インパクト投資とは?ESG投資との違いや具体的な投資事例も紹介

金銭的なリターンを得ながら環境的・社会的にポジティブ・ネガティブな影響・変化をもたらす投資をインパクト投資と呼び、日本でもインパクト投資を行う団体・企業が増えています。

ESG投資との違いが気になる方も少なくないのではないでしょうか。ESG投資とインパクト投資は共通している部分もありますが、異なる部分も存在します。

本記事では、インパクト投資とは何か、ESG投資との違いや具体的な企業・団体の投資事例3つを解説していきます。

目次

  1. インパクト投資とは?
    1-1.インパクト投資とESG投資との違い
  2. 企業・法人の具体的なインパクト投資の事例3つ
    2-1.一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)
    2-2.第一生命保険会社のインパクト投資とSIB
    2-3.学校法人上智学院の債券型インパクト投資
  3. まとめ

1.インパクト投資とは?

インパクト投資とは企業・団体などへの投資で、リターンを得ながら社会的・環境的なインパクトを生み出すものを指します。インパクト投資には、主に以下4つの特徴があります。

  • 投資によりインパクトを生み出すという投資家の意図がある
  • 社会的・金銭的なリターンを目指す
  • 株式・債券・不動産・コモディティーなど広範囲の資産が対象
  • インパクト評価を行う

一般的な投資ではリスクとリターンに対する投資の結果が評価対象となりますが、インパクト投資には「インパクト」という新しい要素が加わっています。ここでいうインパクトとは「人や地球に対するポジティブ・ネガティブな影響・変化」を指しています。

なお、投資の用語でリターンは収益、リスクは「リターンの不確実性(振り幅)」を意味します。例えば、価格の上昇下落が激しい株式銘柄はハイリスク・ハイリターン、1,000万円まで元本保証のある預貯金は低金利であるためローリスク・ローリターンと分類されます。

インパクト投資と寄付の違いは、投資家が社会的・経済的なリターンを得る事、社会的・環境的な変化(インパクト)を与える分野への投資という点です。

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1-1.インパクト投資とESG投資との違い

ESG投資とは環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮した投資を意味します。

環境面では気候変動や資源など環境問題、社会面では多様性(ダイバーシティ)、サプライチェーン(製品の製造から供給・購入・消費までの流れ)、ガバナンス(統治)は投資の意思決定への配慮などがESGとなります。

インパクト投資とESG投資は、サステナビリティ(持続可能性)・レスポンシビリティ(責任・責務)の実現や金銭的なリターンを目指すという点は共通しています。

一方、インパクト投資は「投資による社会面・環境面での課題解決」の観点から、投資の結果であるインパクト評価をESG投資に比べてより重視するという点が異なる点です。

2018年時点での世界でのインパクト投資の推計は約5,020億ドル、日本(2019年3月末時点)では3,440億円に上ります。(※参照:⼀般財団法⼈社会変⾰推進財団(SIIF)「インパクト投資の動向と課題(2020/2/6)」)

2.企業・法人の具体的なインパクト投資の事例3つ

  • 一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)
  • 第一生命保険会社のインパクト投資とSIB
  • 学校法人上智学院の債券型インパクト投資

2-1.一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)

一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)は、2017年に日本財団の協力により設立されました。インパクト投資や社会的インパクト評価マネジメントなど5つの戦略を掲げ、社会課題の解決に向けた活動を行っています。

今までインパクト投資ファンドの共同設立・運営や、日本で初めて地方自治体などの公共団体が民間企業の資金を活用し社会課題解決を図る「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」案件などに携わりました。

少子高齢化・労働人口の減少という課題に着目した「はたらくFUND」は働く環境づくりを行う企業に投資するファンドを邦銀グループと共同で設立・運営しています。

ソーシャル・インパクト・ボンドとして、岡山県岡山市の健康増進事業「おかやまケンコー大作戦」や兵庫県神戸市の糖尿病性腎症重症化予防事業、広島県と県下6市町村が連携する国内初の広域連携型SIB事業大腸がん検診率向上プロジェクトなどに出資を行っています。

