今回は、11月14日に実装されたビットコインのアップデート「Taproot」ついて、大手暗号資産取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では暗号資産コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
2021年11月中旬に予定されていたビットコインの大型アップデート「Taproot」が、11月14日に行われました。今回はSpeedy Trial方式が5月1日から開始されており、早期に支持率が90%を超え、予定通りのアップデートを迎える事となります。
4年ぶりの大型アップデートという事で、その後の影響も注目される「Taproot」ですが、今回はそのTaprootのアップデート内容とアップデートの影響について解説したいと思います。
1. 過去のビットコインのアップデート
まずは、過去にビットコインがどのようなアップデートを行ってきたかについて解説します。
1-1. Segwit(セグウィット)
今から約4年ほど前の2017年にビットコインは大規模なアップデートを行いました。
当時直面していたトランザクションの増加に伴うスケーラビリティ問題に解決するため1ブロックあたりのトランザクション容量を増やす必要がありました。そこで採用された技術がSegwitです。
SegwitはSegregated Witnessの略で、トランザクションに含まれているデータサイズの大きな署名データをブロック内の新しい領域に保存する技術です。 このアップデートにより約2倍のトランザクションデータを一つのブロック領域に入れられるようになりました。
しかし、Segwit導入の際にはビットコインコミュニティ内で大きな混乱が起き、コミュニティの分裂を招く結果となり、その際にハードフォークして誕生したのが、ビットコインキャッシュです。
1-2. Taprootへのアップデートは順調に推移
今回のビットコインのアップグレードにおいては「Speedy Trial」という方法が採用されました。
Speedy Trialとは、約3ヶ月間の実装テスト期間を設け、8月までに90%以上マイナーがTaprootの支持を表明すれば、11月15日前後に本格的な実装をするためのアップデートが行われる予定でしたが、開始された5月の段階で既に支持率は90%を超え、今回は前回のような問題は起こらずに順調に推移してきました。
Speedy Trial方式を取ることで、安全性を犠牲にすることなくかつ最も短期間で実装実験ができますが、非常にスピーディーにかつスムーズにアップデートを迎える事となりました。
2. 大型アップデートTaprootとは?
次に今回の大型アップデート「Taproot」で実装される機能の詳細を解説します。
2-1. シュノア署名の導入
シュノア署名では、通常のトランザクションの記録とともにブロック内部に保存する署名部分をブロックの外部領域に切り出して別途保存することで、ブロック内部の保存データ量を削減することができます。また、同時に署名とトランザクション記録を切り離して記録することで匿名性の向上にもつながる技術です。
ビットコインは2017年、Segwitへのアップデートでトランザクションデータと署名データを切り離す事でブロック容量を増やす対策をしましたが、シュノア署名では完全にブロックの外に記録することになります。シュノア署名によりトランザクション一つ一つの大きさが小さくなり、実質的にブロックサイズが向上、Segwitよりも多くのトランザクションをブロックに保存することができます。
シュノア署名の優れている点は、DeFiの発展で主流となりつつあるマルチシグによる送金データのサイズを大幅に削減できる点です。マルチシグによる送金データはセキュリティが高い一方でサイズが大きい点が課題となっています。
シュノア署名の技術で、複数のサインからなる署名データをひとつの署名データにまとめることができ、約40%以上のデータ圧縮ができると考えられています。また、署名データのサイズを削減することで処理すべきデータサイズが減ることとなり、トランザクションの承認難易度が下がり、結果的に取引手数料を低くすることが可能となります。
2-2. MASTでスマートコントラクトの柔軟性が向上
MASTとは「Merklized Abstract Syntax Tree」(マークル化抽象構文木)の略で、複雑な条件分岐があるトランザクションのデータサイズを小さくする技術です。
専門的な用語でわかりづらいため、具体的に解説します。
ビットコインを送金する際には単純にAさんからBさんに1BTCを送金するという取引だけではなく、 AさんがBさんに送った1BTCをBさんが1ヶ月受け取らない場合はCさんとDさんが0.5BTCずつ受け取ると言った複雑な取引条件を設定することが可能です。
これを「条件分岐があるトランザクション」と言いますが、この条件が複雑になればなるほどトランザクションデータのサイズが大きくなると言う欠点があります。その結果が取引手数料の高騰化に繋がってしまうのです。
このような条件分岐の複雑なトランザクションデータのサイズを小さくすることのできる技術がMASTです。MASTは分岐する次の条件のスクリプトをハッシュ化し その条件に関連する人物のみその内容が公開される仕組みのため、関係者以外の人間が条件の内容を知ることはできません。つまり、関係者以外に条件が伝わることがないため秘匿性が高くプライバシーの保護にも繋がります。
3. 「Taproot」アップデートの影響は?
最後に「Taproot」アップデートの影響について考察して見ます。
3-1. ビットコイン相場の下支えに
今回のアップデートでビットコインに追加される機能をまとめると以下のようになります。
- Segwitからシュノア署名への変更によるデータサイズの縮小
- MASTの導入によるデータサイズの圧縮と、秘匿性の担保
端的には、どちらもデータサイズを縮小し、処理速度を向上させスケーラビリティ問題の改善につながる点とスマートコントラクト機能の改善となります。
ビットコインは世界で初めて作られた仮想通貨であるため技術的にもっとも古く、ユースケースにおける使い勝手は悪いと言わざるを得ません。しかし、今回のアップデートで飛躍的に最近の技術に追いつくわけではないにせよ、インターオペラビリティの向上にも繋がり、ビットコインの価値を下支えすることになる可能性は高いと考えます。
3-2. ソフトフォークのため失敗の可能性は低い
アップデートの方法は、ハードフォークとソフトフォークに分けることができます。
ハードフォークは実施時点までのブロックチェーンのデータを残しながら、実施後は新たなプロトコルで動作する新しい通貨ができることもあります。 一方でソフトフォークは、大きな枠組みを残しながらプロトコルの改変を行うことで、当該ブロックチェーンをより使いやすくするために行われます。
アップデートが実施される際は数時間から数日間そのブロックチェーンが停止されることもあります。今回のアップデートに関しては、ソフトフォークで実施されるため、ビットコインブロックチェーンに重大な影響を及ばすことはありませんでした。
4. まとめ
ビットコインが史上最高値を更新を繰り返す中で実装されたTaprootですが、長期的にはビットコイン価格を一段上昇させるきっかけともなり、仮想通貨市場全体にとっての追い風となるのではないでしょうか。
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中島 翔
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