4年ぶりに実施されるビットコインの大型アップデート「Taproot」とは?

今回は、2021年11月に実装が予定されているTaprootについて、大手暗号資産取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では暗号資産コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. 仮想通貨のアップデートとは?
    1-1. アップデート事例:「イーサリアム2.0」
  2. ビットコインのアップデート
    2-1. 2017年に実施された「Segwit(セグウィット)」
    2-2. 2021年11月中旬に予定されている「Taproot」
  3. Taprootを構成する2つの技術
    3-1. シュノア署名
    3-2. MAST(Merklized Abstract Syntax Tree:マークル化抽象構文木)
  4. まとめ

2021年11月中旬にビットコインは四年ぶりの大型アップデートが実施される見込みです。2017年のアップデートでは当時発生していたスケーラビリティ問題に対処すべくSegwitが実装され、1ブロックあたりのトランザクション容量が上がりましたが、今回も新しい技術を導入することで、スケーラビリティ問題の解決とセキュリティ面での向上を図ります。

そこで今回は、ビットコインの大型アップデートTaprootについて解説します。

仮想通貨のアップデートとは?

まず今回のアップデートの理解を深めるためにも、ビットコインに限らず仮想通貨のアップデートについて解説します。

一般的にアップデートとは、運用中に生じた不具合や問題点を修正する機能改善、ローンチ時にはなかった機能の追加をするために行われます。仮想通貨のアップデートのテーマには以下のようなものがあります。

  • スケーラビリティ問題の解決を図る機能の追加や変更
  • コンセンサスアルゴリズムの変更
  • プラットフォームのアップデートに伴う仮想通貨の変更
  • 既にある機能の拡張
  • その他

アップデート事例:「イーサリアム2.0」

アップデートの例として、2021年4月に行われたイーサリアムの大型アップデートについて解説します。

イーサリアム2.0とも呼ばれる大型アップデートの目的はコンセンサスアルゴリズムの変更にあります。このアップデートによりコンセンサスアルゴリズムはPoW(プルーフオブワーク)からPoS(プルーフオブステーク)へと変更され、昨今問題視されるマイニングによる電力消費量を99.95%削減できる見込みだとされています。イーサリアムのアップデートはいくつかのフェーズに分かれ、時間をかけて実施されていく予定です。

イーサリアム2.0最初のアップデート案が公開、ステーキング総量も順調に増加

ビットコインのアップデート

次に過去のアップデートを含めてビットコインのアップデートについて解説します。

2017年に実施された「Segwit(セグウィット)」

今から約4年ほど前の2017年にビットコインは大規模なアップデートを行いました。当時直面していたトランザクションの増加に対応するため、1ブロックあたりのトランザクション容量を増やす必要があったのです。そこで採用された技術がSegwitです。

SegwitはSegregated Witnessの略で、トランザクションに含まれているデータサイズの大きな署名データをブロック内の新しい領域に保存する技術です。 このアップデートにより約2倍のトランザクション数を一つのブロックに入れられるようになりました。

Segwit導入の際にはビットコインコミュニティ内で大きな混乱が起き、コミュニティの分裂を招く結果となりました。その際にハードフォークして誕生したのが、ビットコインキャッシュです。

2021年11月中旬に予定されている「Taproot」

今回のビットコインのアップグレードにおいては「Speedy Trial」という方法が採用されています。約3ヶ月間の実装テスト期間を設け、8月までに90%以上マイナーがTaprootの支持を表明すればアップデートが行われる予定です。

この方式を取ることで、安全性を犠牲にすることなくかつ短期間で実装実験ができます。Speedy Trialは5月1日から開始されており、既に支持率は90%を超えているため11月中旬にはアップデートが実施される見込みです。

Taprootを構成する2つの技術

最後に、11月に予定されている大型アップデートTaprootで重要な2つの技術について解説していきます。

シュノア署名

シュノア署名では、通常ブロックに格納する署名(シグネチャ)部分をブロックの外部領域に切り出して記録します。こうすることで、ブロック内部に記録するデータ容量が削減されるだけでなく、署名とトランザクションを切り離して記録するため匿名性の向上にも寄与することができます。

また、シュノア署名ではビットコインを送金するために複数の署名が必要となる「マルチシグ」にもアプローチをしています。マルチシグによる送金データはセキュリティが高い一方で、ブロックに占める割合が大きい点が課題でした。シュノア署名ではマルチシグを1つの署名に集約できるようになり、1つに集約された署名が一人分の署名と同じ容量になることでブロックサイズの節約に繋がることになります。

また、署名が結合されることで誰が署名に参加しているかも解読が困難になり、プライバシーが向上することにもなります。

MAST(Merklized Abstract Syntax Tree:マークル化抽象構文木)

MASTとは、ビットコインのように複雑な条件分岐があるトランザクションデータを効率的に記述して、不要な情報をブロックに書き込むことなく秘匿性を向上させる技術です。

あまりにも専門的な用語でわかりづらいため、さらに具体的に解説します。

ビットコインを送金する際には、単純に「AさんからBさんに1BTCを送金する」という取引だけではなく、「AさんがBさんに送った1BTCをBさんが1ヶ月受け取らない場合、CさんとDさんが0.5BTCずつ受け取る」と言った複雑な取引条件を設定することが可能です。この条件が複雑になればなるほどトランザクションデータのサイズは大きくなります。その結果、ブロックサイズを圧迫し、トランザクション詰まりや取引手数料の高騰などスケーラビリティ問題を引き起こすことになります。

MASTでは、条件分岐のスクリプトをマークル木構造に割り当て、実行しない条件をハッシュのままにすることでトランザクションのサイズを小さくすることができます。MASTは条件に関連する人物のみに内容が公開される仕組みなので、実行されなかった条件は閲覧できずプライバシー保護にも繋がります。

まとめ

ビットコインの開発はインターネット上の開発者コミュニティの中でディスカッションが行われ意思決定がなされますが、ビットコインには責任者が当初から存在しません。コミュニティの合議制でコンセンサスが得られてから物事が進むため、流動的で時間がかかるという特徴があります。しかし、こうした問題に対しても「Speedy Trial」による対応が進められるなど、ビットコインの開発は以前よりも柔軟性や機動性が上がってきていることを感じられます。

【関連記事】ビットコインとは?特徴・仕組み・購入方法

The following two tabs change content below.
中島 翔

中島 翔

学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12