本記事では現在仮想通貨取引所でトレーダーを行う筆者が、日々イーサリアムを含めて仮想通貨の市況をチェックする中で得た情報や今後の動きについて、シナリオ含めて解説していきたいと思います。
筆者は前職で3メガ系証券会社の外国為替のスポット、フォワードトレーディング、そしてEM通貨建(トルコリラ、南アフリカランド、インドルピー、ブラジルレアル等々)クレジットトレーディングを行っており、世界経済の分析をしながら日々マーケットと対峙していました。そのためFXの見方の色が出ることもありますが、仮想通貨特有の特徴も含めて分析していきたいと思います。
※本記事の内容は9月1日執筆時点の情報となります。
目次
- 8月のイーサリアムのマーケットと9月の市況と見通し
- どうしてイーサリアムの下落が止まらないのか?
- イーサリアム上昇のきっかけとなりそうなイベントは?
- 世界経済の悪化が仮想通貨市場に対していい材料となる可能性
- イーサリアムのテクニカル分析
5-1.移動平均線でのトレンドをチェック
5-2.イーサリアムの需給バランス
5-3.フィボナッチから見た下値目処
5-4.ピッチファンからトレンドの強さを探る
5-5.オシレーターの位置をチェック - イーサリアムの今後の相場展開は?
8月のイーサリアムのマーケットと9月の市況と見通し
まず最初に8月のイーサリアム相場を振り返りたいと思います。
8月上旬は対円で26,000円台を伺う動きを見せましたが引き続き長期下落トレンドの過程になる動きとなっています。最終的に26,000円手前から18,000円付近(8月29日現在)まで下落しており、引き続き反転上昇の兆しがあまり見受けられてない状況となっています。
ではこの長期下落トレンドがなぜ続いているのかを解説していきましょう。
どうしてイーサリアムの下落が止まらないのか?
イーサリアムの下落の要因は「アルトコインがまとめて売られている状況でビットコインの一強状態が継続しているから」というしかなさそうです。
色々細かな理由は解説されていますが、仮想通貨のプレイヤーが、個人投資家から機関投資家、ヘッジファンド等に変化したことから、現在はビットコインの一強状態が継続しています。ビットコインに資金が流入している理由は、仮想通貨を大口投資家が始める場合に重要なファクター「流動性」を満たしているためです。
流動性とは「市場で売り買いが成立している取引量」です。大口の投資家にとってこの流動性は生命線とも言えるほど重要なものです。流動性が低下すればするほど売りたいときに買い手がいないわけですから、売りたい値段で売り切ることが出来ませんし、不測の事態に陥った時に投げ売りをすると、恐ろしいほど悪いプライスで取引が成立してしまう可能性もあります。こうした流動性の恐ろしさは経験しないとわからないものですが、仮想通貨の取引経験がある方でマニアックな草コイン等取引したことのある投資家なら理解できるのではないでしょうか。
こうした理由が背景にあり、2019年はビットコインのドミナンスが大きく上昇してきており、仮想通貨で買える通貨となるとビットコインを選ぶ投資家が増えているトレンドが続いています。また、ビットコインの上昇に伴い、アルトコインを持っていても儲からないと考えた投資家がイーサリアム含めた「アルトコイン売りビットコイン買い」を行っているフローが見受けられます。その動きを表しているのが下記のチャートです。
上記は対ビットコインのイーサリアム、リップル、ライトコインチャートです。下落すればするほど、アルトコインが弱まり、ビットコインが上昇していることがわかります。このように2019年はビットコインが対アルトコインに対して強含んでおり、この動きが継続していることがイーサリアムが上昇しない大きな要因の1つとなっています。
イーサリアム上昇のきっかけとなりそうなイベントは?
