23年3月2日、Web3.0インフラの開発および提供を行っているG.U.Technologiesは、日本企業が手がけているパブリック・ブロックチェーン「Japan Open Chain」上において実証実験をスタートしたことを明らかにしました。この実証実験は日本法に準拠するステーブルコイン発行に向けたもので、すでに東京きらぼしフィナンシャルグループ、みんなの銀行、四国銀行の三行が参加することが明かされています。
そこで今回は、日本のステーブルコインの実証実験を行う「Japan Open Chain」について、その概要や特徴などを詳しく解説していきます。
目次
- Japan Open Chainとは
1-1.Japan Open Chainの概要
1-2.Japan Open Chain開発の背景
1-3.現在参加しているバリデータ - Japan Open Chainの特徴
2-1.「プルーフ・オブ・オーソリティ(PoA)」を採用している
2-2.信頼性が高い
2-3.手数料トークン
2-4.発行体にも利用者にもメリットがある - 国内銀行各行による実証実験
3-1.日本法に準拠するステーブルコインを発行
3-2.実証実験への参加組織
3-3.Japan Open Chain発行のステーブルコインのメリット
3-4.想定されるユースケース - ロードマップ
- まとめ
①Japan Open Chainとは
1-1.Japan Open Chainの概要
「Japan Open Chain」とは日本企業によって運営が行われているブロックチェーンです。イーサリアムの完全互換チェーン構築を目指して開発しています。EVM(イーサリアム仮想マシン)との互換性を備えた、パブリック・エンドポイント型のコンソーシアム・ブロックチェーン・ネットワークです。
Japan Open Chainは「信頼できる日本企業が日本法に準拠した運営を行うこと」を目的として設立されており、世界中におけるWeb3.0関連のビジネスを推進することに尽力しています。
また、Japan Open Chainは今回のプレスリリースにおいて「パブリックブロックチェーン」であると説明されており、長期的には国内外において、個人および法人問わず利用が可能になるとみられています。
1-2.Japan Open Chain開発の背景
ブロックチェーン技術は日々急激な進化を見せており、そのマーケットは世界中で数十兆円を超える規模にまで成長しています。中でも、「ビットコイン(BTC)」に次ぐ時価総額を誇り、世界最大の参加者やコミュニティを有している「イーサリアム(ETH)」には、すでに数千万人が世界中から利用しているなど高い支持を得ています。
しかしその一方で、イーサリアムメインネットは大きな問題を抱えており、具体的には1秒間に約15回という非常に遅いトランザクションスピードや、高騰している手数料などが懸念されておりブロックチェーンの普及を妨げる大きな障壁になっています。
そんな中、ブロックチェーンでビジネスをよりやりやすい世界を作ることを目的として、Japan Open Chainが開発されました。Japan Open Chainは1000tpsを超えるトランザクションスピードを誇っているほか、安価な手数料を実現しており、これまでのイーサリアムメインネットの問題点を解決するとして期待されています。さらには、信頼できる日本企業が日本の法律および法体系を遵守し、運営者の顔が見える状態で運営を行っていることから、透明性が高く安心して利用できるブロックチェーンとしても注目を集めています。
1-3.現在参加しているバリデータ
「バリデータ(validator)」とは、ブロックチェーン上に記録されるデータの内容が正しいかどうかを検証するノードのことを指します。
現在、Japan Open Chainのバリデータには以下の組織が参加しており、今後はバリデータを最大21社まで、ネットワーク参加者を100社ほどまで拡大する予定だということです。
- G.U.テクノロジーズ株式会社
- コーギア株式会社
- 株式会社電通
- 株式会社みんなの銀行
- ピクシブ株式会社
- 学校法人 瓜生山学園 京都芸術大学
なお、コンソーシアムの管理者は「日本ブロックチェーン基盤株式会社」となっています。
②Japan Open Chainの特徴
2-1.「プルーフ・オブ・オーソリティ(PoA)」を採用している
Japan Open Chainでは、ノード同士の協調を行う「コンセンサスアルゴリズム(合意方法)」として「プルーフ・オブ・オーソリティ(PoA)」方式が採用されています。
ビットコインやイーサリアムメインネットで採用されている「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」方式が世界中の数万台に上るノードソフトウェアで運用されているのに対して、このPoA方式は、いくつかの限られた数の組織によってブロックチェーン運営を行う仕組みとなっており、その結果として秒間1000tpsを超える高速な取引スピードを実現することが可能です。PoA方式はPoWや「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」方式が「確率的なファイナリティ」しかないのに対して「完全なファイナリティ」を担保することが可能となっています。
Proof of Authorityは、イーサリアムの共同創設者であるGavin Wood氏によって、プルーフ オブ ステークメカニズムの特定の問題に対する解決策として考案されました。主にイーサリアムのテストネットで長年運用されているほか、世界中のネイティブチェーン構築事例で利用されたという実績があります。
