェーンだけでも約60億ドルの取引が行われました。
2021年第二四半期と比較すると、アクティブウォレット数(+103%)、買い手(+167%)、売り手(+207%)と、全ての指標がものすごい勢いで増加を続けています。総取引額に関しては、656%もの成長を記録しています。
これは、これまでのNFTユーザーが「新規参入者」から「NFTトレーダー」へと変わりつつあることを示唆しているのかもしれません。
続いて、週ごとのユーザー数(アクティブウォレット数、買い手の数、売り手の数)の推移についてです。2021年7月末から、アクティブウォレット数は約3万から徐々に増加を始め、8月末ごろにはピークとなる14万近くにまで到達しています。ピーク後は一時ユーザー数が低下したものの、今期終盤では再びユーザー数は上向きとなっています。
過去最高のアクティブウォレット数を記録した8月末には、それと同時に米ドル取引量も史上最高額の25億ドル(約2,800億円)以上を記録しています。このピークの後も、週次取引量は以前と比べると約3倍となる3億ドル(340億円)前後で安定しています。
最後にNonFungibleによる独自の指標を基に作成された、ユーザーのロイヤルティについてのデータです。これは、ユーザーによるNFTへのアクティブ度合いを数値化したものです。もしユーザーが半年に一度しかNFTプロジェクトに関わらないとスコアは低くなり、逆に、全てのユーザーが毎日ログインを続ければ、保持率は100%になる仕組みです。
2021年第二四半期と比較すると、ほとんどの分野でロイヤルティは大幅に上昇しましたが、「Collectible(収集目的)」では0.7%、「スポーツ」では2%近くの減少が確認されました。この中で最も大きく数値が上昇したのは「メタバース(+7.13%)」でした。
暗号資産市場全体におけるNFTの状況
続いてここからは、暗号資産市場全体におけるNFTの状況に焦点をあてていきましょう。NFT市場のパフォーマンスをモニタリングする上では、単なる取引額だけではなく、市場のサステイナビリティ(持続可能性)や健全性を示す指標に注目する必要があります。
NonFungibleでは、市場の動きをより詳しく理解するために、以下のような多様な指標が用いられています。
- Total Volume(総取引量):米ドルや暗号資産の取引量を示す基本的指標
- Liquidity(流動性):市場の資産の安定度合い、健全性を表す指標
- Assets Average Price(資産の平均価格):買い手の、資産に対する関心を示す指標
- Primary & Secondary Market Distribution(一次・二次市場の分布):流通市場の関心を示す指標
- Highest Sales(最高額販売):高価な資産につけられた特別な価値を示す指標
- Sales Distribution Per Segment(分野ごとの売上分布):NFT業界の方向性、トレンドを示す指標
- Sales Distribution Per Project Within A Segment(各分野のプロジェクトごとの売上分布):各分野における、成長を促す要因を示す指標
これらの項目に着目しながら、実際のデータを見ていきましょう。
NFT市場の分布
2021年第三四半期におけるNFT市場(米ドル取引)の内訳は以下の通りです。
コレクション(76%)、アート(9%)、ゲーム(7%)、ユーティリティ(4%)、メタバース(2%)、スポーツ(1%)となっています。第二四半期に起きたコレクターズアイテムのブームが今期に入っても続いたことで、NFTコレクションの割合が大きくなりました。
また、8月16日の週のイーサリアムのNFT取引量の実に90%以上が、コレクターズアイテムに関連していたというデータも出ています。これは、CryptpunksやBored Ape Yacht Clubなどのいわゆる「スターアイテム」の価値が一気に上昇したことなどが要因だと考えられます。
米ドル取引量と販売量にも、特筆すべき関係性が示されました。赤色のメタバース領域、青色のNFT収集領域、黒色のゲーム領域の3分野で販売数が顕著に目立つ結果となりました。この3分野は、9月にやや勢いを失ったようにも見えましたが、今期末には再び増加傾向に転じています。
一方、ユーティリティ領域、アート領域、スポーツ領域の取引量はかなり少なく、ほとんど確認されませんでした。これは、資産の平均価値が高く、ユーザーが資産を保有する傾向が高いことを示しています。
各分野ごとの一次・二次市場分布のまとめ
最後に、各分野ごとの市場傾向をこちらで確認してみましょう。
アート領域
第三四半期には21%しかなかった一次市場が49%を占めるようになりました。これは、人気アーティストが作成した作品が、ますます価値のあるものとして注目されていることを表しています。
収集領域
一次市場のシェア率は前期比2倍以上になり、この分野の市場全体における75%を占めています。これは、この分野が飽和状態に向かっていることを示しています。一方、二次市場は全体の25%しか占めていないにも関わらず、販売率は42%を記録しています。つまり、二次市場の価格が下がりつつあることが示されていると言えるでしょう。
スポーツ領域
スポーツは、一次市場と二次市場での販売数がほぼ均衡しています。このような珍しい現象は、スポーツ分野自体のパワフルな成長と、依然として活発な二次市場が要因だと考えられます。
ゲーム領域
ゲーム分野では、一次市場での販売数が前期28%から81%へと大幅に成長しました。これは、数週間で爆発的に価値が上昇した人気ゲーム「Loot」の影響が大きいと考えられます。
メタバース領域
メタバース領域における一次市場のシェアは、米ドル取引額と販売量の両方の観点から見ても、大幅に増加しています。「The Sandbox」などの人気プロジェクトが一定の販売額を記録し続けていることが要因だと思われます。
ユーティリティ領域
ユーティリティ市場の分布は、2021年第2四半期と比べ、大きな差はみられませんでした。二次市場での米ドル取引額は26%から33%へと、わずかに増加しています。
どんなNFTが売れている?トレンドは?
