今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の寺本健人 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
私たちがNFTを取引するときに利用するのはOpenSeaをはじめとするマーケットプレイスですが、複数のNFTを買いたいときは1つずつガス代を支払ってトランザクションを出す必要があったり、欲しいNFTが自分の知らない別のマーケットプレイスに出品されていて気づけなかったりと、不便を感じることも少なくありません。
そこで今回は、そうした問題を解決することのできる新しいツール「NFTアグリゲーター」をご紹介します。
NFTアグリゲーターでできること
NFTアグリゲーターの機能はそれぞれのサービスによって違いがありますが、核となる機能は数あるNFTマーケットを取りまとめ、ユーザーが複数のマーケットの出品NFTにアクセスできるようにするというものです。現在NFTマーケットはOpenSeaが主流で、多くのプロジェクトも推奨していることから、ユーザー数・取引高はOpenSeaが他の取引所を大きく上回っています。しかしOpenSea以外のNFTマーケットも独自トークンをユーザーに付与するなどしてユーザー獲得を図っており、特に有名NFTコレクションを中心にNFTの出品が複数のマーケットに分散する動きも見られます。
そうなると困るのが購入者となるNFTコレクター側です。これまでのように1つのマーケットを確認するだけでは目当てのデザインのNFTを見つけられない可能性が出てくるだけでなく、他のマーケットではもっと安いフロアプライスで販売されているNFTがあるにも関わらず、割高で購入してしまうといったケースが生じるようになり、情報収集コストが高まることが考えられます。
そこで役に立つのがNFTアグリゲーターです。NFTアグリゲーターは複数のNFTマーケットでの出品状況をリアルタイムで収集し、コレクションごとに一覧表示することで、ユーザーが1つ1つのマーケットを見て回る必要をなくしています。マーケットを横断して価格の低い順に並べたり、NFTのアトリビュート(属性)で検索したりといった機能も備えるため、気づかず割高な買い物をしてしまうことも防げます。ある商品の価格を多くの店舗から収集し、最もお買い得に買える店舗を紹介するというサービスでは、価格.comが有名です。ユーザーの情報収集コストを減らし、買い物体験をより良いものにするという点では、価格.comとNFTアグリゲーターには共通するものがあります。NFTアグリゲーターはNFT界の価格.comとも言えるでしょう。
NFTアグリゲーターの種類
現在、いくつかのサービスがNFTアグリゲーターとしての機能を提供しています。ここでは2つを紹介します。
1. Genie
Genieは2021年7月に始動したNFTアグリゲーターです。前述した複数マーケットの出品を横断検索する機能に加え、コレクションを最低価格の出品から順に指定の個数を購入できる「フロアスイーピング」や、複数のNFT購入を1つのトランザクションにまとめることでガス代を節約できる機能などを備えています。
Genieは2022年6月にイーサリアム上の分散型取引所「Uniswap」の開発企業であるUniswap Labsによる買収を発表しました。今後Uniswapの取引インターフェースやAPIにGenieが統合される予定になっています。DeFi(分散型金融)領域で勢力を伸ばしてきた取引所が、NFTの市場規模が急拡大する中でその業界への参入を狙う動きはここ最近活発になっており、今回のUniswapによる買収もその一部と言えるでしょう。
2. Gem
GemはGenieから遅れること5ヶ月、2021年12月にベータ版を公開しました。こちらも基本機能である複数マーケットの横断検索やGenieと同じフロアスイーピング、複数NFTの1トランザクションでの購入機能を備えるほか、Genieにはない機能として、OpenSeaなどのマーケットで売り手が指定したトークン以外でも支払うことができます。これによって、ETHが十分ウォレットにない状態でもUSDCなどを使って決済することができます。
またGemはユーザーからのフィードバックを積極的に募っており、開発中の機能の優先度について、意見をコミュニティから吸い上げるなどして積極的に機能改善を図っているようです。
Gemは2022年4月、OpenSeaによる買収を発表しました。リリース文からは、OpenSea単体では取り切れないユーザー、つまりまとめて複数のNFTを購入する大口コレクターがいることを念頭に、そうしたユーザーのために複数NFT購入などの機能を持つGemを取り込もうとする意図が読み取れます。なお、買収後もGemは独立して運営されることになっており、OpenSea以外のマーケットへのアクセスを遮断するといったことはなさそうです。
GenieとGemの違い
GenieとGemはどちらもNFTの人気に火が付いた2021年のローンチ、類似した機能、クリプトエコシステムの大手プレイヤーによる買収と、多くの共通点があるように見えます。特に機能については、そもそも参照しているのが同じマーケットの同じNFTコレクションの情報であることもあってかなり似通っており、現状では大きく異なっていると言える点はありません。逆に言えば、それぞれのサービスが今後どのような方向に機能開発を行っていくかによって、両者の毛並みには違いが出てくる可能性はあります。
ところで両者を介して行われた取引高を見ると、意外にもGemがローンチ直後から急成長を遂げ、現在はGenieを大きく引き離していることがわかります。また、Webサイトの訪問者数を追跡するSimillarWebのデータによると、Gemのサイト累計訪問者数はGenieの7倍超にも及んでいます。このような差異が生じる理由は説明をつけにくい部分がありますが、GemがGenieは対応していないマーケットに対応しているなど、細かい優位が大口トレーダーの支持を集めている可能性が考えられます。
NFTアグリゲーターのこれから
現在主要なNFTアグリゲーターは多くが既存のマーケットプレイスやDEXの傘下にあるか、マーケットプレイス自体がアグリゲーター機能を備える形で開発を進めているケースが多く見られます。こうした状況を見ると、アグリゲーターはそれ自体がサービスとして独立するのではなく、各マーケットがユーザー体験を高めるための機能の1つとして備えるものになっていくと考えられます。他のマーケットに存在するNFTであっても、自サービスのアグリゲーターを介して取引されれば手数料収入を得る機会も残ることもサービスにとって魅力です。
問題は競争がこのような方向へ進む場合、各マーケットプレイスの流動性はアグリゲーターによって簡単に統合され、マーケットごとの差別化が難しくなる点です。こうなると、ユーザーを囲い込むために現時点で多くのユーザーを抱える大規模なマーケットが、自サービスが抱えるアグリゲーター以外が自サービスの流動性にアクセスすることを禁じることもありえます。もちろんスマートコントラクトで管理される流動性にアグリゲーターがアクセスすることを禁じる、というのは仕組み上は不可能ですが、当のマーケット自体が明確に禁じてしまえばアグリゲーターがそのサービスに接続することは困難になります。
このようなブロック化が進んだNFTマーケットエコシステムは、流動性が散り散りになってしまうという点である意味、ユーザーにとって圧倒的な流動性を持つOpenSeaさえ見ておけば(大体)問題ない現状よりもさらに体験が悪化します。例えばOpenSeaは前述の通り、買収したGemは独立して運営させると明言していますが、同様に各サービスはアグリゲーターに過度に介入せず、開かれたエコシステムとユーザー体験を保護し続けるコミットメントが必要でしょう。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
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