中外製薬は、日経平均にも採用されている日本を代表する医薬品大手企業の一つです。スイスの大手医薬品メーカーであるロシュグループの傘下に置かれながらも独立性を保ち、東証プライムへの上場を維持するなど、他社の医薬品メーカーと一線を画しているのが特徴です。
この記事では、中外製薬のESGやサステナビリティの取り組み内容を詳しくご紹介します。配当金推移についても詳しく解説しているので、投資先として中外製薬を検討している方、ESG投資に関心のある方は参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2022年12月13日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 中外製薬の特徴
- 中外製薬のESG・サステナビリティの取り組み
2-1.E(環境)
2-2.S(社会)
2-3.G(ガバナンス)
2-4.サステナビリティ
2-5.中外製薬のESG・サステナビリティに関する外部評価 - 中外製薬の業績・株価動向
- 中外製薬の配当推移
- まとめ
1 中外製薬の特徴
中外製薬は、東証プライムに上場している医薬品大手の会社です。日経平均に採用されている銘柄であり、時価総額は6兆1,000億円を超えています。また、主力製品にはタミフルや抗がん剤、関節リウマチ剤などがあります。中外製薬の大きな特徴は、以下の5つになります。
- 独自の創薬技術力
- スイスのロシュ社と戦略的アライアンスの提携
- 国内屈指の開発パイプラインの充実度
- 個別化医療の国内パイオニア
- 医療ソリューションの提供
中外製薬の高い創薬技術力は世界的に評価されています。独自の抗体エンジニアリング技術と様々な創薬モダリティの研究基盤を背景に、国内の抗体医薬品市場では高いプレゼンスを誇っているほか、自社で創薬された医薬品について、米国食品医薬品局FDAから過去9回もブレークスルーセラピー(画期的治療薬)制度の認定を受けています。
また、スイスの大手医薬品メーカーであるロシュ社と戦略的アライアンスを結んでいます。ロシュ社は、強力な研究基盤や医薬品の販売網を持つ企業です。新薬の開発では後期の臨床試験で大きなコストが発生するため、中外製薬はコスト負担の一部をロシュ社に任せることで、創薬開発の研究に集中的な費用を投じることが可能となっています。
その結果、より革新性の高い創薬への集中投資を行うことができ、自社の創薬品とロシュ社の導入品を合わせると、2021年の開発パイプラインのプロジェクト数は54と国内屈指です。
さらに、中外製薬は、個別化医療の国内パイオニアとして進展を遂げてきた会社でもあります。個別化医療とは、患者一人ひとりに最適な治療を行う次世代型の治療方法であり、患者の遺伝情報から治療計画を立てるゲノム解析技術による個別化医療の提供と、ゲノム医療のさらなる発展に取り組んでいます。
医療ソリューションの提供についても、医療関係者から高い満足度評価を得ています。具体的には多様化するニーズに応じたソリューションの提供体制を構築しており、高い専門性を背景に定期的な情報提供と勉強会を開催しています。
2 中外製薬のESG・サステナビリティの取り組み
中外製薬は、世界の医療と人々の健康に貢献するというミッションを実現するために、ESGやサステナビリティに対して、以下のように取り組んでいます。
2-1 E(環境)
中外製薬は、事業活動を通じて環境に与える問題について、次の重点項目を特定した上で目標達成に向けて取り組んでいます。
- 気候変動対策
- 循環型資源利用
- 生物多様性保全
気候変動対策では、2050年を最終年とした長期目標を設定した上で、Co2排出量ゼロを目指しています。具体的な施策としてはエネルギー消費量の削減やフロン類の使用中止や、エコカーの導入などに取り組んでおり、削減率を数値で定めています。
循環型資源利用では、サーキュラーエコノミーを重視しており、廃棄物ゼロエミッションに向けた取り組みの一環として、再資源化率99%以上の達成や、廃棄物排出の見直しなどを行っています。なお、2021年時点において廃棄物の再資源化率は98.5%となっており、3つの事業所において、すでにゼロエミッションを達成しています。
また、生物多様性保全については、化学物質の適正管理を行うことで、有害化学物質削減の取り組みを強化中です。例えば、大気汚染対策として窒素酸化物や硫黄酸化物の排出量を測定するほか、WET試験と呼ばれる排水の安全性を総合的に評価する取り組みを進めています。
2-2 S(社会)
中外製薬では、自分も他人も大切にする組織風土を基盤としていることから、個人が各々の価値観を認めて多様性を尊重する職場づくりを目指しています。例えば、社員それぞれのワークライフシナジーの実現に向けて、柔軟性の高い働き方として在宅勤務と出社勤務を組み合わせたハイブリッドワークの推進や、治療と仕事を両立できる支援体制を確立しています。
また、「人財こそが最大の資産」と捉えているため、人財マネジメントを重要な経営テーマとしており、一人ひとりのキャリア自律の支援を行っています。具体的な取り組みとしては、キャリア申告制度を基本サイクルに位置付けて、タレントマネジメントを強化中です。
2-3 G(ガバナンス)
ガバナンス面では、ERMフレームワークと呼ばれる全社的なリスクマネジメントを導入することで、戦略リスクとオペレーショナルリスクに分けた効率的なリスク管理を行っています。また、サプライチェーンのマネジメントに関しても積極的に取り組んでおり、購買ポリシーや購買倫理規定を定めた上で、適正な購買活動を推進するための規定を定めています。このような取り組みを行うことで、高品質な商品やサービスのさらなる追求を目指しています。
2-4 サステナビリティ
中外製薬は、患者中心の高度かつ持続可能な医療の実現を目指しています。具体的には、「世界最高水準の創薬の実現」と「先進的事業モデルの構築」を柱とする成長戦略TOP2030を策定し、「創薬改革」「開発改革」「製薬改革」「Value Delivery改革」「成長基盤改革」の5改革に取り組んでいます。その上で、世界のヘルスケア領域においてトップクラスのイノベーターを目指すとしています。
