大手総合化学メーカーで知られる三井化学株式会社は、気候変動問題をはじめとした社会課題に対して「化学」による解決策を提供しているほか、製品を通じて、健康や食の安心など、生活の質向上にも貢献しています。また、三井化学の取り組みは、外部からも高い評価を得ているため、ESG銘柄として注目している方もいるのではないでしょうか。
この記事では、三井化学のESG・サステナビリティの取り組みについて詳しく説明していきます。株価動向や配当情報についても解説しているので、興味のある方は参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2022年12月9日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 三井化学の特徴
- 三井化学のESG・サステナビリティの取り組み
2-1.環境負荷低減への取り組み(E)
2-2.生活の質向上への取り組み(S)
2-3.コーポレート・ガバナンス強化への取り組み(G)
2-4.三井化学のESG・サステナビリティに関する外部評価 - 三井化学の業績・株価動向
- 三井化学の配当推移
- まとめ
1 三井化学の特徴
三井化学は三井グループの総合化学メーカーです。自動車、家電、雑貨、衣料、食品、住宅、エネルギーなどの化学製品を通じて、人々の産業や暮らしを支えています。また、積極的な海外展開も進めており、2021年度には海外売上比率48%まで増加するなど、グローバルな存在感を増しているのも特徴です。
三井化学の主な事業は、「ライフ&ヘルスケア・ソリューション事業」「モビリティソリューション事業」「ICTソリューション事業」「ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業」です。
ライフ&ヘルスケア・ソリューション事業では、メガネレンズ材料や紙おむつ用不織布、歯科材料、農薬、医薬品など、人々の生活や健康に関する材料を提供している事業領域であり、中でもメガネレンズ材料は世界No.1のシェアとなります。
モビリティソリューション事業は、自動車部品で用いられる樹脂製品を自動車メーカーに供給しており、自動車の軽量化や環境負荷低減に貢献しているのが特徴です。
ICTソリューション事業では、半導体製造をサポートする「イクロステープ(半導体の製造工程で使用される保護テープ)」やスマートフォンのカメラレンズに使用される環状オレフィン・コポリマー(透明かつピュアな非結晶性樹脂)の「アペル」など、高機能な素材を提供しています。
ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業では、自動車などのクッションに使用される「ポリウレタン原料」や、家電向け「エンジニアプラスチック」、飲食用容器材料などを提供しており、2021年度時点でセグメント別売上収益の最も大きい事業となります。
2 三井化学のESG・サステナビリティの取り組み
三井化学は、サステナビリティ経営において「気候変動」「サーキュラーエコノミー」「健康とくらし」「住みよいまち」「食の安心」を重要課題として認定し、「環境と調和した循環型社会」や「健康・安心にくらせる快適社会」の実現に向けて取り組みを進めています。
それでは三井化学のESG・サステナビリティの具体的な取り組み内容を見ていきましょう。
2-1 環境負荷低減への取り組み(E)
化学業界はGHG排出量が多い業界で、排出量の削減が大きな課題となっています。三井化学では、「環境と調和した循環型社会」に向けて、すべてのライフサイクルの視点から環境負荷低減に寄与する製品を提供することで、環境課題改善に努めています。環境負荷低減の取り組みで欠かせない要素として「CO2を減らす」「資源を守る」「自然と共生する」の3つが挙げられます。
CO2を減らす取り組みにおいては、グループ目標のGHG(温室効果ガス)排出量を2030年度までに40%削減(2013年度比)に向けて、高性能触媒の使用や省エネ機器の導入、再生可能エネルギーの利用、低炭素な原料および燃料への転換を進めています。その結果、2021年度はGHG排出量で21%の削減に成功しています。
資源を守る取り組みにおいては、廃棄物発生による環境や社会への負のインパクトを削減し、捨てる量を減らすだけではなく、リユースおよびリサイクルする資源循環を確立しており、廃プラスチックにおいては、リサイクル比率90%超を維持するなどの実績があります。
自然と共生する取り組みにおいては、製品ライフサイクルにわたる化学物質による生態系および地球環境に対する影響削減に努めています。具体的には、有害化学物質の添加の低減や生成の抑制、生態系および地球環境を汚染しない化学物質を使用するなどの取り組みを行っています。
