中長期的な資産形成方法の1つにESG投資があります。ESG投資とは、企業の財務諸表の内容に加え、環境や社会問題などにも取り組みながら事業を行っているかを基準に銘柄を選別する投資方法です。大日本印刷は事業を行う上で、ESGやサステナビリティの取り組みを積極的に行っており、ESG投資の対象銘柄の1つとなっています。
そこでこの記事では、大日本印刷がどのような形でESG・サステナビリティの取り組みを行っているのかや、企業の特徴、株価動向、株主優待情報を詳しくご紹介します。大日本印刷の銘柄に投資してみたい方や、大日本印刷について詳しく知りたい方は、参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2022年10月15日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 大日本印刷の特徴
- 大日本印刷のESG・サステナビリティの取り組み
2-1.環境に対する取り組み
2-2.社会に対する取り組み
2-3.コーポレート・ガバナンスの充実
2-4.8つの重点テーマと長期ビジョン - 大日本印刷の株価動向
- 大日本印刷の配当・株主優待
- まとめ
1 大日本印刷の特徴
大日本印刷は、凸版印刷とともに国内印刷業界の大手2社に区分される東京プライム市場の上場企業です。創業は1876年で、事業年数が100年を超える老舗印刷会社でもあります。
「人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。」という企業理念の下、「未来のあたりまえをつくる」ことを目指しながら事業を行っており、事業経営の基本方針は「事業ビジョン」と「行動指針」で構成されています。
具体的な事業ビジョンは、「知とコミュニケーション」「食とヘルスケア」「住まいとモビリティ」「環境とエネルギー」の4つの成長領域を軸に、今までにない新しい価値を創造する形で事業を広げるほか、社員1人ひとりがプロフェッショナルとなり、積極的な対話を繰り返して協議をしていくことを打ち出しています。
大日本印刷は、「繊細加工」「後加工」「精密塗工」「情報処理」等の技術に強みを持っており、常に最先端を追及して応用と発展を重ねながら、事業の創出をしているのが特徴です。また、「未来のあたりまえをつくる」ことを目指すため、環境・社会に配慮した上で事業を行うESG経営を実践しています。
2 大日本印刷のESG・サステナビリティの取り組み
大日本印刷は、「未来のあたりまえをつくる」ことを目指すためにESG経営を実践し、環境・社会への取り組みを行うとともに、コーポレート・ガバナンス体制も充実させています。また、事業を行う上でのサステナビリティ実現に向けた取り組みも行っているので、具体的な内容を確認してみましょう。
2-1 環境に対する取り組み
大日本印刷は、「DNPグループ環境ビジョン2050」という長期的なビジョンを設けた上で、新たな価値の創出により、持続可能な社会実現の達成を目指しています。上記の長期ビジョンで目指すテーマとして「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の3つが掲げられています。
脱炭素社会 | ・大日本印刷の事業活動に伴う温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す。 ・製品・サービスを通じて脱炭素社会の構築に貢献する。 |
循環型社会 | ・バリューチェーン全体で資源の効率利用による循環を実現して、最大限の価値を提供する。 |
自然共生社会 | ・バリューチェーン全体での生物多様性への影響の最小化と地域生態系の調和を目指す。 |
2-2 社会に対する取り組み
大日本印刷のESG経営において、「人権・労働」「ダイバーシティ&インクルージョン」「企業市民」の3つの観点から、社会への取り組みを行っています。企業が果たすべき社会的責任であると考え、人権の尊重と健康で安全な活力ある職場づくりを推進するため、「人権方針」を策定し、「健康宣言」を表明しています。
大日本印刷が目指す「新しい価値の創出」を実現するには、社員1人ひとりの「違い」を尊重しつつ、その各長所を掛け合わせていくことが重要であるため、ダイバーシティ&インクルージョンの推進も行っています。
