デリバティブ市場を制するものは暗号資産市場を制する。現在、世界には500を超える取引所が存在する。世界初の取引所は、ビットコインを両替する目的で誕生した。それから約12年の時を経て、取引所は急成長を遂げた。ただ暗号資産を売買するだけではなく、より高度な取引であるデリバティブの需要が高まっているのだ。
本稿では、デリバティブと何か、その将来性と魅力をdYdXがあえてデリバティブ市場から攻める理由と併せて解説する。
目次
1. デリバティブ取引とスポット取引の違い
暗号資産には主に最もシンプルなトレーディングである「スポット取引」とやや特殊なオーダーを可能にする「デリバティブ取引」の、2つの異なる取引がある。
スポット取引(別名:現物取引)とは、取引が成立した時に所有する暗号資産(現物)が売買され受け渡しが成立する。例えば、所有しているビットコインをステーブルコイン(USDCなど)や法定通貨に交換して利益を今すぐ確定したい場合、スポット取引が利用される。単純に、取引が成立した時点で、現物が指定した暗号資産または日本円を含む法定通貨へ交換されるのだ。
スポット取引では「現在持つトークンを利用したリアルタイムでの取引」に基づくのに対して、デリバティブ取引は、「将来の取引の約束」に意味する。デリバティブ取引とは、単なるコインの売買とは異なる特殊なトレーディングを指す。主に「先物取引」や「オプション取引」が含まれる。
デリバティブ取引の中でも人気の高い「先物取引」では、将来のある時点での価格を予想し、「ロング(買い)」または「ショート(売り)」注文を執行可能だ。例えば、翌日に暗号資産の価格が現時点より上がると予想する場合、ロング(買い)を選択する。予想通り価格が上がれば、利益となる。さらに、デリバティブ取引では、レバレッジを利用することで、実際の資金よりも多くの取引が可能。
これらのデリバティブ取引では、通常あらかじめ期限が決められている。つまり先物取引にはタイムリミットが設定されており、期限に達したら取引を完了させなければならない。取引終了時に予想と反する値動きをしていた場合でも、ポジションが解除されるためトレーダーにとって不利に働く場合がある。
この期限の問題を解決するデリバティブ商品が、パーペチュアル契約(無期限先物契約)だ。無期限で先物取引を実行することができるため、タイムリミットは定められていない。万が一、暗号資産の価格が予想に反して上下した場合でも、カバーする資金を持っていれば相場が変わるのを待つことが可能となる。
デリバティブ取引は、注文方法がやや複雑であり、マーケットの動きを正しく予想するスキルが必要となることから、トレーディング中上級者向けの取引である。一方で、スポット取引では対応できない方法で利益を得ることが可能だ。例えば、暗号資産の価格が上昇した場合だけでなく、下降した場合にも正しく価格の動向を予想することができれば利益を得ることができる。このためデリバティブ市場が、「弱気相場でも取引量が下がらない」という声もある。
2. デリバティブ市場の将来性と魅力
デリバティブ市場は、右肩上がりに成長している。2022年時点でバイナンスをはじめとするCEX(中央集権型取引所)におけるデリバティブ取引量は、すでにスポット取引量を超えた。デリバティブの取引量は2.75兆ドルであり、暗号資産マーケット全体の66.1%に匹敵する。一方のスポット取引量は、1.41兆ドルだ。
日本国内の取引所32社を比較したデータによると、2022年7月時点の現物取引高が1兆714億8,500万円なのに対し、証拠金取引高は1兆7,503億9,200万円である。圧倒的に証拠金取引つまりデリバティブ取引の方が現物取引を上回っていることがわかる。
およそ1年前の2021年では、デリバティブとスポット取引量はほぼ同等だった。なぜ、デリバティブが急成長し、スポット取引を超えたのか?その理由は2つ考えられる。
一つ目の理由は、暗号資産の激しい価格変動だ。価格が激しく上下する暗号資産市場において、確実に利益を確定したり、損失を最小限に抑えるには、スポット取引では不十分である。短期間の少ない価格変動で利益を最大化したい場合には、デリバティブ取引が必要とされることからデリバティブ市場が拡大している。
二つ目に考えられるのは、暗号資産の認知度が高まり経験豊富なプロのトレーダーが増えたことだ。2017年のビットコインブームから約5年が経ち、ハイリスクなトレーディングスキルを持つトレーダーが増えた。先物取引やレバレッジ取引には、一定以上の知識やスキルが必要となる。
