CBDC(Central Bank Digital Currency)は日本語では「中央銀行デジタル通貨」と訳されます。CBDCは既存の通貨と比べ、ブロックチェーンを使用することによる決済の効率化やコストの削減が期待されています。
現在、CBDCはまだまだ開発の初期段階にあります。ほとんどの国では、米国におけるデジタルドルのように、まだアイデアを検討し始めている段階に過ぎません。シンガポールや韓国では、すでにCBDCの試験的導入が進められていますが、大規模な展開にはまだ至っていません。
CBDCの導入を目指す国は、それぞれ独自のアプローチを進めていますが、一般的には、暗号資産の元祖であるビットコイン(BTC)を支えるブロックチェーン技術に基づく開発が進められています。
中でも、南米北部に位置するベネズエラは、CBDC開発に関して先進的な取り組みをしています。ベネズエラでは2018年の段階で、すでに独自の暗号資産Petroが立ち上げられていました。しかしPetroは様々な問題に悩まされ、実際に使用している人はほんのわずかです。
ベネズエラ以外では、中国政府が最もCBDCの開発が進んでいるとされています。すでにいくつかの都市でデジタル人民元を試験的に導入・運用しています。またアメリカ国内では、ボストン地区連銀とマサチューセッツ工科大学が連携して、デジタルドルの実験を行っています。
CBDCはまだ開発の初期段階のため、どのような機能が実装されるのかは未定ですが、ビットコインと政府発行通貨のハイブリッドのような形を取ることになると考えられています。具体的には「分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)」の導入が期待されています。
分散型台帳技術(DLT)とは
私たちはすでに、生活の中でデジタルのお金を使用しており、スマートフォンやクレジットカードを使って支払いをすることはもはや当たり前となっています。では、CBDCはこれらの電子決済とはどう違うのでしょうか。
CBDCもデジタルのお金ではありますが、現在普及する電子決済とは技術的な構成に違いがあります。CBDCは、ビットコインの基礎技術であるDLTを使用することで「お金を一から作り直す」ことを目指しているのです。
これまでの銀行システムは、ある人がどれだけのお金を保持しているか、どのような取引をしたのかを中央データベースである金融記録台帳に保存してきました。一方DLTでは、このような中央データベースではなく、取引履歴が複数コピーされ、国の中央銀行や各金融機関がデータを保存・管理する仕組みとなります。各金融機関がDLTを共有することで決済効率の向上が図られるのです。
この仕組みは「許可型ブロックチェーン」と呼ばれるもので、選ばれた少数の中央管理者のみがブロックチェーンにアクセスおよび機能変更をできるシステムとなっています。さらに中央管理者は、例えば「アリスはブロックチェーンを見るだけ、ボブはブロックチェーンを見ることも変更を加えることもできる」といったように、誰がブロックチェーンにアクセスし、それを使って何ができるかをコントロールすることができます。
この仕組みは、誰でもソフトウェアを実行し取引にも参加できるビットコインのようなパブリックブロックチェーンとは対照的です。
CBDCは暗号通貨とどう違う?
CBDCは、許可型ブロックチェーンを導入する、いわゆる中央集権的な仕組みです。CBDC
がこの許可型ブロックチェーンを選択する理由は、DLTとビットコインでは目的が大きく異なるためです。
ビットコインやイーサリアムのようなパブリックブロックチェーンには中央管理者が存在しません。しかしこのシステムは、政府とは相性が悪いとされています。政府がDLT技術を選択するのは、以下のような側面に対するコントロールを保持できるからです。
供給量
ビットコインには約2,100万BTCという上限がプロトコルに組み込まれており、この上限を変更することは非常に困難です。一方、各国政府はそれぞれ中央銀行を持ち、その国の通貨供給量を管理しています。これらの中央銀行は、通貨供給量を調整することで、経済の刺激や国の金利設定などの任務を担っています。これらの役割はCBDCでも変わることはないとされています。
運営者を持つこと
中央管理者(政府)が、分散型台帳の管理に参加する金融事業者を選びます。これは、誰でも許可なく実行できるビットコインとはシステムが異なります。
コスト削減と効率化
国際決済銀行(BIS)の実験によると、CBDCを使った決済は、これまで3-5日かかる国境を超えた決済を数秒に短縮し、コストを最大50%削減できると発表しています。CBDCでは、金融機関のつながりが強くなり、現在のようなバラバラの金融システムよりもスムーズにお金を動かせるようになることが期待されています。
支払いの追跡
DLTは、ブロックチェーン上にすべての金融取引を記録します。この点については、各国政府によって政策方針は異なります。監視体制が厳しいことで知られる中国のような一部の政府は、この金融情報を使って国民をより厳しく監視するようになる可能性があります。一方、米国連邦準備制度理事会(FRB)は CBDCを採用する場合、米国市民のプライバシーを保護することをより強く望む姿勢を見せています。
CBDCに関するよくある質問
ここからは、CBDCについてよくある質問を一緒に見ていきましょう。
①多くの国でCBDCの開発・導入が進む理由は?
ビットコインは2009年に開発されてから急激に成長し、それ以降にもビットコインの基礎技術を使用することでその他の暗号資産や金融商品が多く生み出されました。しかしCBDCに関して世界中の政府が真剣に検討し始めたのは、Facebookが支援するデジタル通貨プロジェクトであるLibra(現在の名称は「Diem」)が発表された2019年以降でした。
政府はFacebookのように広く普及している強力な企業が作った通貨が、政府によるお金の支配に対抗するものになりうるのではないかと考え始めたのです。これを受けて、自国の決済システムに同様の技術を導入できるかどうかの検討が加速していきました。
②CBDCは現在の貨幣に取って代わるものになるのか?
現段階においては、ほとんどの国はCBDCを貨幣の補助的な形態とみなしており、既存のインフラに取って代わる通貨になるとは考えられていません。
③どれくらいの国がCBDCの実験を進めている?
国際決済銀行(BIS)が発表した調査によると、対象となった66の中央銀行のうち80%が「CBDC導入のアイデアを検討している」と答え、10%が「一般市民向けのCBDCを立ち上げることに差し迫っている」と回答しています。
④すべてのCBDCがブロックチェーンを使用するようになる?
この質問に対する答えは「いいえ」です。多くの中央銀行では、ブロックチェーンを使用することで様々なメリットがもたらされるとしています。しかし一部の中央銀行は、ブロックチェーンを使用したCBDCはメリットの維持ができるとは限らないとして、懐疑的な見方を示しています。
まとめ
CBDCの発行については、現在も様々な国で協議されています。開発度合いも、各国により異なります。導入することによる決済の効率化やコスト削減などのメリットがある一方で、民間銀行や資金仲介機関への影響やプライバシー保護の観点から、導入にはまだまだ検討が必要となるでしょう。
こういった状況を受け、日本銀行は今のところデジタル円を発行する計画は立てていません。世界各国における今後のCBDCへの取り組みは、より一層注目を集めるものになっていくでしょう。
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監修者: 株式会社techtec リサーチチーム
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