また、大日本印刷は、企業市民として積極的に社会と関わり、社会問題の解決を図ったり、ボランティア活動や文化活動で社会貢献をしたりすることを目指しています。
2-3 コーポレート・ガバナンスの充実
大日本印刷は、企業価値の向上と持続可能な社会の実現への貢献を目指すため、コーポレート・ガバナンス体制も充実させています。組織体制として取締役会、監査役会、会計監査人の機関を設置しているほか、ESG・サステナビリティの取り組みのため「サステナビリティ推進委員会」を設けています。
サステナビリティ推進委員会の委員長を担っているのは、大日本印刷の代表取締役で、中長期的なリスク管理、事業機会の把握、経営戦略への反映などを行っています。
2-4 8つの重点テーマと長期ビジョン
大日本印刷では、サステナビリティを実現するための推進するべき重点テーマを設けるとともに、以下の通り、各重点テーマの中長期ビジョン達成に向けた取り組み指標と目標を定めています。
重点テーマ | 長期ビジョン |
---|---|
SDGs(持続可能な社会実現)達成に貢献するビジネス | 製品・サービスを通じ、新しい価値を創造して、持続的な社会実現に貢献する。 |
公正な事業慣行 | 法令や社会倫理のもと、常に公正・公平な態度で秩序ある自由な競争市場の維持や発展に貢献する。 |
人権・労働 | 人権・尊厳を尊重し、各個人の多様性に配慮した働き方を認め、健康で安全な活力のある職場の実現を目指す。 |
環境 | DNPグループ環境ビジョン2050」のもと、「脱炭素社会」、「循環型社会」、「自然共生社会」を目指す。 |
責任ある調達 | 価値創造とコンプライアンス意識の両立を目指し、人権や環境に配慮した調達を行う。 |
製品の安全性・品質 | サービスを提供する企業の責任として、製品の安全性・品質を最優先にすることで社会の信頼を獲得する。 |
情報セキュリティ | 個人情報、情報資産の管理と保護のため、万全なセキュリティを確保する。 |
企業市民 | 企業市民として、積極的に社会と関わり、社会問題の解決やボランティア活動、文化活動などによる社会貢献をする。 |
また、各重点テーマの中長期ビジョン達成の取り組み指標と目標値の内容は、以下の通りです。このうち、2021年度において、「SDGs(持続可能な社会実現)達成に貢献するビジネス」「公正な事業慣行」「人権・労働」「製品の安全性・品質」「情報セキュリティ」の5つの重点テーマの目標値はすでに達成しています。
重点テーマ | 中長期ビジョン達成の取り組み指標 | 目標値 |
---|---|---|
SDGs(持続可能な社会実現)達成に貢献するビジネス | 1.大日本印刷の基準による環境配慮に優れた製品・サービスの総売上高比率 | 1.2025年度に総売上高比率を10%にする。 |
公正な事業慣行 | 1.企業倫理行動委員会の開催回数 2.自律的企業倫理研修の実施率 |
1.毎年1回、年12回実施 2.対象部門に対する実施率を100%にする。 |
人権・労働 | 1. 女性管理職比率 2.女性管理職層・リーダークラスの人数 3.障がい者雇用率 4.年次有給休暇取得率 5.休業災害度数率 |
1.2022年3月末時点までに課長クラス以上の管理職の女性比率を7%以上にする。 2.2022年3月末時点までに女性管理職層・リーダークラスの人数を2016年2月時点での人数430名の2倍にする。 3.2.3倍以上にする 4.56.4%より割合を多くする。 5.0.2%以下にする。 |
環境 | (主な取り組み指標) 1.温室効果ガス排出量削減 2.輸送環境負担削減 |
1.2030年度までに2015年度比40%削減し、2050年度までに実質ゼロを目指す。 2.輸送用燃料使用量原単位を毎年1%ずつ削減し、2015年度比15%削減を目指す。 |
責任ある調達 | 1. 主要サプライヤーにおけるCSR調達ガイドライン調査の平均スコア 2.印刷・加工用紙調達ガイドライン適合証明書取得率 |
1.2030年度までに平均スコアを90点以上にする。 2.2030年度までに取得率を100%にする。 |
製品の安全性・品質 | 1. 製品における重大事故発生件数 2.新規開発品の製品安全リスクアセスメント実施率 |
1. 発生件数をゼロにする。 2.実施率を100%にする。 |
