ESGの観点から見たイーサリアムのPoSへの移行について【仮想通貨取引所の元トレーダーが解説】

※ このページには広告・PRが含まれています

今回は、ESGの観点から見たイーサリアムのPoSへの移行について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. ESGとは?
    1-1.ESGの概要
    1-2.ESG投資
    1-3.SDGsとの違い
  2. イーサリアムのPoS移行とESGに関する影響
    2-1.イーサリアムのPoS移行とは
    2-2.ESGの視点で見たイーサリアムの取り組み
  3. まとめ

ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨の根底にあるブロックチェーンは、ネットワーク参加者全員が同一の帳簿を共有する分散型台帳技術の一種です。ネットワークに参加しているノード間で取引データを共有し、監視し合うことで不正な改ざんを困難にし、取引の透明性を確保することができます。その一方で大量のコンピューターが稼働するため電力消費量が莫大になる点が批判されてきました。

こうした課題の解決を目指して、仮想通貨市場の時価総額で第2位のイーサリアムはコンセンサスメカニズムのアップグレードを計画しています。イーサリアムは現行のPoW(プルーフ・オブ・ワーク)」から「PoS(プルーフ・オブ・ステーク)」に移行することで、環境に配慮したシステムへの移行を目指しています。今回は、ESGの概要とイーサリアムのESGに対する取り組みについて解説します。

①ESGとは?

まずは、ESGとは何か、その基本的な事項を解説します。

1-1. ESGの概要

ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字をとった言葉で、おもに、投資家が投資先を選定する際に重視すべき要素として提唱されたものです。

従来の株式市場では、財務情報を重視した考え方が主流でしたが、超長期的な運用を行っている機関投資家から、企業経営のサステナビリティを評価する指標として注目されるようになりました。

そして、地球環境や気候の変動に対する配慮、新たな創出活動、社会問題への対策など、企業が取り組んでいる活動に対しても評価の対象とする考え方が徐々に普及していきました。

1-2 .ESG投資

ESGは一種の投資概念であり、ESGを考慮した投資は「ESG投資」と呼ばれています。

具体的にESGの要素としてあげられる事例は、下記の通りです。

    ◇Environment(環境)

  • 自然生態系への配慮や、生物多様性の保護への取り組み
  • 気候変動への対応策や緩和策の実施
  • CO2をはじめとした温室効果ガスの削減への取り組み
  • 水を含む資源の枯渇への対応 など
    ◇Social(社会)

  • 人権への配慮
  • ジェンダー平等
  • 児童労働に加担していないか
  • 積極的な労働環境の改善 など
    ◇Governance(企業統治)

  • 企業コンプライアンスの遵守
  • 積極的な情報開示
  • 社外取締役の設置
  • 役員会の独立性の担保 など

このように、従来、投資家が投資基準としてきた、企業における収益やキャッシュフローなどの財務情報だけでなく、非財務情報である「E(環境)・S(社会)・G(企業統治)」の視点から、企業の持続可能性を評価していくのがESG投資の特徴となっています。

1-3. SDGsとの違い

持続可能な開発目標であるSDGsとESGはどちらも国連から生まれた言葉で、環境への配慮や社会規範の強化をするといった点では性質が似ていますが、両者には根本的な目的に大きな違いがあります。

ESGはあくまで投資をするときの企業の選び方であり、投資をする側としては長期的な資産運用のための考えであり、一方で、企業側としては投資家に評価してもらえるための取り組みを推進することになります。企業が選ばれるために実施する活動はSDGsに沿ったものとなり、その活動を支援する投資は結果的にSDGsの達成にもつながっていきます。

つまり、簡単に言えば、ESGとは「投資家がSDGsを達成するために投資をする際の観点」ということです。ESGの根本には投資というキーワードがあるのに対し、SDGsは投資や資産など限定した考え方ではなく、貧困や飢餓、教育、福祉、エネルギーや経済、人権や環境問題などに対して世界が共通に取り組むべき目標を指しています。

②イーサリアムのPoS移行とESGに関する影響

次に、イーサリアムのPoS移行の概要とそのESGに対する取り組みについて解説します。

2-1. イーサリアムのPoS移行とは

イーサリアムは現在、非中央集権性の維持と電力消費量の削減を実現しながら、セキュリティとスケーラビリティの両方を向上させるためにPoS(プルーフ・オブ・ステーク)に移行するべく、数年間に渡る大型アップグレードを実行しています。複数の段階に分けられて開発が進められていますが、Ethereum Foundationによると現在のロードマップは以下のようになっています。

