【特集コラム】資産形成として注目されるビットコイン、その本来の特性とは?

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今回は、ビットコインを活用したコンテンツプラットフォーム「Spotlight」のチーフエンジニア 小川裕也氏にビットコインの特性や課題、それを解決する技術についてうかがいました。

目次

  1. ビットコイン送金は安くて早い
  2. ビットコイン送金は本当に安いのか?
  3. ビットコインは日々の決済には向かない?
  4. スケーリング問題を解決するライトニングネットワーク
  5. まとめ

前回の記事ではビットコインの革新性について、ビットコインを使うユーザーの一人ひとりが管理者となることで、既存の金融機関などの中央管理者を介さずに送金ができたり、残高の管理ができることを紹介しました。また、ユーザーが管理者となる分散型ネットワークでは、管理者同士で同期をとる必要があり、そのためにマイナーと呼ばれる特殊な管理者がProof of Workと呼ばれるネットワークの同意形成をするための作業をしていることにも触れました。

今回の記事では、ビットコインの送金にフォーカスを当て、記事の前半では実際の決済時間や送金手数料を既存の金融システムと比較してみてきたいと思います。後半では、ビットコインが抱えるスケーリング問題という送金の制限についてみていきます。

ビットコイン送金は安くて早い

既存の金融機関を介した送金の場合、例えばA銀行からB銀行へ送金する場合、その仲介者として銀行が介在します。それによって、

  • 手数料がかかったり
  • 送金時間が遅くなったり
  • 口座の差し押さえ

などの制約がかかってきます。現在の日本における銀行間送金は、送金が即時反映されるように全銀システムとよばれる送金システムの改善が図られています。しかし、中央集権的なシステムでの送金ではその管理者へ依存してしまっているので、システム障害による送金遅延であったり、正当な理由がなくても手違いなどによる口座の差し押さえなどが起きているのが現状です。

ビットコインではこうした中央集権的な管理者を排除し、ユーザーが自分のお金(ビットコイン)を管理することで、手数料を安くおさえ、送金遅延をなくし、さらに口座の差し押さえなどができないようにすることが可能となりました。

一例として、以下にビットコイン送金と銀行間送金の比較表を載せました。

ビットコイン送金の場合、後ほど詳しく解説しますが、手数料は手続き時間や送金する日時、またビットコイン価格の影響を強く受けて変動的となります。現時点では、以下を目安とするのが妥当と言って良いでしょう。例えば、AさんからBさんへ1万円の送金をする場合、ビットコイン送金では手数料は100~200円、手続き時間は10~60分程度となります。

一方、銀行間送金の場合、例えばインターネットバンキングで送金する場合、手数料は約300円で、手続き時間も即時反映される場合もあり、また受け取る側の銀行の制約によっては、土日は送金が反映されない場合があるため、翌営業日まで待つ必要があります。また、ビットコインの場合、システムメンテナンスなどによるシステムの停止はありませんが、銀行間送金の場合、各銀行のシステムメンテナンスによって送金ができない場合があります。

ビットコイン送金は本当に安いのか?

送金するタイミングにもよりますが、現時点でのビットコイン送金は基本的に銀行間送金よりも手数料が安くて手続き時間も短く、システムメンテナンスによる停止がないことが分かりました。以下では、ビットコインの手数料について詳しく見ていきます。

ビットコインの送金手数料は以下の式で計算することができます。

  • 手数料=データサイズ×手数料率

平均的なビットコイン送金では、データサイズは約200バイトとなっています。これに手数料率を掛けたものが実際に支払う手数料となります。この手数料率は変動的で、ビットコインを送金するユーザーが多ければ高く、少なければ低くなります。また、手続き時間を短く(決済を早く承認)させたい場合は、この手数料率を高く設定する必要があります。現在の記事執筆時点で、10分以内に決済を確定させたい場合は 50 satoshi/byte が必要となっており、これにデータサイズ200バイトを掛けた 10,000 satoshi が手数料となります。1BTCが100万円と仮定すると、100円の送金手数料ということになります。

    ※ satoshiはビットコインの単位で、1 satoshi = 0.00000001BTC
    ※ 手数料率はこちらで随時確認可能

しかし、この手数料率も日々刻々と変わってきます。例えば、仮想通貨ブームであった2017年末から2018年1月の期間を見てみましょう。以下の図は手数料率ごとの取引件数を日時単位で表しています(出典元サイト)。

2017年12月22日の手数料率を見てみると、1000 satoshi/byteの取引が6000件以上もあるのが分かります。ビットコインでは約10分に1ブロック生成され、1ブロックには約2000件の取引データが含まれます。

そのため、もし2017年12月22日に10分以内に送金手続きを完了させるには1200 satoshi/byteの手数料率が必要となり、手数料は240,000 satoshi (1200satoshi/byte ×200バイト)となります。当時のBTC価格は約170万円だったので、円換算だと4080円の手数料となります。

