英経済誌エコノミストの調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が実施し、カナダの証券会社RBCウェルス・マネジメントが公表した最新調査で、アジアの若年富裕層投資家の間で、投資意思決定の際にESG要因を重視する傾向が強まっていることが分かった。彼らのそのような傾向は、英国や北米地域の若年富裕層投資家と比べて強いことも明らかになった。
7割超がESG投資を重視
調査によると、シンガポールと香港、台湾、中国の若年富裕層投資家の72%がESG要因を考慮した投資が今後重要になってくると回答した。一方、英国や米国、カナダの若年富裕層投資家では43%にとどまった。
シンガポールのスタートアップ支援会社Antler社創業者兼CEOのMagnus Grimeland氏は、アジアの若年富裕層投資家がESG投資を重視するのは、気候変動の環境への影響や増え続ける人口に対する雇用創出のあり方などを考慮しての「ダイベストメント(投資引き揚げ)」を含め、アジア地域が直面する幅広い課題の解決に貢献したいという思いの表れだと指摘する。
若年層の増加もESG投資重視に拍車
アジアの若年富裕層の人口動態の変化も、ESG投資を重視する傾向に拍車をかけている。
EIUによると、アジアでは向こう5年間でESG投資やインパクト投資を重視するとした人が、ミレニアル世代(1981~96年生まれ)で全体の25%だったのに対して、ベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)は11%にとどまっている。ベビーブーマー世代以降の若年層のほうが、それ以前の世代と比べてESG投資を重視する傾向が強いことも浮き彫りになっている。
アジアではミレニアル世代がベビーブーマー世代を既に上回っており、ミレニアル世代が富裕層の仲間入りをするようになれば、彼らの投資志向はアジアのESG投資に変化をもたらし、サステナブル投資商品へのニーズはさらに高まると予想される。
社会にもポートフォリオにもリターンをもたらす
投資方法への関心は異なるものの、投資の最大の目的はどの世代にとっても依然として「資産の増大」だ。そんな中、ESG投資が安定した収益とリスクの低減に寄与しているという調査結果が増えるにつれ、若年投資家はより高い割合で投資目的と倫理的投資を関連づけるようになっているようだ。
アジアの若年富裕層投資家の“ESG投資熱”は、結果として社会にも彼らのポートフォリオにも利益をもたらすwin-winなものになるかもしれない。
木村 麻紀
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