レバレッジ取引とは、証拠金を担保にして実際に所有する資産よりも大きい額を取引することである。例えば、dYdXで1 ETHへ20倍のレバレッジを設定した場合、20ETH投資しているとみなして取引をすることになる。価格が予想通りに変動した場合、得られる利益も20倍となる。一方で、予想に反する値動きにより清算価格に到達した場合は、自動的にポジションが解除され証拠金を失うことになる。
レバレッジが10倍、20倍と高ければ高いほど、少額の予想の誤差で清算価格へ到達してしまうため、トレーダーはこのようなリスクを正しく理解した上で取引を行わなければならない。トレーディングによる利益を最大化したい場合や、数時間程度の短期間における少ない価格変動でより多くの利益を得たい場合に最適な方法だが、暗号資産の初心者にはハードルが高い取引なのだ。今後、より経験豊富なトレーダーが増えることで、レバレッジトレードを始めとするデリバティブ取引の利用者が増えると期待されている。
3. dYdXの戦略
取引所には中央集権型の取引所であるCEXと、分散型の取引所であるDEXに分けることができる。バイナンスや日本国内の取引所はCEX(中央集権型取引所)であり、管理者を中央に持つ取引所だ。規制対象の個人やエンティティがある分、中央集権型の取引所は政府からの規制を受けやすい。中でも、暗号資産やレバレッジ取引への規制は年々厳しくなっており、完全に暗号資産を禁止する国も多く存在する。
一方、DEX(分散型取引所)は、管理者を中央に持たない。つまり、DEXにおいては、理論上、政府が規制をかける組織が存在しないことを意味する。
DEXの一つであるdYdXでも、デリバティブ取引に焦点を当てている。dYdX創設者のアントニオ・ジュリアーノ氏は、過去の対談で「今後さらに分散型は成長するだろう。それに加えてデリバティブも大きくなるはずだ。」と発言している。さらに、「我々は、新しいトレーディングの波を目にした。今こそデリバティブにシフトする時だ。」とも述べた。バイナンスやFTXなど代表的なCEXを超えるために、まずはデリバティブ市場の構築に注力しながらマーケットを制す計画だ。
以下のグラフは、イーサリアムのパーペチュアル取引量とCEXを比較したものだ。
Web3のモットーである分散型への課題は多く、中央集権型取引所よりも土台の構築への時間がかかる。dYdXも、「完全分散型(V4)」という最終形態へ向けて開発している途中の段階だ。今後の成長が期待されるDEXにおいて、デリバティブ市場から取りに行くことは理にかなっているだろう。まずはデリバティブ取引を制するDEXがトップの座に君臨すると言っても過言ではない。
実際、パーペチュアルをめぐるDEXの熾烈な競争は始まっている。dYdX以外にも以下の3社がパーペチュアル取引に対応している。3社とも、パーペチュアル取引に対応するDEXである。
- GMX(https://gmx.io/)
分散型取引所。イーサリアムをはじめとする4種類の暗号資産に対応し、パーペチュアル取引を提供する。 - Gains Network(https://gains.trade/)
多数の暗号資産に対応する分散型取引所。高いレバレッジ取引が可能。 - Mycelium(https://mycelium.xyz/)
7種の暗号資産に対応し、安い手数料で取引可能な分散型取引所。パーペチュアル取引を提供する。
dYdXは、最終形態として完全に権力を持つ組織を排除した完全分散化を目指しており、現在は取引所のサービス構築へ取り組んでいる段階だ。dYdXにとってデリバティブ取引はその開発計画における最優先事項である。
4. まとめ
暗号資産マーケットを率いてきたCEX(中央集権取引所)において、デリバティブ取引の需要はスポット取引を大きく上回っている。dYdXでは、まず需要のある市場を攻める方針だ。DEX(分散型取引所)としてデリバティブ市場を制したのち、スポット取引を始めとする他の機能の構築が進められる。
Web3のトレンドや流れは日々変化している。当然ながら、成功した他社のマネをするだけでは不十分であり、正しく波に乗りながら、他に勝る質のいいプロダクトを提供することが求められているのだ。
2022年時点で暗号資産業界に注目し、暗号資産を保有するだけでなくトレーディングをする人は、アーリーアダプター(早期採用者)と言われている。この記事を読むアーリアダプターの方には、dYdXがデリバティブ市場を制することができるのか、今後の発展に注目して欲しい。
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dYdX財団
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