1度の送金で4000円以上の手数料を支払う必要があるとビットコイン送金は安いとはいえないでしょう。ただ当時はこの手数料で送金されていたのは事実であり、それでも需要があったのです。もし手数料を安く抑えたければ、手数料率を安く設定することもできます。例えば10 satoshi/byteとすると手数料は2000 satoshiで約340円で送金ができますが、送金の完了には1ヶ月以上待つ必要がでてきます。

このようにビットコイン送金では、自分が許容する決済完了時間(手続き時間)や送金するタイミングを選択することで、手数料を調整することができます。ただし今以上にビットコインを使うユーザーが増えると、手数料が上がることは必然だといえます。

ここで少し注意したいのは、今見た手数料と、仮想通貨取引所が公開している手数料は少し違っているということです。上記でみた手数料は、個人のウォレット(アプリ)からビットコイン送金をする場合の手数料の計算方法であり、取引所が公開している手数料はそれにマージンを上乗せしています。そのため、取引所からビットコインを出金する場合は、さらに高い手数料となることが通常となっています。

ビットコインは日々の決済には向かない?

ビットコインの知名度や価格が上がるにつれて、安かったはずの送金手数料が高くなり、使うユーザーが増えることで決済の完了時間も長くなることが分かりました。これでは日々の決済としてビットコインは使えないのでしょうか?金や不動産、株といったアセットクラスとしての特徴が強くなりつつあるビットコインですが、サトシナカモトが描いた個人間送金としての機能が失われつつあるのでしょうか。

ビットコインを初めとしたブロックチェーン全般では、それを使うユーザーが増えることで送金処理が遅延し、それが原因で送金手数料が高騰してしまう問題が存在します。これをスケーリング問題と呼びます。この問題の原因は、ビットコインの場合、

  • 10分に1ブロックの生成
  • 1ブロックのサイズは1MB

という制約があるためです。この制約によりビットコインの処理性能は約3~7件/秒と言われています。この数値がどれほどかイマイチ実感がわかないと思いますが、クレジットカード大手のVISAと比較するとイメージしやすいかもしれません。VISAは1日に150万件の決済があり、これは約1700件/秒です。また日本の銀行間送金では約600万件の決済にのぼり、約6800件/秒の処理性能があります。

ビットコインは上記の制約による処理性能の低さが問題であることがわかります。この問題を解決するために、様々な解決策が提案されてきました。そのなかでもライトニングネットワークと呼ばれる技術は、ビットコインのスケーリング問題を解決するための1つの技術です。

スケーリング問題を解決するライトニングネットワーク

本記事ではライトニングネットワークの技術的な話は割愛しますが、この仕組みを使うことで、スケーリング問題を解決してビットコイン送金の手数料を安く、決済時間を早くすることができます。ライトニングネットワークでは送金ごとにブロックチェーンへデータを書き込む必要がないため、上記でみたように「10分に1ブロックが生成」という制約から解放されます。そのため、理論上はVISAや全銀システム以上の処理性能を出すことが可能です。

通常のビットコイン送金の手数料は 「データサイズ×手数料率」で求めることは既に解説しましたが、ライトニングネットワークを使ったビットコイン送金(以下、「ライトニング送金」)では、「送金金額×手数料率」となります。以下の比較表では、ライトニング送金の手数料を0.10%としていますが、ビットコイン送金の手数料と同様で変動するので参考値と考えてください。ここでは例えば、1000円分のBTCをライトニング送金する場合、手数料は1円となります。これは通常のビットコイン送金と比べると格段に安いのが分かります。さらに送金の手続き時間も数秒で完了します。

しかし、ライトニング送金の手数料は送金金額に対する従量制なので、送金金額が大きくなるほど支払う手数料も大きくなります。上記の手数料を元に、各手数料をグラフ化したものが以下となります。

本例では、10万円までのビットコインを送金する場合は、ライトニング送金を使ったほうが安いことがわかります。一方、10万円以上のビットコインを送金する場合は、通常のビットコイン送金を使ったほうが安くなります。

ライトニングネットワークは、スケーリング問題を解決しつつ、日々の決済など少額決済に適したペイメント技術だということが分かります。高額なビットコインを送金する場合は、ブロックチェーンへの書き込みが必要な通常のビットコイン送金をして、少額な決済にはライトニングネットワークを使った送金をし送金手段を使い分けることで、分散型マネーであるビットコインの恩恵を受けることができます。

まとめ

分散型マネーであるビットコインは、利用者がが増えてしまうことで、送金手数料が高く、また決済の完了時間が長くなってしまいます。スケーリング問題と呼ばれるこの問題は、2017年末の仮想通貨ブームに顕在化しました。この問題もライトニングネットワークという新しい技術を使うことで解決できることが分かりました。

通常のビットコイン送金に加え、ライトニングネットワークの利用も視野に入れることで、アセットクラスとしてのビットコインだけでなく、日々の決済や個人間送金としてのビットコインもまだまだ続くことが期待できるでしょう。

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小川裕也

金融系SIerとして在職中にビットコインと出会い、その革新性に魅了されフリーのエンジニアとなる。ビットコインを活用したデジタルコンテンツを配信できるプラットフォーム「Spotlight」を開発・運営。仮想通貨が実社会で活用できるサービスの研究開発をしている。