今回は、dYdXエコシステムのサポートに取り組むdYdX財団から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
- dYdXとは?
- dYdX財団とは?
- DEXのUniswapとの違いは?
- dYdXの基盤となるイーサリアムのレイヤー2「StarkEX」
- 2022年末に完全分散化(V4)へ
- イーサリアムではなくてコスモスでV4実施へ
- コスモス移行で何が変わるのか?
分散型取引所dYdXが、2022年の年末に予定している完全分散化(V4)実現のためコスモスを採用し、独自ブロックチェーン「dYdXチェーン」を構築する計画を発表しました。dYdXは、これまでイーサリアムのレイヤー2であるStarkEXを使っていましたが、「ベストなプロダクトをトレーダーに届ける」という観点からイーサリアム圏を飛び出てコスモスに移行することが良いと判断しました。
コスモスに移行することでどのような利点があるのでしょうか?本稿で解説します。
dYdXとは
dYdX(ディーワイディーエックス)は、イーサリアム基盤の分散型取引所(DEX)です。2017年8月にコインベースのエンジニアだったアントニオ・ジュリアーノが立ち上げました。プロの個人トレーダーを中心にユーザー数が拡大し、2021年10月には一時コインベースの一日の取引高を抜くまで成長しました。将来的には、トレーダーのコミュニティが自らオーナーとなる取引所の構築を目指しています。
執筆時点の取引量は1日あたり約10億ドルで、DEXの中でもユニスワップと1、2位を争う有数の規模を誇っています。
主なプロダクトは、パーペチュアル契約(無期限先物契約)です。伝統的な金融市場における先物契約とは、商品など資産を将来の指定された時に事前に決定していた価格で売買する契約を意味します。契約の期限が来た時、価格がどこにあるかに関わらず、両者は約束を果たさなければなりません。将来の価格が当初の合意価格より高ければ買い手の利益、低ければ売り手の利益となります。
一方、パーペチュアル契約は、基本的には先物契約と同じ原理ですが、その名の通り有効期限のない契約となります。有効期限がないため、価格が自分の不利な方向に動いても、ポジションを維持できるだけの資金力があれば、価格が有利な方向に動くまで待つことができます。
ただし、期限切れがないことにより、契約の原資産と価格乖離が発生する可能性があります。そのため、パーペチュアル契約にはファンディングレートと呼ばれる乖離を是正するための仕組みが設けられているのが特徴です。
レバレッジの倍率は最大20倍です。
創業者のジュリアーノは、パーペチュアル契約は暗号資産トレーダーに適したトレード商品だと考えています。また、パーペチュアル契約の市場シェアを制することが暗号資産取引所のマーケットを制すると考えており、パーペチュアル契約で結果を出した後、スポット取引やオプション取引などのプロダクトを整え、中央集権型の暗号資産取引所(CEX)であるバイナンスやFTXを抜いて取引所でNO.1になることを目指すと公言しています。
dYdX財団とは
2021年8月、dYdXトレーディング社が、dYdX 財団Foundation)の立ち上げを発表しました。dYdX財団はガバナンス目的のスマートコントラクトを管理し、ガバナンストークンであるDYDXを発行し、コミュニティのサポートや一般トレーダーに対する教育、コミュニティの基金(Treasury)の管理などを担当しています。
dYdX財団はスイスに拠点がある非営利組織です。トレードサービスの提供をしたり取引所を運営したりすることはありません。あくまで、コミュニティが主導するdYdXエコシステムの成長を支えることを目的としており、コミュニケーションやマーケティング面でのサポートは利他的な意図を持って実行しています。
dYdXトレーディング社は、dYdX財団設立の主旨を以下のように説明しています。
「コミュニティによるガバナンスと分散化に確実に方向転換するためには、トラストレス(管理者のいない状態)とセキュリティ、安定性へのコミットメントが重要だと考えらえる。この目的のため、独立した財団であるdYdX財団を立ち上げた」
DYDXトークンは、dYdXでトレードすると手数料と建玉の割合に応じてもらえる仕組みになっています(現在、手数料のみを計測対象にするか議論の最中です)。また、DYDXをステーキングすることやUSDCをステーキングしてDYDXを受け取ることも可能です。今後は、パーペチュアル契約以外の暗号資産デリバティブ、スポット取引の提供なども検討しています。
2021年8月に10億DYDXが発行されて、5年間かけてグラフに書かれている通り各所に分配されます。
DEXのユニスワップとの違いは?
