株式会社日本取引所グループ(JPX)は2022年6月、国内で初めてのデジタル環境債として「グリーン・デジタル・トラック・ボンド」の発行を決定しました。この新しい形式の債券は、ブロックチェーン技術を活用したデジタルセキュリティトークンとして無担保社債の形で提供されるものです。
このプロジェクトは、日本取引所グループの他、株式会社日立製作所、野村證券株式会社、および株式会社 BOOSTRYとの共同で進められ、金融業界において新たなスタンダードを築くものと期待されています。特に、デジタルセキュリティトークンの技術は、不動産分野での採用も増えており、野村證券が発行する不動産セキュリティトークンが注目を浴びています。
この記事では、デジタル技術を取り入れた新しい環境債の特徴や、セキュリティトークン、野村證券の不動産セキュリティトークンの実績についても触れていきます。
目次
- 国内初のデジタル環境債「グリーン・デジタル・トラック・ボンド」
1-1.グリーンボンドとは
1-2.グリーンボンド投資にブロックチェーンを活用する利点 - 金融業界の不動産にも使われるセキュリティ・トークン
2-1.セキュリティトークンとは
2-2.野村證券の不動産セキュリティトークンとは - 不動産STの取引実績
- 社債や不動産でブロックチェーンの関係
- まとめ
①国内初のデジタル環境債「グリーン・デジタル・トラック・ボンド」
JPXは、ブロックチェーン技術を基盤とした「グリーン・デジタル・トラック・ボンド」の初回発行条件を2022年6月に公表。投資家のフィードバックを取り入れ、この債券の機能やシステムの充実を目指すとの方針を示しました。
グリーンボンド投資に関連する課題が発行会社と投資家の両方から指摘されていました。具体的には:
- 発行会社側の課題:
・グリーンプロジェクトのCO2削減量などの取得が難しく、データ集計に手間がかかる
・通常の社債に比べて管理コストが高まる傾向にある - 投資家側の課題:
・グリーンプロジェクトの情報取得や投資先の横比較が難しい
・企業が開示するデータの形式が一貫していない
1-1.グリーンボンドとは
グリーンボンドは、企業や地方自治体が環境プロジェクトへの資金調達のために発行する債券を指します。グリーンボンドの種類には4つあり、それぞれ償還原資等の点が異なります。以下の内容は、環境省のグリーンダイナンスポータルサイトから引用したものです。
1.Standard Green Use of Proceeds Bond
グリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券。特定の財源によらず、発行体全体のキャッシュフローを原資として償還を行う。
2.Green Revenue Bond
グリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券。調達資金の充当対象となる公的なグリーンプロジェクトのキャッシュフローや、当該充当対象に係る公共施設の利用料、特別税等を原資として償還を行います。例えば、外郭団体が行う廃棄物処理事業に必要な施設の整備や運営等を資金使途とし、当該事業の収益のみを原資として償還を行う債券がこれに該当します。
3.Green Project Bond
グリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券。調達資金の充当対象となる単一又は複数のグリーンプロジェクトのキャッシュフローを原資として償還を行います。例えば、専ら再生可能エネルギー発電事業を行うSPCが発行する、当該事業に必要な施設の整備や運営等を資金使途とし、当該事業の収益のみを原資として償還を行う債券がこれに該当します。
4.Secured Green Bond
調達資金が、次のいずれかのグリーンプロジェクトのファイナンスもしくはリファイナンスのために 充当される担保付債券。
- 特定の債券のみの裏付けとなっているグリーンプロジェクト(担保付グリーン資産担保ボンド)
- 当該グリーンプロジェクトが特定債券全体またはその一部の裏付けとなっている場合、あるいはなっていない場合の、発行体、オリジネーター、またはスポンサーのグリー ンプロジェクト (担保付標準グリーンボンド)。担保付標準グリーンボンドは、より大きな取引の特定のクラスまたはトランシェである場合もある。
1-2.グリーンボンド投資にブロックチェーンを活用する利点
グリーン発電設備の発電量やCO2削減量などの指標を、発行会社の介入なしに確認できる点がブロックチェーンの大きなメリットとなります。これにより、複雑な業務が簡潔になり、発行会社の業務負担も減少します。新たなシステムを導入することで、日立とJPX総研はこれらのデータを可視化し、投資家がいつでも確認できる環境を提供します。
ブロックチェーンの活用は、業務の効率アップとデータの透明性向上を可能にします。なお、このデジタル債の取り組みには、第一生命保険会社も関与しています。
第1回無担保社債(社債間限定同順位特約及び譲渡制限付)(グリーン・デジタル・トラック・ボンド) の条件は以下となります。
②金融業界の不動産にも使われるセキュリティ・トークン
ブロックチェーン技術の浸透が進む中、セキュリティトークンが金融業界で注目を集めています。特に、ケネディクス、みずほ信託銀行、野村證券、BOOSTRYの4社が連携して、不動産を担保としたセキュリティトークンの発行に乗り出しました。
