今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の鈴木雄大 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
- VISAがCrypto Punksを購入
- VISAはなぜNFTを”購入”したのか
- 企業がNFTを購入する上で大切にすべきこと
3-1. NFTシリーズの歴史や意図に目を向ける
3-2. NFTコミュニティに関わろうとする
3-3. トレーディング目的でないのなら早期に売却しない
1. VISAがCrypto Punksを購入
まず着目したいのは決済大手のグループであるVISAが、人気かつ高額NFTコレクションとして知られるCrypto PunksのNFTを49.5ETH(約1,700万円)で購入したという出来事です。
詳細を掘り下げて行きましょう。VISAが購入したNFTは”CryptoPunk 7610”と呼ばれるCrypto Punksシリーズの7610体目になります。VISAが購入したCrypto Punksは最初期のNFTシリーズの一つとして知られており、特に熱狂的なファンが多く2021年に多くのファンを集めているBored Ape Yat Clubなどと比較しても比較対象に上ることことの多い、2021年のNFTブームで再注目を集めているコレクションです。
このCrypto Punksを作っているのはLarva Labsという米国のスタートアップ企業で、この会社はこうしたIPと理解できるような新作NFTシリーズの作成、ストーリー展開に力を注いでいます。Crypto Punks後にはMeebitsというより3Dデザインに特化したNFTコレクションを発表している他、ArtBlocksの普及で2021年に話題を集めているジェネレーティブアート/NFTの分野でも先行してAutoglyphsというシリーズを展開しているなど、先見性に溢れた企業です。
なおVISAが購入した7610は以下のようなデザインのNFTです。
2. VISAはなぜNFTを”購入”したのか
ここで疑問が湧きます。大手の企業は数々NFTに取り組んできていますが、そのいずれもで自社がNFTを発行・販売や配布しているケースが目立ちます。これは当然と言えると思います。NFTを新しいマネタイズ手段として企業が取り入れることは、とてもわかりやすいものでしょう。
その一方で今回のVISAのケースのように企業がNFTを購入する事例は他にないのでしょうか。実は多くはありませんがこんなケースがありました。
これはドメイン(ABC.comなど)のようにウォレットアドレスを設定できるツールであるEthereum Name Service(以下ENS)において、ビールブランド大手のバドワイザーがBeer.ethを1,000万円で購入している事例があります。○○.ethというものがそのENSというものなのですが、面白いことにENSは全てNFTとして作られています。今回のバドワイザー社の戦略としてはこうした費用を払ってBeer.ethを購入することで、自社がブロックチェーン、NFT分野に明るい企業であることを認知してもらう狙い、及び同業他社によるBeer.ethの取得を防ぐ防衛的な作戦であったのかもしれません。
それではVISAの狙いに話を戻しましょう。VISAの今回のCrypto Punksの反応はどれほどだったのでしょうか。
特に重要なことはVISAのブログに書かれているこの一文です。
”We think NFTs will play an important role in the future of retail, social media, entertainment, and commerce. To help our clients and partners participate, we need a firsthand understanding of the infrastructure requirements for a global brand to purchase, store, and leverage an NFT. ”
日本語に翻訳すると以下のような内容です。
「私たちは、NFTが小売、ソーシャルメディア、エンターテインメント、eコマースの未来において重要な役割を果たすと考えています。当社のお客様やパートナーがNFTに参加するためには、グローバルブランドがNFTを購入し、保存し、活用するためのインフラ要件を直接理解する必要があります。」
まず学びたかったという一文から始まる上記の文章は実に丁寧に、またNFTコミュニティへの配慮を感じる文章です。これはNFTや暗号資産の本質がコミュニティであると標榜されることと同義であり、既にCryptoPunksを保有しているホルダー達のコミュニティに入る際に、大企業だという装いではなく、謙虚にコミュニティに入ろうとする意志を示したものになっていると感じられます。このような丁寧なアプローチの結果、VISAのCryptoPunkの保有という出来事はただNFTが加熱しているという文脈で見られることがなく、VISAがNFTの本質的な価値を探っているのではないかと推測できる動きであったと考えます。
それではVISAの該当ツイートを確認して反応数をまとめてみましょう。以下のような数値になっていました(調査:2021年9月末)。
RT数 | 引用RT数 | Like数 |
1,569 | 511 | 7,778 |
特にブロックチェーンの周辺のファン層と思われる層を中心にVISAがNFTに理解を示したいとする気持ちが伝わる情報の伝播がされたと見ることができるのではないでしょうか。
またNEWProfilePicというハッシュタグも、世界中のNFTコレクターが大きな作品を購入した時などにプロフィールをそのNFTの画像に差し替える際に使っていたトレンドのハッシュタグで、ここからもNFTカルチャー、コミュニティへの理解を感じることができます。
3. 企業がNFTを購入する上で大切にすべきこと
これをお読みいただく中にはNFT購入を検討する企業の担当者もいらっしゃるのかもしれません。そんな企業がNFTを購入する際に必要と思われる心得をいくつか列挙致します。
1. NFTシリーズの歴史や意図に目を向ける
たとえはそのNFTがどうやって誕生したのか、背後にどんな事情があって作られたものなのかといったNFTのストーリーに影響を与えている部分にも気を使うことが大切です。往々にして、NFTは未完成なストーリーをその場で作っていくという、日本で言えばアイドルを育てるのにも似た成長過程がアートですし、魅了するファンが増えればその後の価値にも繋がります。
2. NFTコミュニティに関わろうとする
NFTをただのJPEGアートと称することがありますが、NFTの価値という観点で見たら、NFTの画像自体と同程度価値があるのはコミュニティと呼ばれる同じNFTシリーズをもっているホルダーとの対話です。国籍も年齢も、バックグラウンドも違う人々が同じコミュニティに集えるのは間違いなくNFTコレクションの力です。せっかくならNFTを購入するだけではなく、そうしたコミュニティに関わろうという姿勢を表明することは大きなイメージアップになり、歓迎されることが多いでしょう。
3. トレーディング目的でないのなら早期に売却しない
実はVISAのCryptoPunksにはVISAが49.5ETHで取得した後に、100ETHと150ETHで注文が入っていました。
しかし今の所VISAがそれに応じて売却したことはなく、いずれのBid(注文オーダー)も不成立になっています。こうした姿勢が一貫したNFTコミュニティから学ぼうというブログの発言とリンクするところも大きなブランディングになっているでしょう。
4. まとめ・著者後記
上記をぜひ理解いただきNFTを末永く楽しんでいただける企業が日本から出てくることを期待して止みませんね。
また大きな側面として、特定層へのブランディングは企業によるNFT保有の大きなメリットになると考えています。ブロックチェーン系メディア、テックメディアに各媒体広告出稿を行うととても高価な費用が必要でしょうが、今回で言えばCryptoPunks購入という事実だけをもってそうしたアピールが可能だった訳です。そのような副次的効果もぜひ検討の上、法人によるNFT購入事例が続くことを願っています。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
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