証券会社を経て、暗号資産(仮想通貨)取引所でトレーディング業務に従事した後、現在は独立して仮想通貨取引プラットフォームのアドバイザリーや、コンテンツ提供事業を運営する中島翔氏のコラムを公開します。
目次
日本の暗号資産市場で、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)が開催されようとしています。
そもそも、2017年頃に暗号資産が大流行した要因の一つに「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」と呼ばれる資金調達スキームがありました。しかし、ICO詐欺が横行し、規制が強化され、現在までにICOは下火となっています。
一方のIEOは新たな資金調達スキームとして2019年に台頭しました。ここではIEOについて解説していきたいと思います。
①IEOとICOの違い
IEOは、トークンを発行したプロジェクトが、暗号資産取引所を通じて資金調達を行うものです。IPO(株式公開)の暗号資産版と考えると理解しやすいかもしれません。
トークンを発行して資金調達を行うという目的は同じですが、IEOとICOの決定的な違いは「販売主体が違う」ということです。
ICOの場合、トークン発行元であるプロジェクトチームが、ホワイトペーパーを作成し、投資家にダイレクトに販売します。ホワイトペーパーを通じて、「どのようなビジョンの下でトークンを発行するのか」、「資金調達をして何を、どのような計画で行うのか?」をアピールします。
一方でIEOは、暗号資産取引所がプロジェクトチームから委託を受けて、取引所のユーザー向けに販売・プロモーションを代行します。取引所がそれぞれのトークンやプロジェクトを査定し、顧客へ販売するかどうか判断するため、信用補完の意味合いを持ちます。IPOに例えると、暗号資産取引所は証券会社のポジションとなり、顧客から資金を調達しプロジェクトチームに渡す流れとなります。
②IEOの歴史
ICOが困難になってから、世界中の暗号資産取引所でIEOが開催され、活況となりました。最初の流れを作ったのが、世界最大とも言われている取引所Binanceです。
Binanceは2019年1月にIEOプラットフォーム「Launchpad(ローンチパッド)」を設立すると、毎月のようにIEOを実施しました。Launchpadが最初に発売したトークンは14分で完売、上場後すぐに価格が10倍に上昇したため、投資家の注目が一気に高まりました。
Binanceの成功に続くように、2019年に渡って多くの海外の暗号資産取引所がIEOを実施しました。現在では、FTXという香港の暗号資産取引所や、米国の老舗の暗号資産取引所もIEOを開催しています。
ただし、海外は日本ほど厳格な規制がないことに注意する必要があります。中には、手数料を受け取るためだけにIEOを行う取引所もあり、プロジェクトの正当性や取引所の信用に疑問が生じる事例も増えてきています。
一方、日本では2019年6月に、「ICOおよびIEOの項目を盛り込んだガイドライン」が制定されました。そんな中、国内の暗号資産取引所でIEO事業に着目して準備していた企業がコインチェック(Coincheck)です。コインチェックがどのようなプロジェクトのIEOを行うのか解説します。
③コインチェックのIEO
2020年8月にコインチェックはIEOの共同プロジェクトを立ち上げました。同社はリリースで以下のように述べています。
「今回の共同プロジェクトでは、マンガ・アニメ、スポーツ、音楽をはじめとする日本の文化コンテンツの更なる発展を目指し、Link-UおよびHashPortが2020年3月に共同で設立したHashpaletteにおいて、ユーティリティ性を有するトークンである『パレットトークン(PaletteToken, PLT)』の発行を行い、暗号資産取引サービスであるCoincheckにてそのトークンの販売を行う予定です。発行・販売されたトークンは、マンガ・アニメ、スポーツ、音楽をはじめとするコンテンツのためのブロックチェーンプラットフォームである『パレット(Palette)』において利用されます。」
Hashpaletteがこれから作り出すプラットフォームの将来性に期待する投資家は、コインチェックのIEOに参加してPLTトークンを購入することができます。Hashpaletteはトークン販売を通じて運営資金を調達でき、初期段階からある程度のユーザーベースにアクセスできます。コインチェックはトークンを販売することで一定の収益を得ます。こうしてWin-Winの関係が成立します。
【参照元:Coincheck】日本初のIEO(Initial Exchange Offering)実現に向け共同プロジェクトを発足
パレット(Palette)は、電子書籍に紐づく固有の「NFT(非代替性トークン)」を発行して、流通できるプラットフォームです。
今後、国内のIEOでも、様々なプロジェクトが出てくることでしょう。2019年12月には、フォビジャパンがIEOを検討することを公表しました。具体的な動きはまだ出ていませんが、親会社であるHuobi Globalは数々のIEOの実績があるので、今後の動向に注目です。
Huobi Globalは、中国を起源とする大手暗号資産取引所であり、取引高も世界トップクラスの暗号資産取引所です。日本ではIEOのガイドラインが制定されており、海外のようにスムーズには進みませんが、コインチェックが先陣を切ってスタートし、IEOのフレームワークが安定してきた場合、フォビジャパンに動きが出てもおかしくありません。
④IEOに参加したい方は、まずはコインチェックで口座開設
IEOは日本ではまだ馴染みがないものですが、グローバル市場では毎月のように開催されています。IEOは普及する流れにあるため、興味がある方はまずはコインチェックで口座開設を行い、準備しておくと良いでしょう。人気が高いと参加権が抽選式になっている場合もありますので、こうした情報を集めるためにもコインチェックの公式サイトを見ておくことが重要です。
実際にはIEOプロジェクトを精査して、将来性が高いと判断できて初めて参加すれば良いものです。株式ではないので、企業の所有権を保有するものでもありません。プロジェクトを応援したいと純粋に感じた方はクラウドファンディングの様なイメージで参加してみることがおすすめです。
中島 翔
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