この度発行されるセキュリティトークンの名前は「ケネディクス・リアルティ・トークン湯けむりの宿 雪の花」。投資対象として選ばれたのは、温泉旅館「湯けむりの宿 雪の花」です。
以下は、このセキュリティトークン発行の詳細情報です。
- 投資対象:三井住友ファイナンス&リースの戦略子会社であるSMFLみらいパートナーズが所有する資産規模43.7億円の温泉旅館「湯けむりの宿 雪の花」
- 発行日:12月28日
- 発行総額:21.65億円
- 運用期間:約6年9か月
- 償還期日:2029年9月
- 発行委託者:KPM1
- 受託者:みずほ信託銀行
- 引き受け会社:野村證券
2-1.セキュリティトークンとは
セキュリティトークンは、デジタル技術を活用して作られた有価証券のことを指します。この手法を用いた資金調達方法は、セキュリティトークン・オファリング(STO)として知られています。
この新しい形の証券は、2020年の法改正によって金融機関での取り扱いが認められるようになりました。従来の証券化の対象である株や国債だけでなく、さまざまなサービスや権利もこの形で取り扱うことが期待されています。
デジタル証券とも呼ばれるこのトークンは、株式や国債、社債、ファンド持分、不動産投資信託(REIT)などの一般的な有価証券だけでなく、サービスの利用券や著作権なども証券化の対象になります。つまり、従来証券化されていなかったものも、証券としての機能を持たせてトークンとして発行することが可能です。
2-2.野村證券の不動産セキュリティトークンとは
不動産セキュリティトークンは、特定の不動産投資のデジタル表現としての金融商品です。これらのトークンの情報管理は、「ibet for Fin」というブロックチェーンネットワークを使用しており、エンタープライズ向けのブロックチェーン基盤「クオーラム」を基盤として活用しています。
ブロックチェーン技術を活用してトークン化された不動産デジタル証券は、投資家の新しい注目点となっている。これらの証券は、小口化された不動産持分を裏付けとしており、これまでアクセスが困難だった大型、好立地の不動産投資への入口を開くものだ。すべての権利移転、証券の発行や譲渡、償還はブロックチェーン上で透明に記録され、不正行為を防止するメカニズムとなっている。
「ibet for Fin」という名の下、証券トークンの発行と流通を目的とするこのブロックチェーンプラットフォームは、データの改ざんを防ぐ管理技術として確立している。ブロックチェーン技術の応用は、金融業界だけでなく、他の多くの分野でも期待されている。
③不動産STの取引実績
1.2022年9月運用開始「ALTERNAレジデンス銀座・代官山」
2022年の不動産セキュリティトークン取引のハイライトとして、9月に運用が開始された「ALTERNAレジデンス銀座・代官山」は、予想配当利回りが3.03%とされ、11月の運用状況は銀座で100%、代官山で92%だった。
2.2022年3月運用開始「草津温泉 湯宿 季の庭・お宿 木の葉」
「草津温泉 湯宿 季の庭・お宿 木の葉」は、投資資金が一口50万円で、年間の税引前利回りが4.06%とされている。2022年11月の運用状況は、稼働率が100%を維持しています。
④社債や不動産でブロックチェーンの関係
ブロックチェーンの技術は、社債やその他のローン手続きにも革命をもたらしています。従来、社内の審査過程では多数の部署の間で情報のやり取りが求められ、これが大きな時間とコストが負担になっていました。しかし、ブロックチェーンのスマートコントラクトを使用すると、契約内容は自動的に、あらかじめ設定した条件に基づいて実行されます。
株式価格は市場動向や企業の経営状況により変動することが一般的ですが、債券の場合は発行価格、利率、利払い日、償還日などの契約内容をブロックチェーンにプログラムすることで自動化できるため、債券のデジタル化は導入しやすいという背景があります。
一方で、不動産は物件や土地の特性、高価さ、流動性の低さから、取引には多くの書類と時間を必要とし、人的オペレーションミスのリスクも伴います。異なる地域の慣習と高額な仲介手数料もあり、問題はさらに複雑化しています。
これらの金融分野や不動産分野で、ブロックチェーンを導入することで、社債の発行や取引、そして不動産のトークン化を効率的にできると期待されます。主な効用は以下のものがあります。
- 業務効率化と取引処理の向上
- 透明性と改ざん不可による信頼性の向上
- 個人情報やトランザクションデータの保護強化
- トークン化による流動性の向上
不動産ではブロックチェーンを利用して不動産をトークン化することで、細分化しやすくなり、投資単位を小口化し、個人投資家への普及も見込まれます。
⑤まとめ
ブロックチェーン技術は金融分野に革命をもたらし、資産のトークン化が進行中です。特に、セキュリティトークンは2020年の法改正で金融機関での取り扱いが開始され、多岐にわたる資産のトークン化が期待されています。また、日立とJPX総研の取り組みにより、発電やCO2削減量などのデータの透明性が向上。ブロックチェーンの自動契約機能を利用することで、金融取引の効率化と業務負担の削減が進行中です。しかし、不動産のトークン化にはまだ多くの課題が残っていますが、ブロックチェーンの導入による効率化が期待されています。
立花 佑
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