また、2016年に設立されたインパクト測定・マネジメントのプラットフォーム「インパクト・マネジメント・イニシアチブ:SIMI」の運営を行っています。

他にも静岡市・一般社団法人日本シングルマザー支援協会・株式会社デジサーチアンドアドバイシングの連携事業「全国シングルマザー起業支援プログラム」にも資金面や行政との連携で援助を行っており、日本のインパクト投資市場でも重要な役割を担っている組織の一つです。

【関連記事】「寄付で終わる」を「寄付から始まる」に。SIIFフィランソロピー・アドバイザーが語る活動への想い

2-2.第一生命保険会社のインパクト投資とSIB

第一生命保険株式会社は2017年からインパクト投資をスタートしています。2019年には保育士が働きやすいスマート保育園の実現に向けAIなどを活用したサービスを開発するベンチャー企業に3億円、2020年には計算科学を用いた医薬品開発を行うベンチャー企業に2億円を投資しました。

また、2019年11月には世界初となる「禁煙ソーシャル・インパクト・ボンド」に投資を行いました。禁煙支援事業「とよなか卒煙プロジェクト」は、大阪府豊中市が医療テック企業と連携し民間企業の資金を活用した社会課題解決の手法「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」の仕組みを活用したプロジェクトです。(2022年3月末まで)

第一生命保険株式会社では、この「とよなか卒煙プロジェクト」に1200万円を投資しており、投資を通じてリターンを期待しながら、喫煙や受動喫煙による疾病の予防・健康寿命の延伸、(社会的インパクト)の可能性がある「とよなか卒煙プロジェクト」の取り組みをサポートし、進捗状況を注視していく予定です。

※出典:第一生命保険株式会社「第一生命のインパクト投資

2-3.学校法人上智学院の債券型インパクト投資

上智大学や上智福祉専門学校・上智福岡中学高等学校などを運営する学校法人上智学院では、2015年11月に国連が支援する責任投資原則(PRI)に署名を行いました。PRIは、持続可能な社会の実現を目的としてESGの課題を投資分析・意思決定・資産運用方針に組み込むことです。

上智学院はこれまでESG投資と同時にインパクト投資も行っています。2017年7月には世界の気候変動問題に取り組むプロジェクトへの資金調達のために発行する債券「グローバル・グリーンボンド・ファンド」の投資をスタートしました。プロジェクトには代替エネルギーの導入、温室効果ガス排出を軽減する技術の開発、森林再生事業などがあります。(※参照:学校法人 上智学院「プレスリリース 2017.07.26」)

また、2018年10月にはアジア最大級のファンドAavishkaar社が運営する「ベンチャーキャピタルファンド」への投資を開始しました。

ベンチャーキャピタルファンドは、インドの貧困地域における生活改善を目的としており、これまで7千万人もの人々の生活を改善しながら投資家にリターンを分配してきました。上智学院では、投資による資産運用の収益を、奨学金や教育研究活動の向上のために活用すると公表しています。(※参照:学校法人 上智学院「NEWS 2018.10.29」)

まとめ

インパクト投資は環境・社会面で影響を与える投資で、ESG投資より社会課題の解決を重視した投資となります。日本でも様々な企業・法人でインパクト投資が行われており、今後私たちの生活にますます身近なものとなっていく可能性があると言えるでしょう。

一方、インパクト投資の重要指標である「インパクト評価」をどのように行うのか、定量的な判断が難しいポイントであることがインパクト投資の持つ大きな課題であると言えます。過去の企業の投資事例を参考にしながら、社会課題の解消につながる投資であるのか、時には定性的な判断も検討されてみると良いでしょう。

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田中 あさみ

経済学部在学中に2級FP技能士(AFP)の資格を取得。ライターとして不動産投資を含む投資や年金・保険・税金等の記事を執筆しています。医療系の勤務経験がありますので、医療×金融・投資も強みです。HEDGE GUIDEでは不動産投資を始め、投資分野等を分かりやすくお伝えできるよう日々努めてまいります。