DEXと言えば、ユニスワップやスシスワップを思い浮かべる方が多いかもしれません。dYdXも、広くはDEXというカテゴリーに所属しますが、ユニスワップなどとは大きな違いがあります。
dYdXは、トレーダー向けに作られたDEX版の取引プラットフォームです。トレーダーたちによる買い注文と売り注文が集まる取引板(Orderbook)のDEX版と言えます。
一方、ユニスワップは自動マーケットメーカー(AMM)と呼ばれるプロトコルを採用。AMMは取引板に依存せず、AMMのユーザーは他のユーザーと関わることなく、スマートコントラクトで管理される流動性プールと相対でやりとりすることになります。
AMMは、流動性供給者が特定のトークンを流動性として供給する対価としてガバナンストークンや手数料収入の一部を受け取ることで流動性プールを構築し、大規模な取引を成立させています。
誤解を恐れずに暗号資産業界の用語で言い換えますと、dYdXは取引所モデルのDEX版、ユニスワップは販売所モデルのDEX版と言えるでしょう。
dYdXの基盤となるイーサリアムのレイヤー2「StarkEX」
dYdXは、イーサリアムのメインネットではなく、レイヤー2の1つであるStarkEXを基盤にしています。このためイーサリアムのガス代高騰問題を気にせず、トレードをすることができます。
StarkEXは、StarkWare社によってブロックチェーンのスケーラビリティ(規模の拡張性)問題解決のために開発されたソリューションです。主に暗号資産取引所向けに開発されており、ノンカストディアルで流動性が高くて手数料が安いトレード体験の実現を目指しています。現在、StarkEXは、イーサリアム、イーサリアムの規格である ERC-20とERC-721をサポートしています。
2021年、NFTやDeFiのユーザーが増加してイーサリアムでの取引が集中した結果、イーサリアムではガス代(手数料に相当)が高騰しました。その解決策として注目されているのがレイヤー2であり、メインのブロックチェーンの代わりに取引記録の処理をすることでメインの負担を緩和する狙いがあります。
StarkEXは、オプティミズムやアービトラムと並ぶ代表的なセカンドレイヤーで、ZKロールアップという技術を使っています。ZKとはゼロ知識証明(ZKP)という、ある事柄が正しいことをその事柄に関する情報を知らずに証明する技術で、ロールアップは複数の取引記録を一つに束ねる(ロールアップする)技術を指します。
2022年末に完全分散化(V4)へ
dYdXは、2022年の年末に完全分散化(V4)を目指しています。分散化(Decentralization)は、dYdXのミッションです。分散化によってこそ取引所の透明性や安全性、公平性、平等な機会の向上について、大きく前進することができるとdYdXは考えています。
V4は、dYdXプロトコルの次のバージョンです。dYdXは、オープンソースで完全分散化されてコミュニティによって完全に管理されるようになります。現在のV3におけるdYdXは、ハイブリッド型の分散型取引所です。ほとんどの要素が分散化されていますが、一部がdYdXトレーディング社や他のパートナーによって管理・運営されています。
dYdXで中央集権的に管理されている要素は、オフチェーン上にある取引板とマッチングエンジンです。dYdXの取引板は、一時はコインベースを凌ぐほどの取引量を記録し、高い流動性を誇っています。また、中央集権的にマッチングエンジンを管理してきたからこそ、一日あたり数千万件の注文を1秒未満のレーテンシー(遅延)で処理し、一日あたり10億ドル以上の取引量を記録することができました。
dYdXトレーディング社は、取引板とマッチングエンジンの管理をすることで、手数料の収入を受け取ってきました。V4では、どのような中央集権的な組織も手数料収入を受け取らなくなります。
V4では、取引板とマッチングエンジンも完全にコミュニティによって管理されることになります。その際、大きな課題としてあげられるのが、以下の3つです。
- スループット:dYdXのオフチェーンシステムでは、現在、1秒あたり最大1,000件の注文が処理されています。dYdXは世界最大の取引所を目指しているため、これより多くの取引処理能力を実装したいと考えています。
- ファイナリティ:ファイナリティは決済が無条件かつ取消不能となり、最終的に完了した状態と定義されます。オフチェーンにおけるマッチングエンジンは、トレーダーによるトレード執行時にすぐにファイナリティを与えるものではなければなりません。
- フェアネス:正当なトレード行為から管理者が不当に利益を得るような仕組みがあってはなりません。
dYdXは、Paradigmなどの専門家集団と共に上記の課題解決に向けて動いています。
イーサリアムではなくてコスモスでV4実施へ
2022年6月、dYdXは、V4を実施するブロックチェーンについて、イーサリアムではなくコスモスを採用することを発表しました。
具体的には、Cosmos SDK(ソフトウェア開発キット)を使用してdYdX V4専用のブロックチェーン「dYdXチェーン」を独自で作ることで、完全な分散化と100倍の処理能力向上を目指します。
コスモスは、クロスチェーン(異なるブロックチェーン間)の取引能力を兼ね備えた独自ブロックチェーンを比較的に簡単に作ることができる技術です。コスモス上で作られるブロックチェーンの基盤となるのがTendermint(テンダーミント)で、取引に対する合意形成(コンセンサス)システムはPoS(プルーフオブステーク)です。
