航空業界の脱炭素化に向けた取り組みが推進されている。炭素除去スタートアップのグラファイト(Graphyte)は11月28日、アメリカン航空と2025年初頭に1万トンの炭素を永久除去する契約を締結した(*1)。航空スタートアップのゼロアビアは27日、シリーズC(資金調達ラウンド)で1億1,600万ドル(約170億円)を調達し、水素燃料電池を搭載した航空機の開発を進める。
グラファイトは、ビル・ゲイツ氏が立ち上げたブレークスルー・エナジー・ベンチャーズから支援を受ける炭素除去スタートアップだ。グラファイトは、光合成によって二酸化炭素(CO2)を取り込んだ木の皮、籾殻、植物の茎など、農業や林業から出る副産物を再利用する、世界初で唯一の炭素除去技術である「Carbon Casting」と呼ばれるプロセスを採用する。
Carbon Castingを活用してこれらの容易に入手可能なバイオマスを乾燥・圧縮した後、環境的に安全で不透過性のバリアで保護された高密度のカーボンブロックに変換し、最先端のモニタリングを備えた地下施設に保管する。また、バイオマスに含まれるほぼ全ての炭素を保存し、その過程で殆どエネルギーを消費しないため、既存の炭素除去アプローチと比較して大幅に少ないエネルギーと低コストでCO2を1,000年以上貯留できる。
アメリカン航空はグラファイトにとって初の顧客となる。Carbon Castingを活用した炭素除去は、主要な農業地域と木材生産地域が交わるアーカンソー州パインブラフにあるグラファイトの施設で行われる。
世界の航空業界の脱炭素化の動きを巡っては、国際民間航空機関(ICAO)が2022年10月、50年までに国際線が排出するCO2を実質ゼロにする、気候変動に係る国際航空分野の長期目標(LTAG)を採択した(*2)。
LTAGの達成には、革新的な航空機技術の導入加速、運航方法の改善、植物や廃油などを使った持続可能な航空燃料(SAF)の生産・利用拡大など、多様なCO2排出削減策が求められる。また、航空業界はCO2の排出削減が困難な産業(hard-to-abate産業)であることから、今回のケースのように、炭素クレジットが航空業界の残余排出をなくす上で重要な役割を果たすと見られている。
航空業界の脱炭素化に向けた動きが活発化しており、11月27日には航空スタートアップのゼロアビア(ZeroAvia)が、シリーズC(資金調達ラウンド)で1億1,600万ドル(約170億円)を調達したと発表した。調達した資金を元手に、航空用水素電気エンジンの認証取得への取り組みを加速させると共に、より大型な航空機向けのクリーンな推進技術の開発を推進する方針だ。
今回のラウンドは、エアバス、バークレイズ・サステナブル・インパクト・キャピタル、サウジアラビアの投資ファンドであるネオム・インベストメント・ファンドが共同リードを務めた。また、英国インフラ銀行が中核的投資家(コーナーストーン投資家、#1)として参画したほか、ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズやアマゾンのクライメート・プレッジ・ファンドなども加わった。
2050年には、航空業界が英国のCO2排出量の約4分の1を排出すると予測されている。今回の資金調達は、この10年間に英国の空港間を飛行できる新しいクリーンな推進技術を開発することで、2050年までに航空を脱炭素化するという政府の目標達成を支援するものだ。
(#1)コーナーストーン投資家…公募に先立ち引受を行う機関投資家。
【参照記事】*1 アメリカン航空「Graphyte signs first carbon removal purchase agreement with American Airlines」
【関連記事】*2 国際民間航空、50年CO2排出実質ゼロへ。国連の専門機関で目標採択
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