食品・飲料世界大手のネスレ(ティッカーシンボル:NESN)は10月4日、同社コーヒー事業の主力ブランド「ネスカフェ」の新サステナビリティ計画「ネスカフェ・プラン」を公表した(*1)。2030年までに10億スイスフラン(約1,400億円)超を投じ、リジェネラティブ農業(環境再生農業、#1)の推進、温室効果ガス(GHG)排出量の削減、コーヒー農家の生活向上を図る。
ネスカフェコーヒーブランドのヘッドを務めるデイヴィッド・レニー氏は「気候変動によってコーヒー生産地は圧力にさらされている。過去10年間にわたる従来の「ネスカフェ・プラン」の経験に基づき、気候変動対策に加え、「ネスカフェ」のバリューチェーン(価値連鎖、#2)における社会的・経済的課題の解決を後押しする取り組みを加速させる」と述べた(*1)。
気温上昇により、50年までにコーヒーの生産に適した地域が最大50%減少する見込みである。約1億2,500万人の人々がその生計をコーヒーに依存しており、コーヒー農家の80%は貧困ライン以下で生活をしていると推定される。そのようななか、コーヒーの長期的な持続可能性を確保するためのアクションが求められている状況だ。
ネスレはコーヒー農家のリジェネラティブ農業への移行をサポートすべく、研修、技術的支援、高収量のコーヒー苗木を提供する。リジェネラティブ農業の取り組み事例として、①カバークロップ(被覆作物、#3)の植えつけによる土壌保護、②土壌へのバイオマス追加による土壌有機物の増加および炭素隔離の促進など実践する。
「ネスカフェ」ブランドでは、25年までに100%責任ある調達を目指すほか、リジェネラティブ農業によるコーヒーの調達割合を25年までに20%、30年までに50%へと段階的に引き上げる。
メキシコ、コートジボワール、インドネシアでは、リジェネラティブ農業への移行を加速させる資金援助プログラムを試験的に導入する。この取り組みには、①リジェネラティブ農業に取り組む農家向けの条件付き金銭的インセンティブの付与、②天候保険を活用した収入保護、③信用枠の大幅拡大などの措置が実施される見込みである。同プログラムの進捗のトラッキングおよび評価については、国際認証機関「レインフォレスト・アライアンス」と連携する。
「ネスカフェ」では、30年までにGHG排出量を半減し、50年までにネットゼロの達成を目指す。その一環として、より多くの炭素を回収し、土壌中に貯留する取り組みを推進する。コーヒー農園やその周辺に2,000万本以上の植林も行う計画だ。
ネスレは多岐にわたるサステナブルな取り組みを推進する。7月にはメキシコで100%水を再循環させ、グリーンエネルギーを活用した持続可能なコーヒー工場を開設(*2)。10月初旬には主力菓子ブランド「キットカット」の包装材料に80%再生プラスチックを使用するとともに、「クオリティストリート」のひねり包装にFSC認証材の紙パッケージを導入すると発表した(*3)。
(#1)リジェネラティブ農業…土壌の健康と肥沃度を改善し、水資源や生物多様性の保全を目指す農業アプローチ。健全な土壌は気候変動に対するレジリエンス(強じん性)が高く、収穫量を増やし、農家の生活向上を後押しする(ネスレウェブサイト参照(*1))。
(#2)バリューチェーン…企業の事業活動(原材料調達から製造、流通、販売、アフターサービスまで)を価値創造のための一連のながれとしてとらえ、付加価値を分析するツール。
(#3)カバークロップ…土壌浸食を防ぎ土壌中に有機物を加えて土壌改良に役立つ作物。
【参照記事】*1 ネスレ「Nestlé launches NESCAFÉ Plan 2030 to help drive regenerative agriculture, reduce greenhouse gas emissions and improve farmers’ livelihoods」
【関連記事】*2 ネスレ メキシコに100%水再循環・グリーン電力利用のサステナブルコーヒー工場開設
【参照記事】*3 ネスレ「Nestlé Confectionery announces major packaging innovations for Quality Street and KitKat」
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