情報セキュリティ | 1. 情報セキュリティコンプライアンス評価の実施率 2.担当役員による個人情報等重点対策実施部門の検査・指導の実施率 3.情報セキュリティ教育・研修の受講率 4.インターネット公開サイトのセキュリティ脆弱性テスト実施率 |
左記4つの取り組み指標の実施率、受講率を100%にする。 |
企業市民 | 1. 社会貢献活動プログラムの社外参加者数 2.社会貢献活動プログラムの社員参加者数 3.フェアトレード関連商品の社内消費数 4.食堂応援メニューの提供数 |
2020年度~2024年度までの累計目標数 1.10,000名(年間2,000名) 2.6,000名(年間1,200名) 3.250,000点(年間50,000点) 4.70,000点(年間14,000点) |
3 大日本印刷の株価動向
直近5年の株価推移はおおむね横ばいですが、2020年~2021年にかけて、一時的に株価が激しく上下しています。2020年2月3日の時点では3,015円の値を付けていた株価は、コロナショックの影響で約1ヶ月後の2020年3月2日時点で2,540円まで下落しています。さらに、2020年度の末日である12月28日時点での株価は、1,843円まで下がっています。
株価下落傾向は2021年1月29日まで続きましたが、2021年2月1日以降、株価の値動きは反転して上昇傾向に入りました。2021年11月15日には、大日本印刷の株価は2,954円まで回復し、2021年2月1日時点の1807円と比較すれば、上昇幅は1,000円以上となります。2021年11月15日~2022年10月14日までの大日本印刷の株価は、2,500円~3,000円台を推移していて、横ばいの状況が続いています。
最近は国の進めるペーパーレス化やインターネットの普及により、大日本印刷の主要事業である印刷需要は減少傾向が続くと考えられ、その影響が及んで、将来的に株価が伸び悩む可能性もあります。
一方、テレビやタブレットなどのディスプレイ部品・部材を提供するエレクトロニクス部門の事業は堅調であるため、株価にも好材料となっています。また、持続可能な社会実現への貢献を目指して行っているESG・サステナビリティの取り組みをESG投資家が評価し、株価上昇につながる可能性もあります。
4 大日本印刷の配当・株主優待
大日本印刷では、株主優待を実施していませんが、毎年中間期と期末の2回ずつ株主に対して配当金を出しています。大日本印刷の2019年度3月期~2022年度3月期の1株当たりの配当金額は、以下の通りです。
年度 | 中間期 | 期末 | 合計配当金額 |
---|---|---|---|
2019年度3月期 | 32円 | 32円 | 64円 |
2020年度3月期 | 32円 | 32円 | 64円 |
2021年度3月期 | 32円 | 32円 | 64円 |
2022年度3月期 | 32円 | 32円 | 64円 |
2019年度3月期~2022年度3月期の4年間は、継続して中間期と期末に1株当たり32円、年間64円の配当金を出しています。2023年度3月期の配当金額も中間期と期末にそれぞれ1株当たり32円、年間64円の配当金を出す予定となっています。
大日本印刷は事業経営において、株主への利益還元を重要政策に位置付けているため、今後も株主に対して継続的に配当金を出していくことが予想されます。
まとめ
大日本印刷の主要事業である印刷は、将来的な需要減少が見込まれ、株価推移も横ばい状態にある一方、テレビやタブレットのディスプレイ部品・部材を提供するエレクトロニクス部門の業績は好調です。それに加えて、印刷事業を取扱う情報コミュニケーション部門においても、電子書籍の出版・EC・決済など将来的にも需要の見込めるサービスも行っています。
また、大日本印刷は株主への利益還元を事業経営における重要政策と位置付けているほか、ESGやサステナビリティの取り組みを積極的に行っており、2021年度においては、その重点テーマの目標値を半分以上達成しているのも特徴です。
大日本印刷のESG・サステナビリティの取り組み内容に関心のある方は、この記事を参考に検討を進めてみてください。
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