米国の下院共和党議員18名が、マイク・ジョンソン下院議長に対し、来年共和党が下院の過半数を維持または拡大した場合、インフレ削減法(IRA)のクリーンエネルギー税控除を廃止しないよう求めていることが明らかになった(*1)。8月7日に米議会専門誌「ザ・ヒル」が報じた。
ジョンソン下院議長に送られた書簡において、アンドリュー・ガルバリノ議員(ニューヨーク州選出)が率いるメンバーは、総じてIRAを批判しているが、税額控除の廃止はエネルギー業界の成長を損なう可能性があると指摘した。
多くの企業が既に税額控除を前提に投資を開始しており、廃止されれば、存在しない経済的メリットのために何十億ドルもの資金が費やされているという最悪のシナリオを招きかねないとの懸念を示している。
書簡にはガルバリノ議員のほか、デビッド・バラダオ議員(カリフォルニア州選出)、ロリ・チャベス=デレマー議員(オレゴン州選出)、エリン・ハウチン議員(インディアナ州選出)など18名の下院共和党議員が署名した。
議員らは、クリーンエネルギー税額控除が技術革新を促進し、投資を奨励し、国内の多くの地域で良質な雇用を創出してきたと見ている。エネルギー開発に対するあらゆるアプローチを支持し、国内での生産、技術革新、あらゆる供給源からの供給を奨励する税額控除を支持することを表明した。(ザ・ヒルより引用)
現在、米議会は上院と下院で多数派が異なるねじれ議会となっており、上院での廃案採決は絶望的だろう。ただし、トランプ前大統領はホワイトハウスに返り咲いた場合、IRAの廃止を訴えている。脱炭素や電気自動車(EV)を推進する規制や補助金の廃止も訴えている。
そのような中、上院の民主党トップ、チャック・シューマー院内総務は6月中旬、共和党によるIRA廃止の脅威は非常に現実的なものだとの懸念を示した。
バイデン政権は2022年夏、米国最大の気候変動対策として3,690億ドル規模を支援するIRAを成立させた。現在までにEVやバッテリー・貯蔵、太陽光発電、エネルギー効率、半導体などのプロジェクトがIRAの恩恵を受けている。
気候変動対策は民主党の最重要事項の1つであるが、IRAに関しては共和党の支持基盤とする州においても、投資や雇用などの面で恩恵を享受している。具体的には、共和党の184プロジェクトで1,000億ドルを超える投資額、73,515人の雇用を生み出しているのに対し、民主党は100プロジェクトで154億ドル、26,751人に留まる(*2)。
そのため、市場の一部ではIRAの恩恵を受ける州を地盤とする共和党議員がIRAに対して積極的に反対しないと見られている。今回、IRAのクリーンエネルギー税控除を廃止しないよう求めていることが明らかになったことで、ジョンソン下院議長の動向が注目される。
【参照記事】*1 ザ・ヒル「18 House Republicans ask Johnson not to target IRA clean energy tax credits」
【参照記事】*2 E2「Clean Economy Works」
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