2-2.信頼性が高い
Japan Open Chainはネットワークの信頼性を向上することを目的として、運営者を日本において社会的信頼を獲得している法人に限定しています。
また、日本の法体系に準拠した運営を行っているほか、イーサリアム財団や世界中の名だたる企業が加盟する、エンタープライズ向けイーサリアムの標準化を目指す非営利団体「Ethereum Enterprise Alliance(EEA)」とも連携しており、実際に開発に参加しているメンバーから技術的な助言を受けることが可能な体制となっています。
このように、Japan Open Chainは透明性および信頼性の高い運営体制を実現しており、誰もが安心して利用できる環境が整備されていると言えるでしょう。
2-3.手数料トークン
手数料トークンとは、イーサリアムチェーンにおいて「ガス代」と呼ばれているもので、Japan Open Chain上においてブロックチェーン上の取引やコントラクトの作成を行った際に発生する手数料としてバリデータに支払われるトークンのことを指します。手数料トークンは取引ごとに必要となりますが、その数量については、イーサリアムと同様にプロトコルによって自動的に決定されるということです。
入手方法としては、現在、実証実験の参加者に無償配布が行われているほか、22年12月には、この手数料トークンを販売する「IEO(Initial Exchange Offering)」の実施に向けて、仮想通貨取引所「Huobi Japan(現:BitTrade)」と覚書を締結したことが明らかになっています。
2-4.発行体にも利用者にもメリットがある
Japan Open Chainにおいて発行されるステーブルコインには、発行体と利用者の両方にさまざまなメリットがあります。
発行体側のメリットに関しては次の項で簡単に説明しますが、利用者のメリットとしては決済手数料や送金手数料などが大幅に抑えられるため、送金負担がかなり軽減されること、また発行体間におけるステーブルコインの顧客獲得競争が生じることが予想されるため、より良い利便性を享受できるといった点が挙げられます。
このほかにも、米ドル連動型のステーブルコインをはじめとする外貨決済にシームレスに対応できるようになるほか、自治体を含む複数の事業者間における支払や送金がよりスムーズになり、即時入金が実現できること、NFTなどのデジタルアセットとの交換手段としても利用できることなどが期待されています。
③国内銀行各行による実証実験
3-1.日本法に準拠するステーブルコインを発行
冒頭でも触れた通り、23年3月2日、Web3.0インフラの開発および提供を行っている「G.U.Technologies」が、Japan Open Chain上において実証実験をスタートしたことを明らかにしました。G.U.Technologiesとは20年10月に設立されたブロックチェーン関連企業で、「web3時代のインフラを創る。」というテーマのもと、さまざまな事業展開を行っています。
今回の実証実験は、G.U.Technologiesによって開発された金融機関向けのステーブルコイン発行システムを利用し、Japan Open Chain上において各行それぞれの独自のステーブルコインの発行や送金などができることを確認するという内容になっています。
G.U.Technologiesはこの実証実験を通して、日本法に準拠したステーブルコイン発行システムの実装を行うと同時に、自治体および民間企業を巻き込んだプロジェクト展開を行っていくことで、企業間における送金から一般生活者の利用まで、ステーブルコインのさらなる普及に尽力していく考えを示しています。最終的には銀行勘定系のテスト環境および本番環境とも連携しながら、法的に裏付けのあるステーブルコインの発行を目指しています。
3-2.実証実験への参加組織
今回の実証実験には、東京きらぼしフィナンシャルグループ、みんなの銀行、四国銀行の三行が参加することが発表されています。
東京きらぼしフィナンシャルグループは東京都港区に本社を構える金融持株会社で、きらぼし銀行およびUI銀行を傘下に置く企業となっています。みんなの銀行は21年5月28日に開業した福岡市を拠点とする企業で、ふくおかフィナンシャルグループ傘下の新たな形態の銀行に分類される、ネット銀行となっています。そして、四国銀行は高知県高知市に本店を構える地方銀行で、地域密着型金融への取り組みを積極的に行っていることでも知られています。
このように、今回の実証実験ではさまざまなかたちを持った金融機関と連携することによって、ステーブルコインの新たな可能性を見出していくということです。
3-3.Japan Open Chain発行のステーブルコインのメリット
現在、世界では約20兆円規模の米ドル連動型ステーブルコインが流通しています。日本ではアメリカやEUに先駆けて、ステーブルコインを規制する法律である改正資金決済法が今年6月までに施行される予定で、日本円のみならず世界中の通貨で発行が可能になることから、世界中の決済を日本が担う可能性も含め日本の金融機関としては大きなビジネスチャンスになると考えられてます。
G.U.Technologies社は、ステーブルコインの発行体となる銀行や信託銀行について、外貨建てのステーブルコインを発行することによって、世界からの資金の流入が期待できるとも説明しています。その他、金融機関や資金移動業者が発行する法令遵守や決済処理速度など実用性を重視したステーブルコインのメリットについて、G.U.Technologiesは以下の項目を挙げています。
