イギリスのFCA(金融行為監督機構)の幹部は、ニューヨーク大学ロースクールで3月20日に開かれた会合「デジタル資産の進歩と金融犯罪リスクへの対応」で、FCAによる暗号資産向けのAML(マネーロンダリング対策)施策について語った。FCAは金融技術を規制するのではなく、国際標準に即して金融活動を行う事業者を監視する姿勢を示している。
イギリス財務省は2020年1月10日、暗号資産に関する金融犯罪のリスクに対処するためEUの第5次マネーロンダリング(5MLD)を施行し、マネーロンダリング防止及びテロ資金対策法であるMLRs法を改訂した。最新のMLRsは、FATF(金融犯罪タスクフォース)が定義するICO(イニシャルコインオファリング)やIEO(イニシャルエクスチェンジオファリング)など広範な暗号資産活動をFCAが監督するよう定めている。同日にFCAは「暗号資産AML法」を施行した。
FCAの暗号資産向けのAML規制は、特定の暗号資産ビジネス活動を網羅しているー仮想通貨取引所、顧客資産を預かるウォレットプロバイダー、ICO/IEO活動、暗号資産ATMだ。FCAはこうした暗号資産サービスプロバイダーに対してKYC(本人確認)の実施、疑わしい取引の監視とNCA(英国家犯罪対策庁)への報告、それら顧客データの履歴を5~10年以上保存するなど規定している。ただし、これらの基準はあくまでも従来の金融サービスプロバイダーと同様のモデルにすぎない。
FCAのリテール&規制調査部門のディレクター、テレーズ・チェンバーズ氏は、ビットコインやブロックチェーンのような仮想通貨を内包する暗号資産が「重要な技術革新」であると認めている。中央管理者や仲介者が不要で、誰でもピアツーピアの決済が可能なビットコインには金融包括を見込める明確な利点があると認める一方で、既存の金融機関を必要とせずとも世界中に価値を移転できる仕組みが、犯罪者のマネーロンダリングに悪用される懸念があるとチェンバーズ氏は指摘する。初期採用者である犯罪者は暗号資産の規制アービトラージなどの抜け穴を巧みに利用するからだ。
チェンバーズ氏によると、暗号資産の価値移転技術は従来の金融サービスと異なるが、その経済活動の90%が中央管理されたカストディアル型の取引所で発生している点で従来のFX(外国為替証拠金取引)市場と類似している。主要な仮想通貨取引所の中には、各国の規制管轄を転々とするものや、特定の住所を持たない企業もある。
こうした状況を踏まえて、暗号資産サービスプロバイダーを適切に規制するには、FATF(金融活動作業部会)の標準に沿った国際的な協調が必要だとチェンバーズ氏は主張する。暗号資産のユースケースがマネーロンダリングに終始するようであれば、この有望な技術のマスアダプションは見込めないと述べている。
高橋奈夕
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