今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の太田航志 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
Omnichain NFTとは、他のチェーンに跨がって使用できるNFTのことです。しかしながらファンジブルトークンと同様に、異なるチェーン上に存在するNFTを同一のチェーンで取り扱うことは出来ません。NFTにおいてこの問題を解決するために、クロスチェーンブリッジ等を用いるなどの解決策が考えられますが、特定のコントラクトにNFTをロックしなければならないなど、そのリスクも顕在化しています。
本記事では、従来のクロスチェーンブリッジの問題点やそれに伴うリスクについてまず解説し、Omnichain NFTを促進するLayerZeroに関して取り上げます。
クロスチェーンブリッジの概要と問題点
NFTを他のチェーンに転送する場合に、真っ先に考えられるのが、WhormholeやHorizonなどのクロスチェーンブリッジです。
一般的なブリッジの仕組みを簡単に概観すると、例えばAさんがEthereumチェーン上で発行されたNFTをPolygonチェーンに転送する場合を考えます。まずAさんは、Ethereum上で発行されたNFTを利用するブリッジコントラクトにロックします。するとロックしたNFTのコピーがPolygonチェーン上で発行されます。これによってAさんは、Polygonチェーン上でそのNFTを活用することができます。NFTを戻す場合には、先程と逆の手順を踏めば良いわけです。
一見すると単純で有用そうな手法に見えますが、利用していたブリッジがハッキングされるという多大なリスクが存在します。上記の通り、現在Polygonチェーン上に存在しているNFTはあくまでコピーであって本物のNFTではないということです。本物のNFTはブリッジプロトコル内にロックされているため、なんらかの攻撃が行われ本物のNFTが流出してしまう可能性が存在します。
このような事例はNFTに限らず、近年の被害額が大きかったハッキング事件としてAxie InfinityのRonin bridgeやEthereumとSolana結ぶWhormholeなどがあります。これらはブリッジプロトコルの脆弱性に起因するものです。したがってNFTの転送においてクロスチェーンブリッジを利用することは簡単ではなく、特にお気に入りのNFTや高額NFTをロックし、ブリッジするというのはそのリスクに見合っていないため、この仕組みがスタンダードとなるのは難しいでしょう。
ここまでの内容は、レイヤー1ブロックチェーン間のブリッジに関するものでしたが、現在、レイヤー2上で構築されるNFTも徐々にその広がりを見せています。したがってレイヤー1とレイヤー2をより安全にブリッジできる仕組みも必要となってきます。一方でレイヤー2では、NFTのサイロ化が問題となっています。NFTがレイヤー2上に作成されると、そのNFTはそのレイヤーに固定されます。そのため、レイヤー2上のNFTをレイヤー1に引き出せないというNFTサイロの問題が発生するのです。よってレイヤー2にNFTアプリケーションを導入する場合でも、複数のレイヤーにまたがってNFTを作成・転送する方法を持つことが重要になります。この観点に関しては当社が以前に発行したレポートが有用でしょう。
Omnichain NFTを実現するLayerZeroとは
ここからはNFTを他チェーンに転送する際に、クロスチェーンブリッジを利用する場合の問題点をLayerZeroがどのように解決するのかに関して理解を深めたいと思います。以下では、LayerZeroの概要とその仕組みについて説明します。
LayerZeroの概要
LayerZeroはトラストレスなオムニチェーンインターオペラビリティプロトコルで、異なるブロックチェーン同士を繋げ、統一的なコミュニケーション規格を提供するサービスです。今後はEthereumやAvalanche、PolygonなどのEVMチェーンの他、Solanaなどの非EVMチェーンへの進出も予定しています。
上記の図はLayerZeroがチェーン間で情報を送信するプロセスを示しています。ここからはLayerZeroがチェーンAからチェーン B に情報を送信する仕組みを図をもとに説明します。
まず、LayerZeroの仕組みを理解するにあたって、いくつか基本となる言葉の意味を確認します。
エンドポイント
LayerZeroエンドポイントとは、LayerZeroのユーザーインタフェースであり、ユーザーがLayerZeroプロトコルのコントラクトを使用して情報を送信する役割を担います。LayerZeroのエンドポイントは、図のようにコミニュケーター、バリデーター、ネットワーク、ライブラリーの4つのモジュールから構成されています。
オラクル
オラクルとはブロックチェーンの外にある情報を、チェーン上のスマートコントラクトで利用できるようにするサービスです。ブロックチェーン上には、あるアドレスがどのトークンをいくら送信したか、受信したかという情報は存在しても、例えばオリンピックは開催されたのか、今日の株価はいくらなのか、他のチェーンでどんなトランザクションが発生したのかという情報は存在せず、外部から取得する必要があります。
LayerZeroではオラクルはチェーンAからブロックヘッダーを読み込んでチェーンBに送信するという役割を担います。現状LayerZeroは、オラクルとしてFTX、Sequoia、Polygonなどを採用していますが、今後は非中央集権的なオラクルとして代表的なChainlinkを使用する予定です。
リレイヤー
リレイヤーはLayerZeroにおいて指定された取引の証明を取得し、取引の正当性を検証します。現在リレイヤーはLayerZeroのみとなっていますが、今後第三者が参加できるという点においてオラクルとの独立性を担保しています。
LayerZeroの仕組み
次に、具体的なLayerZeroの仕組みについて図をもとに順を追って説明します。
チェーン間でなんらかのコミュニケーションを行う場合、まずチェーンA上のLayerZeroエンドポイントにあるバリデーターはパケット情報をリレイヤーに送信し、ネットワークは当該のブロック情報と送信先のチェーン情報をオラクルに伝達します。チェーンA自体はオラクルにはブロックヘッダーを送信し、リレイヤーにはトランザクションの証明を伝達します。オラクルは受信した情報を確認し、誤りがないようチェーンBにブロックヘッダーを送信します。チェーンB上のLayerZeroエンドポイントでは受信したブロックヘッダーをハッシュ化し、リレイヤーが情報の正当性を検証します。そして確認が取れ次第、チェーンAから受信したパケット情報をチェーンBに送信し、チェーンBが処理を実行するという仕組みになります。
以上がLayerZeroの仕組みとなります。LayerZeroはチェーン間でのコミュニケーションを実行するサービスであり、mint/burn方式を採用しています。よってNFTを特定のコントラクトにロックすることなく転送でき、比較的、低リスクにブリッジを行うことが可能です。
Layer ZeroとOmnichain NFTの今後
LayerZeroにもいくつかの課題が残されています。それはオラクルとリレイヤーへの依存です。特にリレイヤーは現状LayerZeroのみが担っており、今後はリレイヤーを第三者も担うということにはなりますが、オラクルとリレイヤーの共謀をどのように明確な形で防ぐことができるのかそしてその際のリレイヤーへの検証のインセンティブの仕組みをどのように設計していくかなど注目すべきポイントがあります。
またOmnichian NFTという文脈においてもチェーンを跨ぐことのできるNFTが存在するというだけで、現状目立ったユースケースはありません。今後NFTFiの流れが加速し、NFT lendingやレンタルが本格化すれば、例えばAvalanch上のNFTをSolanaチェーンにブリッジし、NFTレンディングを利用するなどが考えられるかもしれません。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
Fracton Ventures株式会社
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