dYdXは、コスモスが高いスループット、分散性、カスタムの容易さの面で長けていると考えています。完全に分散化されたプロトコルにするという目的に現時点で一番適っているのが、コスモスであると判断しました。
最高のトレード体験を提供するため、dYdXは自動マーケットメーカー(AMM)や見積依頼(RFQ)機能の導入を一時検討しました。しかし、最終的にはプロのトレーダーや機関投資家が求める水準を満たすためには、取引板に基づくプロトコルが重要だという結論に至りました。
ただ、先述の通り、V3の取引板は中央集権的に管理されています。V4で必要なのは、分散型のオフチェーンで機能する取引板の構築です。
ここで白羽の矢が立ったのが、コスモスです。V4において、完全にカスタム可能なブロックチェーンが構築できることは魅力的です。コスモスを使うことで、dYdXのV4は、分散型システムを維持したまま、注文板向けに高いスループットをもたらすことができると考えられます。
また、コスモス上で作られるブロックチェーンは、他のブロックチェーンに頼らずに機能できる独立したブロックチェーンです。このため、現物取引やオプションなど新しいプロダクトを追加する上で、dYdXのコミュニティが全てを管理し、改善に向けて動けるようになります。そして、コスモスを使えばトレーダーは取引のためにガス代を支払わなくてよくなります。取引の手数料は、ネットワーク上のガス代ではなく、執行された取引に応じて計算されることになります。これらの手数料を受け取るのはバリデーターとステーキング利用者になります。
さらに、V4においてDYDXはレイヤー1トークンとして使われるのが自然と考えています。バリデーターにとってステーキングで使うトークン、ガバナンストークンとして用途があるでしょう。
コスモス移行で何が変わるのか?
dYdXは、良い取引所とはなにかを考える上で以下の4つに注目しています。「UX(ユーザーエクスペリエンス)」、「提供サービス・プロダクトの量と質」、「分散化の程度」、そして「セキュリティ」です。これらを全て同時に100%達成することは困難であり、何らかのトレードオフが発生します。大前提としてあるのが、コスモスに移行したからといって、全ての項目がクリアになるわけではないという点です。
イーサリアムに関わらず全てのレイヤー1とレイヤー2のブロックチェーンの問題は、ファーストクラスの取引板とマッチングエンジンの運用に必要なスループットを達成できない点です。現在、dYdXは1秒あたり10回の取引執行、1秒あたり1,000回の注文/キャンセルの処理しています。そして、dYdXはここから何桁も処理能力を増やしたいと考えています。
イーサリアムのレイヤー1は、現時点においてコスモスより分散化しているでしょう。しかし、dYdXの水準を満たす処理能力はありません。
イーサリアムのレイヤー2には、二つの問題があります。dYdXの水準を満たす処理能力がないことと、中央集権的な要素があることです。
レイヤー2はイーサリアムのメインネットに比べてスピードとコストの面で優位性がありますが、実は単独のノードオペレーターに依存している点を暗号資産メディアのコインデスクが問題点として指摘しています。例えば、StarkEXが取引を束ねてメインネットへと戻す作業は、単独の企業であるStarkware社が行っています。つまり、原理上、一つの企業が特定の取引を検閲したり売買行為をプレビューしてフロントランニングすることが可能なのです。
StarkWare社などレイヤー2プロジェクトは当然この問題に気づいており、分散化に向けた提案をおこなっています。ただ、現状、すぐにレイヤー2の分散化が実現できるのかどうかは見通しが立っていません。こうした点を考慮に入れた結果、dYdXは、現時点においてコスモス上で独自ブロックチェーン(dYdXチェーン)を開発することが最適解だと考えています。
#StarkNet Alpha was launched on Ethereum Mainnet in November 2021.
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Now it’s time to advance its decentralization as demanded of an L2 on Ethereum.
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Here’s our decentralization proposal, introducing the StarkNet Token, and the StarkNet Foundationhttps://t.co/zk33gANsin pic.twitter.com/YTd0Uj5NbW— StarkWare (@StarkWareLtd) July 13, 2022
ただ、レイヤー2における進歩はめざましいため、レイヤー2の発展を注視して、常に最適なチェーンを使うことを目指すことになるでしょう。
dYdX財団
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