マイクロソフト、初の木材使用したハイパースケールDC建設。CO2多排出の鉄鋼やコンクリート代替

米マイクロソフトは10月31日、二酸化炭素(CO2)排出の主な原因である鉄鋼やコンクリートの使用量を大幅に削減するために、超軽量かつ超強度の木材を使用した初のデータセンターを建設していると発表した(*1)。同社によると、米国においてエンジニアードウッドのハイパースケールデータセンターとしては最初の事例になる。

米バージニア州北部の郊外にて木材を使用したデータセンターの建設を進めている。

マイクロソフトのエンジニアは、耐火性のプレハブ木質建材であるクロス・ラミネーティッド・ティンバー(CLT)を使用したハイブリッドアプローチを開発した。これにより、鋼鉄とコンクリートの使用量を削減することができる。

木材・鋼鉄・コンクリートのハイブリッド構造モデルは、2つの新しいデータセンターの炭素排出量を、従来の鋼鉄構造と比較して35%、一般的なプレキャストコンクリートと比較して65%も大幅に削減できると推定されている。

マイクロソフトのハイブリッドデータセンターは、データセンターと建設業務の脱炭素化に向けた取り組みの最新事例である。同社は2020年、30年までにカーボンネガティブを達成するという野心的なサステナビリティ目標とした。さらに50年までに、1975年の創業以来、マイクロソフトが排出した炭素の総量に相当する量を大気中から除去することを目指している。

24年5月には、3年間で直接排出量を6.3%削減したことを明らかにした。しかしながら、データセンターおよび内部のハードウェアの拡大により、間接排出量は30.9%増加した。間接排出量は、材料の採掘、加工、製造、さらには輸送中に排出される炭素も含むため、特に管理が難しい。

これを受けて、マイクロソフトは全社を挙げて脱炭素化を加速させる取り組みを行っている状況だ。

例えば、データセンターの建設で使用される材料や設備に低炭素要件を含め、脱炭素化を加速させるために、契約書の強調したい文言を更新した。選定された大規模なサプライヤーは、30年までに100%カーボンフリー電力を使用することが義務付けられる。商業規模での供給を加速させるため、CO2を恒久的に閉じ込めるコンクリートから水素燃料による鉄鋼生産に至るまで、低炭素建築資材への投資も強化している。

20年には10億ドル規模の気候イノベーションファンドを立ち上げた。低炭素建材やクリーンエネルギーなど気候ソリューションの市場開発を加速させるために、企業やベンチャーファンドに投資を行っている。

現在までに、トランスフォーマティブテクノロジー(変化を促す技術)に7億6,100万ドルを投資しており、30年までに主流の技術としての導入を目指す。具体的には、カーボンフリー電力、先進素材、持続可能な燃料、炭素除去の4つの分野で、低炭素建築資材の商用利用の加速を図る。

気候イノベーションファンドを通じた投資は、送電網にカーボンフリーのエネルギーを供給し、送電網の近代化と拡充し、強固なクリーンエネルギーのサプライチェーンの確保も目指す。

特に、鉄鋼やセメントの生産は炭素排出量が多いことから、建築資材のグローバルサプライチェーンの脱炭素化は困難である。世界経済フォーラムによると、鉄鋼生産は世界全体の炭素排出量の約7%を占め、セメント生産は約8%を占めている(*2)。

従来の鉄鋼への依存度を将来的に減らすため、マイクロソフトは昨年、スウェーデンの製鉄スタートアップH2グリーンスチールに出資した。

H2グリーンスチールは、スウェーデン北部に世界初の大型グリーン製鉄所を建設中であり、従来の製鉄法と比較してCO2排出量を最大95%削減できる。石炭の代わりに再生可能エネルギーから生成された水素を使用している。同社の製法では、中世からほとんど進化していない従来の溶鉱炉の典型的な炭素排出ではなく、水蒸気が排出される。

その他、グリーン鉄鋼のボストン・メタル、水電解装置開発のエレクトリック・ハイドロジェン、CO2再利用コンクリート製造のカーボンキュア、ゼロ炭素セメント製造のプロメテウス・マテリアルズなどにも出資した。

これらの企業が製造したコンクリートやセメントをバージニア州の2つの新しいデータセンターで少量使用し、強度と耐久性を長期間にわたってテストするパイロットプロジェクトを実施する予定である。

エンジニアードウッドはもともと炭素含有量が低く、例えばグリーン水素よりもはるかに豊富で製造も容易であるため、CLTは米国や欧州でますます広く使用されるようになっている。少なくとも10年以上前から、グリーンビルディングの定番となっており、21年にはマイクロソフトがシリコンバレーにCLTでできた新本社を建設した。

マイクロソフトが使用する持続可能な方法で伐採されたCLTは、通常、床や天井に使用される厚いコンクリートの一部を置き換える。耐久性と防水性を確保するために、補強用に薄いコンクリートの層が重ねられる。この薄い保護層を含めても、建物ははるかに軽く、鉄鋼の使用量も大幅に削減されるため、建物の炭素排出量を大幅に削減できる。

【参照記事】*1 マイクロソフト「Microsoft builds first datacenters with wood to slash carbon emissions
【参照記事】*2 世界経済フォーラム「Steel industry makes ‘pivotal’ shift towards lower-carbon production」「Cement is a big problem for the environment. Here’s how to make it more sustainable

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フォルトゥナ

日系・外資系証券会社に15年ほど勤務。リサーチ部門で国内外の投資家様向けに株式レポートを執筆。株式の専門家としてテレビ出演歴あり。現在はフリーランスとして独立し、金融経済やESG・サステナビリティ分野などの記事執筆、翻訳、および資産運用コンサルに従事。企業型DC導入およびiDeco加入者向けプレゼンテーション経験もあり。
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