仮想通貨に関するアメリカの大統領令、ポイントを解説

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今回は、仮想通貨(暗号資産)に関するアメリカの大統領令について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. 仮想通貨関連の大統領令
    1-1.今回の大統領令の概要
    1-2.大統領令発表に至った経緯
    1-3.これまでの仮想通貨関連の大統領令
  2. 大統領令における重要項目
    2-1.6つの優先事項
    2-2.中央銀行デジタル通貨(CBDC)発行の可能性
    2-3.世界各国の動向
  3. まとめ

米国のバイデン大統領は米国時間22年3月9日、司法省や財務省を含む15以上の政府機関に対し、暗号資産(仮想通貨)関連の一連の調査などを命じる大統領令(行政命令)を発令しました。

ホワイトハウスは以前から、仮想通貨市場に対する広範な監視の検討についても明らかにしており、今回その計画が動き出しています。

この記事は仮想通貨に関するアメリカの大統領令について解説します。

①仮想通貨関連の大統領令

まず初めに、仮想通貨関連の大統領令について、どのような経緯で発表されたのかを解説します。

1-1. 今回の大統領令の概要

3月9日の大統領令は、大手金融機関や個人消費者の参入により仮想通貨市場がこの1年で急激に拡大したことを受けて、連邦政府機関にその利点とリスクを調査するよう指示したものです。

具体的には、180日間の期限を設け、「貨幣の未来」と「仮想通貨が米国の経済発展にどう役立つのか」に関する一連の報告書の提出を定めています。

アメリカの大統領令は、法律と同等の効力と法的拘束力を持つ一方で、従来の法案とは異なり米国の上院と下院議会の承認を得る必要はありません。

1-2. 大統領令発表に至った経緯

これまでアメリカは仮想通貨に関する包括的な方針を確立していなかったので、仮想通貨市場に対して各省庁が個別に規制アプローチを取っており、「一貫性に欠ける」状況でした。そのため、仮想通貨のマイニング事業者、投資家、取引事業者などは規制の不確実性に晒されてきました。

しかし、これからはホワイトハウスが仮想通貨に対応する米政府の取り組みを主導する方針です。政府が戦略を構築するために、核連邦政府機関に事業機会とリスクの両面から仮想通貨を精査するよう求めている、というのが今回の大統領令の趣旨です。

1-3. これまでの仮想通貨関連の大統領令

仮想通貨関連の大統領令は、これまでにもいくつか発令されています。

18年3月には、ドナルド・トランプ前大統領が、ベネズエラ政府によって発表された「あらゆるデジタル通貨、デジタルコイン、デジタルトークン」の取引に対する米国居住者の関与を禁止する命令を発令し、ペトロトークンについても言及しました。

また、ドナルド・トランプ前大統領は18年7月にも、市場の整合性及び消費者詐欺に取り組むタスクフォースを設置するという旨の命令において、「デジタル通貨詐欺」についても触れました。

このほか、15年に第44代米国大統領であるオバマ大統領が出した別の命令では、当局が「重大な悪意のあるサイバー対応活動」に関連するデジタル資産を没収できるようになることを示唆しました。この行政措置によって、国家緊急事態法に基づく「上場や決定の事前通知」なしに、当局がデジタル資産を押収することを可能にしています。

21年3月、バイデン大統領は、この命令を22年4月まで延長することを発表。それ以来、司法省と他の政府機関は不正取引に関するデジタル資産の追跡を行い、押収を行うためのタスクフォースを結成しています。

21年よりホワイトハウスは、拡大するサイバー犯罪の脅威に対処するため、大統領令を含む仮想通貨市場の広範な監視を計画していることを公表していました。

②大統領令における重要項目

次に、大統領令における重要項目について、いくつか解説します。

2-1. 6つの優先事項

大統領令では、優先事項として下記6項目を指定しました。

①消費者と投資家の保護

デジタル資産による財務リスクに対して、十分な監視と保護を確保するよう規制当局に促す。

②金融安定の確保

FSOC(金融安定監視委員会)に、デジタル資産によってもたらされる経済全体の金融リスクを特定して軽減するように促す。

③違法な資金の軽減

これらのリスクを軽減するために、関連するすべての米国政府機関全体で前例のない協調行動に焦点を向ける。

④グローバル金融システムに対する米国のリーダーシップ促進

米国商務省に、デジタル資産における米国の競争力とリーダーシップを推進するためのフレームワークを確立するために米国政府全体で活動するよう指示する。

⑤金融包摂のサポート

安全で手頃な価格のアクセス可能な金融サービスの必要性を確認する。

⑥責任あるイノベーションの促進

デジタル資産システムの責任ある開発、設計、および実装における技術的進歩を研究およびサポートするための具体的な措置を講じるよう米国政府に指示する。

2-2. 中央銀行デジタル通貨(CBDC)発行の可能性

バイデン大統領は大統領令の中で、中央銀行デジタル通貨(CBDC)こと「デジタルドル」の発行に向けて、各関係機関に考えられる課題を検証するよう指示しています。

デジタル通貨とは、既存の中央銀行預金とは異なる、新しいかたちの電子的な中央銀行マネーのことを言います。法定通貨であること、中央銀行の債務という形で発行されること、デジタル化されていること、という3項目を満たす通貨と定義されています。

バイデン大統領は、デジタルドルの発行に際しての議会承認の必要性について調査するよう司法省に指示しており、発行に向けて本格的に検討を始めたとみられています。

22年1月には、米連邦準備制度理事会(FRB)によって初めて中銀デジタル通貨に関する報告書が公表されました。その内容は中銀デジタル通貨についての論点整理となっており、デジタルドルの発行に関しての判断は政府側に任せる意思を示していました。

今回の大統領令は、それに対する政府の反応とも読めると考えられています。

2-3. 世界各国の動向

ウクライナ侵攻を背景に、ロシアが欧米の制裁を免れるために仮想通貨を利用することや、中国をはじめとする経済国が独自のデジタル通貨を作ろうとする動きに対する懸念も高まっています。

アトランティック・カウンシルの調査では、世界で87カ国がデジタル法定通貨発行の検討を行っており、ウクライナ、中国、韓国を含む14カ国がCBDCに関するパイロットプログラムをスタート、9カ国がすでにデジタル法定通貨を発行しているということです。

バイデン大統領は、デジタルドルを発行することが国益にかなうと判断した場合、その研究開発を緊急に行う意思を示しています。

③まとめ

今回大統領令が発令されたことによって、ホワイトハウスが中心となった一貫性のある統制が開始されると期待されています。世界情勢や各経済国の動向を受けて、デジタルドルの発行を前向きに検討しているということで、今後、仮想通貨業界に大きな影響をもたらすと考えられます。

日本では、4月21日に平井・前デジタル大臣を含む自民党のデジタル社会推進本部のメンバーが岸田総理と面会し、トークンエコノミーで駆動する次世代のインターネット「Web3.0」を岸田内閣の「成長戦略の中心に位置づけるべき」と申し入れを行いました。

22年はホワイトハウスの動きのみならず、日本や世界の仮想通貨(CBDC、トークン経済を含む)市場の動向に注目してみましょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12