新型コロナウイルス対策に伴う景気落ち込みの対応策として、各国政府が人々に給付金の配布に取り組んでいる。しかし、従来の通貨システムでは、人々に給付金が届くまで時間がかかりすぎる問題が浮き彫りになっている。ブラジル中央銀行の専門家は、部分的なデジタル通貨システムを考案し、詳細について米ブロックチェーンニュースメディアCoinDeskに寄稿している。
アメリカでは当初、現金給付として小切手を配布する形が検討された。しかし、家庭に届くまでに数日かかり、さらに現金化に時間を要すため、最終的にデフォルトの支払い方法に銀行預金が採用された。それでも、給付金が世帯に到着するまでに数週間かかるという。非常事態宣言が出された先月中旬以降の4週間で2200万人(労働力の13%)が失業手当を申請したアメリカでは、政府はより迅速に行動する必要がある。
ブラジル中央銀行の弁護士Marcelo M. Prates氏は、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)のサンドボックスとして、デジタルマネーの流通システム「MttP(Money to the People」を提案している。
従来の通貨システムにおいて、お金は中央銀行から銀行に流れ、個別の経済圏へ流通する。中央銀行は現在、通貨の流通から金融政策の実施まで、あらゆる金融プロセスで銀行システムに依存している。一方、MttPモデルは、賃金の支払いを担当する公的機関と民間機関に新通貨の発行権限を与えることにより、失業問題に迅速に対処する。
MttPの役割は賃金支払いと、商品やサービスに支払う流動資産に限定される。MttPは、中央銀行が管理するデジタルウォレットに表示されて初めて資産になる。税務上の連邦納税者番号(米国EIN)を持つ雇用主が、従業員の個人用納税者番号(ITIN)やソーシャル・セキュリティー・ナンバー(SSN)にデジタルウォレットを設定する。
マンションオーナー、公益事業者、食料品店、および金融機関がMttPの支払いを受け取るために企業としてデジタルウォレットをセットする必要がある。MttPを使用して支払いを受け入れ、銀行口座のドル残高と1対1で交換できるようにする。銀行が最終的にMttPを中央銀行に移転する時、中央銀行の負債である信用貨幣と引き換えにMttPは利用停止になるのだ。
Prates氏はまた、州・連邦政府が緊急事態宣言を発動した際に、雇用主はMttP上の賃金の一定額、1,000ドルの支払が自動的に許可されるなどの応用例を付け加えた。先日、ドイツ銀行のリサーチャーは、新型コロナウィルスの影響の一つとして現金からデジタル決済への移行を加速させると指摘した。Prates氏の提案は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の活用法に具体的な洞察を与えてくれる。
【参照記事】Digital Dollars Can Reduce Unemployment, Here’s How
高橋奈夕
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