「CO2を減らす」「資源を守る」「自然と共生する」の3つの貢献要素で評価された三井化学の製品の一部
PPコンパウンド | 「PPコンパウンド」は、自動車のバンパーやインパネ用材料などに使用されており、製造に伴うCO2排出が少ないことはもちろん、車体を軽量化することが可能になり、燃費向上にも貢献しています。 |
アドマー | 自動車の燃料タンク等に使用されるバイオマスプラスチックで、金属製タンクを樹脂化することにより10-30%軽量化できるほか、リサイクル時のCO2排出削減にも貢献しています。 |
アドブルー(尿素水) | ディーゼルエンジンが排出するNOx(窒素酸化物)を水と窒素に分解する排ガス低減剤で、NOx排出削減や省燃費にも貢献しています。※アドブルーはドイツ自動車工業会の登録商標です |
エコニコール | 自動車のシート材料として使用されるバイオ原料で、化石資源使用量の削減に伴うCO2排出削減に貢献しています。 |
2-2 生活の質向上への取り組み(S)
三井化学では、「健康・安心にくらせる快適社会」の実現に向けて、くらしの快適性向上、健康に関するあらゆる不平等の解消、食料の生産性向上および食料廃棄物の低減に努めています。生活の質向上の取り組みで欠かせない要素として「くらしと社会を豊かにする」「健康寿命を延ばす」「食を守る」の3つが挙げられます。
くらしと社会を豊かにする取り組みにおいては、暮らしの中で必要な生活インフラを支える技術を提供することで、生活の質向上に貢献しています。
「TPX(ポリメチルペンテン)」では、耐熱性、離型製、透明性を有する高機能ポリオレフィン樹脂で、汚れが付きにくく落としやすい調理器具および耐熱食品保存容器として、暮らしの快適性向上に貢献しています。
そのほかにも、親水性を有するポリオレフィン100%多分岐繊維である「SWP」は、食品包材、医療品包材、紙工品分野、コーティング材分野、塗料・建材分野、美容・健康分野など様々な分野で使われており、身近な例ではティーバッグ等の食品パックにも使用されています。
健康寿命を延ばす取り組みにおいては、身体機能サポート、医療・医薬の高度化、感染の予防・対策、栄養・水へのアクセシビリティ向上に貢献する製品・技術を提供しています。
三井化学が独自開発した多機能な透明樹脂「アペル」では、医薬包装材や薬液充填済注射器などで使用され、医薬品の品質維持や医薬の高度化に貢献しています。そのほかにも、義肢材などに使用されるハイゼックスミリオン(超高分子量ポリエチレン)は、高い耐衝撃性や賦形加工性により、身体機能をサポートしています。
食を守る取り組みにおいては、食品保存や食料生産をサポートする製品・技術を提供しています。鮮度保持包材として使用される「パルフレッシュ」では、青果物の変色や劣化を防ぐ効果があり、食の安心やフードロス低減に貢献しています。
また、農作物の安定生産をサポートする殺虫剤「トレボン」は、人畜への毒性が低い薬剤な上、速効性が高く、食料の増産に貢献しています。
2-3 コーポレート・ガバナンス強化への取り組み(G)
コーポレート・ガバナンス(企業統治)とは、企業の持続的な成長のため、公正な判断や運営が行われるように統制する仕組みのことです。
三井化学では、株主をはじめとした様々なステークホルダーとの信頼関係の維持・発展、および透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行える体制構築を目的に、コーポレート・ガバナンス強化への取り組みを実施しています。
「取締役会」は、経営監督機能として経営の重要な決定や各取締役会の職務執行の監督を行っています。取締役会に付議すべき事項のうち事前審議を要する事項に関しては、重要事項を審議する機関として「経営会議」が設置されています。
また、取締役会の慰問機関として、「ESG推進委員会」「レスポンシブル・ケア委員会」「リスク・コンプライアンス委員会」があります。
ESG推進委員会は、ESGに関する経営・方針等について、スポンシブル・ケア委員会は、レスポンシブル・ケア活動に関する方針・戦略等について、リスク・コンプライアンス委員会は、リスク管理とコンプライアンス遵守の懸念に対処する方針・戦略・実行するために設置されている組織です。
各委員会で討議された内容は、経営会議に報告され、重要事項等の決定に関しては、経営会議や取締役会の承認が必要になります。
2-4 三井化学のESG・サステナビリティに関する外部評価
三井化学のESG・サステナビリティの取り組みは、外部から高い評価を受けています。以下では2022年9月時点の主な評価と受賞実績を紹介していきます。