いよいよレポートも最終章です。ここでは、2021年第三四半期にどのようなNFTが売れたのか、そして、市場ではどのようなトレンドが起きているのかを読み解いていきましょう。
流動性と資産平均価格の傾向
2021年第三四半期において、最もLiquidiy(流動性)の高かったティッカーは、Art Blocksでした。8月にはArt Blocks上でDmitri Cherniak氏によって作成された「Ringers #879」というタイトルのNFTが1,800ETH(時価約6.4億円)で購入されたことが話題となっています。
また取引量第2位は、複雑な暗号資産のアドレスを、簡単で分かりやすい文字へと変換できるサービスのEthereum Name Services(ENS)でした。
取引量トップ10は以下の通りです。
これらのティッカーの平均価格推移についても見てみましょう。特筆すべきは、やはり取引量第一位のArt Blocksです。第二四半期と比較すると、今期は一次市場(+910%)、二次市場(+503%)と、大幅な成長を見せています。
取引量第2位だったENSも一次市場(+7%)、二次市場(+97%)と、市場規模は拡大を続けています。他に目立った成長を遂げたものは、Cryptoarteがあげられるでしょう。一次市場(+1,331%)、二次市場(+416%)を記録しています。
各分野ごとの売上最高値
続いて、各分野ごとのNFT取引における売り上げ最高値を確認してみましょう。
アート領域では、先程紹介したArt Blocks上にて取引された作品「Ringers #879」が、二次市場にて1,800ETH(約4.6億円)で落札されたものが最高額となりました。
ゲーム領域においては、Parallel Alpha上にて取引された「Parallel Masterpiece // Alpha // Ashes to Ashes」が二次市場にて360ETH(約1億2,000万円)で購入されています。
収集領域では、Cryptpunks上で「Ͼ #8857」が二次市場にて、2,000ETH(約7億5,000万円)で購入されたものが最高値となりました。
続いてメタバース領域では、The Sandboxの二次市場にて「Estate #68」が3,644,834 SAND(約1億円)で落札されたものが最高額を記録しています。
最後にユーティリティ領域においては、NFTfiにて取引された「Punk #6660」が一次市場にて250,000DAI(約2,800万円)で購入されました。
今期は2,000ETHを超す取引もありました。この背景には、イーサリアム自体の価格が高騰していることや、NFTの多くがイーサリアム上に発行されていることで、NFTの売買や取引額が上昇したことが要因の一つと言えるでしょう。
まとめ
ここ数か月だけでも、NFT業界の成長は信じられないほどの勢いで続いています。ほんの少し前に四半期での総取引額10億ドルを突破したかと思えば、今やたったひと月でその額を超える規模となっています。
この成長度合いを見ると、市場は止まらないほどの拡大フェーズに突入したような印象を受けますが、これらの米ドル建て取引額や取引量などの数字は、市場をモニタリングする上では最適な指標だとは言えません。今日、私たちが目にしている市場は、かつてないほどの流動性を備えていますが、それと同時に、これまで以上に変動の激しい市場へと変化しています。
NonFungible.comによると、NFTなどの再販率においては、赤字が大きくなっていることが確認されています。現在この結果に関しては調査中とのことですが、もしかしたらこの傾向は、特定のNFT(コレクターズアイテムなど)のバブルが崩壊し始めているサインかもしれません。
現在のNFT業界の成長は大変目覚ましいものですが「全ての投資家やステークホルダーは、今こそ注意を払い、冷静になるべきだ」とレポートでは述べられています。3桁を超すような急激な成長は、常に市場の不安定さや潜在的なリスクと隣合わせです。
NFT業界の成長を楽しみながらも、それと同時に、持続可能な未来を築くためにNFTの持つ本質に目を向けることが重要だと言えそうです。
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【参照ソース】Q3 2021 NFT Quarterly Report
株式会社techtec リサーチチーム
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