今回は、イーサリアムのThe Mergeと各社の対応方針について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- イーサリアムのThe Mergeとは
1-1.The Mergeの概要
1-2.イーサリアムのアップグレード実施の背景
1-3.ハードフォークが起こる可能性 - The Mergeに対する各社の対応方針
2-1.GMOコイン
2-2.DMM Bitcoin
2-3.bitbank
2-4.FTX Japan
2-5.SBI VCトレード - まとめ
イーサリアムの開発をリードしている「イーサリアム財団(Ethereum Foundation)」は8月末に、大型アップデート「The Merge(ザ・マージ)」が22年9月10日~20日の間で実行される見込みであることを明らかにしました。
これを受けて国内外の各仮想通貨取引所では、それぞれのThe Mergeへの対応方針を発表しています。今回は、イーサリアム・ブロックチェーンにおいて間もなく実行されるであろうThe Mergeについて、その概要や特徴および各社の対応方針を詳しく解説していきます。
①イーサリアムのThe Mergeとは
1-1.The Mergeの概要
「The Merge(ザ・マージ)」とは、数年に渡って進められているイーサリアム・ブロックチェーンの大型アップグレードのことを指します。The Mergeにより、イーサリアムメインネットが現在のビーコンチェーンとマージされ、プルーフオブワーク(PoW)からプルーフオブステーク(PoS)へとコンセンサスアルゴリズムが移行します。
イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏は、マージに至るまでの「長く複雑な移行プロセス」を完了することで、イーサリアムはより強固なネットワークになると述べています。マージが成功することによって環境負荷を軽減できる他、ブロックチェーンの進化にも繋がり仮想通貨業界の発展に大きく貢献すると言われています。
1-2.イーサリアムのアップグレード実施の背景
イーサリアムがこの大規模なアップグレードを行っている背景として、PoWの膨大な電力消費量が挙げられます。
PoWとは、世界中のマイナーが互いに競い合い、膨大な計算を実行します。計算処理が完了するごとに新しいデータがブロックチェーンに追加されるのですが、この計算処理を最初に完了したマイナーに報酬が与えられる仕組みとなっています。
この仕組みは課題も指摘されています。マイナーによる膨大な計算量には多くの高価なコンピューターが用いられる結果、大量の電力が消費されるため、あらゆる事業でサステナビリティが求められる昨今において環境への悪影響が懸念されているのです。
そこで注目されるのがPoSです。PoSでは、PoWのようにマイナーが計算を実施する必要がなく、ETHを沢山保有しているマイナーが多くのブロックを獲得することができるという仕組みになっています。計算能力に頼らずにトランザクションをチェックして承認するため、PoWと比較してエネルギー消費量は99.95%削減するとも言われています。
1-3.ハードフォークが起こる可能性
イーサリアム・ブロックチェーンはThe Merge完了後、「ハードフォーク」が起こる可能性があると言われています。
PoSに移行した時点で、現在のイーサリアムのマイナーは、他のPoWチェーンへの移行や閉鎖を余儀なくされます。しかし、仮想通貨マイナーの1人であるチャンドラー・グオ氏は、マイナーがマージ後も現在のPoWイーサリアムチェーンの検証とブロックの追加を続けることを提案している様です。
この動きは、現在のイーサリアムのPoWチェーンを存続させるもので、支持者はこれを「ETHPOW」と呼んでおり、従来の仮想通貨ETHと互換性のない新たな仮想通貨が同時に存在する可能性があるわけです。
The Merge後に分岐が起こらない可能性もあります。しかし、分岐が発生したケースでは、PoWチェーンに独自の仮想通貨「ETH PoW(通称:ETHW)」が誕生する可能性があり、この取扱いについて取引所各社の対応が注目されています。
②The Mergeに対する各社の対応方針
前述した、The Mergeに伴う「ETHS」および「ETHW」誕生の可能性を受けて、国内外の各仮想通貨取引所では、それぞれのThe Mergeへの対応方針を発表しています。
ここでは国内取引所に焦点を当てて、それぞれの対応を解説していきます。
2-1.GMOコイン
- 22年8月29日時点においては、ETHWの取り扱いについては未定。
- ETHWが誕生した時点において、ユーザー資産の「スナップショット」を取得する予定。
- ETHWの取り扱いについては、「日本暗号資産取引業協会(JVCEA)」が定める規則に則った対応を行う。
- アップグレード完了後にGMOコインで売買ができるETHは、アップグレードによって移行したPoSチェーン上の資産を採用する予定。
- ユーザーの資産を守るため、また売買に支障が生じることを避けるため、一部の仮想通貨の預け入れおよび送金を一時停止する予定(ETH、MKR、ENJ、FCR、BAT、OMG、LINK、DAI)。
2-2.DMM Bitcoin
- ETHの入出金に関する受付を制限する。
- ETHおよびERC-20トークン(ETC、ENJ、OMG、BAT)の売買を一部制限する。
- 22年8月26日時点において、ETHWの取り扱いは未定。
- トークンの付与数量を決定することを目的として、アップグレードが実行される際に、現物のETHの保有量について記録保管を行う。
なお、取引制限の有無や実施時間などについては、後日発表が行われるということです。
2-3.bitbank
- 22年8月24日時点においては、ETHWの取り扱いは未定。
- ETHWの取り扱いを開始するためには、自社のリスク評価や「日本暗号資産取引業協会(JVCEA)」の規則に則った手続きが必要。
- ETHWが誕生した時点における、ユーザー資産のスナップショット取得を行う予定。
- ETHWの取り扱いを実施しない場合、ETHWの付与は行わない。
- チェーンが分かれたことによって取得したETHWは、コールドウォレットにて管理する。
2-4.FTX Japan
- 「The Merge」の前に売買を停止する予定はなく、ユーザーが問題なく取引ができるようサポートを行う。
- FTX Japanにおける「ETH-PERP」については、「ETH PoS」の価格を参照する。
- フォークされたコインに関しては、リスク評価を行い、取り扱いを開始する場合は協会規則等に従って申請を行い、スナップショットされたユーザーの口座における現物のETHの残高によって、順次付与を行う。
- 取り扱いを行わない場合は、フォークコインに関しては付与を行わない。
- FTX Japan内のティッカー「ETH」は、「The Merge」完了後は「ETH PoS」を参照する。
2-5.SBI VCトレード
- PoSに移行したETHについては、継続して取り扱い予定となる。
- ETHWについては、「The Merge」完了後のETHWの状況を注視した上で、ETHWの取り扱い、ETHのホルダーへの付与などを検討していく。
- ETHWの取り扱いについては、ETHWの流動性の確保や「日本暗号資産取引業協会(JVCEA)」の承認手続きを行う必要があり、関係各所との連携を図っていく考え。
- ETHWが誕生した時点、および「The Merge」の際に、一時的にETHの入出庫をストップする。
③まとめ
イーサリアム財団(Ethereum Foundation)は先日、The Mergeが22年9月10日から20日の間で実行される見込みであることを明らかにし、各取引所ではそれぞれの対応方針を明らかにしています。
なお、実際にハードフォークが発生して「ETHW」が誕生した場合は、ETHおよびERC-20トークンの入金および出金や売買が一部制限される場合もあり、その詳細な時期などに関しては、各取引所により随時発表されていくということです。
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中島 翔
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