証券会社を経て、暗号資産(仮想通貨)取引所でトレーディング業務に従事した後、現在は独立して仮想通貨取引プラットフォームのアドバイザリーや、コンテンツ提供事業を運営する中島翔氏のコラムを公開します。
目次
2020年8月1日にイーサリアムクラシックの51%攻撃事件が発覚し、7日にも続けて同じ攻撃を受けたため、主要な取引所がETCの取扱いを継続するか、上場廃止するか検討しているとThe Blockが報じています。
海外の主要な取引所で上場廃止が決定されれば、価格へのマイナスの影響は免れないと考えられます。日本でもETCを取り扱っている暗号資産取引所は多いので、本件の問題点を整理しておきましょう。
①ETC、51%攻撃の流れ
8月2日、イーサリアムクラシックの開発チームは、ETCネットワークにおいて生じたリオーグ(Reorganization:巻き戻し)について声明を公表しました。
- 約12時間に渡り、あるマイナーがオフライン環境で3500ブロックをマイニングし、その後オンラインに復帰、その時点で大規模なチェーンのリオーグが発生した。
- この大規模なチェーンの再編成をノードネットワークは正常に処理できず、ネットワークが同期されなかった為、チェーンが分岐した。
ブロックチェーンのリオーグというのは、分岐した2つのチェーンがネットワークの正当性を取り合う状況下で発生します。最終的にはハッシュパワーの過半数を獲得することで、どちらかのチェーンが正統なチェーンとして決定されます。
イーサリアムクラシックは8月2日、攻撃ネットワークが51%攻撃に襲われた事実はないと述べていました。しかし、5日に第三者分析企業Bitquery社が、攻撃者がおよそ80万ETC(約560万米ドル)の二重支払いを行った可能性を指摘したため一気に注目度が高まりました。
②ブロックチェーン分析企業であるBitquery社による報告
Bitquery社は独自の調査を実施し、ハッカーが下記の手順で攻撃を実行したと報告しました。
- 7月31日16:36 UTC:犯人はハッシュレートを「daggerhashimoto」で17.5BTC(約19万米ドル)で購入しマイニングを開始した。
- 7月31日17:00~17:40 UTC:犯人が自身のウォレットにETCをプライベートトランザクションで送金した。このトランザクションはブロックは公開されていなかった為、他のノードには検知されていなかった。
- 7月31日18:00~8月1日2:50 UTC:犯人は51%攻撃を実行していないチェーンからETCをOKExに入金し、同取引所にて約12時間掛けてETCを売却した。
- 8月1日4:53 UTC:犯人はプライベートネットワーク下のブロックを公開。リオーグを引き起こし、自分のチェーンを正統なチェーンとした。
このように、OKExに送金した分と、自身のウォレットに送金した分の2重支払いを達成した格好となりました。
今回の攻撃は、イーサリアムクラシックの主要クライアントソフトウエアであったOpenEthereumが7月16日にそのサポートを打ち切った後に発生しており、計画的な犯行と見られています。
大手のマイニング業者や暗号通貨取引所を含め、イーサリアムクラシックネットワークのノードの半数近くがOpenEtheruemを利用して運用されていました。
③ETCの取扱いを巡る取引所の対応
The Blockによれば、Poloniex社はETCの上場廃止を検討したものの、現状は取り扱いを継続する方向で決定しています。
犯行現場となったOKExは、今後も同様の事件が発生するようであれば上場廃止は免れないと表明しており、OKExのJay Hao CEOは以下のように厳しく指摘しています。
”イーサリアムクラシックの今回の事件における対応や、同様の攻撃を防止する為に今後どのような指針を取るのかという点で、コミュニティ内のコミュニケーションが不十分と考えている”。
その他にも、Kraken、Huobi、OKCoinは引き続き監視していく姿勢であるとコメント。Coinbase、Binanceはコメントを拒否しています。
いずれの取引所においても、ETCの入出金は停止されており、ブロック承認数も通常より増加するなど、慎重に対応している様子です。
イーサリアムクラシックのハッシュレートは依然として低い水準であり、51%攻撃の脅威に晒されているという点で安全とは言えない状況です。Crypto51によれば、イーサリアムクラシックのハッシュレートは3 TH(テラハッシュ)/秒であり、1時間あたりわずか6,295米ドルのコストで51%攻撃が可能となっています。
比較材料として、イーサリアム(ETH)のハッシュレートは188TH/秒で、51%攻撃を実行する為には39万米ドル/時間を要します。イーサリアムに関しては、レンタル可能なハッシュパワーが現実的に多くないため、ETCの事例のようにハッシュレートを購入して攻撃する手法は不可能ともされています。このように、イーサリアム・ブロックチェーンのセキュリティの高さは裏付けられています。
④ETC開発組織の対応
イーサリアムクラシックを開発するETC Labsのテリー・カルバー(Terry Culver)氏は、ETCのマイニング自体の収益性を増加させ、より多くのマイナーを引き入れることでネットワーク全体のセキュリティを向上させるために開発を急ぐと主張しています。
しかし、新たなマイニングアルゴリズムを実装するには最低でも6~9カ月は掛かるため、その間に再度51%攻撃を受けるリスクに晒されます。
別の開発組織であり、カルダノ(ADA)を主に構築するIOHKは、カルダノ・ブロックチェーンのOuroborosBFTプロトコルを活用してチェックポイントを設置し、現行のイーサリアム・クラシックの課題をクリアしようと提案しています。チェックポイントは、確定ブロックを設置することでブロックチェーンの履歴変更(リオーグ)を不可能にする仕組みです。IOHKのCEOチャールズ・ホスキンソン(Charles Hoskinson)氏はETC開発も支援しています。
カルダノ(ADA)は時価総額でトップ10に入るブロックチェーンです。カルダノとの相互運用性(インターオペラビリティ)に関する開発も進められており、イーサリアム・クラシックには懸念と期待が寄せられている状況です。このように、イーサリアムクラシックの投資判断は容易ではありません。各種提案やロードマップ、コミュニティフォーラムの協議内容を調べるなど、総合的に検討する必要があります。
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中島 翔
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