Beacon Chainのリリース(2020年12月)

Ethereum PoS版の核となるBeacon Chainが公開され、ブロック生成が行われています。現状ではスマートコントラクトは実行できないものの、バリデータとして参加するためにBeacon Chainにステークされたイーサリアムは増加し続けています。なお、Beacon ChainにステークされたETHは当分の間動かせない状況です。

The Merge (2022年第1もしくは第2四半期を予定)

PoW(プルーフ・オブ・ワーク)で稼働する現行のイーサリアムブロックチェーンが、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)版に統合されます。現行版がBeacon ChainのShardになる格好となり、この段階でPoWのマイニングが終了します。メインネットの完全な履歴と現在の状態を持ち込むため、ユーザーは通常通りETHを使用することができます。The Merge後に、ステークされたETHとバリデータ報酬は引き出し可能になると予想されています。

Shard Chains (2023年を予定)

Beacon Chain上にデータレイヤーとなるShard Chainsが導入されます。シャードによりイーサリアムでより多くのデータを保存して処理できるようになりますが、この段階ではまだスマートコントラクトの実行には使用されません。

その他(2023年以降)

・The Surge(Rollups and Sharding、ロールアップとシャーディング)
・The Verge(Verkle Trees、ヴァークルツリー)
・The Purge(History Expiry、履歴の失効)
・The Splurge(その他)

2022年1月にBanklessのポッドキャストでイーサリアムの共同創業者であるVitalik Buterin氏が語った内容によると、The Mergeが完了すると開発進捗は60%のところまで進みます。その段階で、現在のイーサリアムメインネットを一般ユーザーが直接使用する必要が無くなり、レイヤー1シャードとレイヤー2のエコシステムと組み合わせて低コストな取引体験が実現します。

【参照元】Ethereum Foundation “THE ETHEREUM UPGRADES”
【関連記事】:Vitalik氏がイーサリアムの大型アップグレードと展望を語る

2-2. ESGの視点で見たイーサリアムの取り組み

先ほどのポッドキャストでも、Vitalik氏は地球温暖化への対策ができなければブロックチェーンは生き残ることができないと強調しています。それでは、ESGの視点からイーサリアムの対策と効果を見てみましょう。

①PoSへの移行

イーサリアムのPoS移行により、コンセンサスアルゴリズムと呼ばれる取引承認に関する合意形成の方法が変わります。現在のイーサリアムではPoW(プルーフ・オブ・ワーク)と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムを採用していますが、これがPoS(プルーフ・オブ・ステーク)と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムに変更されます。

PoWとは、GPUなどの演算機が計算(マイニング)を行うことによって、ブロックを新たに承認・生成するコンセンサスアルゴリズムのことです。PoWは、取引記録の改ざんが極めて難しいというメリットがありながらも、マイナーの競争が激化するにつれ、マイニングによる膨大な電力を消費するという問題点も存在しました。

一方で、PoSは保有(ステーク)する仮想通貨の割合に応じて、ブロックを新たに承認・生成する権利が得られるコンセンサスアルゴリズムのことです。完全にPoSに以降した場合、消費電力は現在のイーサリアムに比べ99%以上削減できるという概算をイーサリアム財団は出しています。

②シャーディングの実装

シャーディングとは、データベースを分割することで負荷を分散させる技術を指します。イーサリアムにおけるシャーディングの実装では、イーサリアムネットワークをさらに64の新しいチェーンに拡張させます。(将来的には更に多くのチェーンに拡張される予定です。)

拡張され新たに追加されたチェーンは「Shard Chains」と呼ばれ、それぞれがこれまでのイーサリアムブロックチェーンと同じ役割をこなすことが可能となっています。シャーディングが実装されると、バリデータはイーサリアムネットワーク全体を検証する必要がなくなり、割り当てられた各チェーンだけを検証すれば良くなるため、スケーラビリティ問題の改善と消費電力の削減が実現します。

③まとめ

イーサリアムのPoSへの移行が完了すれば、消費電力を大幅に削減することができます。イーサリアムは従来の莫大な電力消費量を必要とするネットワークから、持続可能な環境フレンドリーなネットワークへと生まれ変わることが期待されます。ESGの観点からも環境意識の高い投資家が二酸化炭素排出量の削減を評価して、仮想通貨ETHに投資しやすい環境が整うことになります。今後も、イーサリアムのPoS移行の開発動向に、引き続き注目していきたいと思います。

「イーサリアムを購入したい!」そんな人におすすめの仮想通貨取引所3選

The following two tabs change content below.

中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12