ではイーサリアム上昇のきっかけとなりそうなイベントがないかというとそうでもありません。イーサリアムは10月に大きなアップデート「イスタンブール」が予定されています。現在イーサリアムの技術は新通貨を作成するために利用されており、より広い仮想通貨関係者の技術のベースとなるようなものとなるべくアップデートが行われます。当然このアップデート後の技術が利用しやすいものであればイーサリアムの価格にも反映されることになるでしょう。
仮想通貨にはこの領域ならではのイベントとして、特有のアップデート、そしてハードフォークや、マイニング報酬が減少する「半減期」などがあります。このようなイベントが投資をしている通貨で行われる場合は把握しておくと良いでしょう。特にハードフォークの場合は上昇しやすいため、基本的に世界の仮想通貨の投資家はチェックしています。また、今年に半減期を迎えたライトコインの大幅上昇を見ると、半減期というイベントに関しても時期を把握していつから上昇しやすいのかチェックしておくことがおすすめです。
世界経済の悪化が仮想通貨市場に対していい材料となる可能性
ここではイーサリアム特有のファンダメンタルズではなく、仮想通貨全体の市場としてコメントしたいと思います。
現在の世界経済はリーマンショックから11年が経過しており、景気のサイクルからすると10年で転換しやすいと言われていることから、そろそろ一旦調整がされてもおかしくない状況となってきました。今年のニュースも、米中貿易摩擦の悪化から米株、日本株ともに下落し、米国債金利は急低下しています。米国も景気はまだ悪くないものの、予防的利下げを行って景気悪化に備える動きを始めました。ヨーロッパでも金融緩和方向に舵を変更しつつあり、日本でも景気が悪化する材料が出てきた場合は、躊躇なく緩和政策を行うことを示唆するコメントも日銀黒田総裁から出ています。
このようにリーマンショック以降中央銀行はマイナス金利や、国債買い入れによる流動性供給を行い、市場に「モルヒネ」を打ちながら回復してきた経緯があります。しかし本格的な回復には程遠い状態なものの、米中貿易摩擦の皮切りに世界経済に雲がかかるような動きとなってきました。
仮想通貨がリスクアセット(株や高金利通貨等)なのかリスク回避手段のプロダクト(ゴールド)なのか定義はされていませんが、足元は金価格とビットコインの動きに相関性が見られています。下記が金価格とビットコインのチャートです。(青色:ビットコイン 水色:ゴールド)
春先からビットコインとゴールドが同じ動きをしているのは注目すべきポイントです。今後も株が下落し、金利が低下する中、金が上昇しビットコインが上昇するという動きが出るかどうかをチェックしておきましょう。
ここまでを見ると、現状では景気の後退が訪れようとしている動きは仮想通貨にはいい材料であることが理解できると思います。この世界経済全体の動きの中でビットコインだけ上昇するのか、アルトコイン含めて仮想通貨全体が再度盛り上がるかは不透明ですが、材料の1つとして中長期的に注目すべき動きと言えます。
イーサリアムのテクニカル分析
ここからはチャートからテクニカル分析を行っていきます。
移動平均線でのトレンドをチェック
下記はETHJPYの日足チャートと、4時間足チャートで、使用している移動平均線は50日移動平均線と200日移動平均線です。8月のETHJPY相場は一時26,000円付近まで反発し、下落トレンド転換となるか注目されていましたが、結局長期下落トレンドに逆らうことが出来ずに失速し18,000円割れの水準まで大幅下落となっています。
日足のチャートで見た移動平均線は4月以降の上昇相場から形成したゴールデンクロスは、現在50日移動平均線が200日移動平均線を逆にデットクロスしようとしている状況です。ここで明確にデットクロスとなると中長期的に上昇トレンドに入るのは何かしらの大きな材料が必要となりそうな動きとなっています。出来高を見ると、足元全く取引量が伸びておらず、マーケット参加者があまりイーサリアムについての興味を失っているような出来高となっています。
続いて4時間足チャートです。こちらはデットクロスが成立した後は50日移動平均線を中心に下落トレンドを形成中です。移動平均線から10%以上の乖離が出ると、一旦反発するような動きになっていますが、中長期的なロングはポジションとして保有しづらいチャートになっています。こちらの出来高をチェックすると下落時に取引量が伸びている動きが顕著に出ており、ストップロスの売りが断続的に出ていることがわかりやすい出来高の動きとなっています。