ステーブルコイン発行体(銀行や信託銀行)のメリット
- 自行の預金口座及び預金残高の増加による運用益の増加
- 決済手数料、交換手数料による収益の増加
- 外貨建てのステーブルコインの発行による世界からの資金流入への期待
- 特定の地域や利用目的に応じて独自の特典を提供できる
- 与信管理データとしての活用など、新しい決済データの活用機会の創出
- 銀行送金システムの開発及び運用コストの大幅な削減
ステーブルコイン利用者のメリット
- 決済手数料や送金手数料が大幅に安価になり、送金負担が軽減される
- 発行体間でのステーブルコイン顧客獲得競争が生まれ、事業者や生活者はより良い利便性を享受できる
- 米ドル連動型ステーブルコイン等の外貨決済にシームレスに対応できる
- 自治体含む複数事業者間の支払・送金がスムーズになり即時入金が実現
- NFTなどのデジタルアセットの交換手段として利用できる
なお、G.U.Technologiesは実証実験後もさまざまな金融機関による独自のステーブルコインの発行をサポートしていきたいと述べており、今回の実証実験に関しても、引き続き参加者を募集しているということです。
3-4.想定されるユースケース
Japan Open Chainに実装される発行システムによって発行されたステーブルコインには、下記に挙げるようなさまざまなユースケースが想定されています。
- 「全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)」や「SWIFT(スイフト)ネットワーク」に替わる、国内外の個人や企業間の新しい送金および支払い手段
- 「NFT(非代替性トークン)」などをはじめとするWeb3.0決済における主要決済手段
- クレジットカードに替わる、オンライン上におけるあらゆる決済手段
- ブロックチェーン上において発行されたデジタル証券(ST、STO)の売買
- 地域通貨としてのステーブルコインの発行
このように、ステーブルコインはさまざまなケースで利用が可能となっており、その流通に期待の声が上がっています。
④ロードマップ
フェーズ1:実証実験開始フェーズ
Japan Open Chainはフェーズ1を「実証実験開始フェーズ」と名付けており、まさに現在進められているこのフェーズでは、バリデータノード運用をスタートするとともに、ネットワーク運営の知見を蓄積することを目的とした実証実験を開始するということです。
フェーズ2:バリデータ拡大フェーズ
Japan Open Chainはフェーズ2を「バリデータ拡大フェーズ」と名付けており、このフェーズではネットワーク運営の分散性のさらなる向上を実現するために、バリデータの数を最大21まで拡大することを目指すとしています。
また、同時にバリデータではないネットワーク参加者による接続もスタートする予定だということです。
フェーズ3:一般開放フェーズ
Japan Open Chainはフェーズ3を「一般開放フェーズ」と名付けており、このフェーズではエンドポイントを一般に開放することによって、世界中の誰もが接続可能になる予定だということです。
また、手数料トークン(ガス代)の流動も図っていくとしています。
フェーズ4:分散性拡大フェーズ
Japan Open Chainはフェーズ4を「分散性拡大フェーズ」と名付けており、このフェーズではサーバ運用の分散性および秘密キー管理の分散性のさらなる向上を図り、ネットワーク運営のセキュリティ面におけるリスク分散を進めていくということです。
フェーズ5:完全分散フェーズ
Japan Open Chainはフェーズ5を「完全分散フェーズ」と名付けており、このフェーズでは可能であればネットワーク管理組織を設立し、21のノードによる完全分散体制に移行するということです。
⑥まとめ
Japan Open Chainはイーサリアムと完全な互換性を持ったパブリック・ブロックチェーンとして注目を集めており、今回新たに日本法に準拠したステーブルコインに関する実証実験を実施するとして話題になっています。
今回のステーブルコインは銀行や信託銀行が発行体になるということで、主流なデジタルウォレットで管理可能な、裏付け資産のある透明性の高いステーブルコインの発行が可能になれば、日本国内におけるステーブルコインの発行や、国産ステーブルコインのさらなる普及などにもつながると期待の声が上がっています。
また、日本では今年中に海外発行のステーブルコインの流通が解禁されるという見方が広まっており、G.U.Technologiesも今回の発表において、ステーブルコインの規制を行っている法律である「改正資金決済法」が今年6月までに施行される予定となっていることを説明しています。
このように、今後はステーブルコインにますます注目が集まると考えられるため、引き続きその動向を追っていくべきテーマと言えるでしょう。
中島 翔
最新記事 by 中島 翔 (全て見る)
- 脱炭素に向けた補助金制度ー東京都・大阪府・千葉県の事例 - 2024年10月22日
- 韓国のカーボンニュートラル政策を解説 2050年に向けた取り組みとは? - 2024年10月7日
- NCCXの特徴と利用方法|ジャスミーが手掛けるカーボンクレジット取引所とは? - 2024年10月4日
- Xpansiv(エクスパンシブ)とは?世界最大の環境価値取引所の特徴と最新動向 - 2024年9月27日
- VCMIが発表したScope 3 Flexibility Claimとは?柔軟なカーボンクレジット活用法を解説 - 2024年9月27日