評価/受賞実績 | 選定・評価基準 |
---|---|
DJSI Asia/Pacific | 米国のS&P Dow Jones Indices社による世界の代表的なESG投資指数で、経済・環境・社会の側面から企業のサステナビリティを評価し、総合的に優れた企業が選定される。 |
FTSE4Good index Series | ロンドン証券取引所グループのFTSE Russell社が作成する株価指数で、ESGの対応に優れた企業が選定される。 |
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 | 様々なESGリスクを包括的に市場ポートフォリオに反映したESG総合指数で、ESG評価が相対的に高い企業が選定される。 |
MSCI日本株女性活躍指数(WIN) | MSCI日本株女性活躍指数(WIN)は、女性活躍推進法により開示されるデータに基づき、性別多様性スコアが高く、女性活躍への取り組みを推進している企業が選定される。 |
令和3年度「なでしこ銘柄」に選定 | 経済産業省および東京証券取引所より、女性活躍推進に優れた企業が選定される。 |
大和IR「2021年インターネットIR」にて「サステナビリティ部門」最優秀賞を受賞 | 優秀なIRサイトを構築、情報開示ならびにコミュニケーション活動で有効活用している企業を表彰する制度。 |
モーニングスター社「Gomez ESGサイトランキング2022」にて「ESGサイト優秀企業」に選定 | 上場企業がインターネット上で株主・投資家を含む様々なステークホルダーに向けた広報活動を行うためのウェブサイト(ESGサイト)の使いやすさ、情報の充実度を評価。 |
3 三井化学の業績・株価動向
三井化学(4183)は、株価が景気動向に影響を受けやすい景気敏感株に該当します。また、様々なジャンルの製品を取扱っていることもあり、業績や日々の経済状況に加えて、サプライチェーンの動向などにも注意を払う必要があります。
2020年(3月期)は、新型コロナウイルスの感染拡大により、自動車向け樹脂の販売が減少したことや、2008年から出資するベトナムの石油精製会社の業績悪化の影響もあり、当期利益が前年比で55%減の大幅減益となっています。株価は一時的に2016年の安値に迫りましたが、年半ばから後半にかけて急上昇しており、株価は1年を通して12.8%の上昇となっています。
2021年(3月期)は、石油化学製品の市況改善や自動車向け樹脂などの販売が回復したことで、当期利益は前年比70%増の大幅増益となっています。株価は一時4,000円台の高値をつけましたが、9月から年後半にかけて上げ幅を縮小しています。株価は1年を通して2.1%の上昇となっています。
2022年(3月期)は、プラスチック原料の海外市況が回復傾向にあることや、原油高に伴う石油化学原料の価格上昇による在庫評価益が増えたことで、当期利益は前年比90%の大幅増益となっています。2022年12月9日時点の株価は3,070円台で推移しています。
4 三井化学の配当推移
三井化学の利益配分に関しては、今後の成長や拡大戦略に備えた内部留保の充実などを総合的に勘案し、業績動向を踏まえた持続的な増配および総還元性向30%を目指すことで、株主還元の充実・強化を図っています。2022年度期末においては1株当たり5円の記念配当を実施する予定です。
三井化学の配当推移は以下の通りです。
項目 | 2013 | 2015 | 2017 | 2019 | 2021 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
中間 | 15 | 10 | 20 | 25 | 45 | 50 | 50 | 50 | 55 | 60 |
期末 | 0 | 15 | 20 | 45 | 45 | 50 | 50 | 50 | 65 | 60(予定) |
まとめ
三井化学は、化学メーカーとしての強みを活かし、社会課題解決に貢献する事業を積極的に行っています。特に自動車用樹脂は、自動車の軽量化のみならずCO2排出削減にも大きく貢献しているので、社会課題解決の要求が高まる昨今では、必要不可欠な素材となっています。
また、業績は、2021年度に続き2022年度も二桁増益と堅調に推移しており、持続的な株主還元が期待できます。三井化学の化学技術を活かしたサステナビリティ活動は、製品開発による企業価値向上に直結するため、持続可能な成長も期待できます。
三井化学のESGやサステナビリティに関心のある方は、ご自身でもよくお調べの上、検討してみてください。
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