米ニューヨーク州を始めとする25の州知事の連合体「米国気候同盟」は9月21日、2030年までに連合全体でヒートポンプの導入件数2,000万件達成にコミットすると発表した(*1)。省エネで温室効果ガス(GHG)の削減効果を期待できるヒートポンプを大幅に導入し、全米の建物の脱炭素化を加速する。
米独立系非営利シンクタンクRMI(世界に先駆けてエネルギー転換を推進してきたシンクタンクとして知名度・評価が高い)によると、これは20年に米国で設置された480万台のヒートポンプ台数の4倍に相当するという(*2)。
ヒートポンプは、空気中にある熱を集めて移動させるために電気を使用し、外が寒い時には建物を暖め、外が暑い時には建物を冷やすことができる。住宅、オフィスビル、学校、病院などの冷暖房や給湯機(ダイキンのエコキュートなど)といった幅広い機器に利用されている。
化石燃料を燃やして熱を生み出す暖炉やエアコンとは対照的に、より少ないエネルギーで大きな効果を期待できるエネルギー効率の高い代物だ。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、ヒートポンプはガスボイラーと比較して、排出量の多い電力で運転する場合はGHG排出量を20%削減し、よりクリーンな電力で運転する場合は80%も削減するという(*3)。建物は世界のエネルギー消費量の30%、エネルギー起源GHG排出量の26%を占める一大排出源となる。
また、IEAはヒートポンプを導入することで生活者にとっても節約につながると指摘する。米国では年間約300ドル、欧州のようにガス価格が高い国・地域では、年間約900ドルの節約になるという(*4)。
ワシントン州保健局によると、21年6月26日から7月2日までに、シアトルは異例の猛暑に見舞われ、100人が暑さで死亡した(*5)。ブルッキングス研究所の22年報告書によると、米国では約10%の家庭にエアコンがなく、特に恵まれない地域に多い。そのため、米国気候同盟の取り組みによるベネフィットの40%は、恵まれない地域社会が受けることになると指摘する(*6)。
米国気候同盟に加盟する各州は、インフレ抑制法(IRA)、インフラ投資雇用法に含まれる財政的インセンティブと、同盟に加盟する各州の政策努力を組み合わせ、ヒートポンプの導入加速を後押しする。
世界のヒートポンプ市場に目を向けると、その市場規模は23年の約626億ドルから28年には999億ドルに拡大し、予測期間中のCAGR(年平均成長率)は9.8%になる見込みだ(*7)。
米バイデン政権はヒートポンプ空調の国内生産と普及促進を目指し、23年4月には戦略物資の国内生産を促す国防生産法(DPA)とインフレ抑制法に基づき、ヒートポンプ式空調機の生産設備を新設・増設する企業に対し、最大2億5,000万ドルを提供する計画を発表した。
環境分野で世界をリードする欧州では、22年の域内のヒートポンプ機器の販売台数は約300万台となり、前年比38%増と過去最高を更新している(*8)。
主なプレーヤーとしては、ダイキン工業やパナソニック、三菱電機といった日本勢に加え、中国の美的集団、米国企業ではトレイン・テクノロジーズなどが挙げられる。
【参照記事】*1 米国気候同盟「U.S. Climate Alliance Announces New Commitments to Decarbonize Buildings Across America, Quadruple Heat Pump Installations by 2030」
【参照記事】*2 RMI「What a 20 million heat pump commitment means for the US」
【参照記事】*3 国際エネルギー機関「Buildings」
【参照記事】*4 国際エネルギー機関「Executive Summary Heat pumps are a proven way to provide secure and sustainable heating」
【参照記事】*5 ワシントン州保健局「Heat Wave 2021」
【参照記事】*6 ブルッキングス研究所「As extreme heat grips the globe, access to air conditioning is an urgent public health issue」
【参照記事】*7 グローバルインフォメーション「ヒートポンプ市場規模・シェア分析- 成長動向と予測(2023年~2028年)」
【参照記事】*8 欧州ヒートポンプ協会「Heat Pumps in Europe Key Facts & Figures
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