地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど、環境分野への取り組みに特化した資金を調達するために発行されるグリーン国債。積極的にグリーン政策を進める英国は、COP26の開催(2021年11月)を前に、9月に初のグリーン国債(グリーンギルト)を発行する。シュローダーはレポート「シュローダー・イン・フォーカス」(日本語版7月16日公表)英国のサステナブル・ファイナンス推進計画においてグリーン国債の発行がどのような役割を果たすのかを検証し、成功における重要な要素である「3つの”C”」に照らし合わせ解説している。
英国政府はグリーンでサステナブル(持続的)な経済へ向け取り組みを進めている。19年には主要国で最初に2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ達成(ネット・ゼロ)にコミットした法案を可決。その後「グリーン産業革命」を推し進めるための新政策「10ポイントプラン」を発表した。これは洋上風力容量の拡大、電気自動車製造および充電インフラの推進、ゼロエミッションの航空機・グリーンな船舶に向けた技術開発支援など10項目に対して120億英ポンドを投じ、25万人の雇用創出・支援を図るための政策だ。また、2030年までの温室効果ガス68%削減(1990年の水準から)という目標に対する取り組みをリードする。
しかし、欧州地域ではドイツ、フランス、イタリアも既にグリーンボンドを発行しており、英国は「インパクト投資家が背中を押してくれるのを待っている状態」だった。社債についても同様で、英国の年金基金等の投資家はポートフォリオにおけるグリーン認証を深めたいという要望を強める一方で、ユーロ建てなど、他の通貨建てのグリーンボンド市場が急速な成長を遂げる中、英ポンド建てのグリーンボンドは遅れを取っていた。
グリーンギルトは、サステナブル・ファイナンス推進計画の一部であり、この計画の目的は英国のネット・ゼロ達成のために必要な全ての投資を実現するために民間セクターの資金を活用することとなっている。同社は、環境、投資家および将来の世代への明確なコミットメントをうたったグリーンギルト(国債)債券発行の提案を支持してきた。一方で「グリーンボンドは魔法の解決策ではなく、それ自体はネット・ゼロの実現を保証するものではない。一部には『グリーン・ウォッシング』と言われる、実際よりも環境に優しいと見せかけるリスクがある」と懸念も示す。
気候債券イニシアティブ(CBI)のデータによると、政府・企業によるグリーンボンド発行類型額は2020年に初めて1兆米ドルを上回った。ただし、英国のサステナブル・ファイナンスの立場からみると、英ポンド建て債券は全体の2%にも満たない。同社としては、グリーンギルト発行の重要なメリットは英国がグリーンボンド市場で認知されることだと考えている。「今回が英国にとっての初めの一歩となり、グリーンボンドの分野において勢いを増し、他の国に追いついていくことが期待される。政府に続いて英国企業によるグリーンボンド発行が加速する可能性がある」という見立てだ。
グリーンやサステナビリティへの取り組みを積極的に行っている英国企業が多いにも関わらず、英国のグリーン社債市場は比較的規模が小さく、グリーンボンド社債発行が増加することは望ましいと考えます。そして、気候変動委員会が強調するように、陸上輸送、電力供給、製造業、建設業など、一部のセクターではネット・ゼロに向けて大幅な脱炭素化を進める必要がある。同社は、こうした企業が「できるだけ早く基準に従って移行のための資金を調達できるようになることが望ましい」とする。
英国とEUの状況を踏まえ、同社はグリーンギルトを評価する上で重要な3つの”C”が満たされる必要があると提唱する。まず「Coordination(協調性)」。今回のフレームワークの対象範囲をみると、多くの政府省庁の関与が想定される。大蔵省がその中心的役割を果たすのだが、環境・社会プロジェクトは輸送、労働・年金、住宅、医療・社会福祉等非常に幅広い範囲にわたる。
次に「Comprehensiveness(包括性)」。グリーン+ギルト提案における同社のエンゲージメントでは、資金使途を環境目的だけでなく、社会インパクト目的まで広げて含めていくべき、という点を主な意図としていた。究極的には、グリーン投資はサステナブルな経済を創造することを目的とすべきであり、生活水準の向上や、幅広い人々や地域社会に機会と明るい見通しを提供することを支持するものであるべきと考えるからだ。また、新型コロナウイルス感染拡大による経済への影響は長引くことが想定されることから「英国政府の計画において“グリーンカラー”の雇用創出は鍵であり、不可欠」と明言する。但し、今回の発行では地方創生についてはほぼ触れられておらず、同社では「新規のグリーン雇用創出等の恩恵は全国に行きわたるべき」と指摘した。
三つめは「Credibility(信頼性)」。レポーティングによる透明性と情報開示および明確なガバナンスのフレームワークが鍵となる。「グリーンギルトへの投資を検討する立場から、我われはエンゲージメントと分析を通して、計画が現実的でインパクトを与えることができるものかどうか、また、資金が適切に配分されるのかを検証していく必要がある。この検証の中で、社会へのリスクや生物多様性への悪影響の可能性などを考慮してプロジェクトの価値を判断していくことになる」と同社。
「グリーンギルトは英国において様々なセクターがよりサステナブルとなり、企業によるグリーンボンド発行が促され、国民の意識が高まる好循環を生み出す真の機会となり得る。我われはグリーンギルトのグローバルのグリーンボンド市場でのデビューを楽しみにしている」と締めくくっている。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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