イーサリアムの需給バランス
次にポジション動向をチェックしましょう。下記は「L/Sチェッカー」というサイトでまとめられているポジション動向です。このサイトで表示される未決済建玉は今後のマーケットを動かすパワーの一つになることからチェックしておく必要があります。
【参照URL】L/Sチェッカー
上記を見ると、足元ショート勢が大きく減少しロングポジションが積み上がっていることが把握できます。しかし、これはショート勢のストップロスが入った後の画面となっているため、一概に現状のマーケットを把握できる数字とも言えません。ですが、このロングショートの割合が再度50%付近まで戻ってきた後は、再度ショートメイクをする投資家が増えやすい動きとなるでしょう。
フィボナッチから見た下値目処
次に日足チャートでフィボナッチを利用して下値目処をチェックしていきます。
フィボナッチで見ると7月には一旦3分の2戻しの位置で止まったものの、再度下落を開始し現在の18000円前後の水準に位置しています。ここから次のターゲットとなるのは15,800円付近の76.8%の位置となっており、ここまでの下落はある程度考えておく必要があるでしょう。
ピッチファンからトレンドの強さを探る
次にピッチファンでトレンドの強さをチェックしていきます。ピッチファンはフィボナッチ数列を利用してレジスタンスラインを測るものです。
現在の動きではダウ理論で下落が3回程度続き、下値をブレイクする度に下落幅が小さくなっていることから下落圧力は徐々に弱まっていることがチャートからわかります。また、レジスタンスラインの上側にローソク足が位置し始めており、下落トレンドがこのような点から弱まっていると推測できます。反発した場合の最初の上値目処は次のフィボナッチの位置である24,000円程度がターゲットとなるでしょう。
オシレーターの位置をチェック
最後に過熱気味の相場なのか売られ過ぎの相場のなのかをチェックしていきます。下記ではRSI、ストキャスティクスRSI、CCI(コモディティチャネルインデックス)の3つを表示しています。
RSIは30付近に位置しており、売られ過ぎの付近に位置しており、ストキャスティクスRSIも売られ過ぎの水準まで低下しています。CCIも売られ過ぎの位置で低位安定のような動き方となっており、ここから売り圧力が膨らむような位置ではないことが把握できます。
一つ注意点として、仮想通貨のマーケットではオシレーターはあくまで参考程度で捉えてください。勢いが強まると、売られ過ぎの位置に突入してからの数十%下落したりすることもあります。ですので、仮想通貨の分析においてはオシレーターよりも需給環境やダイバージェンス等でトレンド転換をチェックする方がベターです。
イーサリアムの今後の相場展開は?
イーサリアムの今後の相場展開として注目すべきは大規模アップグレードです。大規模なアップグレードは重要なファンダメンタルズと言えますが、現時点ではアルトコインの弱含む地合いがかなり大きな下落バイアスにつながっています。しかし、テクニカルでは下落圧力が一旦弱まりつつあり、ここからの下落は限定的な兆候も出ていることから、急な反発には注意したい局面に入ってきているといえるでしょう。
需給バランスはロングが大勢を占めているようにも見えますが、ポジションがフラットになるスピードが早いため、中長期的に保有する場合はあまり気にしなくてもいいでしょう。下落局面は淡々とロングポジションを積みながら、ショートカバーを狙うトレードがやりやすいのではないかと感じます。
世界経済全体では景気後退の足音が忍び寄る中、世界景気の後退は仮想通貨のマーケットには好材料となるため、仮想通貨市場に資金が流入しやすい環境が出てきています。しかし、あくまでトレンドは下落トレンドのため、あまり深く損切りラインを設けると大きな痛手を被る可能性があるため、損切りは明確なラインでしっかり行うことと良いでしょう。
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中島 翔
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