2-5 中外製薬のESG・サステナビリティに関する外部評価
中外製薬のESG・サステナビリティの取り組みは、以下の通り、外部機関から高い評価を受けています。
2022年12月12日 | ESG投資指数「DJSI World」において医薬品セクターで最高評価 |
2022年7月13日 | GPIFが採用するESG投資指数の構成銘柄に継続選定 |
2022年3月22日 | 令和3年度「なでしこ銘柄」に選定 |
2021年12月17日 | 環境対策2部門においてCDPの最高評価に相当するAリストに選定 |
2021年12月17日 | 温室効果ガス削減目標でSBT認定を取得 |
「DJSI World」はS&P Dow Jones Indices社が作成する代表的なESG指数です。医薬品セクターにおいては上位7銘柄が構成銘柄として選定される中、中外製薬は第1位のサステナビリティ評価を受けています。また、GPIFが投資を行う際に採用している5つのESG指数において引き続き構成銘柄として選定されています。具体的なESG指数には、「FTSE4 Good Index Series」や「MSCI ESG Leaders Index」などがあり、MSCIのESG格付けにおいては、高い評価を継続的に得ています。
また、中外製薬はダイバーシティに積極的な取り組みを行う企業として評価されているため、女性活躍推進に優れた上場企業であることを表彰する「なでしこ銘柄」にも組み入れられています。そのほかにも、環境対策や温室効果ガスの削減目標において外部機関から高い評価を得ています。
3 中外製薬の業績・株価動向
中外製薬の業績は拡大傾向にあります。実際、2021年12月期の業績実績は、売上収益や営業利益、当期利益の各項目すべてにおいて前年実績を上回っています。具体的な金額や増加した数値は次の通りです。
売上収益 | 9,997億5,900万円 |
うち製品売上高 | 8,028億円 |
営業利益 | 4,340億9,800万円 |
当期利益 | 3,115億1,600万円 |
売上収益のうち製品売上高は、国内製品と海外製品に分けられます。国内製品の売上高に関しては、薬価改定や後発品の影響を受けましたが、主力品の売上が好調に推移したことや、新製品が市場に浸透したこと、政府への製品納入があったことが前年比で大幅に売上高が増加した要因です。
一方、海外製品の売上高は、皮下注射で出血傾向を抑制する医薬品「ヘムライブラ」の海外輸出が大幅に増加したことや、ヘムライブラに関するロイヤリティやプロフィットシェア収入などの増加によって、大幅に伸びています。
また、2022年12月期の業績予想は、過去の業績実績を超える見通しです。具体的な今期の業績見通しは、次の通りです。
売上収益 | 1兆1,500億円 |
うち製品売上高 | 1兆315億円 |
営業利益 | 4,400億円 |
当期利益 | 3,125億円 |
国内製品売上は後発品販売による競争激化と薬価改定により、売上が減少すると予想されていますが、新製品と主力品がさらに伸びることで前年同期比24.6%増加する見通しです。
また、海外製品売上については、ロイヤリティ収入は減少するものの、ロシュ向けの輸出が本格化した「ヘムライブラ」とリウマチ治療薬「アクテムラ」の販売が伸長することで、売上を大きく押し上げると予想されています。
一方、中外製薬の株価は堅調に推移しています。直近3年間の株価動向としては一度大きく上昇して上場来高値6,435円を付けた後、下落が続いています。中外製薬の株価は2019年9月に2,633円の高値を抜けてから、1年で6,000円近くまで上昇しています。自社で創薬した血友病治療薬ヘムライブラが2019年に承認を受けてから販売に大きく貢献したことで、1年間で1,500億円を超える売上増加となっています。
また、6,000円付近から上場来高値6,435円を付けるまでは、野村證券による投資判断の引き上げや、「アクテムラ」が新型コロナウイルスに有効であると発表されたことなどが背景にあります。
4 中外製薬の配当推移
中外製薬は、株主還元の一環として配当金の支払いを実施しています。配当金は、毎年6月30日の中間配当と12月31日の期末配当の年2回配当金が支払われており、過去の配当金額は以下の通りです。
各年度 | 中間配当 | 期末配当 | 年間配当 |
---|---|---|---|
2017年 | 29円 | 33円 | 62円 |
2018年 | 31円 | 41円+特別配当14円 | 86円 |
2019年 | 48円 | 48円+特別配当44円 | 140円 |
2020年 | 75円 | 90円 | 165円 |
2021年(1株⇒3株で株式分割) | 30円 | 46円 | 76円 |
2022年 | 38円 | (予想)38円 | (予想)76円 |
業績の拡大が続いているため、配当金も毎年のように増加傾向にあります。業績が拡大することで配当性向から割り出される配当金が増えるため、増配が行われることになります。
なお、2020年〜2021年にかけて配当金が減っているように見えますが、実際は増額されています。というのも、2020年に1株を3株の割合で株式分割が実施されたため、この株式分割を考慮すると、2021年の年間配当は228円となり、2020年と比べて年間60円近く増配されたことになります。
また、2022年の配当金の支払い予想については、2021年と同額の年間配当76円を予定していますが、中間配当は8円増額の38円となっています。期末配当が予想通りであれば、前年実績と同じく年間76円の配当金の支払いが期待できます。
まとめ
中外製薬はESG・サステナビリティに対して自社独自のミッションを掲げて積極的に取り組んでいる企業です。また、ESG指数に採用されたり、各認定を取得したりするなど外部の評価機関からも高い評価を得ていいます。業績も好調であることから、今後さらなる増配も期待できるでしょう。
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