オーストラリアの4大銀行であるオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)が、4月5日に「グローロ・カーボン・ベンチャーズ(GCV)」との提携を通じて、オーストラリアのカーボン・クレジット(ACCU)のトークン化と取引の成功を発表しました。
カーボンクレジットは、企業が温室効果ガスの排出を削減する取り組み、例えば森林の保護や植林、省エネルギー機器の導入などを通じて得られる「排出権」を示す証明書です。この証明書は、他の企業と取引可能となります。
ANZは既存のACCUをトークン化し、ステーブルコイン「A$DC」を発行します。ここではANZ銀行が取り組むカーボン・クレジットのトークン化の特徴と利点について解説します。
目次
- カーボン・クレジットとは
1-1.カーボン・クレジット市場が抱える大きな課題 - ACCUを裏付けとするステーブルコイン
2-1.ACCUについて
2-2.「A$DC」について
2-3.ステーブルコインとは - カーボン・クレジットのトークン化の利点とは
- カーボン・クレジットのトークン化による課題、将来展望
- まとめ
①カーボン・クレジットとは
カーボン・クレジットとは、二酸化炭素をはじめとする「温室効果ガス」の排出削減量を示す証明書のことを指し、別名「炭素クレジット」とも呼ばれています。企業が森林の保護や植林、また省エネルギー機器導入などを実施することによって発生した二酸化炭素などの温室効果ガスの削減効果を「クレジット(排出権)」として発行することで、他の企業や国家との間で取引できるようにする仕組みのことを言います。
二酸化炭素の削減がどうしても難しい中小企業や国家では、カーボン・クレジットを購入することで、自らの排出量削減の相殺としてカウントされます。実際には排出量を減らしているわけではありませんが、排出権元の貢献に繋がると言えます。
このようにカーボンクレジットの市場は、国際的な規模で取引が行われており、企業間や国家間での取引が行われることもあります。これにより排出削減のための経済的なインセンティブが、持続可能な開発や気候変動対策を推進させると期待されています。
1-1.カーボン・クレジット市場が抱える大きな課題
課題の一つとして、不透明な取引や価格決定プロセスが挙げられます。カーボン・クレジットは相対取引が中心となっているため、取引相手を特定することが比較的難しくなっています。また売買高や価格などの取引についての情報も限られており、クレジットの発行から売買、保有、そしてオフセット(クレジットを購入する)までの一連のトレーサビリティが、十分に確保できていない状況となっています。
そこでオフセットに至るまで全ての段階をブロックチェーン上で行うことで、誰もがその情報を参照することができるようになるので、トレーサビリティを十分に確保できると期待されています。さらには、より透明性の高い価格決定プロセスを実現できるようになるため、信頼性の担保された取引が可能になります。
②ACCUを裏付けとするステーブルコイン
オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)はオーストラリアのカーボンクレジットであるACCU(Australian Carbon Credit Units)をトークン化し、ステーブルコイン「A$DC」を発行しています。カーボンクレジット取引などサステナブルソリューション関連の投資企Grollo Carbon Ventures (GCV) と協力して、スマートコントラクトを用いて「A$DC」によるリアルタイム決済を実現しています。
この取引はパブリックブロックチェーン上で行われ、デジタル資産の活用により、決済時間の短縮とカウンターパーティリスクの軽減が実現されました。
2-1.ACCUについて
ACCUは排出削減基金を通じ、クリーンエネルギー規制当局(CER)が、承認された排出権の回避・削減除去の方法論に準拠したプロジェクトに対して発行するものです。
オーストラリア政府制定の排出削減法に準拠しており、企業はACCUを用いて、排出量の総裁、自主的なカーボンニュートラルの表示、またはカーボンニュートラル認定に使用できます。
トークン化することで、プロジェクトの詳細情報が正確に記録され、資産の整合性が確保されます。またACCUは、オーストラリアの会社法により金融商品として分類されているため、ネット・ゼロ(温室効果ガスを差し引きゼロ)の取り組みに対する資金調達の担保としても利用できる可能性があります。
2-2.「A$DC」について
オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)は2022年3月、約27億円(3000万豪ドル)のステーブルコイン「A$DC」の取引を実施しました。イーサリアムのスマートコントラクトを実装したブロックチェーンインフラを米Fireblocks社が提供、監査はOpenZeppelinが、規制面でのコンプライアンスではChainalysisが協力しました。
ANZは、「A$DC」発行の経緯として、米ドルステーブルコイン「USDC」の取引プロセスが複雑化していることがあるとしており、「A$DC」を活用して取引プロセスをよりシンプルなものにする目的です。
具体的には銀行口座と法定通貨の取引プロセスをすべて回避し、「A$DC」をエンドツーエンド(E2E)で取引します。なお取引時間は約5分だったとのことです。また「A$DC」を活用することで、「USDC」の取引コストと為替リスクを負う必要がなくなったとされています。
2-3.ステーブルコインとは
ステーブルコインは、取引価格の安定を目的に設計された仮想通貨です。多くの仮想通貨には裏付け資産がなく、価格変動が大きいため実用性が低かった。そこで、法定通貨との価格連動を持つステーブルコインが開発されました。ステーブルコインは、価格の安定化方法によって主に以下の四つに分類されます。
- 法定通貨担保型
- 仮想通貨担保型
- コモディティ型
- 無担保型
法定通貨、例えば日本円や米ドルを担保にトークンを発行する方式。
特定の仮想通貨を担保として価格連動を図る方式。
原油や金などの商品価格に連動する方式。
アルゴリズムによりコインの供給量を調整する方式。
③カーボン・クレジットのトークン化の利点とは
1.流動性が向上
トークン化により、カーボン・クレジットの流動性が高まります。ACCUのトークン化と「A$DC」の発行によって、スマートコントラクトを活用した迅速な決済が可能に。これにより、流動性の向上と投資家にとっての新たな投資機会が生まれます。
2.透明性と信頼性の向上
トークンはブロックチェーンを基盤とするため、取引の追跡や検証が容易に。これにより排出削減の実績やクレジットの正当性が証明され、透明性と信頼性が向上します。
3.持続可能な金融市場への貢献
トークン化は、投資家に環境に優しい企業やプロジェクトへの資金提供の機会を増やします。環境への配慮が投資の要因として重視されるようになることで、持続可能な金融市場の発展に寄与します。
④カーボン・クレジットのトークン化による課題、将来展望
カーボン・クレジットのトークン化には利点が多い一方で、いくつかの課題も顕在化しています。新たな規制やコンプライアンスの必要性が浮上する恐れがあることはその一例です。ブロックチェーンを活用したカーボンクレジットプラットフォームは既にいくつも発表されていますが、既存の規制に準拠する必要性があることはもちろん、品質管理や不正を防止するための新たな仕組みの導入も同時に必要とされています。
しかし、ANZのバンキング・サービス・リーダー、ナイジェル・ドブソン氏の言葉通り、トークン化の導入は炭素市場の効率化や透明性の向上、そして気候変動対策への投資促進の可能性を秘めています。
グローログループCEOのロレンス・グローロ氏も、ネットゼロ移行計画の進展とともに、自然を活用した資産への関心が高まると指摘しています。また、カーボン・クレジットのトークン化は、市場における取引の小口化やクレジットプールの導入を可能にし、その結果としてクレジットの流動性を高めるとされています。
⑥まとめ
環境問題や気候変動は現代における最大の課題の一つとなっています。SDGsの目標の実現を目指して、各国や組織、そして個人が取り組みを進めています。その中でも、カーボン・クレジットのトークン化は、ブロックチェーンの技術を用いて環境問題の解決に向けた新しい手法として登場しています。
特にオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のような組織が、カーボン・クレジット市場のトークン化により、しい資産運用の形を提供することで、環境問題への意識を一層高めているのは注目に値します。
今後もブロックチェーン技術やカーボン・クレジットのトークン化がどのように進化し、環境問題の解決に貢献していくのかを注視することが重要であると言えるでしょう。興味を持った方は、引き続き情報収集を進めて、自身の行動や投資を通じて環境問題の解決に貢献することを検討してみてください。
立花 佑
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