英石油大手シェル(ティッカーシンボル:SHEL)は2022年7月、傘下のシェル・ネーデルランドとシェル・オーバーシーズ・インベストメンツを通じ、欧州最大となる再生可能エネルギー由来水素(グリーン水素)製造プラントの建設に向けた投資を最終決定した(*1)。
同プラント「ホランド・ハイドロゲン1(Holland Hydrogen I)」は、欧州最大規模の海港であるオランダ・ロッテルダム港に建設し、2025年の稼働を見込む。電解槽の容量は200メガワット、1日当たり最大6万キログラムの水素を製造する。
水素はさまざまな分野に応用が利き、広範囲の産業で用いられ、生成方法も多岐にわたる。水素をつくる技術のひとつである水電解は、水に電圧を加えることで水素と酸素に分解する。太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用した発電による電気で水電解して生成した水素を、グリーン水素もしく再生可能エネルギー由来水素と呼ぶ。
「ホランド・ハイドロゲン1」では洋上風力発電所「ホランドセ・カスト(ノード)(Hollandse Kust(noord))」の再生可能エネルギーを利用する計画だ。同発電所は23年に759メガワットの洋上風力による電力生成を目指すプロジェクトであり、シェルが一部権益を取得している。
「ホランド・ハイドロゲン1」で製造したグリーン水素は、新設の水素パイプライン「ハイトランスポート(HyTransPort)」を通じ、シェル傘下のシェルエナジーとケミカルパーク・ロッテルダムへ供給される。シェルが製造を試みるグリーン水素は、化石燃料由来の「グレー水素」を代替するものであり、ガソリンやディーゼル、ジェット燃料といったエネルギー製品を製造する施設の脱炭素化につながる。
シェルのエマージング・エネルギー・ソリューション部門エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるアンナ・マスコロ氏は「再生可能エネルギー由来の水素は未来のエネルギーシステムにおいて中心的な役割を担うものであり、今回のプロジェクトはその可能性の実現をサポートするうえで重要な一歩となる」と述べた(*1)。
脱炭素化に向けた「未来のエネルギー」と目される水素をめぐり、欧州企業が取り組みを活発化している。英石油大手BP(BP)は、オーストラリアで計画中の再生可能エネルギープロジェクト「アジアン・リニューアブルエナジー・ハブ(AREH)」の権益を40.5%取得すると発表した(*2)。オペレーターとなる同社によると、同プロジェクトは世界最大級の再生可能・グリーン水素ハブになり得るポテンシャルを秘めているという。
産業ガス大手の仏エア・リキード(AI)は、重電大手の独シーメンス・エナジー(ENR)と、欧州でグリーン水素を製造するための大型電解槽の建設に向けて合弁会社を設立(*3)。25年までに生産能力を年間3ギガワットまで引きあげる。電解槽の製造能力を拡大することで、競争力のある再生可能な水素を利用できるようになる見込みだ。
【参照記事】*1 シェル「Shell to start building Europe’s largest renewable hydrogen plant」
【参照記事】*2 BP「bp to lead and operate one of the world’s largest renewables and green hydrogen energy hubs based in western Australia」
【参照記事】*3 エア・リキード「Air Liquide and Siemens Energy form a joint venture for the European production of large-scale renewable hydrogen electrolyzers」
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